これまでに観た映画より(382) 韓国映画「ケナは韓国が嫌いで」
2025年3月12日 京都シネマにて
京都シネマで、韓国映画「ケナは韓国が嫌いで」を観る。2015年に発売されたチャン・ガンミョンのベストセラー小説『韓国が嫌いで』の映画化である。監督・脚本:チャン・ゴンジェ。出演:コ・アソン、チュ・ジョンヒョク、キム・ウギョム、イ・サンヒ、オ・ミンエ、パク・スンヒョンほか。
学歴社会・競争社会である韓国。ヒロインのケナ(コ・アソン)はそんな韓国に嫌気が差し、ニュージーランドへの移住を図る。
学歴主義社会として知られる韓国。SKYと呼ばれる、ソウル国立大学校、高麗(コリョ)大学校、延世(ヨンセ)大学校の3校に入れば将来が約束されるため、これらの大学を目指す高校生はとても多く、その他の大学志望者も少しでも良いとされる大学に行くために熾烈な競争を繰り広げる。韓国は高校までは義務教育であるため、受験は1回切りで、多くの人が全力を尽くす。一方で波に乗れず、ドロップアウトしていく人も多い(そうした人々を描いた作品も複数ある)。
受験で勝利しても、就職したらしたでまた苛烈な出世競争が待ち受けている。ケナは「ヘル・チョソン」「ヘル・コリア」(いずれも「地獄の韓国」)という流行り言葉を口にする。
日本でもお馴染みのペ・ドゥナが主演した、「子猫をお願い」という映画では、商業高校を卒業して社会に出た18歳の女の子達が社会の壁にぶち当たる様が描かれていたが、この映画の登場人物は、それなりの大学校を出てそれなりの企業で働いているようであり、祖国が嫌いになるだけの強い要因が曖昧であるように感じられる。「生まれた国だからといって嫌いになってはいけないわけではない」という言葉もあるが、上手くいっているように見えるのにどうして? という気持ちは拭えない。
ヒロインも、「韓国は先進国の中でもGDPは20位以内で、イタリアやスペインに匹敵する」とヨーロッパの先進国(ただイタリアもスペインも先進国の中では経済力最下位争いで、デフォルトが起きてもおかしくないと言われている)並みなのに、何が不満なのだと言われる。ケナは、「自殺率は先進国の中で1位」とデータを示し、生きにくさを強調するが、少なくともこの映画の中に登場する韓国に生きにくさを見出すことは難しい。芸能人の自殺も多いことで知られる韓国だけに、自殺に追い込まれる仕組みなどが明らかにされてもよいように思うのだが、それもないため、わがままで「韓国が嫌い」と言っているように見えてしまう。ケナが通勤に片道2時間、それも満員のバスと電車を乗り継ぐのが大変という描写から入るが、私も二十代の頃は、満員のバスと電車を乗り継いで片道2時間掛けて東京の会社に通っており、彼女がとりわけ大変という風にも思えない。
実際にニュージーランドに移るケナ。最大の都市であるオークランドに住むようだ。ワーキングホリデーの仕組みを利用し、大学で会計学を学びながらアルバイトをこなして、最終的にはニュージーランドの永住権を獲得しようとする。ここでニュージーランドでの生きづらさが描かれても良いはずなのだが、実際はアルバイト先のブティックで、白人の先輩社員に靴を注意されるだけである。ケナはスニーカーを履いていたのだが、「TPOに合わせてハイヒールを履くべき」と注意される。もう一人の白人の先輩が、「彼女は歩きながら仕事をしているので、ハイヒールは無理」とかばってくれた。一見すると分かりにくいが、これは人種差別の一種のようである。同じニュージーランド人、もしくは白人だったら、靴のことで注意を受けたりはしないようだ。助けてくれたニュージーランド人の女性がケナにそう語る。ただそれ以外はニュージーランドでの生活は順調。パラグライダーでビルの屋上から飛び降りた友人の女性を撮影して、動画サイトに映像を載せたことで警察が家にやって来て、「国外追放になるかも知れない」とケナが語る場面があるが、結局は大目に見られたようである。
というわけで、韓国が嫌いで仕方がない理由も、ニュージーランドが良いとされる根拠も今ひとつハッキリしない。ケナには分かっているのだろうが、見る者にはそれは伝わってこない。
面白いのは、主人公のケナを始め、韓国人女性が煙草を吸うシーンが多いこと。日本では、女性の10人に1人が喫煙者というデータがあるようだが、韓国、そして中国でも煙草を吸う女性は「売春婦」が定番になっているため、喫煙率はちょっと前まで1%~3%弱と低く、それでも煙草を吸う女性は蓮っ葉(ビッチ)と見られがちであった。京都造形芸術大学舞台芸術コース在学中に、韓国からの留学生であるパクという女の子と日本人女子学生のNと私と3人でエチュード(即興で行う演技の稽古)を行ったのだが、パクがNを悪く言う際、「この女、煙草を吸ってました」を繰り返しており、韓国で煙草を吸う女がいかにイメージが悪いかが分かった。今回の映画では煙草を吸う女性が複数出てくるが、現在では状況が変わったのか、それともケナがちょっと嫌な女であることを示すために喫煙シーンを入れたのかは不明であるが、煙草をポイ捨てしたりしているため、マナー的にはやはり良くないという設定ではあるのだろう(データによると、韓国の若い女性の喫煙率は増加傾向にあり、日本並みに増えているようだ)。
ケナを演じるコ・アソンは子役上がりだが、確かな演技力が感じられる一方で美人という訳ではない。整形が当たり前の韓国であるが(今でもそうなのかは知らないが、美形でないと就職出来なかったり、「美人でないのは失礼だ」などと言われたりしていて、社会が美容整形を後押ししていた)、彼女は整形はしていないと思われる。余り洗練されていない素朴な印象だが、親しみの持てる風貌である。
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