« 楽興の時(49) 新内弥栄派家元 師籍四十五周年記念 新内浄瑠璃と舞踊の祭典「新内枝幸太夫の会」 | トップページ | これまでに観た映画より(385) 浅野忠信&瀧内公美「レイブンズ」 »

2025年4月14日 (月)

これまでに観た映画より(384) 「35年目のラブレター」

2025年4月9日 イオンモールKYOTO内のT・ジョイ京都にて

イオンモールKYOTO5階にある映画館T・ジョイ京都で、「35年目のラブレター」を観る。実話に基づくラブストーリーで、登場人物の名前も実話に基づくものが多い。
原作:小倉孝保。監督・脚本:塚本廉平。出演:笑福亭鶴瓶、原田知世、重岡大毅、上白石萌音、徳永えり、ぎぃ子、本多力、辻本祐樹、笹野高史、江口のりこ、くわばたえり、瀬戸琴楓(せと・ことか)、白鳥晴都(しらとり・はると)、安田顕ほか。音楽:岩代太郎。主題歌:秦基博「ずっと作りかけのラブソング」

奈良市。西畑保(笑福亭鶴瓶)は、寿司職人。もうすぐ65歳で定年を迎えようとしている。保は、幼い頃、母親の再婚で和歌山の僻地に越し、程なく母親は亡くなったが、義父は全く面倒を見てくれない人だったために、兄弟のために休日は子どもながらに働いていた。小学校までは歩いて片道3時間。それでも通っていたが、2年生の時に窃盗の疑いを掛けられ、苛められて、以後、学校には通えなくなってしまった。
それでも成長した保(青年時代の保:重岡大毅)は、寿司屋に修行で入るが、読み書きが全く出来ないため、同僚から苛められる。新たな職場を探すが、読み書きが出来ないとあっては採用されない。それでも奈良市にある寿司屋の大将である逸美(笹野高史)に拾われて、寿司職人として働き始める。それが1964年のこと。
1972年に、保はお見合いの話を受ける。相手が保の真面目さを気に入っているとのこと。お見合いの場で、相手の皎子(きょうこ。青年時代の皎子:上白石萌音)に一目惚れした保。皎子は当時流行りの女性の三大職業の一つ、タイピストであった(残りの二つは、エレベーターガールとスチュワーデス=CA)。当然ながら文字には詳しい。相手に自分が文盲だとバレないように気を付けながら奈良公園などでデートする保。結果、相手にバレることなく、むしろ皎子の方が積極的で結婚に至る。清楚な感じの皎子だが、実際は気が強いことが分かる。それでもいつかは保が文字の読み書きが出来ないことがバレる日が来る。皎子は黙ってそれを受け入れ、「私が保さんの手になります」と言うのだった。
二女に恵まれた西畑家。やがて二人とも結婚相手を見つける。そんな中、保は夜間中学の存在を知る。夜間中学(春日中学校夜間学級)教師の谷山恵(たにやま・めぐみ。男性。演じるのは安田顕)に説明を受け、中学を出ていないなら誰でも入れる(途中から制度が変わり、中学卒でも入学可となる)ということで、保は入学を決める。理由はこれまで自分に尽くしてくれた皎子(原田知世)にラブレターを書きたいためであった。

夜間中学は、数が減りつつあるが、子どもの頃に十分な教育が受けられず、読み書きや簡単な計算、英語などに難のある人が通う。引きこもり経験のある若者なども通っている。在籍期間は基本3年だが、最大20年まで。自分が「卒業したい」と思った時が、卒業の時である。

妻の皎子であるが、タイピストが花形の職業だった時代はとっくに終わり、ワードプロセッサー(ワープロ)を使って校正の仕事を内職でしていたが、パソコンの時代となり、ワープロによる仕事はもはや求められておらず、家事に専念するようになっていた。

夜間中学校の同級生は、戦争で十分な教育を受けられなかった者、比較的若いが読字障害がありそうな者、戦争で両親を亡くし、日本語をしっかり学んで最終的には大学に進みたいという南アジア出身者など、境遇はバラバラである。学校に通った経験がほとんどなかった保は、友達も出来て学校が楽しいところだということを初めて知る。
それでも保の文字を覚えるスピードは遅々たるもので何度も諦めそうになるが続ける。辞めようかと思っていた在学7年目のある日、保は谷山から、「最初の頃に比べると大分上手くなってきている」と励まされる。
そして、いよいよ皎子にラブレターを渡す日。皎子は喜ぶが、採点すると63点で……。

笑福亭鶴瓶と原田知世、そして若い頃の二人を重岡大毅と上白石萌音が演じることで、二人の成長、学力のみでなく夫婦としての成長を見守ることが出来るようになっている。
お見合いの場で、上白石萌音が、「薩摩おごじょ」と紹介され、「薩摩ちゃいます」と否定する場面があるが、上白石萌音が薩摩出身なのはよく知られているので、ちょっとした洒落である。見た目がやはり薩摩のお嬢さんである。

35年目のラブレターが、保から皎子へ宛てたものだと誰もが思うが実は……。これでおおよその見当は付いてしまうと思うが、分かってても十二分に味わえる映画であるので特に問題はないだろう。

奈良が舞台だけに、俳優陣はみんな奈良弁を使うが、ネイティブな奈良弁の使い手ではないのではっきりとは分からないものの、皆、達者である。地方出身で、標準語という別の言語を習得しているだけに、方言も覚えやすいのかも知れない。ちなみに私は千葉市出身であるため、普段から使っている言葉が標準語であり、方言などは特に話したことがないので(京言葉は文章でのみ使うことが出来る)方言を覚えるのは得意ではないかも知れない。
興福寺五重塔、薬師寺、奈良公園、浮見堂、奈良ホテル、法隆寺五重塔など奈良市内と奈良県内の名所も多く登場。エンドクレジットに東大寺の文字があったが、どこの場面だったのかは不明。大仏殿や南大門などの有名な建物は映っていなかったはずである。また以前に原田知世が住んでいたこともある千葉県佐倉市でもロケは行われているが、具体的にどの場面なのかは分からなかった。
ともあれ、古都の情緒もたっぷりで、話に彩りを添えてくれる。

笑福亭鶴瓶の味のある演技(笑福亭鶴瓶そのものだが)、原田知世のたおやかな雰囲気、重岡大毅の放つエネルギー、上白石萌音の溢れ出る才女感と癒やしのムードなど俳優陣も良い感じである。現在、大河ドラマ「べらぼう」の平賀源内役でブレーク中の安田顕も、源内とは異なる落ち着いた大人の雰囲気で、見る者に安心感を与えてくれる。

Dsc_8248

| |

« 楽興の時(49) 新内弥栄派家元 師籍四十五周年記念 新内浄瑠璃と舞踊の祭典「新内枝幸太夫の会」 | トップページ | これまでに観た映画より(385) 浅野忠信&瀧内公美「レイブンズ」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 楽興の時(49) 新内弥栄派家元 師籍四十五周年記念 新内浄瑠璃と舞踊の祭典「新内枝幸太夫の会」 | トップページ | これまでに観た映画より(385) 浅野忠信&瀧内公美「レイブンズ」 »