観劇感想精選(488) 東京サンシャインボーイズ復活公演「蒙古が襲来」
2025年3月13日 京都劇場にて観劇
午後6時から、京都劇場で、東京サンシャインボーイズ復活公演「蒙古が襲来」を観る。
1994年に、30年間の充電期間に入ることを発表した東京サンシャインボーイズ。復活するのは2024年、東京の新宿シアタートップスにおいての「リア玉」であることが発表されていた。途中、新宿シアタートップスが閉館する際に、「return」という特別公演を行った東京サンシャインボーイズだが、充電期間は続き(コロナの時期に近藤芳正の呼びかけで、東京サンシャインボーイズの元メンバー達を中心としたZoom朗読劇「12人の優しい日本人」が生配信されたことはある)、2024年になって復活の動きが始まり、タイトルや内容も「蒙古が襲来」に変わったが、日本全国での公演を行うこととなった。
なお、関西では、大阪(SkyシアターMBS)と京都(京都劇場)の2カ所での上演を行う。1カ所だけでも良いと思うのだが、復活公演なのでより多くの人に観て貰いたいということ、また近藤芳正が現在は京都市を本拠地としているということで、京都での公演は外せなかったのかも知れない。なお、近藤芳正は後期の東京サンシャインボーイズには毎回出演していたが、全て客演で、東京サンシャインボーイズのメンバーだったことは1度もない。
作・演出:三谷幸喜。出演は、梶原善、宮地雅子、相島一之、吉田羊、小林隆、西村まさ彦、阿南健治、西田薰、谷川清美、野仲イサオ、甲本雅裕、近藤芳正、小原雅人、伊藤俊人(声の出演)。台詞を言う順番での表記である。吉田羊は、東京サンシャインボーイズの研究生としての出演らしい(他の俳優はアラ還だが、吉田羊は年齢非公表ながらアラフィフである)。エンディングテーマは、「どんちゃんの歌」(作詞・作曲:甲本ヒロト。甲本ヒロトは甲本雅裕の実兄である)。
東京サンシャインボーイズは、作を三谷幸喜、演出を山田和也が手掛けるのが常だったが、山田が売れっ子演出家になったことと、三谷が演出も兼ねることが多くなったことで、今回も作・演出:三谷幸喜となっている。三谷が演出も兼ねるようになったのは、映画「ラヂオの時間」で監督を務めた辺りからで、映画で演出をやるんだから舞台もという流れになったのかも知れない。初期の東京サンシャインボーイズでは、一橋壮太朗の芸名で出演もしていた三谷だが、役者は廃業している(コロナで倒れた俳優の代役として出演し続けたことはある)。
日本大学藝術学部演劇学科出身の三谷幸喜が旗揚げした東京サンシャインボーイズ。宮地雅子、小原雅人、演出の山田和也のように日大藝術学部演劇学科出身のメンバーもいるが(伊藤俊人も日大藝術学部演劇学科出身だが東京サンシャインボーイズ旗揚げには加わらず、サラリーマンに。その後、脱サラして東京サンシャインボーイズに加入したため、後期メンバー扱いである)、学内サークルからの発足などではなく、寄せ集め。初期には日大藝術学部音楽学科出身の深沢敦がいたり、明治大学文学部演劇学専攻出身の松重豊がいたりした(松重は、「こんな劇団売れないよ」と退団したが、後に見る目がなかったことを認めている)。
相島一之は立教大学、小林隆は明治大学の出身、甲本雅裕は京都産業大学を出て、大阪でのサラリーマンを経ての参加。西村まさ彦は、東洋大学中退後、地元・富山の写真専門学校を出て、カメラマンのアシスタントなどを経て、再上京後に新劇の劇団に入ってからの参加である。梶原善は専門学校出身。近藤芳正は学歴非公開で、渡辺正行が主宰だったこともある劇団七曜日出身である。阿南健治も学歴非公開だと思われる。
影アナを行うのは塩竃サンシャインボーイズこと山寺宏一。「携帯電話のスイッチをオフ」など諸注意から突然、脇にそれた話をしたりする。
今回は、文永11年(1274)10月の対馬国を舞台とした時代劇である。歴史の知識のある人は、後に元寇と呼ばれることになる元の国=モンゴル人=蒙古の王朝の襲来があり、対馬が占領されることは分かっている。だが、当の本人達はそんなことは知らない。
対馬の浜辺。背景に海が広がる。ムクリ(モンゴル)が攻めてくるとの噂があり、鎌倉から御家人のサカザキ(小原雅人)が情報を得るために下向してくる。一方、漁師のニラブ(梶原善)はある音の拍子が気になっていた。ニラブの妻のカメ(トラジの妹。演じるのは宮地雅子)はサカザキをもてなすための料理作りに励んでいたが、歩き巫女のおばば(吉田羊)に後に台無しにされてしまう。占いなどを行う歩き巫女。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では大竹しのぶが歩き巫女を演じていたが、今回は吉田羊が起用されている。やはり雰囲気を持った女優でないと味わいが出ないのであろう。一方、家屋の中には烏帽子をかぶった上品な着物姿の男の後ろ姿が数秒のみ見える。九条実実(くじょう・さねざね)であるが、九条実実は、故伊藤俊人が録音された声のみで演じているため、誰か別の俳優が一瞬だけ代理で出ているのであろう。
村長と思われるオンゾ(西村まさ彦)、その息子であるトラジ(相島一之)、トラジの幼馴染みであるタマオ(小林隆)などもサカザキの饗応や、ムクリの動向などが気になっている。浜でムクリの者と思われる遺体が見つかり、オンゾらはそれを砂山に隠している。
一方、ジンタ(甲本雅裕)が、壱岐から対馬にやって来ていた。ジンタはカメの元恋人であったが、遭難して数年行方不明に。その間にジンタを諦めたカメはニラブと結婚して二児をもうけた。しかし、ある日突然、ジンタが帰ってくる。しかしカメが結婚したとあってはもうどうにも出来ず、二人で浜辺で抱き合って、その後、ジンタは壱岐へと去ったのであった。そのジンタは壱岐で見張りの仕事をしていたのだが、コクリ(高句麗=高麗)の海辺にムクリの船が並んでいるのを見て、知らせに来たのだった。饗応には教養のある人がいるということでゴングージ(権宮司。近藤芳正)が遅れて現れたのだが、「対馬よりも(朝鮮半島から)遠い壱岐からなんで高麗が見えるのか?」と疑問をぶつけ、ジンタは答えることが出来ない。
オンゾは、この頃、女郎のウツボという女性(谷川清美)に入れ揚げているが、年齢故か、今で言う認知症のような症状が出ることがあるという。だが実は……。
トラジは、対馬に帰ってきたばかり、それまでは20年ほど、都で武門に仕えていた。下足番に始まり20年、最後まで下足番であった。「才能がないんじゃないか」とニラブに言われるトラジであったが、「今からでも遅いということはない」とやる気だけはある。
サカザキが到着し、ムクリに関する情報を知る者はいないかと聞くが、見ていないという証言が多い。オンゾは「異国がこの地に攻め寄せてきたことはございません」と語る(実際は刀伊の入寇があったはずだが、300年近く昔の話であり、人々の記憶からは消えているのだろう)。タマオは、船で流されてムクリに着いたことがあるという話を始める。また鍋についても、これは鉄鍋ではなくムクリの兜だということになるのだが。
隣村の村長であるウンジ(野仲イサオ)もサカザキに会うために来ていたが、「ムクリなんぞやっつけてやる」と息巻いている。
一方、たまたま対馬を訪れていた傀儡師のましら(阿南健治)ときんば(西田薰)は、芸を披露する。余り上手くないが、それは……。
トラジは、サカザキに才能を見込まれ(というほど何もしていないが)鎌倉に来て仕えぬかと言われる。トラジほどでなくても皆、出世欲はあり、ゴングージはムクリを発見すればその功で伊勢神宮の神官に推挙して貰おうなどと狙っていたりする。ゴングージは、浜辺にムクリの武具が漂着することが多くなったことに気付いていた。ムクリは戦支度を整えている。
そして突然……。
コメディを基調とした群像劇が、突如として残酷劇に変わるのは、「鎌倉殿の13人」のようでもある。「蒙古が襲来」というタイトルなので、予想はしていたが、ここまで徹底的にやるとは思っていなかった。何の予告もなく始まる戦の恐ろしさが表現されている。
そのまま暗いままでは終わらず、「どんちゃんの歌」が歌われる。
終演の影アナは戸田恵子。「東京サンシャインボーイズの次回公演は80年後を予定しています」。80年後となると出演俳優のみならず、今会場にいるほぼ全員が存在していないと思われる。
カーテンコールが終わった後も戸田恵子の影アナは続き、「上演はこれでおしまいです! これ以上、拍手しても何も出ません! また戸田恵子が東京サンシャインボーイズのメンバーであったことはありません。客演もしていません」と締めていた。戸田恵子が女優業に進出するのは、東京サンシャインボーイズが解散してから2年ほど経ってからで、それまでは声優しかしていなかった。戸田恵子を女優業に引っ張り出したのは三谷幸喜である(「総理と呼ばないで」において)。
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