« コンサートの記(898) 大植英次指揮 Osaka Shion Wind Orchestra 第159回定期演奏会 | トップページ | コンサートの記(899) 「京都市立芸術大学ピアノ専攻教授陣によるプロフェッサーコンサート 煌めくピアニズム」 »

2025年4月 8日 (火)

これまでに観た映画より(383) 中国映画「石門」(ホアン・ジー監督と大塚竜治監督、瀧内公美さんによる舞台挨拶あり)@新宿武蔵野館

2025年3月20日 新宿武蔵野館にて

午後2時45分から、JR新宿駅の東にある新宿武蔵野館という映画館で、女流のホアン・ジー(黄骥)監督と大塚竜治監督の共同監督による中国映画「石門」を観る。二人の監督は夫妻である。中国湖南省長沙市を舞台に、妊娠などを巡るダーティーな話が繰り広げられる。日本では昨年、桐野夏生原作、長田育恵脚本の「燕は戻ってこない」というドラマが放送されたが、それに繋がるものがある。

Dsc_7814

この回の上映には、ホアン・ジー監督と大塚竜治監督、更に女優の瀧内公美さんによる舞台挨拶がある。

新宿武蔵野館に入るのは初めてだが、小綺麗な映画館である。歴史の長い映画館であるが、何度か改装を行っているらしい。瀧内公美のことは贔屓にしているようで、彼女が浅野忠信と共演する「レイブンズ」の展示があり、また新宿武蔵野館は武蔵野ビルの3階にあるが、エレベーターの扉に「レイブンズ」の宣伝用写真が使われている。瀧内公美は新宿武蔵野館で「レイブンズ」の初日舞台挨拶を行う予定がある。

 

素人を俳優として起用した作品。主演のヤオ・ホングイ(姚红贵)は、ホアン・ジー監督作品に3本目の出演で全て主役だが、それ以外の監督の映画やドラマには出演しておらず、職業俳優とは呼べないようである。今は出身地で公務員をしているという。
セリフ回しの上手さなどが正確に分かるほどの北京語力はないが、明らかに機械のように話している人などセリフが苦手な人は流石に分かる。

長回しと長ゼリフの多用が特徴。長回しや長ゼリフは製作国を問わず、増加傾向にあるように見える。この作品はセリフのない長回しがかなりの長尺という特徴がある。

小さな英語教室の場面からスタート。
ヤオ・ホングイが演じるリンは大学生。フライトアテンダント(キャビンアテンダント。CA。空中小姐、空姐)になるための勉強をしている。中国にはCAになるための大学があるらしい。ただ日本にもパイロット養成の専攻を持つ大学はあるし、CA輩出数日本一の関西外国語大学(大阪府枚方市にある)は、現役CAのOGを呼んで講義や相談会を行うなど、CA養成にかなり力を入れている。なお、校名は「職業学院」(学院は中国では単科大学のこと。大学と呼ばれるのは総合大学のみ)という文字が見えるだけで、架空の大学かも知れない(長沙航空職業技術学院という大学があり、ホームページに卒業生がCAとして活躍している写真が掲載されているのでここなのかも知れない。ただやはり架空の大学の可能性もある)。
リンの親は産婦人科を開いているが、患者の子の死産により訴えられている(今では死亡率は低くなっているが、昔は出産は命がけの作業であり、今でも他の診療科に比べると、子もしくは母親あるいは両方の「死」にまつわる事柄で訴訟を起こされることは多く、日本でも産婦人科を目指す医学生の減少に繋がっている)。にも関わらず、ネズミ講のようなイベントに入れ上げている。
そんな中、リンの妊娠が発覚する。死産になった子どもの代わりにリンの子を養子にすることが話が丸く収まりそう。全然、丸くはないのだが。
リンは、学費を稼ぐためにアルバイトを始めるのだが、これも若い女性の世話や、どうやら卵子提供など、アウトの可能性が高く……。やがてリンは出産に備えて大学を休学する。

映画は合宿する形で、妊娠してから生まれるまでと同じ10ヶ月程度を掛けてじっくりと撮られたようである。また台本はあるが、上手くいかないところはカットし、アドリブを撮って上手くいった場合は採用したりもしたそうである。そうやってフィクションの中にノンフィクションを忍び込ませるやり方を採用したことが分かる。
2019年の場面から物語は始まるが、やがてコロナ禍が起こり、みなマスクをする。実際にはコロナが酷い時期には撮影は中断して、落ち着いてからコロナ禍の真ん真ん中という設定で俳優達はマスクをして撮影を行ったようである。

生まれてくる子どもについて、「1年間面倒を見てほしい」だの「それは嫌だ」のという会話が繰り広げられ(これはアドリブらしい)人間の扱いの軽さが感じられる。
ラストシーンでも泣く我が子を車の中に残してリンは出て行ってしまう。育てる権利はなく、自分の子どもにはならないので情が薄いのか、それとも他に意味があるのか。いずれにせよ救いはなさそうだ。
とにかく現代中国の闇が正面から描かれている。

 

舞台挨拶。司会は配給会社の松田さん。上手側から、大塚竜治監督、ホアン・ジー監督(通訳あり)、瀧内公美が出席する。瀧内公美は眼鏡を掛けて「その辺を軽く走ってきました」というようなラフな格好。この映画の関係者でない瀧内公美が出席するのは、映画の大ファンだからだそうで、特に長回しのシーンを「絵画みたい」と語り、素人達の演技に「どうやったらあんな演技出来るんだろう」と興味津々であった。なお、自分が出ている作品以外の舞台挨拶に参加するのは初めてだそうだが、他の作品に対してあれこれ言うのは俳優としてはよろしくないんじゃないかとの思いがあったため控えてきたそうだ。ただ今回は絶賛出来るので参加を希望したそうである。
大塚監督によると、皆、普通語(北京語をベースにした標準語)が上手くないので、それで苦戦したところはあったという。

撮影は禁止とのことだったが、最後に瀧内公美が、「ちょっとだけみんなで写真撮っちゃいましょう」と提案したため、撮影会が始まってしまった。私はスマホの起動が遅くて撮れなかったが。
瀧内公美は、映画のパンフレット購入者限定のサイン会にも参加。イメージ通りのかなり気さくな人である。女優とはいえ、映画製作者二人とファン一人という妙な組み合わせによるサイン会となった。
私もサイン会に参加し、瀧内さんとは彼女が主演し、2月に公開された一人芝居映画「奇麗な、悪」についてちょっと話す。隣のホアン・ジー監督には北京語(正確に言うと普通語)で話す。何の前触れもなく北京語で話し始めたため、瀧内さんも0.1秒ほどだが、「ん?」という感じでこっちを見ていたのが面白かった。

Dsc_7771

| |

« コンサートの記(898) 大植英次指揮 Osaka Shion Wind Orchestra 第159回定期演奏会 | トップページ | コンサートの記(899) 「京都市立芸術大学ピアノ専攻教授陣によるプロフェッサーコンサート 煌めくピアニズム」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« コンサートの記(898) 大植英次指揮 Osaka Shion Wind Orchestra 第159回定期演奏会 | トップページ | コンサートの記(899) 「京都市立芸術大学ピアノ専攻教授陣によるプロフェッサーコンサート 煌めくピアニズム」 »