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2025年4月10日 (木)

コンサートの記(899) 「京都市立芸術大学ピアノ専攻教授陣によるプロフェッサーコンサート 煌めくピアニズム」

2025年3月5日 京都市立芸術大学堀場信吉記念ホールにて

四条駅から京都市営地下鉄烏丸線に乗り、京都駅で下車。東に向かって数分のところにある京都市立芸術大学堀場信吉記念ホールで、「京都市立芸術大学ピアノ専攻教授陣によるプロフェッサーコンサート 煌めくピアニズム」を聴く。タイトル通り、京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専攻の教授(全員が教授の肩書きではなく、専任教員や常勤講師もいる)達による演奏会。

出演は、砂原悟、上野真(うえの・まこと)、三舩優子(みふね・ゆうこ)、田村響(男性)、髙木竜馬(りょうま)。最後の演目であるワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲(小林仁編曲)にだけ、京都市立芸術大学専任講師の森本瑞生(パーカッション)が出演するほか、京都市立芸術大学音楽学部や大学院の学生とOBが出演する。

 

事前のプログラムは、2台のピアノのための作品などは発表されていたが、独奏曲に関してはシークレットで直前に発表されることになっている。

なお、ピアノは4台のグランドピアノを使用。コンサートホールに常備されているピアノは2台ほどが基本だが(2台のピアノのための作品は多めだが、3台以上のピアノのための作品は数えるほどしかないため)、京都市立芸術大学ピアノ専攻は、「学生になるべく多くの種類のピアノを弾かせたい」との思いから、堀場信吉記念ホールに4台のピアノを備えている。また芸術大学の音楽学部なので、ピアノは多く所有しており、更に数を増やそうとしてもおそらく可能だろう。

今回使われるピアノは、ウィーンのベーゼンドルファー290インペリアル、イタリアのファツィオリ F-308、スタインウェイ&サンズ D-274(ハンブルク)、スタインウェイ&サンズ D-274(ニューヨーク)。スタインウェイというとアメリカのイメージが強いが、1880年代からはドイツのハンブルクでも製造を開始している。これだけ多くの種類の名ピアノを所有している音楽学部は世界的に見ても珍しいそうで、「世界でもここだけじゃないか」という話もあるらしい。
ベーゼンドルファーのピアノは、昨年の11月に購入したばかりで、今回がお披露目となるそうである。

 

曲目は、モーツァルトのソナタ ニ長調 KV448(田村響&上野真)、三舩優子のソロ曲、髙木竜馬のソロ曲、マーラーの交響曲第5番よりアダージェット(シュトラダールによる2台ピアノ版。髙木竜馬&上野真)、田村響のソロ曲、シューベルトの幻想曲 ヘ短調 作品103 D.940(上野真&砂原悟)、バーバーのスーヴェニール「バレエ組曲」(ゴールドとフィッツデールによる2台ピアノ版)より第5番“Hesitation-Tango”と第6番“Galop” (三舩優子&上野真)、ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲 4台ピアノ16手連弾 打楽器付き(小林仁編曲。髙木竜馬&生駒由奈、田村響&長山佳加、三舩優子&稲垣慈永、砂原悟&廣田沙羅。打楽器:森本瑞生、武曽海結、丹治樹)。

 

かなり有名なピアニストが出る上に、チケットが比較的安いということもあり、客席はかなり埋まっている。

 

堀場信吉記念ホールに来るのは二度目。前回はトイレが狭く、休憩時間に長蛇の列が出来るという欠点が分かったが、堀場信吉記念ホールの入る京都市立芸術大学A棟の向かいにあるC棟のトイレも開放することで、改善を図ろうとしているようだ。

 

京都市内には、京都コンサートホール・アンサンブルホールムラタ、ロームシアター京都サウスホール、青山音楽記念館バロックザールなど、ピアノリサイタルでの使用を想定して作られたホールがいくつもあるが、いずれも音響的に万全という訳ではなかった。だが、堀場信吉記念ホールの音響はピアノ演奏向けとしてはかなり良い部類に入る。京都市内にあるピアノ演奏向けのホールとしては一番であろう。公立大学が所有するホールであるため、貸し館などはどれほど行えるのかは分からないが、「ここで数々のピアノリサイタルを聴いてみたい」と思わせてくれるホールである。

 

モーツァルトのソナタ ニ長調。田村響がハンブルクのスタインウェイを弾き、上野真がベーゼンドルファーのピアノを弾く。
モーツァルトの2台のピアノのためのソナタは、1990年代に、「聴きながら勉強すると成績が上がる曲」として話題になったが、その後に、「そういう見方は出来ない」として否定されている。
モーツァルトらしい典雅で愛らしい楽曲で、二人のピアニストの息もピッタリ合っている。なお、今回は、ソロ曲とワーグナー以外は譜めくり人を付けての演奏で、譜めくり人は各ピアニスト専属の女性が担当。三舩優子の譜めくり人だけは、ワーグナー作品で出演もする稲垣慈永(じえい)が務めていた。

 

三舩優子のソロ演奏曲は、リストのペトラルカのソネット第104番。美しいタッチの光る演奏である。ハンブルクのスタインウェイのピアノを使用。

 

髙木竜馬のソロ演奏曲は、ラフマニノフの前奏曲「鐘」。ラフマニノフの生前から人気曲であり、ラフマニノフのピアノコンサートに来た聴衆が「鐘」を聴きたがり、ラフマニノフが弾くまで帰らなかったという伝説を持つ曲である。
髙木はスケール豊かな演奏を展開する。低音と高音の対比が鮮やかだ。ピアノはファツィオリ。

 

マーラーの交響曲第5番(シュトラダールによる2台ピアノ版)より第4楽章「アダージェット」
髙木竜馬がファツィオリのピアノを、上野真がベーゼンドルファーのピアノを奏でる。
オーケストラの演奏では、おそらくレナード・バーンスタインの影響で、ゆったりとしたテンポが取られることの多いアダージェットであるが、ピアノでの演奏ということでテンポはやや速め。しかし次第にテンポは落ちる。
弦楽ならではの甘さを持つ曲だが、ピアノで演奏すると構造がはっきりと把握しやすくなる。オーケストラでも分かるが、ため息や吐息の部分がより明確に感じられる。
かといって分析的ではなく、エモーショナルな味わいも十分にある。

 

田村響のソロ演奏曲は、ショパンのワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」。元々はスタインウェイ・ハンブルクを使って演奏する予定だったが、ベーゼンドルファーを用いての演奏に変わる。舞台上の転換はないため、ソロではあるが上手側に鍵盤がある形での演奏となる。蓋は取り払われている。
「華麗なる大円舞曲」は、中学校の給食の音楽だった、という個人的な思い出はどうでもよいとして、愛らしさと神秘性、そしてタイトル通りの華麗さを合わせ持った名曲であり、田村の演奏も鮮やかであった。

ピアノが変わったのは、「ソリスト全員に別のピアノを弾かせたい」という意図によるもののようである。

 

シューベルトの幻想曲 ヘ調用。これも元々は連弾用の曲であるため、そのまま連弾の予定だったのだが、2台のピアノで弾く形に変わった。
シューベルトらしく、またドイツらしいという正統派の音楽と演奏である。暗めではあるが、愛らしさやノスタルジックな感じが顔を覗かせる。

 

バーバーのスヴェニール「バレエ組曲」(ゴールドとフィッツデールによる2台ピアノ版)より第5番“Hesitation-Tango”と第6番“Galop”
三舩優子がハンブルクのスタインウェイを、上野真がニューヨークのスタインウェイを演奏する。
アメリカの音楽、それも前衛には手を出さなかったバーバーの作品だけに、軽快で親しみやすく、明るくチャーミングな音楽が繰り広げられた。

 

ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲 4台ピアノ16連弾 打楽器付き(小林仁編曲)。大規模な舞台転換があるため、その間を教員総出演によるトークで繋ぐ。小林仁は砂原悟の直接の師だが、髙木竜馬が12歳ぐらいの時に小林の自宅に伺ってレッスンを受けたことがあったり、田村響が参加したコンクールの審査員が小林だったりと、若手とも繋がりがあるようだ。今回のコンサートにも「ぜひ伺いたい」と言っていたのだが、小林の住む東京は昨日今日と雪。道路でスリップする可能性があるので外出は難しいということで、京都に来ることは叶わなかったようだ。

4台のピアノが上から見るとTwitter状に、じゃなかったX状に配置される。打楽器の森本瑞生(特別客演)、武曽海結(むそ・みゆ)、丹治樹(たんじ・たつき。客演)はその背後に横一列で陣取る。
X状の手前上手側に髙木竜馬&生駒由奈、手前下手側に田村響&長山佳加、奥下手側に三舩優子&稲垣慈永、奥上手側に砂原悟&廣田沙羅。砂原悟&廣田沙羅コンビのみ、学生が第1ピアノ、教員が第2ピアノである。髙木竜馬がタブレット譜を使っているのが確認出来るが、他のピアニストの譜面は私の席からは見えない位置にある。
基本的に時計回りに主役が変わっていくようであるが、主旋律は田村響が受け持つことが多いようだ。
4台のピアノによる演奏を聴くことは少ない上に(多分、初めてである)更に打楽器が加わっての演奏。おそらく唯一無二の体験となるはずである。
オーケストラのように色彩豊かな響きという訳にはいかないが、迫力やスケールなどはこのサイズのホールで聴くには十分すぎるほど大きい。ピアノならではの音の粒が立った響きも印象的である。
実はピアノ専攻の教員の中には、京都市立芸術大学出身者は一人もいないのだが、特別客演としてティンパニを受け持った森本瑞生(京都市立芸術大学専任講師)は京都市立芸術大学のOGである。森本は更にシンガポール国立大学・ヨンシュウトー音楽院、ジョンズ・ホプキンス大学・ピーポディ音楽院(交換留学生として)、ジュリアード音楽院大学院でも学んでいる。
学生達は、京都市立芸術大学ピアノ専攻もしくは大学院に在籍中だが、京芸の学部卒業後に海外の大学院を修了してまた戻ってきていたり、すでにいくつかのコンクール優勝歴や入賞歴があったりする人もいる。客演の丹治樹は、京都市立芸術大学音楽学部管・打楽器専攻を経て同大学院修士課程器楽専攻を修了。卒業時に京都市長賞受賞。パーカッションアンサンブルグループ「アカサタ♮」のメンバーである。
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲は、高揚感溢れる曲だけに、演奏終了後に客席も盛り上がる。

「良かったねー」という声があちこちで飛び交い、聴衆の満足度も高そうであった。
帰りであるが、ここでまた堀場信吉記念ホールの弱点が見つかる。堀場信吉記念ホールは京都市立芸術大学A棟の3階にあり、1階から階段が伸びているのだが、照明がないため、足下がよく見えず危険である。エレベーターもあるが、余り多くの人は乗せられないので、大半の人は階段を選ぶことになるのだが、改善しないと事故が起こりそうである。スマホのライトで足下を照らしながら歩く人もいた。

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