コンサートの記(912) 広島交響楽団 2025 「『平和の夕べ』コンサート 被爆80周年 Music for peace ダニール・トリフォノフとともに」大阪公演 クリスティアン・アルミンク指揮 石橋栄実(ソプラノ)
2025年8月7日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて
午後7時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、広島交響楽団 2025「『平和の夕べ』コンサート 被爆80周年 Music for Peace ダニール・トリフォノフとともに」を聴く。
毎年、原子爆弾が投下された8月に行われる広島交響楽団「平和の夕べ」コンサート。一昨日、広島での公演があったが、今年は被爆80周年というここで特別に、今日は大阪、明日は東京でも同一プログラムによる演奏会を行うことになった。
指揮は広響音楽監督のクリスティアン・アルミンク。曲目は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ピアノ独奏:ダニール・トリフォノフ)とマーラーの交響曲第4番(ソプラノ独唱:石橋栄実)。マーラーの交響曲第4番はマーラーの交響曲の中では一番短いが、それでも1時間近く掛かり、大曲が並ぶ。このプラグラムを三回連続で演奏するのだから、広響のメンバーも体力が試される。
日本のオーケストラではスタンダードなドイツ式の現代配置での演奏。コンサートミストレスは北田千尋。
1階のホワイエには、Akiko's Piano(明子さんのピアノ)が置かれ、ショパンの「別れのワルツ」やドビュッシーの「月の光」などポピュラーな演目が弾かれていた。また、休憩時間には調律師による説明があった。
Akiko's Pianoは広島では、元安川沿いのレストハウス(被爆建築)内に常設展示されているのだが、保温保湿を含めた保存のためガラスケースに収められている。今日は遮蔽物なしで見ることが出来た。
新日本フォルハーモニー交響楽団の音楽監督時代に知名度を上げたクリスティアン・アルミンク。ウィーン生まれ。小澤征爾の弟子の一人として知られる。ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督時代には日本ツアーを行い、京都コンサートホールでも指揮を行っている。昨年、下野竜也音楽総監督の後任として広島交響楽団の音楽監督に就任。すでに広響とのライブ音源がリリースされている。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。ソリストのダニール・トリフォノフは、2010年のショパン・コンクールで第3位入賞、2011年のルービンシュタイン国際ピアノコンクールとチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で優勝し、注目を浴びた。
非常に明晰な音を出すピアニストであり、一音一音がクッキリ聞こえる。
どちらかというとウエットなピアニストなのだが、ウエットでありながらクリアという相反する要素を高いレベルで止揚することが可能なようだ。
さて、京都市交響楽団のジュヴィちゃん(広島交響楽団から移籍)が音楽界の七不思議の一つに挙げていたが、「広島市には音楽専用ホールがない」のである。平和公園の周辺に6つほどホールがあるのだが、全て多目的である。旧広島市民球場跡地の整備計画では、旧広島市民球場の北の空き地に音楽専用ホールを建てる計画もあったのだが、広島東洋カープを見ても分かるとおり、広島はスポーツ文化が強く、サンフレッチェ広島の新スタジアムが建つことが決まり、すでに完成して運用されている。音楽専用ホールが建つ計画はない。
広島市のライバル的存在である岡山市にはクラシック音楽専用の岡山シンフォニーホールがあり、オペラなども上演出来る岡山芸術創造劇場“ハレノワ”が新設されていて、芸術のハード面においては広島をリードしている。
そんな中で、日本初のクラシック音楽専用ホールであるザ・シンフォニーホールで演奏する広響。
冒頭の響きはかなり渋めだったが、そこから明度を上げていく。弦も管も力強く、アルミンクの棒の下、一体となった演奏が奏でられた。
トリフォノフのアンコール演奏は2曲。いずれもチャイコフスキーの「子供のアルバム 24のやさしい小品」からの曲で、第24曲の「教会で」と第21曲の「甘い夢」が取り上げられる、曲調は好対照であったが、いずれも粒立ちの良いピアノであった。
後半、マーラーの交響曲第4番。ソプラノ独唱は石橋栄実(えみ)。大阪府東大阪市に生まれ、大阪音楽大学と同音大専攻科に学び、堺市内にあるホールでオペラデビュー。そして現在は大阪音楽大学の教授と、一貫して大阪を拠点にし続けている人である。勿論、東京など他の都市や海外でも歌うが、本拠地は大阪のままである。インタビューを聞いたことがあるが、「大阪に生まれてずっと大阪で育ってきたので、大阪で生きるのは自然なこと」といったような内容であった。
鈴の音が鳴り、ヴァイオリンが少し溜めを作ってから入る。アルミンクは小澤征爾の弟子なので、レナード・バーンスタインの孫弟子ということになるのだが、レナード・バーンスタインの直弟子である広上淳一が、アムステルダムでこの曲に取り組んでいた時に、鈴の音が止んでからすんなり弦を歌わせたところ、バーンスタインから駄目出しを受けた。バーンスタインは、「鈴の音はマーラーが子どもの頃に好きだった馬車の音。そこから思い出の世界に入るので、すんなり移行してはならない」という意味の言葉を語ったと思うが、小澤もバーンスタインに学び、アルミンクが小澤に学びということでこうした解釈が受け継がれているのかも知れない。
広島交響楽団はスケールが大きく、中身の濃い演奏を展開。トランペットなどは特に気持ちよさそうに吹いていたが、普段は音の伸びない会場で吹いていて今日は日本屈指の音響を誇るザ・シンフォニーホールでの演奏ということで、自分で吹いている音も違って聞こえるのかも知れない。
第4楽章に入る直前に石橋栄実が、舞台下手側から登場。中央に向かって歩いて行く。
そして第4楽章。石橋の歌声は、やや小ぶりだが、透明感があって聴く者の耳や心を洗い清めるかのよう。アルミンク指揮の広響も天国的な美しさと「目覚めよ」というかのような喧噪を的確に表していた。
予め決められたプログラムが長いので、今日はオーケストラのアンコール演奏はなしかと思われたが、石橋栄実の独唱付きでリヒャルト・シュトラウスの「明日!」が伸びやかに歌われた。
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