コンサートの記(910) マティアス・バーメルト指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団第589回定期演奏会
2025年6月13日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて
午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団の第589回定期演奏会を聴く。元々はロシアの名匠、ウラディーミル・フェドセーエフが指揮台に立つ予定だったが、フェドセーエフは1年ほど前から指揮活動を行っておらず、今回の大フィルと広響への客演はキャンセルとなった。フェドセーエフは、92歳と高齢だが、フェスティバルホールのホワイエで、大フィル事務局長の福山修氏が行っているプレトークサロンでは、「病気ではない」とのことだった。ただ高齢のため、エネルギーに波があり、今は指揮するのは難しいとドクターストップか掛かっているとのことである。
フェドセーエフは、以前も大フィルの定期をキャンセルしたことがあり、その時は、井上道義が代役を務めている。
今回代役を務めるのは、昨年の3月まで札幌交響楽団首席客演指揮者を務めていたことでもお馴染みのマティアス・バーメルト。京響への客演経験もあり、録音も多く、私が初めて買ったアントニオ・サリエリのCDはバーメルトが指揮したものであった。このことから分かる通り、レパートリーはとても広い。スイス生まれ、作曲をピエール・ブーレーズとカールハインツ・シュトックハウゼンに師事。オーボエ奏者として活動したのち、アメリカに渡ってクリーヴランド管弦楽団の音楽監督だったジョージ・セルに指揮を習い、レオポルト・ストコフスキーにも師事。セルの後任であるロリン・マゼールが音楽監督を務めていた時代のクリーヴランド管弦楽団で常任指揮者として活動している。祖国のバーゼル放送交響楽団や、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの音楽監督も務めた。広上淳一が音楽監督を務めるマレーシア・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者だったこともある。
曲目は、グラズノフのバレエ音楽「四季」とチャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。フェドセーエフが決めたものから変更なしである。
グラズノフの「四季」は、比較的取り上げられやすい曲ではあるが、プレトークサロンで、福山さんの、「『四季』を生で聴かれたことがあるという方」との問いの挙手したのは、私を含めて2、3人であった。私は2018年にアレクサンドル・ラザレフの指揮による京都市交響楽団の定期演奏会で聴いている。ラザレフが実に楽しそうに指揮していた。
なお、大フィルの音楽監督である尾高忠明は、BBCウェールズ交響楽団を手兵としていた時代に「グラズノフ交響曲全集」を作成している。これは名盤であるが、残念ながら尾高さんの指揮でグラズノフの交響曲を演奏しても客は入らないだろう。現状ではグラズノフの知名度は日本では低いので、ロシア人指揮者が何かの折に取り上げたりしない限り、生で聴きたいという人はなかなか現れないと思われる。
ちなみにグラズノフはラフマニノフの天敵なので、グラズノフとラフマニノフのプログラムによる演奏会を行うと、演奏会場に足を運ぶ人がいるかも知れない。
ただ、ラフマニノフは日本で屈指の人気作曲家であるため、敵役となったグラズノフの人気が上がる可能性は低い。
今日のコンサートマスターは崔文洙。フォアシュピーラーに須山暢大。ドイツ式の現代配置での演奏である。第2ヴァイオリンが全員女性ということも多い大阪フィルだが、今日は客演に男性奏者1人入った。正楽団員は全員女性である。ヴィオラ、チェロ、コントラバスの客演奏者も1人を除いて女性である。関西のオーケストラは、東京のオーケストラと比べて女性の比率が高いように思う。
グラズノフのバレエ音楽「四季」。冬に始まり秋に終わるという独自の構成。
ロシア人の指揮者だと、お国の誇りの音楽だけあって、威勢よく演奏したりするが、バーメルトはスイス人で、師事した作曲家や指揮者を見れば分かる通り、客観的で分析的な解釈を行う。煌びやかな音を優先させた美演であるが、チャイコフスキーや師であるリムスキー=コルサコフ、そしてワーグナーからの影響が的確に示される。
バーメルトの指揮棒は振り幅が小さく、無駄な動きをなるべく避けているようだ。
チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。チャイコフスキーの交響曲は前期の3曲と後期の3曲とでは作風が大きく異なるが、チャイコフスキーは自身の初めての交響曲が気に入って、何度も改定しているそうである。
後期3大交響曲に比べると面白さでは劣るが、第2楽章における懐旧の念(25歳の時に作曲を初めて28歳の時に完成させた曲なので、懐旧といってもそれほど昔ではないと思われるが)や第3楽章の嘆きの表情など、巧みな描写があり、バーメルトと大フィルもそれをしっかりとした音に変えていく。
第4楽章は大いに盛り上がる。これまで指揮棒のビート幅は小さめだったが、ここでは右手を大きく動かし、ステップのようなものも踏む。
カーテンコールで、バーメルトは各パートを立たせ、いったん引っ込んで再び登場してオーケストラ団員に「立て! 立て! 立て!」という仕草をするが、大フィルの団員達は拍手で称え、バーメルト一人が喝采を浴びた。バーメルトは両手を右頬に付け、「おやすみなさい」のポーズをしてコンサートはお開きとなった。
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