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2025年8月 3日 (日)

コンサートの記(911) 山形交響楽団特別演奏会「山響さくらんぼコンサート」2025大阪@ザ・シンフォニーホール オッコ・カム指揮 オール・シベリウス・プログラム

2025年6月20日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、山形交響楽団特別演奏会「山響さくらんぼコンサート」2025を聴く。

田舎の楽団というイメージからブランドオーケストラへと変貌した山形交響楽団。毎年、東京と大阪で行う「さくらんぼコンサート」も大好評である。

今回は、フィンランドの名匠、オッコ・カムを指揮台に迎え、オール・シベリウス・プログラムによる演奏を行う。

次から次へと指揮者を生み出すフィンランド。先日もNHK交響楽団の大阪公演の指揮者に、フィンランドの女流若手、エヴァ・オリカイネンが決まったばかりだが、まさに世界に冠たる指揮者大国である。彼らが皆、シベリウスを指揮するので、シベリウス作品の演奏回数も上がり続けるということになる。

オッコ・カムは、フィンランド人指揮者が本格的に世界に台頭し始める時代の指揮者である。フィンランド出身の名指揮者はそれまでもいたが、フィンランド国内での活動が多く、諸外国に名が知れ渡ったフィンランド人指揮者はまだいなかった。
カムは、実は指揮を指揮者に師事したことはない。1946年、ヘルシンキ生まれ。シベリウス・アカデミーではヴァイオリンを専攻し、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の第2ヴァイオリン奏者、フィンランド国立歌劇場管弦楽団コンサートマスターなどを務める。この間、指揮を独学で身に着け、1969年の第1回カラヤン国際指揮者コンクールで優勝。だがこれが落とし穴であった。演奏はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が手掛けたが、ベートーヴェンの交響曲第4番を指揮したカムの棒が拙いので、いつも演奏しているカラヤン指揮の流儀で勝手に演奏してしまったというのが真相らしい。
表彰式では、「指揮の素人に近い若者が、マエストロ・カラヤンその人が指揮したようなベートーヴェンを奏でた」と称賛されたが、ベルリン・フィルのメンバーは当然、冷ややかだったという。優勝者には、ベルリン・フィルを指揮してのコンサートの他に、ベルリン・フィルを指揮してシベリウスの交響曲第1番から第3番までの3曲を録音する特典が与えられていた。だが、ベルリン・フィルは交響曲第2番の録音には応じたものの、第1番と第3場に関しては拒否。カムとレコーディング会社のドイツ・グラモフォンは、仕方なくヘルシンキ放送交響楽団(現・フィンランド放送交響楽団)との共演を音盤に収めた。そしてカムとベルリン・フィルのコンサートは失敗に終わる。
その後カムは低迷期に入るが、これに関しては、「若いうちに成功することは、その後のキャリアに却って妨げとなる場合がある」と述べている。
祖国の最高峰のオーケストラであるヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督になってから、来日してシベリウスの交響曲全曲を渡邉暁雄と振り分けて話題になる。この音源は21世紀に入ってから、東京FMとTDKの協力により音盤としてリリースされた。
日本のオーケストラにも数多く客演しており、京都市交響楽団と共演したことも何度かあるが、特に日本フィルハーモニー交響楽団への客演が多く、CDもリリースしている。私が初めてシベリウスの交響曲第2番を生で聴いたのもカムの指揮する日本フィルハーモニー交響楽団で、東京芸術劇場大ホール(現・コンサートホール)においてであった。カムの解釈も見事だったが、日フィルもシベリウスを演奏する時はスーパーオーケストラに変わり、初めて「シベリウスが分かった」と感じたのもこの時である。
北欧中心の活躍が続くが、2011年、オスモ・ヴァンスカによって鍛えられ、世界最高峰のシベリウスオーケストラとなっていたラハティ交響楽団の音楽監督に就任。東京オペラシティコンサートホール“タケミツ メモリアル”でシベリウス交響曲チクルスを行い、私も全曲を聴いている。輝かしい音を放つラハティと成熟したカムの指揮が見事にマッチしていた。
ラハティ退官後は客演指揮者として活動。特に山形交響楽団とは好評を得ている。

 

曲目は、「鶴のいる光景」、ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:神尾真由子)、交響曲第2番。カムの希望により「鶴のいる光景」とヴァイオリン協奏曲は続けて演奏される。

 

コンサートマスターは、髙橋和貴。チェロが客席側に来るアメリカ式の現代配置をベースにした演奏。ティンパニは指揮者の正面ではなく、後段の楽器の中でも最も上手側におかれる。

 

演奏開始前に、山形交響楽団の西濱秀樹専務理事によるプレトークがある。西濱専務登場と同時にパラパラとした拍手。西濱専務は、「あれは誰なんだろう? という拍手をありがとうございます」。そして、山形交響楽団の創立名誉指揮者である村川千秋がシベリウスの曲を何度も取り上げているということを紹介した。
その後、山形市に本社のある豆のでん六のゆるキャラ、でんちゃんが登場。付き添いの女性が、「関西ではでん六の知名度は低いかも知れませんが」と言いつつ商品を紹介した。今は山形限定のさくらんぼ味が好評だという。ちなみにホワイエでは山形物産展が開かれており、でん六豆さくらんぼ味も売られていた。以前、買って食べたことがあるが美味しいお菓子である。

続いて、山形県のオレンジ色の法被を着た神尾真由子とオッコ・カムが登場。神尾真由子はでんちゃんの真似をして手をばたつかせて登場。オッコ・カムも仕方なく真似ていた。大阪出身の神尾真由子は、12歳の時にラロの作品を弾いて、ザ・シンフォニーホールデビューしたのだが、参考にしたCDにラロのカップリングとしてシベリウスのヴァイオリン協奏曲が入っており、「ラロよりこっちの方が良い」と思って、練習し、レパートリーに加えたそうだ。
オッコ・カムへのインタビュー。神尾真由子が通訳を務める。「交響曲第2番のいいところは?」との質問に、「なんで今から演奏するのに説明しなきゃいけないんだ?」と答えるが、「帝政ロシアの傘下にあった時代にフィンランドへの愛国心を歌い上げた珍しい作品」と解説した。
「山形交響楽団の長所は?」に「全てのパートが優れている」と答えたが、西濱専務によると「打ち合わせと全然違う」そうで、神尾真由子がもう一度聞き直して、「成熟したワインのような」味わいがあると述べていた。

 

「鶴のいる光景」
クラリネット二本が鶴の声を模すが、今回はクラリネット奏者二人を立たせての演奏であった。山形交響楽団の響きも北欧音楽に似つかわしく、技術も高い。雰囲気も豊かである。

 

ヴァイオリン協奏曲。黒のドレスで登場した神尾は、繊細で艶のある音を聴かせる。やや暗めのトーンを出すこともある神尾だが、今日のヴァイオリンは輝かしく、細部まで神経が行き届いている。
山形交響楽団の伴奏も神秘的かつ力強く、理想的な伴奏を築き上げていた。

神尾真由子のアンコール演奏は、お得意のパガニーニの「24のカプリース」から第5番。今日も超絶技巧を披露した。

 

交響曲第2番。
冒頭から雰囲気豊かであり、木管の音色も冴えている。金管も力強いが、威力任せではなく、堅固な音の像を作り上げる。
演奏としても解釈としても最もスタンダード。理想的なシベリウス演奏の一つである。
第4楽章の解釈は、先に話したように凱歌。暗い部分はあくまで経過句という解釈のようである。

山形交響楽団も日本フィルハーモニー交響楽団同様、「シベリウスは当団の柱」というプライドが伝わってくる。

 

なお、来場者全員に、東根さくらんぼ数個と、さくらんぼコンサート大阪の協賛企業である森下仁丹の甜茶飴が無料で配布された。

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