これまでに観た映画より(402) 「ふたりのマエストロ」
2025年9月15日
ベルギー・フランス合作映画「ふたりのマエストロ」を観る。2022年の作品。共に指揮者である親子の物語。親子で指揮者というのは珍しくなく、最近では、ヤルヴィ親子やザンデルリンク親子などがいるが、この映画では親子関係が余り良くなかったエーリヒとカルロスのクライバー親子が念頭にあると思われる。
監督・脚本:ブリュノ・シッシュ、製作責任者:フィリップ・ルスレ。出演:イヴァン・アタル、ピエール・アルディティ、ミュウ=ミュウ、キャロリーヌ・アングラーデ、パスカル・アルビロほか。
パリとミラノが主舞台。フランス語が主に用いられているが、イタリア語も時折用いられる。
指揮者のドニ・デュマール(イヴァン・アタル)が、フランスの輝かしい賞であるヴィクトワール賞を受賞し、スピーチを行うところから始まる。ジョークが好きなようで、「オザワ(小澤征爾)は、スカラ座でブーイングを浴びた。スカラ座で野次を浴びれば大指揮者になる。もっと野次を」 と語る。そして、元妻でマネージャーのジャンヌ(パスカル・アルビロ)と息子のマシューに感謝の念を述べる。彼の父親でやはり指揮者であるフランソワ・デュマール(ピエール・アルディティ)は欠席であるが、仕事があるわけでも体調が悪いわけでもなく、自宅で授賞式の模様をテレビで見ている。翌日からは会う人会う人に、「息子さんおめでとうございます」と言われて、嫉妬しているようだ。
コンサートホールでリハーサルを行うフランソワ。ベートーヴェンの第九の第2楽章である。ちょっとティンパニが遅れたような気がしたが、問題はそれだけではなく、アンサンブルに躍動感がないことを気にしているようだ、というところでスマホの呼び出し音が鳴る。「誰だ、スマホを鳴らすのは!?」と怒るフランソワであったが、実はスマホの主はフランソワ本人であった。電話に出たフランソワの耳に飛び込んだのはとんでもない朗報。なんと「ミラノ・スカラ座の音楽監督に就任してくれないか」というものであった。
しかし、実はデュマール違いで、ミラノ・スカラ座の総裁が指名したのは息子のドニ・デュマールの方であり……。
喜劇にも悲劇にもなる設定であるが、大人の観賞に堪えうる人間ドラマに仕上がっている。
ただ、主人公と難聴のヴァイオリニストである彼女との関係についてはもっと時間を割いても良かったかも知れない。一方で、親子で指揮者であることの難しさは丁寧に描かれており、指揮者像にリアリティを与えている。
劇中で、「舞台恐怖症」という言葉が出てくるが、映画のタイトル以外で「舞台恐怖症」という言葉を聞くのは二度目である(初回は黒柳徹子主演の舞台「想い出のカルテット~もう一度唄わせて~」)。ヒッチコック映画から引いたものかも知れないが、この言葉は伏線になっている。
ドニがスピーチで小澤征爾を例に挙げ、更に小澤がカッチーニの「アヴェ・マリア」を指揮している映像をノートパソコンで見ていることから、小澤征爾の弟子という設定なのかも知れないが、それは劇中では明かされない。
元々はスカラ座の総裁は、ゲルギエフにスカラ座の音楽監督を頼むつもりであったが、彼の妻がアルツハイマー病になったというので辞退され、ドニに話が行ったようだ。「リッカルド・ムーティの後任になれる」というセリフも出てくるが(ということで2005年頃の話であることが分かる)、ムーティとスカラ座は事実上喧嘩別れしており、その後任となると吉となるか凶と出るか分からないところである。
ラストシーンが実際に可能かどうかだが、テンポさえ合っていればプロのオーケストラにとっては難度はそれほど高くないと思われる。
2回続けて観るぐらいには良い映画。もっとも、頭の働かない朝のうちに観たので、確認のためにもう一度見直したのである。
クラシックのポピュラーな楽曲が多く採用されているため、クラシックファンにはお薦め。音楽家の名前などはある程度詳しい人しか分からないかも知れないが、分からなくても特に問題はないはずである。
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