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2025年9月28日 (日)

WOWOWライブ COCOON PRODUCTION 2022+CUBE 25th PRESENTS,2022 ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出「世界は笑う」

2025年5月4日

録画しておいた、COCOON PRODUCTION 2022+CUBE 25th PRESENTS,2022「世界は笑う」を観る。作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ。出演:瀬戸康史、松雪泰子、千葉雄大、勝地涼、伊藤沙莉、大倉孝二、緒川たまき、山内圭哉、マギー、伊勢志摩、廣川三憲、神谷圭介、犬山イヌコ、温水洋一、山西惇、ラサール石井、銀粉蝶。
多くの俳優が二役三役を兼ねる。2022年8月24日、渋谷のBunkamuraシアターコクーンでの収録。

「世界は笑う」というタイトルからは喜劇が予想され(ケラさん、実は喜劇は余り上手くないんだけれど)、実際、笑いの要素はあり、観客の笑い声も聞こえるのだが、昭和30年代の軽演劇の劇団を舞台にした人間ドラマで、少し切ない話である。歌う場面があるので、耳元に小型のマイクを付けている出演者が多い。

舞台となるのは昭和30年代。新宿の街路、長野県の温泉旅館、そして再び新宿の街路である。

昭和32年。夜。秋野撫子(愛称は「デシコ」。伊藤沙莉)は、所属している軽演劇の劇団・三角座を抜け出すが、兄の大和錦(勝地涼)が追いかけてくる。撫子は、同僚の有谷是也(あれや・これや。千葉雄大。駄洒落の名前だが、是也という漢字からはどうしても千田是也を連想してしまう)と密会しようとしているのだが、兄の大和は喜劇役者との結婚を許さない。自分も三角座の喜劇俳優であるにも関わらず。この辺りは、伊藤沙莉と実兄のオズワルド伊藤との関係が投影されているように思える。
二人が去る。帰りに仲良くラーメンを食べるようだ。そこへ是也がやってくる。是也は喜劇作家を志しており、コントを草案中なのだが、なかなかよい話が思いつかない。そしてヒロポンを購入する。

劇団を舞台とした話だが、劇中劇のシーンはない。

昭和33年。新宿の街路では、日本テレビのプロデューサーである斎藤(ラサール石井)が、電気屋のショーウィンドーに飾られたテレビを見ながら、笑いについて語っているのだが、その近くにいたベテラン喜劇俳優の青木(温水洋一)は、斎藤の意見に食ってかかる。
そこへ現れた三角座の女優、トリコ(緒川たまき)。ダンサー歴の方が長いが今は女優以外の肩書きを受け付けない。トリコは文豪の川端康成(廣川三憲)を連れている。

喜劇俳優の多々見鰯(たたみ・いわし。大倉孝二)の話。多々見鰯には、多々見走(たたみ・かける)という三角座の名優だった兄がいた。だが、走は戦地に赴いたまま、消息を絶っていた。
走の妻であった鈴木初子(あだ名は「はっちゃん」。松雪泰子)は今も古書店を営みつつ三角座の手伝いをしながら走が戻ってくるのを待っている。
初子の古本屋で米田彦造(瀬戸康史)はトイレを借りたのだが、彦造は初子に一目惚れしていて……。

戦後、東京の演劇界が変わり、喜劇が凋落してストリップショーなどが受けるような時代となる。三角座はそれなりに大きな軽演劇の劇団なのだが、新宿には軽演劇の劇団はもう三角座しか残っていないようだ。浅草六区はまだ流行っているらしい(ご存じの通り、浅草六区もその後、人気は下降線をたどり、軽演劇の中心は吉本新喜劇など大阪に移る)。

この作品は、彦造と初子、是也と撫子の二組のカップルに、もう一組のカップルを加えて展開されていく。


女優達によるレビューのようなものがあり、各々ソロパートとダンスがある。歌われるのは、「ケセラセラ」の日本語訳詞版。ヒッチコック映画「知りすぎていた男」の挿入歌で、丁度、この頃に流行っていた曲である。


三角座の長野公演は、毎年、日本テレビで中継してくれていたのだが、その後のことを思うと、それがマイナスに働いたようにも思える。観劇によく通う人は、「演劇の本当の面白さは劇場でないと分からない」と思う人が大多数だと思うが、世の中の大半の人はそもそも演劇を観たことがないので、そうしたことは気にならず、「テレビで見られるんだから劇場行かなくてもいいよね。民放だからタダだし」という話になるはずである。丁度、映画も同じ道をたどっている。

ケラさんの作品は個人的に好きなものと嫌いなものがあり、好きなものは比較的暗めのもの、嫌いなものはおちゃらけの場合が多いが、「世界は笑う」は、暗いけど好みじゃないという残念な結果だったように思う。

是也のヒロポン中毒の場面があり、CGが使われたり、伊藤沙莉が仏壇返しを行ったりする。仏壇返しは歌舞伎の手法で、「東海道四谷怪談」で用いられることで有名だが、女優が仏壇返しを行うシーンはかなり珍しいように思う。

結局のところ本当の勝者がいないまま芝居は終わるが、タイトルはあるいは、「世界は(人間を)笑う」なのかも知れないと思ったりもした。

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