観劇感想精選(498) 広田ゆうみ+二口大学 別役実 「眠っちゃいけない子守歌」@アバンギルド
2025年10月28日 京都・木屋町のアバンギルドにて観劇
午後7時30分から、木屋町のUrBANGUILDで、広田ゆうみ+二口大学の「眠っちゃいけない子守歌」を観る。別役実が書いた二人芝居の上演。演出は広田ゆうみ。広田ゆうみと二口大学は、演出家で演劇専修のある大阪大学大学院やロシアで演劇を学んだ埼玉県出身の山口浩章(俳優としては今も山口吉右衛門の芸名を使うことがある。戯曲は1本だけ書いており、その上演を私は観ている)を加えた三人で、このしたやみという演劇ユニットを組んでいるが、別役実作品を上演するときだけは、広田ゆうみが演出に回る。「別役だけは譲らない」そうだ。広田ゆうみは若い頃から別役作品の上演をライフワークとしている人で、戯曲や童話などの上演や朗読の許可を別役にたびたび求めていたが、余りにも数が多いので、別役も根負けしたわけではないだろうが、「あなたはもういいから」と返事があったそうで、別役実作品を自由に上演出来る唯一の演劇人となっている。
客席には、別役作品の英訳を行っている白人の観客(英語なのでイギリス人かアメリカ人だと思われるが)や、京都の小演劇界で活躍する女優など色々な人が詰めかけている。広田さん、二口さんの個人的な友人(演劇人ではない人)なども多い。
「眠っちゃいけない子守歌」。タイトルはダブルミーニングになっている。
福祉施設の会で働く――というより薄給のボランティアに近いのかも知れないが――とにかくその女性が、アパートの家を訪ねる。エレベーターを出て左に曲がり、13番目の部屋をノックするようにとの指令(?)である。
だが、部屋には誰もいない。女性は指令を独り言で確認する(同内容のセリフはその後にも出てきて、そちらで内容は完全に分かるため、演出家によっては冒頭の独り言はカットしてしまうかも知れないが、広田ゆうみは別役信奉者なので別役が書いたセリフは全て語る)。紺のワンピースの衣装にバスケットを下げている。この時にははっきりとは分からなかったが、女がエプロンを羽織ったことでそれがメイド服だということが分かる。メイド喫茶の店員が着ている華美だが実用的ではないものではなく、仕事がしやすいちゃんとしたメイド服だ。きちんとしたメイド服を着た女優が演じる舞台や映画やテレビドラマは余りなく(かとうれいこが着ていた記憶があるがかなり昔のものだ)、韓国の連続ドラマ「火の鳥」で、今年が20回忌に当たるイ・ウンジュ(1981-2005)が演じていた役を思い出す。イ・ウンジュのメイド服も魅力的だが、広田さんのメイド服もきちんとした女性だけが生み出すことの出来る魅力を湛えていた。
部屋の主であるが、年老いた男である。自分の名前も覚えていなかったりするが(あだ名は「よっちゃん」であることを昨日思い出す)、語っている内容はかなり論理的で、いわゆる認知症等にかかっている訳ではないようだ。
紅茶に入れる砂糖の数選択の曖昧さや、逆にクッキーとビスケットの違いを知りたがる細かさに、女は別れた夫と目の前の男との共通点を見出したりする(クッキーとビスケットは基本的に同じもの。アメリカ英語ではクッキー、イギリス英語ではビスケットである)。
男は、「トシコ」という女性の名前を口にするが、それが誰なのか覚えていないようである。メイドをしている女がトシコなのかと男は聞くが、女は当然ながら否定する。
ちなみに何の脈略もなく、「発言すると嫌がらせをする人がいる」と語るが、突然、照明の明度が落ちたりする。嫌がらせをするのは「世界」である。確かに、「世界」から嫌がらせを受けやすい人はいる。俳優だとか、作家だとか、演出家だとか、哲学者だとかね。今この空間にも結構いそうだけれど。
男の部屋にはラジカセがあるが、テープには風の音が録音されている。男はそれを聴くそうだ(武満徹や晩年の坂本龍一など、風を音楽として聴く人は実在する)。更には雪の音を録音したテープもある。これらが男の「眠っちゃいけない子守歌」だと思われる。
男の部屋には、積み木のようなおもちゃのようなものがある。それを出して並べる。家屋、街路樹、しかし何かが足りない。女がそれを発見する。別役作品の代名詞、電信柱である。
雪の音が鳴り、男は人が「トシコ」と呼ぶ声を聞いたと話す。トシコは男の母親で、それまで住んでいた土地を何らかの理由で離れることになり、町を出て行くトシコを呼び止める声を耳にしていた。ちなみに積み木を使う心理療法があり、男が受けていた可能性もあるが、あってもなくても主筋に変更はないので、深掘りしなくても良いだろう。
男は、トシコが、「子守歌を聞いても眠ってはいけない」とタイトルの「眠っちゃいけない子守歌」に繋がる言葉を話したことを覚えている。これは「雪なので寝ると凍死する」という意味だろう。しかし、「嫌がらせを受ける」立場になった男にとっては、「眠っちゃいけない子守歌」は、「世界」に対して「隙を見せてはいけない」「ぼんやりしていてはいけない」「ちゃんと見ていなくてはいけない」と常に集中力を切らすべきではないというメッセージに聞こえる。最終的には男は眠るように死んでしまうのだが。
言葉の重層性が生きた別役作品だった。
| 固定リンク | 0
« コンサートの記(929) パスカル・ロフェ指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団京都特別演奏会2025 | トップページ | コンサートの記(930) mama!milk “Musica Moschata(ムジカ・モスカータ)” »





































































コメント