これまでに観た映画より(427) National Theatre Live「ウォレン夫人の職業」
2026年2月9日 大阪の扇町キネマにて
扇町キネマで、英National Theatre Live(NTLive)「ウォレン夫人の職業」を観る。奇才バーナード・ショー(代表作「ピグマリオン」=ミュージカル映画版タイトル「マイ・フェア・レディ」)の戯曲を、ロイヤル・コート劇場の芸術監督を務めたドミニク・クックが演出。出演は、イメルダ・ストウントン、ベッシー・カーター、ケヴィン・ドイル、ロバート・グレニスターほか。
英国のみならず、ブリュッセルやウィーンにも家を持つ金持ちのウォレン夫人の職業であるが、バーナード・ショーの世代とその時代のオペラがどのような女性を描くことが多かったかを考えると、タイトルでおおよその見当はつき、実際、当たっている。
母娘の話であり、当時の女性が置かれた立場をも明らかにする芝居である。
ウエストエンドの劇場での上演。上から見ると円形の舞台でやり取りが行われる。かなりの確率で笑いが起こるが、日本人としてはちょっと笑うのをはばかられるものが多い。やはりお国柄か、ブラックユーモアには笑いの反射神経が良さそうである。
ヴィヴィ・ウォレンは、幼い頃から寮などに住み、大学でも学んでいる(卒業したのか休学中なのかは不明)。「大学に戻る」という言葉が、「復学する」にも「大学院に進む」にも取れる。ただ知的水準は、牧師の息子であるフランクによると「ケンブリッジ大学卒業クラス」だそうだ。
母親のキティ・ウォレン(ウォレン夫人)は娘の面倒を余り見てこなかった。ずっとヨーロッパ大陸にいたが、久しぶりにイギリスに帰ってくる。
ちなみにヴィヴィは、自分の父親が誰なのかを知らない。
世間知らずと思われがちなヴィヴィであるが、短期間ながらロンドンに出て、事務仕事(数学が得意なので経理なども受け持ったのだろうか)をしたことがある。一方、ロンドンの芸術好きの友達に誘われて、ロンドンの美術館やオペラなどを観たが、彼女には芸術嗜好は全くなく、退屈でしかなくて今も芸術嫌いである。
キティ・ウォレンは、子ども4人のシングルマザーの子として育った。上二人は父親が違い、キティと姉のリズは純粋な姉妹だ。しかし、ある日、リズが姿を消す。橋から身投げして命を絶ったのだ、などと言われたが、ある日、リズが上品な上着に身を包んで帰ってくる。彼女は売春婦となったのだ。キティが1日14時間、バーでウエイトレスとして働いても薄給なのに対し、売春を行えば好きなものが好きなだけ手に入る。リズがブリュッセルに開いた高級娼婦の店でキティは働くことになり、ヴィヴィに十分な学費と生活費を送ることが出来たのだった。おそらくキティにとっては、女に必要なのは女であることで、聡明さなどは大して意味がない。娘を大学に進ませることが出来たのも金があったからだ。
この時代、女性が身を立てることの出来る職業は限られており、女性一人が一人だけの稼ぎで生きていくのは至難の業だった。国は違えど同じヨーロッパの国々で同じような問題が発生していたことは、オペラによく描かれている。
売春宿の話が出てくる時には、娼婦姿の女優達が背後に、ステージを取り囲むように立ち、その後、娼婦役のキャスト達は小道具を片付けたりする。
狩猟などをして遊び暮らし、収入が全くないフランクが、ヴィヴィの金を目当てに近づくも、二人は(おそらく異母)姉弟であることが分かるなど、バーナード・ショーらしい皮肉も効いている。
母親の言うことも分かるのだが、薄給でも職業婦人として歩き出したヴィヴィが頼もしくもある。
今回はパンフレットの取り扱いはなく、詳しいことは分からない。
イギリスの俳優は、表情と手の動きが日本人俳優より豊かだ。新劇の欧米作品上演などは白人の動きを真似て演技をするわけで、不自然ではあるのだが、一度、日本人の動きのままで欧米の作品に取り組んだ団体を観たことがあり、とてもじゃないが見ていられなかった。ということで新劇的な演技にならざるを得ないように思う。白人にはなれないが白人のフリをするしかない。
演出面であるが、不穏な音がずっと響いているのは逆効果。そんな説明はなくても分かる。
他にも欧米と日本の違いは色々あるが、英国の俳優の方が舞台に馴染んでいるように思う。そして自身に与えられた役を楽しんでいる。英国には王立の演劇学校や私立の音楽演劇学校があってそれによる違いもあるだろうが、技術よりも「いかに芝居が好きか」の違いは大きいように思う。昔の日本は新劇の劇団上がりなども多かったが、今は容姿が良かったのでスカウトして演技はそれからというケースも多い。「好きこそものの上手なれ」で、演技が好きな人の方が演技力が伸びやすいのは当然である。そうして培った演技をこちらも楽しんでみたくなるのだ。
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