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2026年4月 4日 (土)

これまでに観た映画より(433) 村上春樹原作・市川準監督作品「トニー滝谷」4Kリマスター版

2026年3月28日 烏丸御池のアップリンク京都にて

アップリンク京都で、村上春樹原作・市川準監督作品「トニー滝谷」4Kリマスター版を観る。音楽は坂本龍一。今日(3月28日)は坂本龍一の命日で、イオンモールKYOTOのT・ジョイ京都では、坂本龍一のフィルムコンサートも行われている(WOWOWの制作で放送された際の映像は録画して持っている)。残念ながら時間的にはしごは出来ない。

原作:村上春樹。脚本・監督:市川準。出演に:イッセー尾形、宮沢りえ、篠原孝文、四方堂亘、小山田サユリ、猫田直、木野花(特別出演)ほか。ナレーション:西島秀俊。音楽:坂本龍一。西島秀俊の敢えて感情を込めない語りが、トニー滝谷の心境を却って明らかにする。

「トニー滝谷」は、短編集『レキシントンの幽霊』に収められた短編小説が原作である。トニー滝谷という人物は、実は『ねじまき鳥クロニクル』の中の笠原メイのセリフにも登場している。こちらの方が短編小説「トニー滝谷」よりも先だと思われる。

「僕はとにかく『トニー滝谷』という小説が書きたかったんだ」ということで書かれた小説。トニー滝谷(イッセー尾形)は本名で日本人である。ジャズトロンボーン奏者、滝谷省三郎(イッセー尾形二役)の息子として生まれ、幼い頃から絵画を得意とした。父親は戦時中、魔都上海のおそらく租界で気楽に過ごした。日本本国の惨状は彼の知るところではなかった。しかし日本は戦いに敗れ、滝谷省三郎は抑留される。そのまま処刑されてもおかしくなかったが、罪に問われることはなく、日本に帰ることが出来た。そしてすぐに結婚。おそらく親族が決めた結婚だったのだろう。そしてトニー滝谷が生まれた。アメリカの将校から、「これからはアメリカの時代だからアメリカの名前を付けてやる」ということでトニー滝谷という名前になったのだ。トニー滝谷が生まれてすぐに母親は死んだ。
幼年時代、絵画教室でトニー滝谷はおそろしく緻密な絵を描いて、絵の先生(四方堂亘)を困らせた。上手いことは上手いのだが、情感が感じられないのだ。
そのまま美術を極めるために美大に進んだトニー滝谷だが、同級生からは、「物語性」「思想性」などが欠けていると言われる。だがトニー滝谷にとってはそんなものは幼稚で不正確なものでしかなかった。

トニー滝谷は絵画ではなくデザインの世界に進む。メカニックなものを描くのは彼の得意とするところだった。仕事は楽しく、金は貯まった。
ある日、トニーはデザイン誌の編集者である英子(宮沢りえ)と自宅で打ち合わせをする。英子に惹かれるトニーだったが、15歳も年齢の開き(つまりかなりの歳月がはしょられていたことになる)があることから素直に気持ちを伝えることが出来ず……。

 

晩年の市川準は、自身の作風を捨て、カメラが左から右へと移行する(人物は逆に右から左へと移る)、絵巻物的な絵作りを行っている。

市川準監督は小説について「乾いた」という表現を使っているが、実際には「トニー滝谷」は村上春樹の作品の中では、『ノルウェイの森』に代表されるウエットな路線の話である。

頼りにならない父親、もうすでにいない母親、自分の絵を認めてくれない周囲。孤立の中で孤独感を深めていくトニー滝谷。小説でもそうだが、映画でも仕事の関係者はいるが親しい友人はいないようである。

一部を除いて、ほぼ全編に流れる坂本龍一のピアノ曲「Solitude」。諦めながら沈みつつ、それでもなお美しいものを追い求めるようなこの曲は坂本の作品の中でも異色である。物語が進むごとに孤独が深まっていく。

純粋に一人を楽しんで生きれば、トニー滝谷は真に孤独ではなかったのかも知れない。
だが英子と「出会ってしまった」。出会ってしまったことが彼を幸福にもし、別個の孤独へと押し込んだ。

だが、これが本来なのかも知れない。孤独を知ることなく人生を味わうことは出来ないのかも知れない。華やかな人生など花火のようなものだ。

この作品は、DVDで観ており、坂本龍一のサウンドトラックも買っている。スクリーンで観るのは初めてで、当然、スクリーンで観た方が良い、と思ったのだが、一人の部屋でモニターを見つめていた方が、この作品の真の味が分かりそうだ。孤独と孤独がよりそうことの。

これまでに観た映画より(230) 村上春樹原作 市川準監督作品「トニー滝谷」

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