観劇感想精選(516) KOKAMI@network vol.22 「トランス TRANS」
2026年5月17日 大阪・西梅田のサンケイホールブリーゼにて観劇
午後1時から、西梅田のサンケイホールブリーゼで、KOKAMI@network vol.22「トランス TRANS」を観る。鴻上尚史の代表作の上演。鴻上本人による戯曲改訂&演出版である。
三人芝居ということもあり、日本全国で上演が行われており、私自身は3度目の観賞である。最初は、ル テアトル銀座(現存せず)での上演で、ともさかりえ、河原雅彦、山崎銀之丞の出演で、演出は木野花。ともさかりえと河原雅彦が、この共演で仲良くなり、結婚するも後に離婚へと至っている。2000年8月の上演で、「鴨東記」も「猫町通り通信」も始まっていない。そもそも千葉市在住である。ということで感想は残っておらず、記憶としても曖昧である。この戯曲は、鴻上尚史が冒頭に、「俳優を必ず客席から登場させるように」と記している。理由は実は知らされることはないのだが、演劇をやるぐらいの人なら察しが付く。ル テアトル銀座での上演では、三人が客席通路の階段をかなりゆっくりと降りてきた。
二度目は鴻上の規則を破ってしまった上演である。京都大学の演劇サークルによる京都大学吉田寮食堂(通称:りょうしょく)での上演だったが、登場人物は、舞台下手から並んで入ってきてしまった。これでは「トランス」は完結しない。
作者が指定したことが守られず、反論出来るだけの要素がないなら舞台に乗せるべきではない。作者が気まぐれで書くはずがないのだ。そして、「トランス」において客席から出てこないのであれば、いかに演技が達者であったとしても、それは「トランス」という作品ではない。上演する資格がないと断言する。
今回の出演者は、風間俊介、岡本玲、伊礼彼方。
ステージの中央には白衣が掛けてあり、客席通路を歩いて舞台に上がった3人は、誰が白衣を取るかで牽制し合うが、岡本玲が白衣を着て、精神科医・紅谷礼子となる。風間俊介は、記事に名前が出ない売れないフリーライターの立原雅人となり、伊礼彼方は、ゲイバーのシュワ子こと後藤参三になる。「なる」と書いたのには実は意味がある。
3人は高校の同級生で、よく屋上でだべっていた。
卒業後、礼子と立原は学部は違うが同じ大学に入るが、礼子は生きる意欲を失い、新宗教にのめり込み、それが無意味と分かったとき、「自殺しようと思うならまだ力が残っている」ということで、大学再受験を行い、医学部に入って精神科の医師になったのだ。
立原は、自分は南朝正統の立原天皇だと言い始める。熊沢天皇事件がモデルである。
まず前段階として、明治天皇が自らが属する北朝ではなく、「南朝こそ正統な皇統」だと断言したという事実がある。
熊沢天皇事件が起こる直前にも裏工作があったようだが、1946年に名古屋市に住む熊沢寛道という人物が、「自分こそが後亀山天皇の血を引く南朝の正統たる天皇」だと名乗りを上げ、北朝系である裕仁天皇(昭和天皇)に退位を求めている。
その後も、熊沢天皇は天皇としての活動(京都首都宣言など)を続けた。便乗して、「自分こそが天皇」と名乗りを上げた人もいたようだ。
立原雅人も「南朝」で、苗字である立原を名とする天皇と称する。シュワ子については、「シュウ・ワコ」という中国から来た宦官だと立原天皇は勘違いする。ゲイが宦官に飛躍したようだ。
立原天皇は、即位を望むが、世話係となったシュウ・ワコが、立原天皇が病室を出て行くのを何度も阻止する。
この、立原雅人=立原天皇、紅谷礼子、シュウ・ワコのやり取りが一番長い。しかし立原雅人は立原天皇ではないし、紅谷礼子は白衣を着る際に戸惑ったことから分かる通り、医師ではない。ではなんなのかということになるが、精神科の入院患者の可能性が高い。というよりほぼ確定である。参三も閉鎖病棟にいたのを医師である立原が連れてきたという。ただ、立原が医師である可能性はかなり低く、やはり病院に来るまでは売れないライターだったのだろう。
それぞれがそれぞれの役を演じることは演劇そのものにも繋がる。
また、役者が客席から出てくるのは、舞台と客席とが隔てられているわけではなく、自分達は普通の人々、もしくは客席にいる人々の代表としてステージに上がったという意味になる。誰もが少しは(かなりの人もいるかも知れないが)病んでおり、誰もが少しは日常で演じている。
というわけで、これは精神障害者を面白おかしく描いたものではなく、民衆を讃美する演劇である。
立原天皇が、尾籠な話をしようとして、邪魔が入るのはいつものことである(何を言うのか察しは付く)。時代が進んだということで、どこでもすぐに映像が見られるなど、現代社会に合わせた改変がある。
また、明治天皇、大正天皇、昭和天皇に掛けた駄洒落が新たに入っている(「目いじってんのう?」「鯛背負ってんのう?」「SHOW終わってんのう?」)。ただの駄洒落である。
KOKAMI@networkへの出演も多い風間俊介。「金八先生」での悪役で注目を浴びたが、今は清潔感のあるビジュアルを武器にしている。
高校時代に高学力女優として知られた岡本玲。大きな役はなかなか得られないが、朝ドラ「虎に翼」では、弁護士時代の寅子(伊藤沙莉)を出し抜く悪女役で話題になった。和歌山市出身なので親族が観に来ているかも知れない。今日は出だしは声がガラガラだったが、応急処置をしたようで、その後は澄んだ声になった。
伊礼彼方はミュージカルで見ることが多いが、ストレートプレーでも安定感のある演技を見せていた。
鴻上尚史は、来阪しており、開演前には1階ホワイエでパンフレットを手売りし(握手はOKだが、サインはNG。ただ少し離れたところで売られている鴻上の著書を買った人にはサインを入れていた)、更には2階席にも現れてパンフレットを売っていた。今日は私は2階席の一番後ろだったが、鴻上は、「すみませんねえ。追加公演をやることになったので2階席になっちゃって」と語っていたため、本来は私も含め1階席だったのだが、2階席に変わったため、ファンサービスに訪れたのだろう。私は2階テラスから、1階にいる鴻上を観察していたが、他の2階席のお客さんは1階には注目せずに来たので、鴻上が会場にいるのも知らず、びっくり仰天であった。
鴻上が帰るときに拍手が起こったが、鴻上は、「駄目駄目。下の階(1階席)の人、何が起こったかと思われる」
| 固定リンク | 2
« コンサートの記(958) 「びわ湖の春 音楽祭」2026 楽日 モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」ハイライトほか | トップページ | 観劇感想精選(517) 広田ゆうみ+二口大学 別役実 「湯たんぽを持った脱獄囚ーー求むな、されど与えられんーー」 »





































































コメント