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2026年6月の8件の記事

2026年6月17日 (水)

これまでに観た映画より(436) 「国宝」

2026年6月12日

Amazon Prime Videoで、日本映画「国宝」を観る。昨年の6月に公開され、1年経った今も日本全国の映画館で上映され続けているという大ヒット作。興行収入は邦画史上ナンバーワンを記録している。

原作:吉田修一、監督:李相日。脚本:奥寺佐渡子。歌舞伎の世界を描いた作品であり、上方歌舞伎の家ということで京都や大阪でもロケが行われている。上方歌舞伎は1980年代に崩壊。多くの家が東京に移り、上方に残った歌舞伎俳優は僅かである。ただ東京在住であるが片岡仁左衛門は京都の人から「京都の歌舞伎俳優」と見なされており、中村鴈治郎は元々上方の家で、今は東京が本拠地だが、上方にも拠点を置くということで、「成駒家」という新たな屋号を生み出している。実際、鴈治郎や息子の壱太郎(かずたろう)が京都や大阪で公演やイベントを行う機会は多い。
上映時間が3時間を超える作品であり、体力的な心配から映画館には観に行かなかった。行けなかったというべきか。

出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、森七菜、寺島しのぶ、田中泯、見上愛、嶋田久作、瀧内公美、宮澤エマ、三浦貴大、永瀬正敏、中村鴈治郎、渡辺謙ほか。歌舞伎指導:中村鴈治郎。音楽:原摩利彦(京都市在住)。

1964年の長崎で物語は始まる。長崎の料亭(花月がモデル)で行われている、任侠・立花組の新年会。歌舞伎俳優の花井半二郎(渡辺謙)は、新年会に参加している。興行は元々はヤクザの仕事であり、たまたま長崎に来たからなのか、長崎公演を行うためには顔を出す必要があるためか、それは分からないが半二郎は立花組組長の立花権五郎(永瀬正敏)のご機嫌を取る。
余興があり、「関の扉」を演じた子どもに半二郎は魅せられる。芸子と思っていた平二郎だが、実際は立花の息子の喜久雄と知り、半次郎は喜久雄に優れた才能と資質を感じた。
突如、刃傷沙汰が起こる。立花組と敵対する組が襲撃してきたのだ。権五郎は中庭で命を落とす。長崎としては珍しい雪の日であり、これがラストの「鷺娘」に繋がる。背中に刺青を入れた喜久雄だが、才能を高く買う半次郎に呼ばれ、大阪へ。半二郎の息子である大垣俊介と共に歌舞伎の稽古に打ち込むことになる。半二郎の稽古は厳しかったが、東一郎の名を貰った喜久雄は稽古が性に合っており、稽古が終わっても「今すぐ稽古をしたい気分」と完全にのめり込む。半二郎は二人の姿を見て、「二人で女形をやらせてみたらどうだろう」と考える。花井半二郎家(屋号は「丹波屋」)は半二郎を含め、女形を得意とする家だった。
歌舞伎というのはドロドロした世界で、まず家系がものを言う。名優と呼ばれた歌舞伎俳優の息子なら、多少下手でも良い位置までは行けたりする。だが、父親や祖父が亡くなったりすると後ろ盾なしで出世が望めなくなったりもする。
名優の息子だった歌舞伎俳優が幼かった頃、よく会う歌舞伎俳優は、「坊ちゃん、坊ちゃん」と優しげだったが、父親が亡くなった途端、「おい! 小僧!」と罵られた、というのは実際にあった話である。
具体的な例を挙げると、「平成の三之助」の一人であった、尾上松之助改め尾上松緑は、早くに父親と祖父を亡くした。そこで七代目尾上菊五郎の弟子となるが、南座の顔見世でだんまりで立っているだけなど、扱いは良くなかった。三代目市川猿之助は、父と祖父をほぼ同時に亡くし、「劇界の孤児」と言われている。
喜久雄は、大物歌舞伎俳優である小野川万菊(田中泯)に顔を褒められるが、それが足を引っ張るのではと忠告される。
さて、W女形として売り出された東一郎(この頃から吉沢亮が演じる)と俊介(花井半弥。横浜流星が演じる)。評判になる。
ちなみに劇場であるが、京都四條南座(劇中では京座)、先斗町歌舞練場(劇中では浪花座)、上七軒歌舞練場などの京都の劇場のほか、撮影協力には国立劇場の名もある。東京・築地の歌舞伎座も上のビルをCGで消した形で登場するが、ここで撮影が行われたのかは分からない。ちなみに歌舞伎座(劇中では別の名前)で二人が公演を行っているときに、黒子として渡辺哲が参加しているのが確認出来る。

渡辺謙演じる花井半二郎に気に入られた東一郎。半二郎は糖尿病で目が見えにくくなっているので、演じられなくなる前に花井白虎を襲名。三代目花井半二郎に東一郎を抜擢する。実子の半弥を差し置いての出世だった。
しかし、花井白虎となった二代目花井半二郎は、劇場で口上を述べている時に吐血。息子の名を呼びながら倒れ、そのまま帰らぬ人となる。やはり実子の方が可愛かった。
その後は、半弥は2年ほど歌舞伎を離れ、半二郎となった喜久雄はセリフのある役が貰えなくなり、大勢で一つのセリフを唱えるか、だんまりもしくはいるだけの役をこなす日々が続く。更に大物歌舞伎俳優の娘である彰子(森七菜)と結婚して後ろ盾を得ようとするが、認められず、彰子が親子の縁を切ったことから、歌舞伎の劇場にも出演出来なくなる。
平二郎と彰子は、舞台のある食堂やホテルで独演の舞の公演を行うが、地方なのでろくに観て貰えず、更には女形を知らない人々から芸者と間違われて絡まれたりと、苦渋の日々を送る。
一方、半弥は「丹波屋再興」に取材する番組に出演。妻の春江(高畑充希)や子どもたちと共に意気込みを語る。血縁者はやはり強かった。ちなみに春江は平二郎が最初にプロポーズした女性だが、「結婚じゃなくて稼いで貢ぐ」というようなことを言われ、結婚出来なかった相手である。幼馴染みで、背中に彫り物があることからやはりそっち系の女性らしい。元はホステスだった。
平二郎には、他にも馴染みの相手がいた、芸妓の藤駒(見上愛)で、女の子を一人設けたが、その後、藤駒は出てこなくなり、捨てられたことが暗示されていた。平二郎と藤駒の娘・綾乃(瀧内公美)は、総白髪となった半二郎の前に現れる。平二郎が異例の早さで人間国宝に指定されることが決まった直後である。ここでの瀧内公美のセリフは説明的だが重要である。

「二人藤娘」や「二人道成寺」などを再び二人で演じるようになった平弥と平二郎。平二郎のドサ回り生活も終わった。だが、半弥が榎本健一も罹ったことで知られる脱疽に冒され、左足の膝から下を切断、右足もその後切断となる。原因は糖尿病であった。
二人は、以前に演じた「曽根崎心中(お初徳兵衛)」を演じることに決める。実は「曽根崎心中」は文楽では大ヒット作だが、歌舞伎では人気がなく、成駒家しか上演していない。平成時代には通算で5回しか演じられなかった。令和に入ってからは後述する。
しかしお初の足を徳兵衛が撫でる有名なシーンは愛そのものだ。二人とも異性愛者で、妻も子どももいる。同性に性的な感情は持たない。だが、虚構の場で演じる虚構の愛は、現実の愛以上に深く感じられる。誰より一緒にいた二人だ。その瞬間に人生の味を、生きる意味を悟ったことだろう。

実は、今年の3月に南座で、「曽根崎心中物語」が上演され(令和初演となる。中村鴈治郎監修)、中村壱太郎が「『国宝』のおかげ」と言っていた。文楽に比べると完成度が下がってしまうようだが、面白いことは面白かった。

花井半弥は糖尿病が原因で死去。息子が花井白虎を名乗った。

「国宝」というのは、勿論、人間国宝を指すが、平二郎が味わった人生にも国宝的価値はあるのかも知れない。

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2026年6月14日 (日)

観劇感想精選(520) 市川染五郎主演「ハムレット」

2026年6月10日 JR大阪駅西口のSkyシアターMBSにて観劇

午後5時から、JR大阪駅西口のSkyシアターMBSで、(八代目)市川染五郎タイトルロールの「ハムレット」を観る。ぴあ貸切公演。折しも、今日6月10日は叔母である松たか子の誕生日である。49歳、来年はいよいよ大台だ。

「ハムレット」は大作であるが、シェイクスピア作品の中でも飛び抜けて有名なためか、公演も接する機会も多い。「ロミオとジュリエット」も有名だが、ロミオがあれなためか、公演はかなり少ない。

作:ウィリアム・シェイクスピア、テキスト日本語訳:松岡和子、演出:デヴィッド・ルヴォー。音楽:江草啓太。映像:松澤延拓。
出演は、市川染五郎の他に、當真あみ(とうま・あみ。オフィーリア)、石川凌雅(りょうが。レアティーズ)、横山賀三(かざん。ホレイショー)、梶原善(かじはら・ぜん。ポローニアス)、柚香光(ゆずか・れい。ガートルード)、石黒賢(クローディアス)ほか。
深い思念と耽美主義的傾向を特徴とするデヴィッド・ルヴォー。外国出身だが日本で活躍する演出家だ。

市川染五郎の父親である七代目市川染五郎(現・十代目松本幸四郎)は、日本におけるハムレット最年少主演記録を持っていたりする。親や親族に有名人が数多く、この家系は学業に秀でている人が多い(ただ仕事と学業の両立が大変なので大学を中退した人も多い)が、市川染五郎も初等部から青山学院に入ったものの、家系としては珍しく勉強嫌いを公言しており、青山学院高等部を中退している。市川團子君が青学の同学年で、「一緒に大学に行けるものだと思っていたのに」と、染五郎の中退について残念な思いを語っていた。ただ歌舞伎界で大きいのは学歴では全くなく、後ろ盾となる親族の存在である。高麗屋は父親も祖父も健在(大叔父は亡くなったが)。叔母もいざとなれば後ろ盾になってくれそうである。

オフィーリアを演じる當真あみは、今後が期待される女優。沖縄県出身。私は、日曜ドラマ「さよならマエストロ」(西島秀俊主演)の音楽に打ち込もうとする少女役で知ったが(変わった苗字なのですぐに覚えられた)、他にも多くの作品に出演している。今回が初舞台。市川染五郎も歌舞伎以外の舞台作品に出るのは初めてで、歌舞伎以外の演目で主役を張るのも初めてである。
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、アサシンの善児を演じて話題になった梶原善。見るのは、昨年の東京サンシャインボーイズ復活公演以来となるが、小劇場演劇的な癖はどうしても出てしまう。今回は演技スタイルを統一しようとはせず、染五郎は歌舞伎的な発声をすることもあるし、柚香光は完全に宝塚の演技スタイルである。

ハムレットを演じる市川染五郎は21歳、オフィーリアを演じる當真あみは19歳。共にストレートプレー初舞台と、フレッシュなハムレットである。

開場時のみ客席内撮影可だが、スクリーンに灰色の波がうねっているだけの映像で、記念に撮るだけで公開はしないと思う。

先王ハムレットは登場せず、スクリーンに映った抽象的な人型と声のみで表される。声は誰だったのだろう? 染五郎の祖父である二代目松本白鸚に似ている気もしたが、体調が戻らないという情報も得ているので違うだろう。声の専門家=声優かも知れない。

舞台の上手端と下手端の2階がバンドスペースとなっており、打楽器を主体とした演奏が行われた。また柚香光は登場時に上手に置かれたグランドピアノを弾く。実際に弾いているのかは分からないが、技巧的には平易な曲である。また當真あみが鍵盤の上に立って足でピアノを弾く場面もあるが、おそらくデヴィッド・ルヴォーは「柔道一直線」は見たことがないのだろう。

SkyシアターMBSは音の通りが良いが、染五郎のセリフも明瞭で、聴き取りやすかった。ただ、「ハムレット」はセリフが長めの人が多いので、セリフだけが肥大化してしまうという罠がある。今日も危うい人がいた。

當真あみは、とても澄んだ声で、普通のセリフでもあたかも韻を踏んでいるように発声したり、実際はそんなことはないのだが七五調や五七調に聞こえたりと、独自の表現力を持つ。映像はそれほど観ていないが、舞台女優としてはかなりの逸材である。こうしたイノセントなオフィーリアが手に入らないのなら、ガートルードのようになるのを避けるために、「尼寺へ行け!」となるのは説得力がある。
なお、今回はオフィーリアは埋葬されても霊は墓を抜け出し、彷徨うことを選んだようである。事故死なので墓に眠ることは出来ないのかも知れない。ちなみにオフィーリアの死はギリシャ悲劇以来の伝統で見えない場所で起こり、全てはガートルードが語る。ガートルードもその場にいたわけではなく伝聞によると思われるが、嘘をついた可能性は否定出来ない。確かめようがないのである。凄惨なことは舞台裏で起こるのが慣例であるが、剣での闘いは舞台上で行われ、密かに毒が用いられたということもあり、死者も出る。主要キャストでオフィーリアの死だけが伝統に則っていることに注目する演劇学者もいるかも知れない。

余談だが、Q1といわれる稿では、クローディアスとレアティーズ謀議の場がなく、飲み物に毒が入っているという情報は観客には与えられない。そのため、なぜ飲み物の杯を取ったガートルードを見てクローディアスがうろたえるのか、観客は全く分からない。今回は最も使われている稿での上演であったが、クローディアスを演じる石黒賢はガートルードを優しくたしなめるように語りかける。大きい声や鋭い声を発すると毒が入っていると全員に伝わってしまうからということもあるだろう。そうなると剣先に毒が塗ってあるのもばれる。

先王ハムレットが、「妻に手を出してはならない。殺してはならない」と命じ、ハムレットは、「(クローディアスとガートルードは)一心同体」と言っているため、ガートルードが先に何らかの形で死なないとクローディアスを殺せなくなるという呪縛が生まれる。
ただ、ハムレットは「一心同体」のセリフより前に、クローディアスと間違えてポローニアスを殺している。ここだけが整合性が取れない。クローディアスが一人で祈っているときに刺し殺そうとするも、「今殺しても(クローディアスは)天国行きだ」と無理矢理理屈をつけて、そのまま下がってしまっている。潜んでいる時ならいいのかも知れないが、作品として見れば、あそこでクローディアスが死んでしまったらドラマにならないのは間違いない。ポローニアスを殺したことで息子のレアティーズがフランスから帰ってハムレットに復讐しようとし、オフィーリアは気が触れてしまうのだから、重要な場面である。ハムレットは佯狂といって狂った振りだが、オフィーリアは本当におかしくなってしまう。當真あみは、オフィーリアの歌をうたうが透明且つ輪郭のクッキリとした声で、癒やしの効果に溢れていた。

「名優」といわれる俳優が演じるのとは異なった、清々しいハムレット。デンマーク王室全滅の悲劇であるが、暗い感じはしない。
ちなみに、フォーティンブラスを女優が演じるのが流行っているようで、今日もフォーティンブラス役は女性。そしてハムレットやホレイショーが望んだのとは違うラストとしてしまうようだ。
なお、ノルウェー軍は、「スター・ウォーズ」の登場人物のような格好をしている。オフィーリアの葬儀の場面でも人々はこうもり傘を差しており、現代ではないが、「ハムレット」の話の元ネタが起こった時代ではないようである。ホレイショーの筆による「遠い昔 はるかかなたの銀河系で」という叙事詩か書かれるのかも知れない。ノルウェーを主体にした解釈で、「ホレイショーは殺される」としていた人がいたが、そうなると今の今まで「ハムレット」の物語が伝わっていることに矛盾が生じてしまうので、解釈としては零点である。

 

市川染五郎は、東京の日生劇場での公演を終えて大阪での公演に入り、間もなく全体の折り返し地点に差し掛かることなどを話した。

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2026年6月12日 (金)

コンサートの記(963) ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団来日演奏会2026京都

2026年5月30日 京都コンサートホールにて

午後2時から、京都コンサートホールで、ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の来日演奏会を聴く。
フランス放送フィルハーモニー管弦楽団は、前回来日公演を聴いたときにはフランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団の名であり、この名でよく知られたオーケストラであるが、今回は国立の文字が抜けている。

フランス国立放送(ラジオ・フランス)がオーケストラを結成した際、第一オーケストラであるフランス国立放送管弦楽団(現・フランス国立管弦楽団)の他にいくつかのオーケストラが出来た。それらをまとめてフランス国立放送の第二オーケストラとしたのが、フランス放送新フィルハーモニー管弦楽団である。第二オーケストラということで、当初はライトクラシックなどを演奏していたようだが、次第にレパートリーを増やすようになる。1980年代に一大変革が起こる。フランス放送新フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者として赴任したマレク・ヤノフスキがオーケストラを鍛えて躍進。更にヤノフスキが音楽監督になると、フランス放送新フィルハーモニー管弦楽団は、パリ国立管弦楽団やフランス国立管弦楽団を抜いて、フランスナンバーワンオーケストラと見なされるまでになったのだ。パリ国立管弦楽団やフランス国立管弦楽団も慌てて、オーケストラビルダータイプの指揮者に打診している。
フランス放送フィルハーモニー管弦楽団と名を変えてからは、チョン・ミョンフンを音楽監督に招いて一時代を築き、その後はフィンランドの若手であるミッコ・フランクを招聘。そして次期の音楽監督がヤープ・ヴァン・ズヴェーデンである。

なお、2015年にフランスの会計監査院が、「ラジオ・フランスが2つのオーケストラを運営する意味はない」として、フランス国立管弦楽団との統合を行おうとしたが、放送フィルの団員はストライキを行うなど抵抗。ラジオ・フランスも会計監査院の提案を拒否して2つのオーケストラが保たれている。

前の方で席が分からない人がいたので、説明したが、「ここ何度も来てるけど、初めて京都の人に教えて貰った」。京都の人ではないのだけれど。京都の人ってそんなに教えてあげないの?

日本のブラームス好きなら、ほぼ全員その名を知っていると思われるヤープ・ヴァン・ズヴェーデン。アムステルダム生まれ、ジュリアード音楽院在学中に、最年少記録となる19歳でロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスターに就任。20年、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団で活躍した後で指揮者に転向。廉価盤レーベルに録れた「ブラームス交響曲全集」が世界的大ヒットとなり、名声を高める。
指揮を誰に師事したのかは分からないが(ジュリアード音楽院ではヴァイオリンのみ学んでいるようである)、カッチリした動きをしているため、我流ではなく誰かには師事していると思われる。
祖国オランダのオーケストラのシェフをいくつか務めた後で、2008年にアメリカのダラス交響楽団の音楽監督に就任。“KING”の名で呼ばれるなど、圧倒的な名声を博した。その後、香港フィルハーモニー管弦楽団とニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督に就任。いずれとも来日公演を行っており、関西の会場で聴いたが、香港フィルとはドイツ指向の個性溢れる音楽を、アメリカ最高のオーケストラとされるニューヨーク・フィルハーモニック(「シカゴ響の方が上手い」等異論は多いと思われるが)とは力強さと洗練を兼ね備えた音楽を披露した。現在はソウル市立交響楽団(ソウル・フィルハーモニー管弦楽団)の音楽監督と、台北の長栄交響楽団(エヴァーグリーン交響楽団)のアーティスト・イン・レジデンスを兼ね、そこにフランス放送フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督が加わる。経歴を見るとアジア好きで、日本のオーケストラにも呼んだら来てくれそうである。

開場した時から楽団員がステージ上でさらっており、その後、どんどん人が集まってきて、コンサートミストレスを待つだけになる。チェロが客席側に来る、アメリカ式の現代配置(ストコフスキー・シフト)での演奏である。コンサートミストレスとテューバ奏者の二人がアジア系で、共に女性である。有料パンフレットが1000円と安かったの買ってみたが、コンサートミストレスは朴さんということで韓国人である。テューバもよく分からず。ただ、私から見えない場所にアジア系の人は何人かいて、第1ヴァイオリンに「Aino AKIYAMA」、アニー・チェン、「Yoko ISHIKURA」、コントラバスのチャン・ウェイユー、などがアジア系の名前である。

 

曲目は、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(ピアノ独奏:藤田真央)、ドビュッシーの交響詩「海」、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」。ラフマニノフ以外はお国もので固めている。

ズヴェーデンは譜面台に総譜を置き、時折確認しながらの演奏。大方は暗譜しているように見える。

 

ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」。夢とうつつの間の、淡い感じがずっと続く演奏である。「牧神の午後への前奏曲」は人気曲なので生で聴く機会も多いが、これほど淡さが徹底された演奏は初めて聴く。

 

ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。1980年代まではラフマニノフのピアノ協奏曲といえば第2番の一人勝ちで、第3番は得意としているピアニストが弾く程度だったが、90年代に「シャイン」という映画が公開されてヒット。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番がフィーチャーされた作品だったため、挑むピアニストも増えた。もともと難曲として知られ、「余りの難しさに、ピアニストは弾き終えると同時に発狂する」と言われていた。「シャイン」は、デイヴィッド・ヘルフゴッドという実在のピアニストを主人公に、統合失調症を患い、キャリアを断念して再起を図る様を描いた物語である。ヘルフゴッドが得意とし、コンクールで弾くのがラフマニノフのピアノ協奏曲第3番だ。
日本で最も有名なオーストラリア人ピアニストは、「武満徹ピアノ作品全集」を録れているロジャー・ウッドワードだと思われるが、彼が優勝したオーストラリアのピアノコンクールで2位に入ったのがヘルフゴットである。
仄暗く洗練された伴奏でスタート。ラフマニノフは手を広げるとドから上のソまで届いたという末端肥大症であり、自身でピアノを演奏するために曲を書いている。当然、そのままでは他の演奏家は弾けないので、音を抜くかアルペジオにする必要がある。
藤田真央のピアノは今回は技巧重視で迫力ある音を重ねていく。独特の感性が特徴の藤田であるが、やはり技巧の難度が高いため、自分の色を出すまでには至らなかったようだ。その代わり技巧は冴えており、難関を次々と乗り越えて行く勇士のようである。

アンコール演奏は、ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番より第3楽章。雄々しい演奏。ただ藤田は好んで難曲を弾きたがるが、余り弾くと手の腱に影響が出ないか心配である。弾き方としては現在流行りのピアノの鍵盤の上に指を置くだけの奏法だと思われるが。一昔前は、「鍵盤を深く押し込む」のが正しいピアノ奏法とされてきたが、腱鞘炎に悩む人がかなりいたと思われる。なんといっても我々の時代は、「ピアニストといえば腱鞘炎」であった。

 

後半。ドビュッシーの交響詩「海」。「牧神の午後への前奏曲」同様、淡い響きによる演奏である。どうやって演奏を構築しているのかまるで分からないが、こうした演奏を聴くと、「ドビュッシーは印象派だなあ」という印象を受ける。実際にはドビュッシーは自身の作品を「印象派」と呼ばれることを嫌い、否定している。しかし次々に移ろう色や光の様を見ていると、どうしても印象派の画家との共通点が浮かんでしまう。
非常に繊細な響きを形作っているが、第1楽章のラストで、ズヴェーデンは音が自然に消えるのを待つのではなく、指揮棒の動きでキッチリ音を止めていた。
全ての楽章において弦も管も力強く、特にトランペットの輝かしさが目立った。

 

ラヴェルの「ラ・ヴァルス」。ラヴェル本人の生涯にも重なる曲である。
ドビュッシーと違い、旋律は明瞭。本来ならラヴェルを印象派に入れるべきではないのかも知れない。雲の上から舞踏会を見るという、極めて20世紀的な構図で始まる曲。やがて、ワルツが激しくなる。高踏的な文化の権化のような舞踏会だが、やがて演奏が崩れ始め、最後には全てがおじゃんになる。鹿鳴館外交が頭に浮かんだりする。

 

アンコール演奏1曲目は、エルガーの「エニグマ変奏曲」より“ニムロッド”。尾高と大フィルのノーブルさとは違った、爽やかな音楽が吹き抜けていく。

ズヴェーデンは、楽団員に指示してポディウムの方へも顔を向けさせた。

2曲目は、ドヴォルザークの「スラヴ舞曲」第8番。ズヴェーデンのタクト捌きが光る鮮烈な演奏であった。

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2026年6月 8日 (月)

「古畑任三郎」第2シリーズ第2話 笑わない女(VS沢口靖子)

2026年3月26日

FODで「古畑任三郎」第2シリーズ第2話“笑わない女”を観る。
ミッション系女子高校が舞台。ルーテル(ルターのこと)学院大学がロケ先になっているが、プロテスタントではなくフランス系カトリック=「ノートルダム」「暁星」「海星」「明星」などを校名に付けやすい宗派の学校という設定になっている。学校名はプライオリ女学院で、これはシャーロック・ホームズ・シリーズの「プライオリ学院」(『シャーロック・ホームズの帰還』収蔵)にちなんだものと思われる。
犯人のプライオリ女学院寮長、宇佐美ヨリエを演じるのは沢口靖子。感情表現豊かなセリフ術を比較的苦手とする女優だが、今回はお堅くて、感情表現にも表情にも乏しく、抑揚の少ない喋り方ということで、沢口靖子が嵌まる役が選ばれている。悪い面だけではなく、立っているだけで絵になるということも考慮されているだろう。
プライオリ女学院は、校則が厳しく、学内で「歌ってはならない」「化粧をしてはならない」などガチガチである。1番最初に来るのは「人を欺いてはならない」だ。
学院に新風を送り込みそうな教師、阿部哲也(相島一之)が赴任。ギターを弾きながらボブ・ディランの「風に吹かれて」を歌い、女生徒が周りを取り囲んでいる。
宇佐美は無表情なのでどう思っているのか正確には分からないが、「歌ってはならない」という戒律を破っていると認識しているのは確かである。
瞬く間に宇佐美による阿部殺害の場面になる。宇佐美は、ジェームズ・ジョイスの長編『ダブリン市民』を借りたいと阿部に申し出る。国語の授業で使いたいというのだが、『ダブリン市民』を高校生が理解出来るとは思わない。だが、それは阿部の姿勢を崩すための口実。阿部が本棚の下段を覗くために頭を下げたところをパイプで一閃。だが、阿部もそのままでは死なず、宇佐美のコートのボタンをちぎり取る。宇佐美は、阿部が本棚の上の方にある書籍を取ろうとして段に上り、足を滑らせて、運悪くダンベルに後頭部を打ち付けて死亡したように見えるべく細工する。
ちなみで、戒律では、「男女が同じ部屋いるときはドアを開けておかねばならない」ので、ドアは開けたままで血痕は廊下まで飛び散っていた。また、宇佐美は阿部に引きちぎられたボタンを奪い返そうとはしなかった。「動物に触れてはならない」という戒律があったためだ。ということは宇佐美は男性と手を握ったこともないということになる。いや女性ともないのかも知れない。

古畑任三郎(田村正和)が阿部の部屋に来た時、床に一冊の本が落ちていた。ドストエフスキーの『罪と罰』だというが、『罪と罰』がそんなに薄いわけがない。だが特に変更もされず6分の1ぐらいの分量の『罪と罰』が最上段に入るのか、という話になり、今泉(西村雅彦)に『罪と罰』とおぼしき本を入れさせようとするが、高さがあるので最上段には入らない。普通は高さのある本は厚みもあるので、文庫本などは上、単行本は下に入れることになる。当時、分厚い単行本しかなかった『ダブリン市民』は下段にあったはず。
『罪と罰』も下の方にあったはずなので、上段にあって本を取ろうとして足を滑らせた可能性はない。細工である。
寮生に聞くと、戒律を厳格に守るのは今では宇佐美先生だけだという。学長であっても全ては守らない。男女が同じ部屋にいる時も部屋を開けたままにするのは宇佐美だけで、阿部も一度は閉めようとして、宇佐美なのでドアを開けたのだった。

倒叙型なので犯人は最初から分かっている。殺害方法も実際に演じている。このケースで分かりにくいのは動機である。普通に考えると、学校を変えようとする阿部が憎かったというのが動機になりそうであるが、実際はそうではない。
戒律の一つに「化粧をしてはならない」があるが、宇佐美は戒律を破った生徒から口紅を没収。だがふとした気の迷いから口紅を塗り、拭き取ろうとしたところを阿部に見られてしまったのだった。普通の世界ならまず起きない殺人事件である。
「人を欺いてはならない」とあるので、宇佐美は、「最初に『人を殺しましたか?』と聞いていれば、私は『はい』と答えましたのに。最速逮捕記録、逃しましたね」と憎まれ口を叩く。自身もプライオリ女学院出身の宇佐美。阿部に見られたのが人生最初の化粧だったのかも知れない。口紅を塗りたくなったのは、「あなたが女性である証拠です」と古畑は述べるが、あるいは宇佐美にも変身願望があったのかも知れない。阿部に見られたので一度で終わってしまったかも知れないが。

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「新・科捜研の女3」Season8概要

「新・科捜研の女」Season8 File.1。洛北医科大学の解剖医、風丘早月(かざおか・さつき)が登場。若村麻由美が演じる。マリコとはシリーズ最終回までコンビを組むことになる。風丘も仕事は超優秀だが、プライベートでは抜けたところがあるということで、マリコと相似形をなしている。似たもの同士なので嫉妬は起こらず、ずっと相手を尊重出来るという人物造形なのだと思われる。これで日常生活も万全だったらマリコでも嫉妬しそうだ。風丘がマリコと違うのは子持ちということである。シングルマザーだ。

ホテルの一室で、女性が首を絞められて殺されているのが発見される。殺害された女、丸川温子(佐藤仁美)は、クレーマー客としてホテル業界では有名で、ブラックリストに入っていた。勿論、ホテル以外でもクレームを行っている。ホテルでは1日10件のクレームを入れることがあったようだ。

実はホテルは盗聴されており、殺害があった部屋にもマイクが仕掛けられており、録音もされていた。その声紋を調べて犯人を……、今回はちょっとイージーな展開である。たまたま盗聴マイクが仕掛けられていたので、明瞭な声紋が録れたのだから。
犯人は、ホテルの従業員であった。

モスキートトーン(モスキート音)に入る電波が盗聴に用いられており、大人には聞こえないが、早月の娘には聞こえたので、盗聴が行われていたことが発覚するという展開。
モスキート音は、インターネット上のいくつかのサイトで流れているので、検査を行うことが出来る。ちなみに私は二十代の頃は聞こえたが、三十を過ぎると聞こえなくなった。

佐藤仁美は、最近は舞台で見ただけだが、演技力は高いので、女優として今後も起用されそうである。
四方堂亘も良い役者なのだが、今回は出番は少なかった。

Season8 File.2。川原で男性の遺体が発見され、一方で五億円を積んだ現金輸送車が行方不明になっていることが分かる。川原で見つかった男の身元は暴力団準構成員の木内。
マリコと早月であるが、抜けているところがどっちもどっちである。
現金輸送車は、東大路、北大路、西大路など幅の広い通りをルートとしていることが分かり、様々な記録カメラに輸送車が映っていることが分かる。西本願寺の太鼓楼と思われるものが映っている映像が、北大路ということにされたり、いい加減ではある。
一方、現金輸送の担当者2名が廃工場の中で発見される。二人とも犯人からスプレーを顔に噴射されて、意識が朦朧としたという証言である。
だが、現金輸送車がルートを外れたのは北野白梅町付近であることが分かり、その近くには警備会社社長の三浦(田山涼成)がバカラ賭博を行っていた賭場があることが分かる。
そして、現金輸送を担当していた藤田と山本は古くからの知り合いだった。
藤田の娘は結婚式の前日に三浦が経営するホテルに泊まり、火災で亡くなった。結婚相手は山本だった。ホテルの消防法違反が判明するが、三浦は先手を打ってホテルを倒産させた。
以後、藤田と山本は三浦の消息を追い、警備会社を経営していると知ると、二人共にその会社に就職し、三浦がボロを出すのを狙っていた。
五億円に、賭博で得た一億円を合わせて違法であることを明らかにすれば三浦を社会的に葬ることが可能だと思ったのだ。
現金輸送車を消したのは、車ごとトランクに隠すという手口であった。
二人を逮捕しようとした土門だったが、マリコにより、自首したということにして貰ったのだった。
一方、木内は二人が閉じ込められていた廃工場で死亡していた、二人の犯行計画に絡もうとしたが裏切って、「バラす」と強迫したためために突き飛ばされ、バーに後頭部を打って死亡したのだった。

Season8 File.3。科捜研に警視庁のプロファイラーである田淵一樹(相島一之)が参加する。相島一之がこういう場面で出てくると怪しいが、今回はそういうことはない。ただ、1つの事件の捜査に参加しただけで東京に帰ってしまうので、何しに来たのか今ひとつ分からない。ちなみにSeason2では内藤剛志演じる武藤要が科捜研のプロファイラーを務めていたが、そのためか、内藤剛志演じる土門薫は田淵に反抗的である。
インターネット上に京都での殺人予告があり、架空の美少女戦士もの(セーラームーンだとかその類い)のコスプレをさせられた女性の遺体が発見される。1週間前には大阪でも同様の犯罪が行われていた。京都でも更に同様の殺人が起こり、襲撃されてコスプレ姿で気絶している女性も発見される。命に別状はなかった。いずれも四つ葉のクローバーを握らされていたというのも共通点である。四つ葉のクローバーは珍しいが、人工的に生み出すことも出来る。殺人未遂に終わった事件は単なる模倣犯であった。
真相は闇サイトを使った依頼殺人である。交換殺人とも言える。交換殺人、嘱託殺人といえば、夏樹静子の小説『第三の女』。傑作なのでご一読を。

ある女子高の生物教師、新井信子(原千晶)が捜査線上に上がる。新井は四つ葉のクローバーを大量に購入していた。原千晶は私と同い年だったはずだが、こんな顔だったかな? 面影はあるけれど、もっと派手顔だった気がする。信子は花粉症が酷いため、アロマを染み込ませたハンカチを使っていたが、これが犯行の印となった。

第一の被害者である森村遙は椎名康晴が殺し、第二の被害者で椎名の妻である椎名麻沙子は新井信子が殺害していた。椎名は妻に、麻沙子は森村に殺意があり、ターゲットを入れ替えて殺害していたのだった。

Season8 File.4。7年間意識不明で病院のベッドに寝ていた男(柏原収史)が目覚める。こういった状況はありふれていて、黒沢清監督の映画「ニンゲン合格」や「世にも奇妙な物語」の中居正広主演回など、いくつか似た状況の作品は思い浮かぶ。
男が覚えていることは、女の遺体を見つけたことだけだった。
その後、男は、自身が大手電機メーカーの京朋電機の社員であったことを思い出す。名前は星野亮輔。会社の同僚だった柴本夏美(遊井亮子)と婚約していたが、夏美は「7年も前のことなんで」と今はもう関係がないと思っているようだ。
今は大手電機メーカーの社員である夏美だが、高校時代には中学時代からの友人である永井由紀枝(金子さやか)と共に恐喝など悪事に明け暮れ、素行不良で二人共に退学になっている。
夏美はその後、大検(今は高認に名前が変わっている)に合格し、京朋の社員になっている(大学を出て社員になったのか、高卒枠で入社したのかは不明である)。だが、夏美は由紀恵から「高校時代のことをバラしてやる」と脅されていた。
記憶が曖昧である星野に脳指紋検査が行われる。星野の無意識はワンピースに反応する。7年前に流行ったものだが、発売前に事件は起こっているのでその時点で手に入れられる者は限られていた。発売前にそんな格好をするから悪いと言えるが。犯人は、中川智子。ワンピースなどの衣料を扱う会社に勤めていた。使い込みが由紀枝にバレて脅されていた。星野を突き落として意識不明にさせたのも智子だ。

遊井亮子は、今では一発で漢字変換出来ない名前になってしまっているが、連続ドラマ「白線流し」で注目を浴びた人である。その時も不良少女役だったが、柏原収史の兄である柏原崇演じる優等生と仲が良く、京都大学の合否の通知を二人で確認するという印象深いシーンを演じていた。


叡山電車が走るシーンが出てくるほか、三宅八幡のものと思われる赤い欄干が映っている。
吉本新喜劇から末成由美(現・末成映薫)が出演。

Season8 File.5。北山で遺体が発見され、鷹峯では白骨遺体が発見される。北山で見つかった遺体は八木修(柴田裕司)のものだと分かる。
洛北医科大学の風丘早月と待ち合わせしたものの遅刻したマリコは、解剖に立ち合う。
今回は洛北医科大学に見立てられた京都造形芸術大学は、人間館の外観(白衣姿の人が動いている)の他に、大学の劇場である京都芸術劇場春秋座のホワイエが洛北医科大学の廊下に見立てられ、人間館の屋外テラスでも撮影が行われている。映画学科を持っているだけに撮影には協力的であると思われる。

八木を殺害したのはミリタリーマニアの牧原だと分かる。二人は知り合いだったが、そんなに親しいわけでもなく、同じアパートの1階に住んでいたが、八木は無職で、たびたび牧原のミリタリーコレクションをくすねては金に換えていた。

鷹峯で見つかった白骨死体の身元は風丘洋二と分かる。風丘早月の旦那だ。7年前、ちょっとしたことで揉め、洋二は自動販売機まで煙草を買いに行き(今とは違い、自動販売機で何の証明もなく煙草が買えた)消息を絶った。実はその際、目の前のアパートで殺人を犯した人物と鉢合わせし、自身も殺されることになったのだ。
7年前には京都OLバラバラ殺人事件が起こっていた。犯人は八木である。
風丘早月は、京福電鉄等持院駅(現:等持院・立命館大学衣笠キャンパス前駅。日本最長の駅名として命名されたが、そのすぐ後にネーミングライツを使ったもっと長い駅名が出来て、最長の駅名としては短命に終わった)の近くに住んでいたが、牧原と八木が住んでいたのはすぐそばのアパートだった。
八木はOLを殺害してバラバラにし、外に運び出そうとしたところを洋二に見つかり、殺害してアパートの床下に埋めた。家賃滞納で追い出されることになったので、床下の骨を鷹峯に埋め直したのだった。そして八木は牧原に殺された。
八木を演じている柴田裕司は、実は知り合いである。バーテンダーをしていて知り合いになったのだ。凶悪殺人犯を演じているが、温和で人は絶対に殺せないタイプである。

シングルマザーとして、二児を育てていく風丘早月の決意が窺える回であった。

Season8 File.6。このシーズンの初めに、深浦加奈子演じる小向光子が、「眠い」と言って、上半身を机の上に乗り出して休むという不自然なことがあった。次の回では普通に演じていたが、ここ数回は出演自体がなくなっている。みな光子のことには触れていない。放送があったのは、2008年。深浦加奈子最後の年である。

桂川の近くの公園で、ベイビーカーが爆破される事件があった。犯人は視聴者にはすでに分かっていて、青木(水橋研二)という男で、京都市の西側で、ベイビーカーに爆弾を仕掛けている。いくつもの公園の写真が出るが、京都市は中心部や東寄りは、「公園」という概念のない時代の街並みで、当然、公園を見つけるのに苦労する。特に「田の字地区」と呼ばれる平安時代の町割りを受け継いでいる場所は、公園なんてまず見つからない。
ということで、公園がありふれた存在なのは比較的新しい街並みである京都市の西側ということになる。青木も西側にしかターゲットを置いていない。
青木は自宅にもノートパソコンがあるが、より高い性能を求めたのか、USBを持ってネットカフェに行き、京都府警のコンピューターのファイアウォールを突破してハッキングに成功。榊マリコを名乗り、今後もベイビーカーを爆破すると予告する。
最初のベイビーカー爆破は、母親が赤ん坊をベイビーカーから抱き上げた直後に起こっており、怪我人はゼロだった。だが2回目の爆破が起こり、今度は母親が軽症だが怪我をした。マリコは今度は子どもが犠牲になるのではと捜査を急ぐことにする。土門も科捜研と一体の捜査になるのを避け、爆発物処理班と共に、爆弾のついたベイビーカーを洗っていった。そしてGPSのついたベイビーカーを動かすことで青木をおびき寄せたのだった。青木は、子ども部屋が設置されていることで人気の美容室に通っていた。ベイビーカーを爆破された二人もやはりこの美容室に通っており、子どもたちを部屋で遊ばせ、ベイビーカーは見えにくいところに置いていた。そこに青木が爆弾をセットしたのだった。

青木は、理系の大学院を修了していた。性格にかなり難があるのが分かるが、技術面では本来なら引く手あまたの学歴。京都府警のコンピューターをハッキングしたことから腕もあり、誇示して見せた。しかし就職氷河期の頂点といえる年にぶつかってしまい、就職は出来ず、アルバイトなどで繋ぐしかなかった。当然ながら今も就職は夢物語。それに比べて今公園にいる主婦達は就職が楽だった世代と考えると怒りが止まらないのだった。
ただ、2008年から大分経ったが、就職難は解消されていない。女子は大卒でも派遣か契約社員が基本という異様な状態が続いている。この異様さを2008年に予見出来ただろうか。

Season8 File.7。山科区で女性が拉致される姿が防犯カメラに映っていることが分かる。女性が抱えていたファイルに企業名が映っており、被害者はその会社に勤める25歳の青枝智子だということが分かる。彼女はインスリノーマという珍しい病気を抱えており、血糖値が急激に下がるので、注射を打ったり糖分を摂取したりしなければならない。翌日、彼女は無断欠勤となるが、同じ日に無断欠勤をした男性社員がいることが分かる。藤島である。
あるいは同じ企業内での犯罪かとも思われたが、実際は3年前に智子の父親を殺した男の似顔絵を藤島が覚えており、よく似た男を見かけた藤島は智子に電話するも拉致されてしまい、続いて智子も拉致された。その後、藤島一人が命を落とし、智子は発作は出てくるが何とか生き延びる。
犯行があったのは京都市の南東寄り、東山を越えた山科区(このドラマで山科区が出てくるのは初めてかも知れない)だが、犯人が車で走るのは大半が京都市の西部つまり西山である。車は山奥で見つかった。そこからの足取りが分からないため、警察犬が呼ばれる。ということで、香坂怜子(伊藤かずえ)とハリーが登場。
ハリーの行く先に別荘が見つかり、中から大量の血液の付着したシャツが発見される。

その後、防犯カメラに写っている運転手が藤島ではないことが判明。男はフリーターの塚本だと判明する。
しかし、塚本は捜査中、ハリーに追いかけられて、逃亡を図るも道路に飛び出したところで主婦の運転する車にはねられて死亡する。塚本が住んでいたマンションの家宅捜索で、血のついたシャツや智子が使用している薬品や注射などが見つかる。
洛北医科大学で風丘の検視を受けた塚本の遺体には首の横に妙な湿疹が出来ていた。毒虫の幼虫に刺されたものだと分かる。毒虫の幼虫が今の季節にいる場所は限られる。

その後、山中で藤島の遺体が埋められているのが発見される。血染めのシャツも藤岡の血に彩られたものだった。


今回は「スコップ」が出てくるのだが、「スコップ」と「シャベル」は地域によって逆になることが知られている。今回は関東式に、大きめのものを「スコップ」と呼んでいる。片手で使う小さめのものがシャベルになるはずである。大阪では逆になることが多い。

マリコは桂川の水防倉庫が怪しいと睨み、向かう。智子は無事だった。

ラストは珍しくスリーショット。マリコと土門に香坂が加わり、語らっていた。


Season8 File.8。洛北医科大学主催のマリコの講演会があり、好評を博す。若村麻由美が解剖医役になってから、洛北医科大学のキャンパスは京都造形芸術大学瓜生山キャンパスに固定されているが、京都造形芸術大学にも講堂はあるものの、山の上の見栄えがしないものなので、今回は京都学園大学(現・京都先端科学大学)亀岡キャンパスの建物が講演会場に見立てられている。
講演会を終えて建物の外に出たマリコと早月。そこへ、車が停まり、男が助けを呼ぶ。医科大の主催でも講演会場は別という可能性もあったが、男が医学的な助けを呼んでいるため、ここも洛北医科大学の建物という設定なのだろう。

ミステリーやサスペンスは、現代の問題を描きやすいという側面があるが、今回は二重派遣という問題が扱われている。

折口は、京洛電機で働く派遣社員。しかし昼食を食べた後、フラフラしながら戻り、意識を失ったため、京洛電機のバンで、洛北医科大学のキャンパスに乗り付けたのだった。以前、京都学園大学亀岡キャンパスを使った洛北医科大学病院があったが、設定が変わったのか、大学病院ではなく講堂の前で車を止めている。

折口は、ネットカフェで暮らすいわゆるネットカフェ難民。派遣企業に提出した住所はすでに家賃滞納で追い出されており、かといって住所不定ではアルバイトでさえ雇って貰えないので以前の住所を書いたのだった。
ネット閲覧履歴などは消去されるため、折口の情報はたどれない。
折口の母親役で角替和枝が出ている。役者一家として知られるが、彼女は64歳という比較的若い年齢で亡くなった。

折口は二重派遣で働いていた。当然ながら違法である。京洛電機に派遣されているが、そこからハイマートという「デパートみたいなスーパー」に派遣されていた。
昼間、昼食に出掛けた折口がフラフラしながら戻って来て気絶する。その時、折口はハイマートのジャンパーを着ていたので、京洛電機のものに衣服を替えている。

折口は、元々不良で、出身地の福井では万引きなどの常習であり、17歳の時に父親と喧嘩して家を飛び出していた。以降、母親とは会っていなかった。父親はすでに亡くなっている。

折口は、ハイマートの近くで、一人の老女と出会う。母親と年が似ているからかどうかは分からないが親しくなり、昼食を一緒に取るようになる。そのことをネットカフェで店員の藤森に話し、藤森は「老女一人なら金もあるだろう」と強盗に入る。コインロッカーの鍵を落としたことに気付いた折口が引き返してきたため、藤森と折口は殴り合いとなり、折口は後頭部を打ってそれが原因で亡くなってしまう。老女は無事だった。
最後は、折口の母と老女の会話。露骨に感動させようとするのが余り好きではない。


Season9 Last File。
廃屋で、薬物対策課刑事の安堂(戸次重幸)に撃たれて、麻薬の売人である松田が死亡する。同じく薬物対策課刑事の鳴海亮(保阪尚希)が撃たれそうになったため、安堂が撃ったのだった。覚醒剤の取引があり、そこに踏み込んだ、というのが筋書きだったが、実は鳴海と安堂は薬物対策課の刑事でありながら、押収した麻薬を横流ししていたのだった。
嫌な人を演じるのが上手い大高洋夫が、薬物対策課課長の原秀実役で登場。実は再登場である。三浦理恵子が犯人を演じた回で、tvkテレビ京都という架空の放送局のディレクター役で出演していた。
警察内の権力闘争があり、マリコも本来は閲覧厳禁のはずの麻薬ファイルを開いて、照合を行っている。DVDファイルである。DVDデッキは比較的早い時期から映っていたが、使用するのはCDの音源や軽めのファイルであり、明らかにDVDファイルと断定出来るのは今回が初めてとなる。

沢口靖子と若村麻由美のコンビは、演技力だけなら若村麻由美の方が何枚も上手で、演技の幅も広い。若村麻由美は榊マリコにもなれるが、沢口靖子は風丘早月にはなれないだろう。ただ、榊マリコの演技にこちらも慣れているので、特に気にはならない。あれがマリコである。

今回は、マリコの母親であるいずみ(星由里子)がまたまた登場。今宮神社で通り魔に着物の袖を切られている。この通り魔も京都府警から流れた麻薬を使用していたことが後に分かる。ただ今宮神社があるのは紫野で、大徳寺の北であり、マリコと伊知郎が住む北白川とは大きく離れている。

洛北医科大学に向かったマリコが車に追いかけられるシーンがあるが、ここもどうやら京都学園大学で撮られたようである。

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「新・科捜研の女スペシャル」(2008)

2026年3月25日

「新・科捜研の女スペシャル」(2008)。Season8に先だって放送されたもので、加藤貴子は、加藤たか子から加藤貴子に表記が戻っている。
物語は舞鶴から始まる。舞鶴で行われるサミットで遊覧船が用いられたのだが、爆発が起こった。過激派が犯行声明を出している。そして再び舞鶴の船着き場で爆発が起こる。
京都府警科捜研が捜査を行うが、美貴が見つけたハンドルに起爆装置がついている。マリコは叫ぶ以上のことは出来ないが、とっさに美貴が持つハンドルを奪って海に投げ込む女刑事が現れる。京都府警警備四課の久保望(黒谷友香)である。警視庁ならSPに相当するが、要人警護にSPという言葉を名乗れるのは東京の警視庁のみらしい。ただ便宜的にSPという言葉は使われる。
過激派の間での脅しあいだったようだが、続くサミットが行われる京都イースタンホテル(ウエスティン都ホテルがロケ地になっているようだ)に過激派の火岡が潜り込んでおり、警備四課の刑事達と撃ち合いになる。その最中に四課の鵜飼が銃弾を浴び、その後、亡くなる。鵜飼を撃ったのは望である。この時はまだ、「望」という漢字が何種類もの読み方で女性の名前の用いられるとは思っていなかった。
真相を究明したい望は、火岡の銃弾を左肩に受けた状態で、入院中の火岡に会いに行く。しかし、火岡は死亡。望は窓を開けて飛び降り、逃走した。
望は仕事帰りのマリコを襲い、真相を究明するよう頼む。

望の射撃の腕前は高く、安易に誤射を行うとは思えないということはマリコも土門から聞いていただろう。結果としては、銃が入れ替わっていたことが分かる。火岡に致命傷を与えたのは四課警備隊長の小田島(鶴見辰吾)であり、小田島は殺意を持って鵜飼を撃っていた。火岡が京都イースタンホテルの従業員として潜り込めたのも小田島の力である。小田島はサミットが遊覧船で行われるということを飲みの席でうっかり喋ってしまい、重要機密漏洩というということで火岡らに脅されるようになっていたのだった。

つかこうへいに見出され、女ながら「熱海殺人事件」の木村伝兵衛部長刑事を演じた黒谷友香。何度か演じているはずだが、私がワッハ上方ワッハホールで観た時のタイトルは、「黒谷友香エンドレス 女子アナ残酷物語」であった(当初の「黒谷友香エンドレス 売春捜査官」からタイトル変更)。延々と続く長台詞に、その日の全力を出し切ることを求められるような演技で、会場全体を黒谷友香色に染め抜くような壮絶な舞台であった。「女子アナ残酷物語」とあるのは、売春婦が女子アナという設定にされている店のことである。つかこうへい自身の演出で、口立てといい、事前に本が配られ、セリフも覚えていくのだが、稽古場ではつかこうへいが脚本をアレンジしながらセリフを言い、俳優は一発で覚えなければならない。覚えられないとどんどんセリフが短くなっていくという俳優として過酷な稽古場であった。それを乗り越えて単独主演を勝ち取っているのだから力はある。

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2026年6月 3日 (水)

観劇感想精選(519) 森田剛&藤間爽子 舞台「砂の女」

2026年4月18日 大阪の森ノ宮ピロティホールにて観劇

午後6時から、森ノ宮ピロティホールで、舞台「砂の女」を観る。安部公房の代表作の舞台化。5年前にも「砂の女」が舞台化されたことがあるが、それとは別物である。
作:安部公房、脚本・演出:山西竜矢。音楽:波多野敦子。映像:米倉伸。出演:森田剛、藤間爽子、大石将弘、東野良平、永島敬三、福田転球。映像が多用される。

安部公房の『砂の女』は、多くの人から称賛を受けた作品であるが、映画化や舞台化は難しい作品である。それでも映画は勅使河原三郎監督による有名な作品があるが、舞台は5年前のケラリーノ・サンドロヴィッチの台本と演出によるものがあったものの、それ以前にもあったのかどうか不明。基本的に新しいことは余り起こらず、淡々と進んでいくため、舞台として成立しにくい要素が多い。

登場人物には名前がある人もいるが、基本的にはアノニマスな感じで進んでいく。

男は、中学校の教師。ハンミョウという種類のトンボの新種を見つけて辞典に載るという夢を持ってここまで来た。3日間の休暇を取って訪れたのは、砂丘の町。部落(ここでは「集落」という意味。それ以外のニュアンスはない)に住む老人から、ある女の家に泊まるよう勧められる。そこは縄ばしごで降りる必要のある場所。出迎えた女は善人そうだったが……。
雪かきならぬ砂かきをしなければ埋もれてしまいそうな場所。男は眠りに落ちるが、目覚めると縄ばしごがなくなっている。「捕らえられたのか?」と自問する男。そこで強硬手段に出る。女を縛り上げ、縄ばしごを下ろすよう部落の人々に要求したのだ。部落の人々は砂のかき手を求めて女の家を勧めたのであり、男の要求を無視する。
そうこうするうちに時は流れ、男は砂の生活に慣れていく。ただ「希望」としてカラスを捕らえる罠を生み出す。カラスを捕らえることは出来なかったが、水を得たことに喜ぶ。この時点で砂での生活を続ける意思であることが分かる。女が産気づき、地上へと上げられるが、縄ばしごは掛かったままになっていた、だが男は逃げようとはしない。

 

映像の他に幕も多用される演出である。客席通路も使われ、部落の人々は基本的に客席通路を通って舞台に上がり、森田剛は客席通路を何周もする。二度ほど止まったことがあったが、おそらく観客からの握手の求めに応じたのだと思われる。
女の造形は難しいところだが、藤間爽子の女はかなり可愛らしい人物として描かれていた。確かにこうした可愛いタイプと一緒にいられるのなら、「このまま砂の町にいるのもいいか」と思う男もいるであろう。
しかし実際に、「捕らえられた」、引っ掛けられたとの感は否めない。
この作品は肯定的に捉えられることが多いが、自ら囚人となるゲームに参加しているかのようで、その時の社会情勢によっては、かなり怖ろしい結果を招く可能性があるように思われる。

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2026年6月 1日 (月)

観劇感想精選(518) フリードリヒ・シラー原作 ロバート・アイク翻案「メアリー・ステュアート」

2026年5月14日 西宮北口の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールにて観劇

午後6時から、西宮北口の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで、フリードリヒ・シラー原作、ロバート・アイク翻案の「メアリー・ステュアート」を観る。シラーの原作を翻案したものとしては、2015年に、ダーチャ・マライーニが二人芝居に翻案したものを梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで観ている。出演は、中谷美紀と神野三鈴であった。
今回のロバート・アイク翻案版は、それに比べると登場人物は多い。演出は栗山民也。テキスト日本語訳:小田島則子。メアリー・ステュアートとエリザベス1世は何年か前に映画にもなっているはずだが、未見である。
出演:宮沢りえ、若村麻由美、橋本淳(あつし)、木村達成(たつなり)、犬山イヌコ、谷田歩、大場泰正、宮﨑秋人(しゅうと)、采澤靖起(うねざわ・やすゆき)、阿南健治、久保酎吉、伊藤麗(れい)、上野恵佳(あやか)、松本祐華、段田安則。途中休憩20分を含み、上演時間が3時間を超えるという大作であった。

今回は、メアリー・ステュアートの幽閉から死までが描かれる。
メアリー・ステュアートは数奇な運命を辿った人で、生後6日でスコットランド王に即位。摂政にはジェームズ・ハミルトンが就くが、後に戦に敗れている。メアリーは、フランスに亡命。フランスのフランソワ王太子と婚約し、将来的にはフランス王妃となる。
一方、エリザベス女王(エリザベス1世)は、父親が離婚したいがためにイギリスの国教をカトリックからプロテスタント(英国国教会となる)に変えたヘンリー8世、母親はヘンリー8世が離婚後に再婚したアン・ブーリンである。アン・ブーリンは複数の罪で処刑された人として有名で、エリザベスが女王として即位後も「庶子」という理由から「相応しくない」との声が上がった。そしてフランス王フランソワ2世が16歳で亡くなったため、スコットランド王として即位したメアリーにもイングランド王となる権利があったことから事態はややこしくなる。当時はイングランドとスコットランドは別の国であるが、緩やかな連合体をなしていた。「メアリーの方が英国の王に相応しい」という声もある。メアリーはダーンリー卿ヘンリーと再婚。一児を設ける。この子どもであるジェームズが、ステュアート朝の祖であり、メアリー・ステュアートはステュアート朝の生みの親とも言うべき存在である。よく知られている通り、エリザベス女王は子をなさなかったため、敗れたはずのステュアート家が、イギリスの正統な王家を占めたこともあったのだ。諍いには敗れたが血統と歴史で勝ったというべきか。
そんなメアリー・ステュアートも、スコットランドで起こった暴乱により、イングランドに亡命。エリザベス女王はメアリーをイングランド内の城に軟禁状態に置く。
ここからが今日の「メアリー・ステュアート」の物語である。分かろうと思ったらそれなりに知識がいる。メアリーの幽閉先と、エリザベスの王宮の一室のみが舞台だ。

メアリー(宮沢りえ)と乳母のケネディ(犬山イヌコ)は、城の中で比較的自由に暮らしている。看守のポーレット(阿南健治)がいるが、さして厳しくない。
メアリーは処刑を恐れているが、続くエリザベス1世(若村麻由美)の場では、エリザベス女王が様々な理由で、メアリーの処刑を渋っている。

メアリーを演じている宮沢りえが黒いドレスを着たしなやかな身のこなしなのに対し、エリザベス女王は座っていることが多く、堂々とした王の装いで胸を張っている。これだけで二人の性質が分かるが、エリザベスはかなり演じている部分がありそうだ。

それでも処刑を避けることが出来ないと、エリザベスは、死刑執行書に署名をした。しかし、それを持って行かないよう命じる。エリザベスとメアリーは短い時間であったが面会していた。

ただこれは明らかにエリザベスのミスなのだが、死刑執行書に署名してしまったがために、最終的にはメアリーは処刑される。エリザベスの王宮は権謀術数が渦巻き、裏切りが多発していた。セリフの多くはそうした謀だ。

緋色のドレスになり、処刑場へと向かうメアリー。ケネディが手を取る。

役者陣はかなり充実。完璧に近い。

今日は2階席で観たのだが、舞台上には白の×があるのが見える。スコットランドの国旗の色である。栗山民也なりのメアリーへの追悼であった。

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中谷美紀&神野三鈴二人芝居「メアリー・ステュアート」

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