カテゴリー「ロシア」の13件の記事

2019年4月18日 (木)

コンサートの記(545) 井上道義指揮 京都市交響楽団第633回定期演奏会

2019年4月12日 京都コンサートホールにて

午後7時から、京都コンサートホールで京都市交響楽団の第633回定期演奏会を聴く。今日の指揮者は井上道義。

オール・プロコフィエフ・プログラムで、組曲「キージェ中尉」、ピアノ協奏曲第3番(ピアノ独奏:イリヤ・ラシュコフスキー)、「ロメオとジュリエット」組曲から(井上道義セレクション)が演奏される。

ショスタコーヴィチのライバルだったプロコフィエフ。二人は犬猿の仲であったと伝わるが、基本的にショスタコーヴィチ作品を得意としている演奏家はプロコフィエフ作品でも優れた出来を示すことが多い。

今日のコンサートマスターは客演の石田泰尚。フォアシュピーラーは泉原隆志。今日はチェロ客演首席にNHK交響楽団の首席チェロ奏者である「藤森大統領」こと藤森亮一が入る。第ヴァイオリンの客演首席は大森潤子。武貞茂夫が定年で抜けたテューバには北畠真司が客演で入る。
独自の配置が採用されており、ヴァイオリン両翼だが位置は現代配置のヴィオラと入れ替わり。コントラバスはヴィオラの背後の位置。通常は下手に陣取るホルンは今日は上手に回る。


午後6時30分から井上道義によりプレトークの予定だったが、6時40分からに変更になる。井上が癌の後遺症で唾液が余り出ないので、長い時間喋れないらしい(更にインフルエンザが治ったばかりだったようだ)。
井上はまず、「桜の咲く季節は大嫌いです」。「寒いから」ということなのだが、花見に行くにはということのようで、夜桜を見に行っても井上は「寒いから帰る」という方なので花見がそもそも嫌いらしい。
バレエ「ロメオとジュリエット」のラストをプロコフィエフが「死んだら踊れない」ということでハッピーエンドにしようとしたことを挙げて、「(プロコフィエフ)は希望を抱くロマンティストであったのだが変にリアリスト」であったと語る。
「アンティル諸島の娘たちの踊り」は、百合の花を持って踊られるのだが、百合の花は日本でいうところの菊の花に相当し、葬儀の意味があるのだそうである。


組曲「キージェ中尉」。元々は映画音楽として書かれたものを演奏会用にまとめたものである。映画そのものを観たことはないのだが、実在しないキージェ中尉を皇帝が気に入ってしまったため、周囲が振り回されるという筋書きはよく知られている。録音ではコダーイの組曲「ハーリ・ヤーノシュ」とカップリングされることが多い曲である。

拍手が止んですぐに、舞台袖で西馬健史がコルネットを吹き始めてスタート。プロコフィエフは意欲的な表現に取り組んだことで知られるが、この曲でも相反する要素が同時進行するなど、前衛的な表現が聴かれる(特に目立つ場所に置かれたコントラバスは変わったことをしているのが確認出来る)。
京響自慢のブラスは輝かしく、弦も鋭さと温かさを兼ね備えた優れた表現を聴かせる。
井上は体をくねらせて踊るユーモラスな指揮を見せた。


ピアノ協奏曲第3番。ソリストのイリヤ・ラシュコフスキーは1984年、シベリア・イルクーツク生まれの若手。5歳でピアノを始めて、8歳の時にはイルクーツク室内オーケストラと共演という神童系である。シベリア最大の都市であるノボシビルスクの音楽学校で学び、1995年にイタリアのマルサラ市で行われた国際コンクールで優勝。98年にはウラジミール・クライネフ国際コンクールでも優勝を飾り、2000年にハノーファー音楽学校(ハノーファー演劇音楽大学と同じ学校かどうかは不明)に入学して、そのウラジミール・クライネフに師事している。その後も多くのピアノコンクールで優勝や入賞を経験し、2012年に第8回浜松国際ピアノコンクールで優勝。この時から井上道義に評価されていたがなかなか共演の機会がなく、今日が初共演となるようである。

ラシュコフスキーは、渋みとリリシズムを兼ね備えたピアノを披露。高度な技術が印象的である。
京響はベストな響きではあったが、鋭さと音量共にこの曲の伴奏としては弱めである。それだけプロコフィエフの演奏が難しいということでもあり、プロコフィエフのピアノ協奏曲は演奏家泣かせであることでも知られている。

ラシュコフスキーのアンコール演奏は、ラフマニノフの「楽興の時」第4番。情熱と表現力を兼ね備えた秀演であった。


「ロメオとジュリエット」組曲より(井上道義セレクション)。演奏されるのは、「モンタギュー家とキャピュレット家」「朝の踊り」「ロメオとジュリエット」「情景」「メヌエット」「朝のセレナーデ」「アンティル諸島の娘たちの踊り」「タイボルトの死」「ジュリエットの死」

管楽器の冴えがやはり印象的である。今日は木管の首席は「ロメオとジュリエット」のみの参加であったが、技巧面でも表現面でもハイレベルである。打楽器群の力強い響きも見事だ。
井上の表現も巧みで、強弱や緩急の切り替え、甘美さとシニシズムの対比などプロコフィエフの面白さを十全に表していた。

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2019年2月 6日 (水)

コンサートの記(518) 広上淳一指揮京都市ジュニアオーケストラ第8回演奏会

2013年1月27日 京都コンサートホールにて

午後2時から京都コンサートホールで京都市ジュニアオーケストラの第8回演奏会を聴く。指揮は京都市交響楽団常任指揮者で京都市ジュニアオーケストラのスーパーバイザーである広上淳一。

京都市ジュニアオーケストラは、京都市在住、若しくは京都市内通学でオーディションを勝ち抜いた11歳から23歳までの奏者によって編成された若い人のための非常設オーケストラである。京都市交響楽団のメンバーの指導を受け、更に京都市立芸術大学4回生の大谷麻由美と東京音楽大学大学院2年生の水戸博之によって合奏指導を受けて、広上の指導によるリハーサルを行い公演に臨む。


曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ソリスト:金子三勇士)とショスタコーヴィチの交響曲第5番。いずれも若い人が挑むには難しい曲である。

ピアノ独奏の金子三勇士(かねこ・みゅうじ)は、1989年、日本人の父とハンガリー人の母の間に生まれたハーフ。すでにソリストやピアノ伴奏者として活躍しているが、東京音楽大学大学院に在学中の学生でもある。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。ソリストの金子三勇士は、高い技術で表情豊かな演奏を展開。ただ、技術に寄りかかりすぎのきらいがあり、「もっとゆっくり弾いた方が味わいが出るのではないか」と思える箇所がいくつかあった。また自慢の技術であるが、一カ所、明らかなミスタッチがあり、こちらも完璧とはいかなかった。

広上淳一の指揮する京都市ジュニアオーケストラは、憂いを帯びた響きを出し、感心させられる。明らかに技術不足のパートがあったり(どのパートかは内緒。プロでない人にああだこうだ言っても何の得にもならない)、音が薄手の箇所があったりしたが、若さ故にこれは仕方ないだろう。

金子三勇士はアンコールとしてリストの「コンソレーション第3番」を弾く。ロマンティックな曲調に対する金子の感性と高度なテクニックがピタリとはまり、ラフマニノフ以上の出来であった。


ショスタコーヴィチの交響曲第5番。速めのテンポを基調とした新たな発見の多い演奏であった。まず、第1楽章からソビエト当局をおちょくるような仕掛けが隠されていることがわかる。第2楽章は更に露骨である。広上の譜読みの鋭さが窺える。

第3楽章の美しさも特筆事項。これはまさにレクイエムである。

「皮相な凱歌」と「押しつけられた歓喜」という解釈もされる第4楽章であるが、広上も速めのテンポで皮相さを表出した上で更に、「これは凱歌どころか、クールな怒りを表しているのではないか」と聞こえるようなど個性的な演奏が続く。トランペットの華麗なソロは権力者への異議申し立てのように聞こえるし、重苦しい場面はソビエト人民の内面の苦悩を代弁しているように受け取ることが出来る。

この曲の新たな一面を見せつけられたかのような、刺激的な演奏であった。


アンコールでは広上はピアニカ演奏に回り、大谷麻由美と水戸博之のローテーションによる指揮で、ルロイ・アンダーソンの「フィドル・ファドル」が演奏される。時折聞こえる広上のピアニカソロがユーモラスであった。

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2018年12月29日 (土)

コンサートの記(485) 秋山和慶指揮 京都市交響楽団第534回定期演奏会

2010年4月18日 京都コンサートホールにて

午後2時30分から京都コンサートホールで、京都市交響楽団の第534回定期演奏会を聴く。今日の指揮は秋山和慶。

曲目は、ストラヴィンスキーの幻想曲「花火」、カバレフスキーの交響曲第4番、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」というオールロシアものである。


ストラヴィンスキーの幻想曲「花火」。浮遊感と色彩感のあるオーケストレーションを特徴とする小品だが、秋山はこれを彩り豊かに再現する。秋山は主に北米大陸でキャリアを築いてきた指揮者だが、その影響があるのか、管の華やかな響かせ方などはアメリカのオーケストラ的な処理である。


カバレフスキーというと、組曲「道化師」よりの“ギャロップ”が運動会の音楽の定番になっていることからもわかるように、平易な作風で知られるが、今日演奏された交響曲第4番も旋律が明確で、曲調が把握しやすい。カバレフスキーの音楽には彼がソビエトの体制派の作曲家であったことと無縁ではなかったという背景があるのだが、それは置いておいてもわかりやすさを主眼とした作品であることは明らかだ。ただ、そのわかりやすさが音楽の面白さに繋がっているかというと正直微妙であるように感じされる。


メインであるムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。予想通り安定感のある演奏であった。秋山は、他の指揮ならテンポを上げて盛り上げるであろうところでもしっかりと足をつけた着実な音運びを続ける。“ブィドロ”では遅いテンポでじっくりと攻め、“キエフの大門”も徒にスケールを拡げない渋いものであった。

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2018年12月28日 (金)

これまでに観た映画より(116) 「オーケストラ!」

MOVIX京都まで映画を観に出かける。今日観るのはフランス映画「オーケストラ!」。

かつてはボリショイ劇場の名指揮者であったアンドレイ(アレクセイ・グシュコブ)は、30年前にブレジネフ政権のオーケストラからのユダヤ人追放政策に反対して失職。現在はボリショイ劇場の清掃員として冴えない日々を送っていた。そんなある日、理事長室の掃除をしていたアンドレイはパリのシャトレ劇場から送られてきた公演以来のFAXを手に入れ、自身がボリショイ劇場管弦楽団の指揮者になりすましてパリ公演を行うことを計画。かつてオーケストラを追われたユダヤ人楽団員らを集めて、渡仏公演を行ってしまう……。

筋書きだけを見ると無理があるように思えるし、実際に無理もあるのだが、ソ連時代の暗い歴史をユーモアを交えつつ描くなど、奥行きもあり、演奏会のシーンにはなかなか感動させられる。

俳優達の質も高く、映像も綺麗で、リアリティにさえ拘らなければ名画といってもいいだけの仕上がりになっていたように思う。

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2018年12月 5日 (水)

コンサートの記(463) ミハイル・プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団来日公演2009大阪

2009年7月11日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後2時から、ザ・シンフォニーホールで、ミハイル・プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団の来日公演を聴く。曲目は、リムスキー=コルサコフの歌劇「雪娘」組曲、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:川久保賜紀)、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」というオール・ロシア・プログラム。

ロシア・ナショナル管弦楽団は、1990年にプレトニョフが興したロシア初の民間オーケストラ。結成する際に、既成のオーケストラから人材が流れるなどして問題となったこともある。


リムスキー=コルサコフの歌劇「雪娘」組曲は、知名度は低いが愛らしい作品。ロシア・ナショナル管弦楽団は管楽器の音のエッジが立っており、中でも金管の輝かしい音は日本のオケのそれとは別次元にある。


チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のソリストを務めるのは川久保賜紀。2002年のチャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン部門で1位なしの2位に輝いた逸材である。
プレトニョフとロシア・ナショナル管のゆったりとした序奏に続いて、川久保のソロが始まる。線の太さはないが、音は磨き抜かれ、気品すら漂う。技術も高く、評判に違わぬ優れたヴァイオリニストであることがわかる。
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、この1年の間に何度か生で聴く機会があり、木嶋真優、南紫音ともに今一つであったが、川久保賜紀はさすがというか、格の違いは明らかである。

川久保はアンコールにJ・S・バッハの無伴奏パルティータ第3番より“ブーレ”を演奏する。


チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」。冒頭はゆっくりとしたテンポで始まるがすぐに加速し、オーケストラの機能美を発揮した演奏が展開される。第1楽章の第2主題を歌わずに流したり、第2楽章を速めのテンポで駆け抜けたりと、即物的な印象を受ける。

第3楽章も健康優良児的演奏。しかし、ここまでが伏線であった。
第4楽章は一転して、繊細な表情で嘆きの歌を歌い上げる。第3楽章までは第4楽章とのコントラストをつけるために敢えて暗い表情を抑えた演奏をしていたのである。第3楽章までで表現された凛凛たる英雄像が第4楽章で打ち崩される。プレトニョフ、意外に演出が巧みである。
葬送の雰囲気すら漂う打4楽章が終わった後、長い沈黙があり、やがて拍手が起こる。優れた解釈による演奏であった。

悲劇的な解釈による演奏でプログラムが終わったためか、アンコールはなし。これもまたプレトニョフの巧みな演出であり、こちらも不満はなしである。

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2018年11月23日 (金)

コンサートの記(452) アレクサンドル・ラザレフ指揮 京都市交響楽団第629回定期演奏会

2018年11月18日 京都コンサートホールにて

午後2時30分から、京都コンサートホールで京都市交響楽団の第629回定期演奏会を聴く。今日の指揮者はアレクサンドル・ラザレフ。

若い頃は、「ロシアのカルロス・クライバー」という異名でも知られたアレクサンドル・ラザレフ。モスクワ音楽院を首席で卒業後の1971年にソ連国際指揮者コンクールで1位を獲得。更に翌年のカラヤン指揮者コンクールでも1位に輝き、ゴールドメダルも受章。ボリショイ劇場の首席指揮者兼芸術監督として名声を高めるが、日本でラザレフが高く評価されることになったのはやはり、2008年に日本フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者に就任してからであろう。日フィルとはロシアの作曲家の交響曲シリーズを立て続けに行って大好評を博し、ラザレフと日フィルは「名コンビ」と謳われた。日フィルの首席指揮者を8年間に渡って務め、現在は同楽団の桂冠指揮者兼音楽顧問となっている。


曲目は、グラズノフのバレエ音楽「四季」全曲とボロディンの交響曲第2番というロシア・プログラム。

今日のコンサートマスターは泉原隆志。フォアシュピーラーに尾﨑平。今日はヴィオラ首席に店村眞積が入る。普段はオーボエ首席の髙山郁子は前後半共に登場するのだが、今回は木管の首席は後半のボロディンのみの登場である。チェレスタ&ピアニーノは佐竹裕介。


プレトークでラザレフは、グラズノフとボロディンについて解説を行う(通訳:小賀明子)。グラズノフはペテルブルク音楽院の教師として多くの後進を育てており、交響曲も8曲作曲(完成したのは7曲)。「四季」はストーリーのないバレエの音楽として委嘱されており、ロシアらしく冬に始まって秋に終わるという順番を辿る。
ロシア五人組の一人として知られるボロディンは、本業は化学者であり、作曲に多くの時間を費やすことは出来なかったが、同い年であるブラームス同様、無駄な音を1音も書かなかったとラザレフは高く評価する。交響曲第2番を「秀作」と断言した。
最後にラザレフは、「これから演奏がありますので帰らないようお願いします」と冗談を言っていた。


グラズノフのバレエ音楽「四季」全曲。慣習的にカットされることが多い場面も今回は全て音に変えて送る。
冒頭からヒンヤリとしてブリリアントな弦楽の響きが耳を引く。ロシア人指揮者は日本のオーケストラと相性が良いことが多いが、ラザレフもやはりその例に漏れないようだ。
力強い金木管の響きと自在に変化する全体の音色による、音の魔術が繰り広げられる。
ラザレフは時に聴衆の方に向き直って指揮するなど、独特の仕草を見せ、視覚面でも人々を別世界へと誘う。
広上のトレーニングにより、日本でも屈指の器用なオーケストラへと変貌した京都市交響楽団。今日もロシア音楽に相応しい響きを出し、ラザレフの指示に応える。

演奏終了後、ラザレフは「もっとオーケストラを称えるように」という仕草を客席に向かってする。


ボロディンの交響曲第2番。
グラズノフの時とは打って変わり、低弦を強調した重厚な響きを京響は奏でる。重戦車の歩みのような迫力であり、エフゲニー・スヴェトラーノフが指揮した時のNHK交響楽団の響きを思い出した。
関西ナンバーワンと断言しても構わない強力な金管群がものを言い、京都コンサートホールを揺るがすかのような巨大な音響が築かれる。これまで国内外のオーケストラの実演には多く接して来たが、ここまでスケールの大きな演奏にはそうそうお目にかかれるものではない。
とはいえ、第3楽章など抒情的な部分の表現力も高く、力で押すだけのタイプではないこともわかる。

ボロディンにしろグラズノフにしろ、余り実演で聴く機会のない曲であるが、十二分に満足させる快演となった。
これまでに接してきた京都市交響楽団の定期演奏会の中でも、今日の出来はかなり上位にランクすると思われる。

演奏終了後、ラザレフはサイド席やポディウム席の聴衆に投げキッスを送り、ガッツポーズも見せたのだが、常に京都市交響楽団の楽団員を先に称える仕草を見せ、気配り上手であることもうかがえた。
「リハーサルが厳格」といわれるラザレフだが、ロシア人指揮者に多い独裁者タイプではないようだ。


 

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2018年10月26日 (金)

コンサートの記(442) 「時の響」2018初日 大ホール第2部 羽田美智子×松尾葉子×オーケストラ・アンサンブル金沢 プロコフィエフ 「ピーターと狼」朗読付き公演ほか

2018年10月20日 京都コンサートホールにて

京都コンサートホールで行われる「時の響」2018初日。
今日は午後3時開演の大ホール第2部「親子で楽しむ『朗読』付きコンサート」から聴く。出演は、松尾葉子指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢。朗読:羽田美智子。

曲目は、ラヴェルの「マ・メール・ロア」より3曲とプロコフィエフの「ピーターと狼」


日本における女性指揮者の草分け的存在である松尾葉子。1982年のブザンソン国際指揮者コンクールで、コンクール史上初の女性覇者となる。日本人としても小澤征爾に次ぐ二人目の優勝者であった。
教育者としても著名で、30年に渡って東京藝術大学指揮科教官を務め、芸大出身の中堅から若手の指揮者のほとんどは松尾の弟子である。現在は愛知県立芸術大学客員教授、セントラル愛知交響楽団特別客演指揮者の座にある。


日本初のプロの常設室内管弦楽団として組織されたオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)。今や日本を代表する音楽団体の一つである。幼少期を金沢で過ごしたこともある岩城宏之を音楽監督として発足し、2代目の井上道義時代を経て現在はマルク・ミンコフスキが芸術監督を務めている。
日本で最も外国籍楽団員の割合の多いプロオーケストラとしても知られ、今日は第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのトップが白人である。

ドイツ式の現代配置での演奏であるが、ホルンが上手に来るなど、独自色が強い。


ラヴェルの「マ・メール・ロア」。雅やかでしなやかなアンサンブルが印象的。彩りも鮮やかであり、日本における理想的なラヴェルが聴ける。


プロコフィエフの「ピーターと狼」朗読付き上演。
羽田美智子は、今日は第1部のオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラのオープニングMCと務め、第2部では朗読担当として参加する。

羽田美智子は、子どもの頃はピアニストになるのが夢で、小学校の卒業文集には「ピアニストになって大きなホールで演奏する」と書いたそうだが、大人になるに連れて「あのレベルまで行くのは難しい」と気づき、演技の道に進んだそうだ。
以前、ドラマでヴァイオリニストの役をしたことがあり、ホールで弾く真似だけしたことがあったそうだが、音楽会の本番に出演者として参加するのは初めてであり、「夢が叶った」と嬉しそうに語った。

羽田美智子の朗読は明るめの声で行われ、親しみやすい。そのためプロ女優の凄みは感じないが、「ピーターを狼」ということもあり、これで良いと思う。今は「ピーターと狼」の朗読にこれといったものはないので、色々な人に挑戦して貰いたいとも思っている。小澤征爾が朗読を務めたCDはあるが、小澤さんは朗読は素人なのでね。

松尾葉子指揮のOEKは温かみのある愛らしい演奏を行った。


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2018年9月 7日 (金)

コンサートの記(420) 広上淳一指揮京都市交響楽団大阪特別公演2018

2018年9月2日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後2時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、広上淳一指揮京都市交響楽団の大阪特別公演を聴く。

オール・ロシア・プログラムで、プロコフィエフの組曲「3つのオレンジへの恋」から行進曲&スケルツォ、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:小林美樹)、チャイコフスキーの交響曲第4番が演奏される。

今日のコンサートマスターは泉原隆志、フォアシュピーラーに尾﨑平。第2ヴァイオリン首席には客演の有川誠が入る。チェロ首席にも客演のルドヴィート・カンタが入った。

プロコフィエフの組曲「3つのオレンジへの恋」より行進曲&スケルツォ。
京響は燦々と輝くような音色を発し、広上のキビキビとしたリードが生きる。鋼のように強靱なフォルムとメカニックがプロコフィエフの面白さを際立たせる。

チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調。
ソリストの小林美樹(みき)は、1990年生まれの若手ヴァイオリニスト。アメリカのサンアントニオに生まれ、4歳の時にヴァイオリンを習い始める。2006年にレオポルド・モーツァルト国際ヴァイオリンコンクールで審査員特別賞を受賞。2011年にはポーランドのヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールで2位になっている。桐朋女子高校音楽科を経て桐朋学園大学ソロディプロマコースを卒業。その後、ロームミュージックファンデーションの全額奨学金により、ウィーン私立音楽大学でも学んでいる。

ピンク色のドレスを着て登場した小林は長身の女性である。小柄な広上は、彼女の肩の部分までの身長しかない。

小林のヴァイオリンはスケールが大きく、技術力も確かである。少し単調なヴァイオリンなのが気になるところだ。時折、海老反りになってヴァイオリンを弾く小林。見せ方を知っているという印象を受ける。
広上指揮の京響も堂々としたシンフォニックな伴奏を聴かせる。

小林のアンコール演奏は、バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番よりジーク。華麗な演奏だったが、案外、記憶に残りにくい類いのものだったようだ。

チャイコフスキーの交響曲第4番。第1楽章では、チャイコフスキーの嘆きにさほどのめり込まず、俯瞰的なアプローチを展開する。客観視された悲劇性が音によって描かれることで却って深刻さが増す。
第2楽章でも第3楽章でも音色は明るめだが、その背後に陰鬱な表情があることを示唆させる演奏である。ちなみに広上は第3楽章をノンタクトで振り、応援団長がやる「フレーフレー」のような仕草をしていた。
第4楽章も音の見通しが良く、グロテスクなサーカスのような音楽が舞台上で繰り広げられる。あたかもロシア版の幻想交響曲のような描き方である。ラストで広上はギアを上げ、悪魔の高笑いのような音像を築く。文字通りデモーニッシュな解釈である。

演奏終了後、広上は、「一つだけ。皆様のご健康とご多幸を祈っております」と言って、モーツァルトのディヴェルティメントニ長調 K.136から第2楽章の演奏を行う。
広上と京響が共に十八番としているモーツァルト、の割には演奏会にプログラムに乗る機会は決して多くないが、透明で雅やかでチャーミングな理想的な出来となった。

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2018年7月19日 (木)

コンサートの記(403) 高関健指揮 京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2018「Bravo! オーケストラ」第1回“華麗なるバレエの世界”

2018年7月1日 京都コンサートホールにて

午後2時30分から京都コンサートホールで、京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2018「Bravo! オーケストラ」第1回“華麗なるバレエの世界”を聴く。昨年度までのオーケストラ・ディスカバリーは午後2時開演だったが、今回からマチネーの定期演奏会と同じ午後2時30分開演に改められている。今日の指揮者は京都市交響楽団常任首席客演指揮者の高関健。今回は桧垣バレエ団との共演で、ステージの奥部を上まで上げた二段舞台での上演となる。ということで今日はポディウム席、ステージ横席共に販売されておらず、最前列と2列目も奥で行われるバレエが見えないため空席となっている。ナビゲーターはガレッジセール。

演目は前半が、チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」から「小序曲」~「行進曲」~「子どもたちの小ガロップと親たちの登場」、チャイコフスキーのバレエ「白鳥の湖」から「情景」と第2幕「オデットと王子のグラン・アダージョ」。後半が、プロコフィエフのバレエ「シンデレラ」ハイライト。

桧垣バレエの出演者は、プリマバレリーナの小西裕紀子を始め、今井大輔、林杏香(はやし・きょうこ)、中尾圭子、蘆原絵莉子、中井高人(たかと)、福島元哉、榎本心、和田健太郎、中谷美咲、大久保真貴子ほか。


今年度はチケットの売れ行きが良く、油断して買うのが遅れたため、2階サイド席の最もステージから遠い場所の席になった。以前だったら音の通りが悪い席だったが、舞台をすり鉢状にして後部の反射板代わりにすることで、音響の改善に成功したようである。ステージからは遠いが音には問題はない。

今日もコンサートマスターは客演で、植村太郎が入る。泉原隆志は降り番で、フォアシュピーラーは尾﨑平が務める。第2ヴァイオリンの首席も客演の小宮直に託された。


まずは「くるみ割り人形」。京響の好調は続いており、エレガントな響きが聴き手を楽しませてくれる。
桧垣バレエ団は予想していたよりも本格的な上演。後方ステージ上は賑やかで、多彩な踊りが展開された。

上演終了後、マイクを手にしゃがれた声で自己紹介。昨日まで風邪を引いており、今日治ったばかりだという。
ガレッジセールの二人が登場し、ゴリが「今日、お金掛かってるから京響の皆さんの給料が出なくなるなんてことはないでしょうか?」と冗談をいう。
その後、ガレッジセールと高関の3人がいったん退場して後方ステージに上がる。ゴリは「NGKより眺めが良い」といって、川ちゃんに「そんなこと言っちゃ駄目でしょ」とたしなめられていた。その後、小西裕紀子が後部ステージ上に呼ばれ、ガレッジセールの二人からの質問に答えていく。小西、それからその後に登場した小学6年生の団員二人は止まっている時も両つま先を外側に向けたバレエのポーズであり、いつでも踊りに入ることが出来るようこれを常に保つ必要があることを述べる。「オーケストラの皆さんは楽器を使いますが、私たちは体を楽器にして」常に磨き続けることを心がけているそうである。バレリーナは公演中の待ち時間も長いのだが、いつ本番になってもすぐに対応できるよう体を最善の状態に保ち続けているそうだ。

「白鳥の湖」。小西裕紀子と今井大輔のパ・ド・ドゥである。ダイナミックさと華麗さを併せ持ったバレエが展開される。高関指揮の京響も万全の演奏を聴かせた。


後半、プロコフィエフのバレエ「シンデレラ」ハイライト。この曲ではガレッジセールの二人が交互にナレーションを担当する。元々俳優志望だったゴリの方がナレーションは上手い。川ちゃんはちゃんと読もうとする気持ちが強すぎた結果、文を短く切りすぎて却って伝わりにくくなっていた。
物語性が強いということで、小西裕紀子によるユーモア溢れる演出が生きている。舞踏会に妖精が現れるところではストップモーションを採用。意地悪な継母(演じるのは蘆原絵莉子)とその娘達の踊りでは、若い娘達には男達がすぐに支えにくるのに、継母には誰も寄ってこないため、継母が床を踏みならして「誰か来なさい!」と強制する場面が加わっていた。継母はコミックリリーフ的な扱いであり、皆で客席中央通路に出て紙吹雪を撒くシーンでも一人でいつまでも紙吹雪を投げ続けるというわがままぶりを発揮して笑いを誘っていた。バレエのユーモラスなシーンはサイレント映画に通じるところがあり、観ていて、「ああ、チャップリンだ、バスター・キートンだ、ヒッチコックだ」と様々な無声映画を連想した。
高関指揮の京響もシャープで所々にわさびを利かせた演奏を展開し、プロコフィエフを聴く楽しみを十全に味わわせた。

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2018年1月17日 (水)

バラキレフはお好き

いきなり「バラキレフはお好き?」と聞かれても、そもそもバラキレフが誰なのかご存じない方の方が多いと思われますので、紹介をまず行います。

バラキレフはロシア音楽史上における最重要人物の一人なのですが、現在では作品よりもその存在の歴史的意義においてよく知られています。

バラキレフが活躍した時代、西欧ではロシアは東の果ての謎の国というイメージでした。音楽的にも後進国であり、近代ロシア音楽の父と呼ばれるグリンカが世に出たばかりで、ロシア国内にはまともな音楽教育機関すらないというありさま。1862年にサンクトペテルブルク音楽院が設立されますが、アカデミックで高踏的な同校に対抗し、同年、民衆のための音楽教育機関として無料音楽院を立ち上げたのがバラキレフです。

バラキレフは西欧を真似た音楽よりもロシア人ならではの音楽を作ることに腐心し、それに共鳴して集まってきたのがいわゆる「ロシア五人組」(バラキレフ、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ、ボロディン、キュイ)でバラキレフはロシア五人組の頭目的存在でした。室内楽とピアノ曲という地味なジャンルの作曲に専心したキュイを除き、組曲「展覧会の絵」や歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」のあるムソルグスキー、交響組曲「シェエラザード」がとにかく有名なリムスキー=コルサコフ、歌劇「イーゴリ公」(だったん人の踊りが特に有名)と交響詩「中央アジアの草原にて」などの代表曲のあるボロディンなど、現在でも取り上げられる機会の多い曲を作っている人たちです。そしてバラキレフと交友した最大の人物がチャイコフスキーでした。

彼らに比べると、リーダー格であるバラキレフが地味なことは否めないでしょう。フランス六人組のリーダーであるダリウス・ミヨーも、プーランクやオネゲルに比べると知名度で劣るため、あるいは同じ現象だということも出来ます。リーダーの才能と創作力は必ずしも一致しない、あるいはリーダーであったがために作曲に専心出来なかったということもあるのかも知れません。

バラキレフの作品としては、ピアノ曲である「イスメライ」が有名ですが、ここでは完成までに33年を要したという交響曲第1番より第3楽章を紹介しておきましょう。

ロシア民謡を題材にしたとされる、ノスタルジックで美しい旋律が特徴です。これを聴けばあなたもバラキレフが好きになるかも知れません。

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