カテゴリー「大河ドラマ」の5件の記事

2018年10月27日 (土)

コンサートの記(444) 「時の響」2018楽日 大ホール第1部 広上淳一指揮京都市交響楽団 広上淳一リクエスツ「音楽維新 NHK大河ドラマテーマ音楽で聴く歴史の波形」

2018年10月21日 京都コンサートホールにて

京都コンサートホールで行われている「時の響き」2018。大ホールでの第1部と第2部の出演は、広上淳一指揮京都市交響楽団。
コンサートマスターは今日も渡邊穣で、第1部の木管楽器の首席奏者はオーボエの髙山郁子のみ、第2部では勢揃いという顔触れである。

午前11時開演の第1部は、広上淳一リクエスツ「音楽維新 NHK大河ドラマテーマ音楽で聴く歴史の波形」と題されたコンサートで、幕末を舞台とした大河ドラマのメインテーマ曲を中心にした曲目が編まれており、

谷川賢作の「その時歴史が動いた」エンディングテーマ、坂本龍一の「八重の桜」、川井憲次の「花燃ゆ」(ヴォーカル:平野雅世&迎肇聡)、湯浅譲二の「徳川慶喜」、吉俣良の「篤姫」、佐藤直紀の「龍馬伝」(ヴォーカル:平野雅世)、林光の「花神」、富貴晴美の「西郷どん」が演奏される。

司会は、FM京都 a-stasionのDJである慶元まさ美(けいもと・まさみ)が務める。

NHK職員の息子であり、子どもの頃から大河ドラマを見ていて、自称「大河フェチ」の広上淳一の解説も聞き物である。


現在は「歴史秘話ヒストリア」となっている枠で流れていた「その時歴史が動いた」。詩人の谷川俊太路の息子で、作曲家の谷川賢作の作品である。
広上によると、「ラストで、取り上げられた人物の金言といいますか、箴言、まあ金言ですね。それが松平さん(松平定知アナウンサー)のアナウンスで流れて、最後にトランペットが鳴るところで涙を流す」と「自分自身の体験なってしまいましたが」語る。広上はよく泣く人のようである。

午前中にスタートするということで、広上は「おはようございます」と挨拶していた。


「八重の桜」。慶元が、同志社大学の創設者である新島襄の妻となった新島八重(山本八重)を紹介し、広上は「私の頭の中では綾瀬はるかになっています」と語る。
八重の兄である山本覚馬が西郷隆盛と仲良くなり、御所の北にあった二本松の薩摩藩邸跡地を安値で譲られて、新島襄の同志社が出来たという話を広上はする。

「八重の桜」のテーマ曲は、放送中であった2013年に、坂本龍一のピアノと栗田博文指揮東京フィルハーモニー交響楽団の演奏で聴いてことがある。新しくなったフェスティバルホールで聴いた初のコンサートであった。
尾高忠明指揮NHK交響楽団による本編用の音源でも、坂本龍一&栗田指揮東京フィルの演奏でも最初から壮大でドラマティックな展開となっていたが、今日の広上はそれらとは違い、一瞬一瞬の光の明滅を描いたかのような儚げなものであった。尾高や坂本&栗田が咲き誇る桜を描いたのとは対照的に、散りゆく花びらを音の変えたかのような演奏である。


「花燃ゆ」。吉田松陰の妹である杉文を主人公にした作品。広上は「私にとっては井上真央」。井上真央もこの作品の低視聴率があだとなったのか、最近はいい噂が聞こえてこない。
本編で指揮を行っていたのは、広上の弟子である下野竜也。下野竜也はNHKに気に入られているようで、その後も何度も大河ドラマのテーマ曲指揮を手掛けており、「真田丸」では謎の商人役(真田信之役の大泉洋に「誰?」と言われる)で出演までしてしまっている。「RAMPO」などの作曲家である川井憲次のメインテーマはドラマティックで良かったのだが、本編自体は脚本家を4人も注ぎ込むも音楽に負ける出来となってしまっていた。


「徳川慶喜」。作曲は20世紀の日本を代表する作曲家の一人であった湯浅譲二。現代音楽の要素を取り入れており、大河ドラマのメインテーマの中では取っつきやすい方ではない。広上は、徳川慶喜については「昔は余り好きじゃなかった」と語り、「軍事力は負けないだけのものを持っていたのに、兵を見殺しにして逃げて謹慎しちゃって情けない人だと思っていた」
ただ、「当時の列強に日本を乗っ取られる」危険性を避けるためと知ってからは見る目が変わったようである。
演奏前に、大政奉還の舞台となった二条城のCGがスクリーンに映る。
本編でもオープニングタイトルは個性的であり、江戸の写真や絵と共に縦書きの字幕が左から右へと流れていくという絵巻物手法が取られていたのを覚えている。


吉俣良の「篤姫」。21世紀に入ってからの大河の中では平均視聴率が最高を記録した作品である。広上は、「まさか岡田准一と結婚するとは思わなかった」と宮﨑あおいについて語る。
ちなみに影の脚本家を巡る噂のある作品でもある。
広上は、「地味だけど」と前置きしつつ、曲に関して褒める。
本編での指揮は井上道義で、耽美的な演奏を行っていたが、広上の指揮する「篤姫」は井上のものに比べるとスタイリッシュである。


佐藤直紀の「龍馬伝」。本編を指揮したのも広上淳一である。
佐藤直紀は、広上の東京音楽大学の後輩であり、教え子でもあるそうだが、「彼は私の授業には出ませんで」と広上は語る。「龍馬伝」のレコーディングの時に、佐藤は「あの時はお世話になりました」と言いに来たそうだが、広上が「そんなにお世話したっけ?」と返すと、「いや、最初の1回しか授業に出ていませんで、それで、『単位あげるよ』と言われたので、もう出ませんで」だそうである。広上は単位はあげたが、大学から授業に出ない学生に単位をあげたのが問題視されたそうで、翌年からは当該授業からは外されてしまったそうである。
佐藤は、インドやネパールなどの南アジアの「エキゾチックな」民族音楽を学ぶのが好きな人だそうである。

本編ではオーストラリアのミュージシャンであるリサ・ジェラルドがヴォーカルを担当していたが、今回は平野雅世がマイクなしのソプラノで歌う。
ただこの曲は、マイクありのヴォーカルで歌った方が効果的なように思えた。


林光の「花神」。大村益次郎こと村田蔵六を主人公にした作品である。「花神(かしん)」は「花咲か爺さん」の中国での呼称。自分は去ってしまうけれど咲かせた花は残るという姿を司馬遼太郎が花神に例えたものである。

広上は林光について「大天才」と最大級の賛辞を送る。林光は尾高尚忠の弟子であり、十代の頃からすでに尾高に認められていて鞄持ちなどをしており、東京芸大に入るも学ぶものが何もないため1年で中退して作曲活動に入ったという早熟ぶりについても話す。
基本的にオプティミスティック人であり、どんな時でも明るかったという。

「花神」は、現在は総集編のVTRのみが残っている。私も総集編のみDVDで見た。
林光は、作風が比較的平易なことでも知られ、どの作品でも明快な旋律を一番大事にしている。曲と広上の相性も良いようだ。


現在放送中の大河ドラマ「西郷どん」のオープニングテーマ。一昨日、岩村力指揮京都市交響楽団の演奏で聴いているため、聞き比べが出来る。
広上の指揮する「西郷どん」は、岩村のそれと比べて重層的であり、より多くの音が聞こえる。劇伴としては主題が明確に浮かぶ演奏が好まれる傾向にあるのだが、広上の解釈はクラシック作品に対するのと変わらないスタイルが貫かれているようだ。

全般を通していえることだが、広上の奏でる大河のメインテーマはどこか儚げで移ろいやすく、どんなに明るいメロディーや和音にも憂いが影に潜んでいるという日本人的美質が聴き取れる。まるで「桜」の美意識だ。

広上の大河指揮デビュー作も幕末ものの「新選組!」なのだが、残念ながら演奏はなし。「時の響」は時間の関係でアンコール演奏も一切なしのようである。


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2018年10月24日 (水)

コンサートの記(441) 「時の響」2018 前夜祭コンサート

201810月19日 京都コンサートホールにて

午後7時から京都コンサートホールで、「時の響」2018 前夜祭コンサートを聴く。

昨年から始まった「時の響」。もっとも昨年は、1日2回公演の特別コンサートで、音楽祭形式になったのは今年からである。京都コンサートホールでは現在「京都の秋音楽祭」が行われており、音楽祭内音楽祭という位置づけになる。今日明日明後日の3日間に渡って行われ、京都市交響楽団のみならず、大阪シオン・ウィンド・オーケストラ、オーケストラ・アンサンブル金沢の各オーケストラのコンサートが大ホールで、京都フィルハーモニー室内合奏団と室内楽による演奏会とサイレント映画の上映会がアンサンブルホールムラタで行われる。


前夜祭に当たる今日は、ソワレのコンサート。明日明後日は午前中から演奏会が行われる。


出演は、岩村力指揮の京都市交響楽団。ヴォーカル&ヴァイオリンソロはサラ・オレイン。

曲目は、第1部「明治期の世界の音楽 ジャポニズム・クラシック」が、ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲、マスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲、プッチーニの歌劇「蝶々夫人」よりハミングコーラス、ラヴェルの「海原の小舟」、ヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「美しく青きドナウ」。第2部「明治期の思想が描かれたドラマ、生まれたミュージカル作品」が、ロイド=ウェッバーの「オペラ座の怪人」セレクション、シェーンベルクの「レ・ミゼラブル」より“夢破れて”と“オン・マイ・オウン”(ヴォーカル:サラ・オレイン)、サラ・オレインの「ANIMAS」(ヴァイオリン独奏:サラ・オレイン)、久石譲のオーケストラのための「坂の上の雲」、久石譲のオーケストラのための「スタンド・アローン」~「坂の上の雲」より(ヴォーカル:サラ・オレイン)、富貴晴美の「西郷どん」オープニングテーマ曲。


通常のホワイエでは他に催し物があるため、チケットのもぎりは客席に入る直前で行われる。

今日と明日は、ホワイエで鍵盤男子によるオープニングアクトがあり、今日は、「ツァラトゥストラはかく語りき」&「ラプソディ・イン・ブルー」、ラヴェルの「ボレロ」や鍵盤男子によるオリジナル曲がピアノ連弾で行われた。


フェスティバルホールでの「映像の世紀」コンサートでもタクトを任されていた岩村力。クロスオーバーものは得意なようで、瞬発力の高いアスリート系音楽作りを見せる(いわゆる古典ではこのスタイルが足枷になっている可能性もある)。岩村はトークも達者であり、やはり今の時代は「話せる指揮者」が有利なようだ。

今日は1階席のみの発売。パイプオルガンの前にはスクリーンが下がっており、明治以来150年の歴史を語る国内外の写真、20世紀の画家による絵画作品、小説家や芸術家が残した言葉などが投影される。


明治150年、パリ市と京都市の友情盟約60周年を祝い、日本とフランスをテーマにした音楽とイベントが中心になる。

今日は特別に渡邊穣がコンサートマスターに入る。


1曲目はワーグナーの作品だが、岩村によると、第2回パリ万博が行われた1867年に「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が初演されたというで選ばれたそうだ。岩村は「日本史が苦手」だったそうで、事前に知識を入れてきたそうなのだが、「あれ? 明治の前なんでしたっけ? 慶応?(慶応で合っている) ケイなんとか」と楽団員に聞くも、楽団員も知らなかったりする(今は芸術大学の音楽学部や音大受験に地歴の知識は必要ない)。

マスカーニの「イリス」も同じ頃に初演されたというが、「イリス」を演奏するわけにもいかないので、「マスカーニといえば」の作品である「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲を演奏したそうだ。

日本を舞台にしたオペラということで「蝶々夫人」、葛飾北斎の富嶽三十六景より「神奈川沖浪裏」に影響された作品としてラヴェルの「海原の小舟」、祝祭的な雰囲気をということでヨハン・シュトラウスⅡ世の「美しく青きドナウ」が演奏される。ウィーン人の気質は京都人のそれに似ているとはよく言われることだが、ウィーンは残念ながら京都の姉妹都市ではない。

「蝶々夫人」のハミングコーラスではヴィオラダモーレがソロを取るため、演奏前に首席ヴィオラ奏者の小峰航一がヴィオラダモーレの紹介を行った。


第2部に出演するサラ・オレインは、オーストラリアの出身。シドニー大学を卒業後、東京大学に留学。2012年にメジャーデビューを果たしている。英語、日本語に堪能で、ヴァイオリニストや作曲家としても活躍。現代の日本における才女列伝のトップクラスに数えられる人である。今日は白のドレスで登場。
フランス語は話せはしないが読みは結構出来るそうである。なお、現在使っている楽器はフランス製で、オーストラリア生まれであるが「メイド・イン・パリ」だそうで、「余り深くは掘り下げないで下さい」とのことだった。坂本美雨が青森生まれながらロンドン生まれも名乗っているのと一緒だと思われる。

ちなみにサラ・オレインは、京都には留学生時代から何度も来ているそうで、「街並みが美しい」と感じており、そもそも日本に留学するきっかけとなったのは、「三島由紀夫の『金閣寺』を読んで感動して」だそうである。

「レ・ミゼラブル」からの2曲は低めの声、英語歌唱で行う。英語圏出身ということもあって、歌詞の内容を十全に把握した歌唱。歌い崩しも様になっている。
「スタンド・アローン」は一転して高めのシルキーヴォイスで歌う。とても心地よい声だ。

サラ・オレインが作曲し、ヴァイオリン独奏も務める「ANIMAS」。ドラマティックな作風で、劇伴作曲家としても成功出来そうである。ヴァイオリンの腕であるが、聴く分には申し分ないといったところ。協奏曲のソリスト達に比べるとダイナミックレンジの幅や細部の表現力で及ばないが、朝から晩まで攫っている人達と他の仕事もこなしながらヴァイオリン独奏もする人とでは違いが出るのは仕方ない。

現在放送中の大河ドラマ「西郷どん」オープニングテーマが演奏された後、アンコールとしてサラ・オレインのスキャット、オーケストラ伴奏による「西郷どん」より“わが故郷”が演奏される。
サラ・オレインの声からは、高い空、白い雲、川のせせらぎ、子どもの頃の声、田園の広がりといった日本の原風景が浮かんでくる。



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2014年3月10日 (月)

江口洋介と織田信長 「生きていた信長」

現在、大河ドラマ「軍師官兵衛」で、江口洋介が織田信長を演じていますが、江口洋介演じる信長というと、岩井俊二監督の中編映画「四月物語」の映画中映画として出てくる「生きていた信長」が真っ先に思い浮かびます。

「四月物語」は松たか子の初主演映画ですが、松たか子演じる楡野卯月が映画館で観たB級映画として「生きていた信長」は出てきます。場面は天王山の戦いに敗れた明智光秀(カールスモーキー石井=石井竜也)が、「秀吉は所詮一代限りの成り上がり者。天下を取るのは松平家康」と言ったところで、江口洋介演じる織田信長が現れて、「本能寺で死んだ者、あれは家康よ」と告げ、安土桃山時代の後には徳川時代が来るので自分が徳川家康として天下を取るというわけのわからない理屈を言い、光秀に斬ってかかるというものでした。

あれから20年近く経ちましたが、ようやく大河で江口信長が実現したことになります。

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2013年12月14日 (土)

芥川也寸志作曲 大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマ

今日、12月14日は赤穂浪士討ち入りの日です(旧暦だと別の日になりますが)。というわけで、大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマ曲をお聴き下さい。赤穂浪士関連の音楽としては最も有名な曲ですので、一度は耳にされたことのある方が多いと思います。作曲は芥川也寸志。芥川龍之介の三男で、芥川音楽賞にもその名を留めています。

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2013年5月17日 (金)

コンサートの記(88) Ryuichi Sakamoto Playing the Orchestra 2013 in Festival Hall

2013年5月7日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後7時から、大阪・中之島に再建されたフェスティバルホールで、festival hall オープニングシリーズ「Ryuichi Sakamoto Playing the Orchestra 2013 in Festival Hall」を聴く。2008年暮れに大植英次指揮大阪フィルハーモニー交響楽団ほかのベートーヴェン「第九」を最後に解体され、同じ場所に再建された新しいフェスティバルホールでの公演である。新しいフェスティバルホールはこの4月に完成したばかり、チョン・ミョンフン指揮フェニーチェ歌劇場の来日公演でこけら落としが行われ、日本の団体による初演奏は大植英次指揮大阪フィルハーモニー交響楽団ほかによるマーラーの交響曲第2番「復活」であった。「復活」は聴いておきたかったのだが、チケット争奪戦はやはり激しく、聴くことは叶わなかった。ということで、今日は再建後初のフェスティバルホール体験である。

 

新しいフェスティバルホールは、段差が低く、長いレッドカーペットの階段を上ったところに入り口があるのだが、このいわば大階段がお洒落でハレの感じを演出してくれる。

 

今日は3階、天井桟敷での鑑賞。いくら坂本龍一の公演でも良い席は値段が高すぎて食指が動かない。この3階席であるが、視覚優先のためか急傾斜であり、ステージを真上から見ているような錯覚に陥るので、高所恐怖症の人は少し怖く思うかも知れない。

 

大階段を上がったところが1階だが、席があるのは長いエスカレーターを上った先にある2階からであり、建物の2階が1階席という構造である。これはザ・シンフォニーホールや京都コンサートホールと一緒だ。長いエスカレーターは段差が低く、低速度で、お年寄りや子供にも負担がないよう配慮されている。多くの古いホールはトイレが狭いという問題を抱えているが(森ノ宮ピロティホールなどはトイレに関しては落第点である)、新しいフェスティバルホールはトイレは比較的広めである(ただし、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールよりは立地条件のためか狭い)。

 

3階ホワイエにはかつてのフェスティバルホールで最も使用頻度の多かったスタインウェイのピアノが展示されている。内部には先頃亡くなったヴァン・クライバーンのサインがあるという(写真で紹介)。このピアノを使ったことがあるソリストは、ヴァン・クライバーンを始め、リリー・クラウス、マウリツォ・ポリーニ、マルタ・アルゲリッチ、ブルーノ・レオナルド・ゲルバー、ヴィルヘルム・ケンプ、園田高弘など錚々たる顔ぶれが並ぶ。

 

さて、今回の坂本龍一「Playing the orchestra 2013 in Festival Hall」(アナウンスのお姉さんが「プレイング・ザ・オーケストラ」と言ったのには「???」であったが)であるが、オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。このオーケストラはオペラのピットに入ることも多く、NHKとも繋がりがあるので「名曲アルバム」のためのレコーディングを行っていたり(そのため、今はどうか知らないが以前は、N響からの引き抜きがあったという)、日中関係最悪の昨年に、中国のシンガーソングライター・艾敬(今は画家としての活動がメインになっているようである)の北京でのコンサートのバックを何故か務めていたりと、様々な仕事を請け合うことの多い楽団である。新星日本交響楽団を吸収合併しているが、楽団員、指揮者ともにリストラは行われなかったため、大所帯である。1990年代に突如として「どう考え立った詐称だろう」と思われる「日本最古のオーケストラ」を標榜し始めたが、NHKとの関係が良好なためか、N響から苦情はおそらくなかったのであろう。ということで、現在も日本最古のオーケストラを称している。
「Playing the Orchestra」は、1988年に第1回が行われ、映画「ラストエンペラー」の音楽と坂本のそれまでの代表曲を坂本自身のオーケストラ編曲によるコンサートが開催された。指揮は当時、新進気鋭の若手であった大友直人で、オーケストラは東京交響楽団である。ライヴ録音が行われ、CDは一度廃盤になった後、再発されており、私は再発盤を持っている(現在はまた廃盤になっているようだ)。

 

その後、1997年にも「Playing the Orchestra」コンサートは開催されているようである。坂本は新しいフェスティバルホールの音響について「音も美しくなった」と語った。

 

今回も坂本本人によるオーケストラ編曲がメインだが、「TRACE」、「Afrer All」、「happy end」の3曲は山下洋輔の推薦により挟間美帆が編曲を手掛けている。

 

指揮を務めるのは栗田博文。坂本はピアノと、第1曲である「Kizuna」だけはチェンバロを演奏する。

 

ほぼフル編成のオーケストラによる演奏だが、PAを使っており、フェスティバルホールの本当の音響を知ることは出来なかったが、聴いた限りでは素直でクリアな音のするホールである。内装は、舞台のみ白木で、他の壁や天井はブラウンを基調にしている。座席の色は鮮やかなスカーレット。二人掛けのボックス席も左右両側に4席か5席あるが、今日は全て黒幕が被せられていて未使用である。

 

セットリストは、「Kizuna」、「Still Life」、「solitude」、「美貌の青空」、「Amore」、「castria」、「0322C♯minor」、「TRACE」、「Afrer All」、「happy end」、「bolerish」、「一命」、NHK大河ドラマ「八重の桜」より“八重のテーマ”&“メインテーマ””(なお、坂本はニューヨーク在住のため、手掛けたのはこの2曲だけであり、他の曲は坂本が推薦した中島ノブユキが作曲している。「八重の桜」のオリジナル・サウンドトラックはすで発売されているが、NHK交響楽団とピアノ:坂本龍一、篠笛:福原友裕は、アルファベット表記されているものの、何故か指揮者の尾高忠明の名前はクレジットされていない)
「戦場のメリークリスマス(Merry Christmas Mr.Lawrence)」
「ラストエンペラー」より“rain(I want to divoce)”&“メインテーマ”

テレビでも、サウンドトラックでも聴いている「八重の桜」メインテーマであるが、生で聴くと背中がゾクゾクする。不思議なものである。

「Still Life」は奏者一人一人が別の旋律を奏でるという、教授が元々は現代音楽作曲家志望だった名残を感じさせる作品である。

「happy end」はYMOの「BGM」に収められた曲だが、坂本曰く「当時は捻くれていたので、シンセサイザーでぐちゃぐちゃにしてよくわからないと言われた」。その後、ピアノソロアルバムにも収められ、メロディー自体はよく知られるようになった曲である。80年代に流行ったミニマル音楽に影響を受けた曲だ(ミニマル音楽の創始者はイギリス人のマイケル・ナイマンであるが、ナイマンが映画「ピアノ・レッスン」の音楽でロマンティックでセンチメンタルな音楽に転向したのが面白くなかったのか、坂本はのちにナイマンのことをこき下ろしている)。

市川海老蔵が主演を務めた映画「一命」のメインテーマは、「海老蔵が主演ということで、話題になるかと思ったら、話題にならなくて。曲はいいものが書けたぞと思ったのだが、映画音楽は映画が評判にならないと評価されないので」と残念そうに言いつつ演奏スタート。途中で立ち上がり、ピアノの鍵盤ではなく、ピアノ線そのものを棒で叩いたり、指で弾いたりする特殊奏法を用いた曲であった。

また、映画「ファムファタル」の音楽である「bolerish」は「ラヴェルの『ボレロ』そっくりの曲を書いてくれ」と監督に言われ、「禁を犯して」書いたとのこと。スネアドラムによるリズム打ちはないが、メロディーは「ボレロ」のそれを少しずらして書かれている。

 

アンコールは2曲。栗田博文ではなく坂本龍一の指揮で(ノンタクト)人気曲である「シェルタリング・スカイ」と「AQUA」の2曲が演奏された。

なお、セットリストは終演後、数カ所に張り出されており、それを見たりケータイのカメラに収めたりするために行列が出来ていた。

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