カテゴリー「邦楽」の14件の記事

2019年12月 2日 (月)

コンサートの記(610) 以和貴会演奏会「欣求浄土~天台聲明と天王寺楽所」

2019年11月25日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後6時30分から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、以和貴会演奏会「欣求浄土~天台聲明と天王寺楽所」を聴く。
天王寺楽所(てんのうじがくそ)は、四天王寺ゆかりの聖徳太子の時代にまで遡る歴史を誇る雅楽集団である。内裏の大内楽所、奈良の南都楽所と共に三方楽所に数えられていた。だが、明治になって三方楽所の楽師達は東京に召され、雅楽局の団員となる。雅楽局の後継団体が宮内庁式部職楽部(宮内庁雅楽部)である。このため、天王寺楽所の歴史も途絶えそうになったが、これを憂いた有志が雅亮会という団体を結成。事務所を大阪木津の浄土真宗本願寺派願泉寺に置き、天王寺楽所を名乗ることを四天王寺から許されている。平成26年に雅亮会の維持のため以和貴会が結成され、天王寺楽所の名は以和貴会の演奏時の名前となったが、この12月の頭に再統合されて、天王寺楽所雅亮会としてスタートする予定である。
事務所が願泉寺内に置かれているためか、浄土真宗本願寺派の大学で音楽学部のある相愛大学の特別受け付けが設けられていたりする。


曲目は、第1部が「欣求浄土の響」と題され、講式「順次往生講式『述意門』より」、極楽声歌「萬歳楽(只拍子)」、聖衆行道「付楽 菩薩」、舞楽「迦陵頻伽」
第2部が「念仏會」で、舞楽「振鉾(合鉾)」、聲明「引聲阿弥陀経(散華)」、雅楽「賀殿」、聲明「引聲阿弥陀経(四奉請)」、舞楽「還城楽」、退出音声「長慶子」


まず、天王寺楽舞協会常任理事で以和貴会副会長の小野真龍から本日の舞台の解説がある。第1部の前半は往生に向かう道であり、力尽きて途中で緞帳が降りる。その後は極楽の描写となり、極楽の音楽である雅楽が鳴って、迦陵頻伽達(少年達が扮する)の舞となる。

第1部前半は、舞台後方に四天王寺の鳥居と、その上に被さるような夕陽が映されている。夕陽を見ながら極楽を思い浮かべる日想観(じっそうかん)である。夕陽は徐々に沈んでいき、下にまで達したところで声歌が終わって緞帳が降りる。
舞台下手から楽師達が登場。演奏途中で、上手の者から順に緞帳の側に向き直る。全員が緞帳の側を向いたところで、緞帳が上昇。舞台背後には今度は阿弥陀来迎図が浮かんでいる。

少年達による「迦陵頻(迦陵頻伽)」の舞は可憐であった。


第2部は背後に阿弥陀如来像の絵が浮かんでいる。

鉾を持った二人の男の舞の後で、僧侶達が登場し、阿弥陀経と唱えつつ散華を行う。花は紙で出来たものを撒いているようだ。

舞楽「賀殿」。4人の男達による勇壮な舞である。舞人達は戻る時に一人一人阿弥陀如来を見上げてから立ち去っていった。
終わった後で、今のことが全て夢だったかのような不思議な感慨にとらわれる。

再び僧侶達による阿弥陀経が唱えられた後で、今度は仮面を被った男による豪快な舞「還城楽」が行われる。とぐろを巻いた蛇を手にしての舞であり、蛇は迦陵頻伽を舞っていた少年の一人が手渡す。おそらく音楽の神様である弁財天とも関係があるのだろう。
同じ古代の舞踏をモチーフにしているためか、音やリズムがストラヴィンスキーの「春の祭典」を連想させるようなものであるのも面白い。
舞は3部に分かれ、徐々に楽器の厚みが増していく。第3部の重厚な音楽は黛敏郎の「舞楽」に近い迫力を持つ。
さて、舞人はステージ下手手前の仮花道から退場するのであるが、仮面をつけているため前がよく見えず、壁に激突するなどかなり危なっかしい。

最後は、「長慶子」。夢枕獏の『陰陽師』でもお馴染みの源博雅が作曲したという華やかな曲である。

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2019年4月30日 (火)

観劇感想精選(298)「伝統芸能の今」2014

2014年5月11日 京都芸術劇場春秋座にて観劇

午後3時30分から京都芸術劇場春秋座で、「伝統芸能の今」2014を観る。「ゴールドリボン+世界の子どもにワクチンを」チャリティー企画である。今回は三代目市川猿之助(現・二代目市川猿翁)に続き、春秋座の二代目芸術監督に就任した四代目市川猿之助によるプログラムである。出演は、市川猿之助の他に、上妻宏光(三味線プレイヤー)、茂山逸平(能楽師狂言方)、亀井広忠(能楽師囃子方)、田中傳次郎(歌舞伎囃子方)ら。

開演前に出演者がホワイエで、パンフレットを売ったり募金を募ったりしている。

まず、上妻宏光による津軽三味線独奏で、「津軽じょんがら節」、上妻の作曲による「紙の舞」(スパニッシュギターからの影響が感じられる曲である)。上妻の津軽三味線であるが、クラシックギター奏者でさえも凌ぐほど左手の動きが大きく、速い。人間の指の動きとは思えないほどに迅速である。
続いて、茂山逸平の舞と上妻宏光、亀井広忠、田中傳次郎によるコラボ奉納舞「三番三(さんばそう)」。茂山逸平の動きは極めてスムースであり、メリハリもくっきりしている。

次は、市川猿之助と上妻宏光、田中傳次郎による舞「空破(くうは)」。猿之助のしなやかな舞を堪能できた。

前半最後は、猿之助が二代目市川亀治郎時代に武田信玄役で出演した大河ドラマ「風林火山」にインスパイアされて、猿之助自身が振付を行った創作舞踊「風林火山」。上妻宏光の津軽三味線生演奏と、オーケストラ演奏の録音による大河ドラマ「風林火山」メインテーマ(作曲は、京都芸術劇場春秋座を持つ京都造形芸術大学の先代の学長だった千住博の実弟・千住明である)に乗せて猿之助が舞う。甲斐武田氏というと騎馬武者軍団が有名であり、荒事を取り入れた勇壮な踊りになるかと予想したが、実際はそれとは正反対のたおやかな舞いであった。

10分の休憩を挟んで、メインの4人によるトーク。福山雅治から贈られた襲名披露記念幕をバックに、会話が行われる。春秋座では、四代目猿之助の芸術監督襲名に当たり、イメージキャラクターを作ろうと企画が立ち上がり、瓜生山学園(京都造形芸術大学+京都芸術デザイン専門学校)の学生が描いたキャラクターの中から事前に11点が選ばれ、観客に投票用紙が配られて、良いと思ったキャラクターに投票して貰い、得票数の多かったキャラクター3つの中から猿之助自身が採用するものを決める。キャラクターというと可愛らしい画が採用されやすいので、造形大のマンガコースの学生が描いたものが多い。

トップ3は、エントリーナンバー1の源九郎狐をキャラクターにしたもの、エントリーナンバー5の鼓に猿の顔を描いたもの、エントリーナンバー10の猿之助が舞う姿をマンガタッチで描いたもの(マンガコースの学生の作品である)であった。
ドラムロール後に猿之助から発表が行われるのであるが、ドラムロールが太鼓によるもので、猿之助は「これじゃお化けだよ」と言う。
選ばれたのは情報デザインコースの女学生二人組の作成によるエントリーナンバー1の源九郎狐をモチーフにしたものであった。人間らしさが一番希薄なキャラクターではあるが、猿之助は「京都には伏見稲荷もあり、これが一番京都らしい」と選定理由を述べた(実際は、京都人の意識としては伏見稲荷はあくまで伏見のもので京都とは別というものも根強いようである)。

邦楽というものは、ミニマルミュージックに近いものがあり、同じ音型が何回も繰り返されるため、演奏する側も舞う側も「どこで終わるんだろう」と勘定を付けるのが難しいという。茂山逸平は笛の音型でどこまで進んだかを把握しているそうだ。上妻宏光は劇伴の経験は少ないが、「三番三」のラスト近くで狂言方が飛び上がる場面があるので、そこから推測しているようである。
ちなみに、チャリティーのために集まった募金額は、初日である昨日が48万円台、今日の第1回目の公演が47万円ちょっとであるが、今日2回目の公演となる今回は26万円程度しか集まっておらず、田中傳次郎は、「あと20万円ぐらい集まらないと、この後、猿之助さん出てきません」と言う(昨日と今日の1回目の公演は、休憩時間と終演後に行われた募金も多いだろうから、この回だけ吝嗇家が集まったというわけではないと思われる)。

後半、歌舞伎と狂言による「石橋(しゃっきょう)」。「石橋」は狂言と歌舞伎の両方であるが、内容は少し違う。今回は前半が茂山逸平による仙人を主人公にした狂言、後半が猿之助による浄土の獅子の舞となる。前半と後半に関連性が余りないが、ストーリーで魅せる作品ではないので特に気にはならない。
天竺から来た仙人(茂山逸平)が、唐の清涼山にある文殊菩薩の浄土の入り口に辿り着く。現世と清涼山の間にあるのが、自然が作り上げた石橋(しゃっきょう)だ。幅は一尺(約30cm)ほどしかなく、橋の上は苔むしていて鳥でさえ滑って留まることは出来ないという。仙人は石橋に挑もうとするが結局諦める。
その後、清涼山に住む獅子(市川猿之助)が現れ、蝶二匹(猿之助の弟子が務める)を従えながら舞う。春秋座は歌舞伎用の劇場なのでセリがあり、今回の「伝統芸能の今」2014ツアーの中で唯一、春秋座でだけ猿之助はセリを使って現れる。「石橋」は「連獅子」のモチーフになった作品だけに、猿之助は首を何度もグルグルと回して観客からの喝采を浴びた(猿之助自身が以前、テレビ番組で話していたことだが、「連獅子」をやると目が回ってしまい、終演後に嘔吐してしまうことも珍しくないという)。

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2019年4月21日 (日)

第70回京おどり 「夢叶京人形」全八景 2019

2019年4月15日 宮川町歌舞練場にて

第70回京おどりを観る。宮川町歌舞練場にて午後4時30分開演の回。
今年のタイトルは「夢叶京人形」全8景。作・演出:北林佐和子、作曲:今藤長十郎、作舞:若柳吉蔵。第1景から第4景までが「不思議の国の京人形」、第5景が「弥栄(いやさか)の春」、第6景が「天下(あめのした)祝い唄」、第7景が「秋の音色」、第8景がお馴染みの「宮川音頭」である。

「不思議の国の京人形」は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』をベースに歌舞伎「京人形」を組み合わせた舞踊劇であるが、男と女が主人公になることや姿格好などから泉鏡花の『天守物語』(変換したら「店主物語」となった。なんだそりゃ?)を連想させる作品である。関係があるのかどうかは知らないが、第4景では姫路城の天守も現れる。
真夜中。城の中の人形の間で、太夫、藤娘、汐汲、娘道成寺の4人(?)の人形が舞い遊んでいる。そこへお小姓の仙千代がやってくる。仙千代は幼い姫とまりをついて遊んでいたのだが、まりをなくしてしまい、姫は大泣き。まりを見つけられなかった時は切腹と決まったため、この部屋に探しに来たのだ。人形たちは仙千代を哀れに思い、一緒に城内を探し回ることにする。

花札の絵から飛び出してきた小野道風なる人物と加留多遊びをすることになったり、チェシャ猫にあたる猫の君やまぼろし姫たちとまりの奪い合いをするというファンタジックな物語である。
巨大なまりが左右に揺れたり(あさま山荘事件とは無関係だと思われる)、加留多の絵の描かれた戸板返しが行われたりと、趣向も面白い。
物語のある舞は宮川町が本場であり、祇園甲部よりも見せ方が優れているように思われる。

「弥栄の春」では、芸妓たちが鈴を鳴らしながら平成と新元号・令和の御代を祝い、「天下祝い唄」に繋がっていく。日本地図の描かれた襖が現れ、「目出度の若松様よ」と「花笠音頭」の東北、祇園や清水という京名所、義経と静御前ゆかりの吉野の桜などがうたわれる。

舞妓たちが総登場の「秋の音色」。舞では芸妓には及ばないかも知れないが、場内の雰囲気をガラリと変える新鮮な空気が秋に繋がる。

「宮川音頭」。総踊りである。儚さを通り越して悲しさを感じるのは、五花街のおどりの中で京おどりだけかも知れない。
美しいが夢だとわかっている夢を見ているような気分になる。

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2019年4月10日 (水)

南座新開場記念 都をどり 「御代始歌舞伎彩」2019年4月5日

2019年4月5日 京都四條南座にて

午後4時30分から、京都四條南座で都をどりを観る。
祇園甲部歌舞練場が耐震対策工事中ということで閉鎖されており、昨年一昨年は北白川の京都芸術劇場春秋座で公演が行われた都をどり。今年は新開場記念も兼ねた南座での開催となる。南座はロビーが狭いということで、今年はお茶席はなく、お茶菓子の皿プレゼントもないが、その代わりパンフレットは無料で配布されている。

昨年の春秋座での公演では、CGを使ったり「アナと雪の女王」を題材にしたりといった新しい試みを行った都をどり。春秋座が京都造形芸術大学の劇場ということで、京都造形芸大の教授でもある井上八千代が若者の取り込みを図ったのかも知れないが、学生らしき人々の姿は客席には見えず、新演出は常連客から大不評ということもあり、今年は揺り戻しからか保守的な内容になっている。それが全体として平板な印象を生んでいたようにも感じられる。

チケットを取るのが遅かったため、今日は2階の上手サイドの席の2列目。前列はラテン系と思われる外国人の一家である。舞台はそれほど良くは見えないが、花道での踊りは楽しめるため、この席を選んだ。舞台下手端で、ジャケットを着たおじさんが鳴り物に指示を出していたり、鈴を鳴らして演奏しているのが見えるのがシュールで楽しかったりする。

演目は置歌に続き、「初恵美須福笹配」「法住寺殿今様合」「四条河原阿国舞」「藁稭長者出世寿」「桂離宮紅葉狩」「祇園茶屋雪景色」「大覚寺桜比」の計8景。今は会えぬ人を偲ぶ内容の曲がいくつかあり、それが「大覚寺桜比」での華やかさと表裏一体の儚さにも繋がっている。

「大覚寺桜比」は、舞台上に桜の樹が並ぶ、舞台上方からも桜の枝が垂れていて今の季節に相応しい飾りであるが、稽古を重ねることで上半身がぶれずに速足で移動することの出来る芸妓達を見ていると、人間というより桜の精に出会ったかのような不思議な感覚に陥った。

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2019年2月21日 (木)

京都芸術センター「継ぐこと・伝えること62 『享楽×恍恍惚惚』―男舞・女舞―」 中村壱太郎

2019年2月11日 京都芸術センター講堂にて

午後2時から京都芸術センター講堂で、「継ぐこと・伝えること62 『享楽×恍恍惚惚』―男舞・女舞―」を観る。出演は中村壱太郎(かずたろう)。若手を代表する女方(女形)の一人である。

中村壱太郎は、四代目中村鴈治郎の長男である。1990年生まれ。本名は林壱太郎。
中村鴈治郎家は上方の名跡だが、すでに東京に移住しており、壱太郎も東京生まれの東京育ちである。屋号は成駒屋で、私が観た時には、「小成駒!」という声が掛けられてもいた。2014年に、日本舞踊吾妻流の七代目家元、吾妻徳陽(あづま・とくよう)を襲名している。

プログラムは、創作長唄「藤船頌(とうせんしょう)」、レクチャー・ワークショップ「日本舞踊とは」(中村壱太郎&広瀬依子)、休憩を挟んでレクチャー「日本舞踊の音楽について」(中村壱太郎&中村壽鶴)、長唄「島の千歳」


創作長唄「藤船頌」。歌詞は事前に観客に配られている。唄:杵屋禄三、今藤小希郎。三味線:杵屋勝七郎、今藤長三朗。立鼓:中村壽鶴。笛:藤舎伝三。
主人公はお公家さんだそうである。春の海辺を謳ったもので、藤の紫と海の青が一体となって賛嘆される。

壱太郎は、紋付き袴で登場。強靱な下半身に支えられていると思われるブレのない舞踊を行う。西洋の舞踊は体を大きく見せる方向に行きがちだが、日本舞踊は両手や体を最短距離で動かす無駄のない動きが特徴的であり、好対照である。
扇には表に墨絵の藤、裏に波の絵が描かれている。藤が墨絵なのは、彩色すると「女っぽく見えてしまうから」「藤が面に出過ぎるから」という2つの理由があるらしい。


元「上方芸能」誌の編集長、広瀬依子を進行役としたレクチャー・ワークショップ「日本舞踊とは」。壱太郎は私物だというMacのノートパソコンを使ってスライドを投影し、解説を行う。

まずは歌舞伎の歴史から解説。出雲阿国の阿国歌舞伎から若衆歌舞伎を経て、現在まで続く野郎歌舞伎に至るまでの歴史が簡単に解説される。
歌舞伎の元祖は出雲阿国による阿国歌舞伎で、これは舞踊である。女性が男装をした舞うものだったのだが、「風紀が乱れる」ということで廃止になり、若衆歌舞伎へと移行する。若衆歌舞伎は、壱太郎曰く「ジャニーズ系」のようなもので、「美しいものを見たいが、女性は駄目となると未成年の男性」に目が行くということだったのだが、この時代は同性愛は一般的なことであるため、やはり風紀上よろしくないとのことで禁止され、「成人男性によるちゃんとしたお芝居なら良い」ということで野郎歌舞伎が生まれる。
歌舞伎は江戸の歌舞伎と上方の歌舞伎に分かれるが、江戸が英雄を登場させてポーズで見せるという外連を重視するのに対し、上方歌舞伎は庶民が主人公で日常を主舞台にするという違いがある。

日本舞踊、吾妻流についても解説が行われる。吾妻流は日舞の中では傍系で、元々は女性の歌舞伎踊りとして始まり、現在も門人の99%は女性だそうだ。ただ、その家元となった壱太郎(=吾妻徳陽)が男性ということで複雑なことになっているらしい。
吾妻流は、江戸時代中期に始まっているがいったん途絶えている。再興されたのは昭和に入ってからで、十五代目市村羽左衛門の娘である藤間春枝が吾妻春枝として興したのだが、十五代目市村羽左衛門の実父は白人とされており、壱太郎にも白人の血が流れているかも知れないというロマンがあるそうである。
壱太郎の大叔父に当たる五代目中村富十郎が吾妻徳隆(とくりゅう)を名乗っており、壱太郎の舞踊名も漢字が似たようなものをということで、徳陽になったそうだ。舞踊名にはもう一つ候補があって、壱太郎が慶應義塾出身ということで、「徳応ではどうか」というものだったのだが、壱太郎は「徳応だと偉そうな感じがする」というので徳陽に決まったそうだ。
「陽」の字はご年配の方の名前には余りつかないということで若々しさも感じられる良い名前だと思う。

その後、韓国で収録されたという壱太郎による舞踊「鷺娘」の映像がスクリーンに投影される。女方にとって映像、それも4Kを超えて8Kとなると女ではないことがはっきりわかるので困ったことになってしまうそうだ。
「鷺娘」は衣装の早替えがあるのだが、海外で上演すると拍手が貰えないという。「Wow!」という驚嘆の反応になってしまうそうだ。
女方の理想は、「女になり切って演じるのではなく、女らしさを追求する」というもので、「矛盾した」難しいものである。女らしさを演じるために腰を落とした上で良い姿勢を保つことが肝要なようである。女らしい仕草をするために常に内股であることを心がけてもいるそうだ。


休憩後、立鼓の中村壽鶴と壱太郎によるレクチャー「日本舞踊の音楽について」。壽鶴は鼓をばらしてみせる。普段はばらした形で持ち歩いているそうだ。
鼓の皮は何の皮を使っているかということがクイズ形式で観客に出され、壱太郎が、「土日の新聞をチェックしている人はわかるかも知れません」とヒントを出し、壽鶴も「淀駅に行く方はわかるかも知れません」と続ける。淀駅は京都競馬場の最寄り駅である。ということで正解は馬の皮。往時は馬が最も身近な動物だったようである。ちなみに今日、壽鶴が持っている鼓の胴は江戸時代製、皮の部分は安土桃山時代に作られたもので、かなりの値打ちもののようだ。
鼓は乾燥すると音が高くなるため、息を吹きかけて湿らせ、音を調整するそうである。


長唄「島の千歳」。唄は杵屋禄三と今藤小希郎、三味線が杵屋勝七郎と今藤長三朗、立鼓が中村壽鶴である。
白拍子を主人公とした女舞。白拍子に見せるため、壱太郎は長絹を纏っての登場である。
白拍子も阿国歌舞伎同様、男装した女性が舞を行うものだが、男性である壱太郎が男装した女性を演じるということで、幾重にも転倒した状況を生んでいる。抒情と艶を二つながら生かした典雅で妖しい舞となる。



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2019年1月13日 (日)

観劇感想精選(286) 紺野美沙子の朗読座「新春公演2019 源氏物語の語りを愉しむ ―紫のゆかりの物語」@びわ湖ホール

2019年1月5日 びわ湖ホール中ホールにて観劇

午後2時30分から、びわ湖ホール中ホールで、紺野美沙子の朗読座の公演「新春公演2019 源氏物語の語りを愉しむ ―紫のゆかりの物語」を観る。出演は、紺野美沙子(朗読とおはなし)、陣野英則(解説。早稲田大学文学学術院教授)、中井智弥(二十五絃箏、箏)、相川瞳(パーカッション)。演出は篠田伸二。

『源氏物語』から、第一ヒロイン的存在である紫の上(紫式部という通称の由来とされている)を中心とした恋物語のテキスト(早稲田大学名誉教授である中野幸一による現代語訳である『正訳 源氏物語』を使用)を用いた朗読公演である。

まずオープニング「新春を寿ぐ」と題した演奏がある。中野智弥作曲・演奏による箏曲「プライムナンバー」という曲が演奏され、その後、主役である紺野美沙子が現れて、中野とトークを行う。紺野美沙子は『源氏物語』ゆかりの帯を締めて登場。その写真が後方のスクリーンに映される。昨日、西宮の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで公演を行ったのだが、「もっと近くで帯の柄を見たい」という声があったため、今日は写真をスクリーンに投影することにしたそうである。前側が「浮舟」、後ろ側がおそらく葵祭の車争いの場面の絵柄である。着物の柄も平安時代を意識したもので、貝合の貝を入れる貝桶の絵が鏤められている。紺野は、『源治物語』の現代語訳を多くの人が行っているという話をするが、瀬戸内寂聴の紹介は物真似で行っていた。
中野が、「プライムナンバー」という曲名の解説を行う。「プライムナンバー」は「素数」という意味で(紺野美沙子はにこやかに、「素数。ありましたね」と語る)、4分の2拍子、4分の3拍子などの2や3が素数であると語り、素数の拍子を用いたこと、また箏は13弦で13は素数であることなどを語る。

ちなみに、『源氏物語』の主人公である光源氏は箏の名手であり、演奏を聴いた女性達が涙を流して感動したという話を中野がすると、紺野は、「あら? じゃあ、中野さんは、平成の光源氏?」と冗談を言い、中野も「そうだと嬉しいんですが。ローラースケートを履いてる方(光GENJI)じゃなく」と冗談で返す。紺野は、「次の時代もご活躍を」と更に畳みかけていた。

それから、二十五絃箏の紹介。邦楽は通常はペンタトニック(五音階)であるが、二十五絃箏は西洋のドレミの十二音階を奏でることが出来るそうである。

その後、パーカッショニストの相川瞳も登場。今日は25種類の打楽器を使うそうで、日本生まれの打楽器として木魚と鳥笛を紹介していた。

紺野美沙子は、有閑マダム層が使うような言葉遣いであったが、意識していたのかどうかはわからない。

その後、第1部のトークセッションに移る。ゲストは早稲田大学文学学術院教授の陣野英則。今日使用するテキストの現代語訳を行った中野幸一の弟子だそうである。
陣野は、『源氏物語』を長編大河小説と位置づける(紺野美沙子 「橋田壽賀子もびっくり」)。1000年前にこれほど大部の恋愛フィクションが書かれた例は海外にも存在せず、しかも作者が女性というのが凄いという話になる。海外ではこの時代、歴史書や叙事詩、戦争物や回顧録、エッセイ、日記文学などは書かれていたが、大部のフィクションの名作が現れるのはずっと後になってからである。

『源氏物語』がわかりにくいのは、古文ということもあるが、人間関係が入り組んでいるということを上げる。登場人物は450名ほどに上り、主人公の光源氏があちらと関係を持ち、こちらとも契りを結びということをやっているため、男女関係が滅茶苦茶になっている。ただ、陣野によると光源氏が素晴らしいのは、関係を持った全ての女性の面倒を見ることだそうで、ドン・ファンなど他の好色家には見られないことだとする。
スクリーンに人物関係図や男女関係図を投影しての説明。わかりやすい。
紺野美沙子は、「私、慶應義塾大学文学部国文科卒ということで、色々わからないといけないんですが、資料が多いもので、大和和紀先生の漫画『あさきゆめみし』で読んだ」と伝えると、陣野は、「今の学生は、ほぼ全員、『あさきゆめみし』から入っています」と答えていた。

第2部が今日のメインとなる「朗読と演奏」になる。

二十五絃箏の中井智弥は、東京藝術大学音楽学部邦楽科卒。伝統的な箏や地歌三絃の演奏も行いつつ、二十五絃箏の演奏をメインに行っている。2016年には三重県文化奨励賞を受賞。

パーカッションの相川瞳も東京藝術大学音楽学部出身。2007年にブルガリアで開催されたプロヴディフ国際打楽器コンクールDuo部門で2位入賞(1位なし)。大友良英 with あまちゃんスペシャルビッグバンドのメンバーとして紅白歌合戦に出場したこともあり、2019年の大河ドラマ「いだてん」オープニングテーマの演奏にも加わっている。

「いづれのおんときか女御更衣あまたさぶらいける中に、いとやんごとなききわにはあらねど、すぐれてときめきたもふありけり」の出だしからスタート。
光源氏と紫の上の出会い(といっていいのかな?)である「若紫」、光源氏と紫の上との初枕が出てくる「葵」、光源氏が須磨へと下り、紫の上と離ればなれになる「須磨」、源氏と結ばれた明石の君と、明石の姫君が大堰へと上る「松風」、光源氏と帝の娘である女三の宮が結婚することになるという「若菜上」、紫の上がみまかる「御法」と光源氏の死が暗示される「幻」の各帖から選ばれた文章が読まれ、和歌とその現代語訳が読み上げられる。映像も多用され、想像力の補完を行う。

紺野美沙子の朗読に凄みはないが、的確な読み上げは流石は一流女優の技である。テキストの背後にある心理をもさりげなく炙り出してみせる。

紫の上という女性の「女であることの哀感」と、光源氏の紫の上への愛と、愛するが故の切なさがありありと伝わってくる朗読であり、聞いていて一途に悲しくなったりもする。これが大和心の真髄の一つである「もののあはれ」だ。
哀しみと同時に、日本という国で生まれ育ったことの喜びが胸を打つ公演でもあった。

バラ色に彩られた雲が覆う琵琶湖の湖畔を歩いて帰途に就く。

 

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2018年4月14日 (土)

第69回京おどり 「天翔恋白鳥」全8景 2018年4月12日

2018年4月12日 宮川町歌舞練場にて

午後2時30分から、宮川町歌舞練場(東山女学園内)で、第69回京おどり「天翔恋白鳥(あまかけるこいのはくちょう)」全8景を観る。

宮川町の京おどりはかなり以前に一度観たことがある(調べてみたところ11年前である)。京都の五花街の中で京おどりだけ表記が異なるが(他は「をどり」表記)、何故なのかはわかっていないようである。

宮川町は、以前は祇園や先斗町よりも格が低いとされてきたが、芸舞妓を積極的に育てたり、映画などとのタイアップを図るなど、「舞妓さんにあえるまち」というキャッチフレーズを掲げて、舞妓シアターをプロデュースするなど、イメージアップ戦略に取り組んでいる。

「天翔恋白鳥」。第1景から第4景までは、「恋白鳥」が上演される。伊勢国で息絶えてから白鳥となって飛び立ったという伝説のある日本武尊と、「白鳥の湖」を掛け合わせた物語が展開される。黒鳥は夜烏という傾城とその手下として現れる。白と黒の視覚の対比が鮮やかである。

第5景は「ご維新百五十年」。今年が明治になってから100年に当たるということで幕末から維新に掛けての京が歌い踊られる。最初と最後の「おはようおかえりやす」は御所さん(天皇)に向けた言葉だと思われる。

芸妓3人が電車ごっこの要領で腕を回しながら登場する「京おどり 鉄道唱歌」。「鉄道唱歌」がメロディーを変えて歌われる。背景の幕が動き、富士や海、そして京都タワーが現れるのも楽しい。

舞妓さん達による「いろはにほへと」。京踊りの背景は全般的に淡い色のものが用いられており、耽美的で幻想的な味わいがあるが、「いろはにほへと」の登場する舞妓さん達の着物も淡い色のものが用いられており、柔らかで可憐な印象を受ける。

京おどりの名物であるラストの「宮川音頭」。「ヨーイ、ヨイヨイ」という声は「威勢が良い」と評されることもあるが、私の耳にはどこか哀しく響く。

儚げな、桜の精達の宴に迷い込んだような気分になった。



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2017年5月16日 (火)

第180回「鴨川をどり」

2017年5月10日 先斗町歌舞練場にて

午後4時10分から、先斗町歌舞練場で、第180回「鴨川をどり」を観る。明治5年に始まった鴨川をどりは、以前は春・秋の年2回公演を行っていたため、五花街の舞踏公演の中でも最多の公演数を誇っている。他の花街の踊りに比べて演劇的要素が濃いのが特徴。

鴨川をどりを観るのは約12年ぶりである。


今回の演目は、「源平女人譚(げんぺいにょにんものがたり)」と「八千代壽先斗町(やちよはなのぽんとちょう)」。作:今井豊茂、振付:尾上菊之丞、作曲:常磐津文字兵衛、作詞:藤舎呂船&藤舎名生。

「源平女人譚」は、木曽義仲(源義仲)と正室の巴御前、側室の山吹、平中三位資盛(織田信長が織田氏の祖とした人物でもある)とその側室である卿の局が中心となる。
まず、丸に揚羽蝶の平氏の家紋の入った部隊で、平資盛(演じるのは市楽)と卿の局(朋佳)の別れと、山吹(久加代)が卿の局を捕らえるまでが描かれる。
第二場は、木曽義仲(豆千佳)の陣。丸に二引きの木曽源氏の家紋が描かれた陣幕が描かれている。資盛が巴御前(もみ蝶)に捕らわれてくる。義仲は猫間中納言こと藤原光隆(市兆)をもてなすのだが、木曽出身の義仲は田舎料理を出し、猫間中納言を驚かせる。巨大なおにぎりを猫間中納言が食べるシーンではある工夫がなされている。

義仲が卿の局に惹かれていることを知った山吹は、貴船神社で卿の局を呪うための五寸釘を打っている。そこへ義仲と卿の局が病の調伏のためにやって来て……。

その後の展開は書かないでおくが、移動を描く際に役者が動くのではなく、大道具が変わっていくという見せ方が面白かった。
「源平女人譚」は、女歌舞伎や邦楽版宝塚歌劇という趣である。


「八千代壽先斗町」は、今年が大政奉還150年ということで、幕末が描かれる。こちらは踊りの方がメインである。
舞妓達の舞(リズムはコンチキチンである。ラストでは「ええじゃないか」が歌われる)が終わった後で、ひな祭りの内裏雛(市乃&あや野)の場となる。その後、鶴ヶ城天守の絵をバックに会津の娘子隊の舞があり、更に西郷吉之助を慕う仲居のお玉の舞(背景の掛け軸には「敬天愛人」の文字がある)、お玉と西郷吉之助((久富美)は、「面白き事もなき世を面白く」という高杉晋作の歌に合わせて踊る。そして二条城では将軍・徳川慶喜(豆千佳)が大政奉還を決意する。
最後は、勢揃いで舞が披露される。静と動の拮抗する見事な空間が目の前に広がった。

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2016年9月21日 (水)

川上音二郎一座 「オッペケペー節」

1900年、パリでの録音。川上音二郎本人の歌声は入っていないといわれています。

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2016年1月23日 (土)

楽興の時(8) 第4回「藤といやさかの会」

2015年11月16日 京都市・東洞院六角下ルのウィングス京都にて

午後1時30分から、六角堂の近くにあるウィングス京都のイベントホールで、第4回「藤といやさかの会」の公演に接する。日本舞踊の藤流と新内の弥栄派のコラボレーション。新内弥栄派の家元である新内枝幸太夫師匠は、私の母と同い年であるが、年の離れた友人である。

ウィングス京都は旧京都商工銀行の外壁だけを保存して使用しており(ファサード建築)、建築学的にも美しい建物である。

 

ウィングス京都イベントホールで行われる第4回「藤といやさかの会」であるが、無料公演である。その代わり、今日が初舞台という人がいてハラハラさせられたり、照明以外は身内がスタッフをしているので、上手くいかなかったり、そもそも頭数が足りていなかったりする。

舞の藤流家元の藤三智栄と、新内弥栄派の新内枝幸太夫の二人による共同主催である。

第1部では、新内枝幸太夫が歌を唄い、藤流の人達が舞を披露する。先代の家元、家元の舞が続き、優れた舞であることは一目瞭然である。動きにメリハリがあり、淀みなく体が動く。静止する時の姿も美しい。第3部では師範の称号と藤派の芸名を得ている人も登場するが、差は歴然。師範ではあっても座った状態から立ち上がる時に脚が震えていたり、一つ一つの仕草に意志や意図が感じられず、「そういう振付なので舞っています」という印象を受けてしまう。

枝幸太夫師匠は、一昨日は京都龍馬会の坂本龍馬慰霊提灯行列に参加して急な龍馬坂を上り(高台寺公園までは先頭付近にいたはずなのに、龍馬坂を上り切るころには最後列にいた。私が最後列担当で、誘導を行っていたのだが、いつの間にか最後列よりも遅れてしまっていた)、昨日は高台院のライトアップを見に行ったそうで、その前は長崎にいて弟子達に稽古を付けていてお疲れであり、高音の伸びは普段に比べるともう一つであった。

舞には高知市から、美穂川流家元の美穂川圭輔も参加して、新内枝幸太夫師匠の「龍馬ありて」の歌に乗せて達者な舞を披露した。

「寿若衆おどり」は枝幸太夫が歌ではなく、舞も披露する。

ちなみに、音源操作は、今日が初舞台となる松浦大輝(日本舞踊藤和流家元である藤和弘扇先生の甥っ子。弘扇先生と私は知り合いである)が担当したのだが、新内枝幸太夫の「新内仁義」のカラオケ用音源を流すはずが歌入りのものを流してしまい、枝幸太夫師匠が、「これじゃ口パクせなあかん」と苦笑いして、下手袖に向かって「大輝君、しっかりして」と呼びかける。その後、何故か拍子木が鳴り、枝幸太夫師匠は、「なんで拍子木鳴んねん」とまたも苦笑する。その後、やっとカラオケ用の音源が流れた。

藤流家元の藤三智栄は、第1部のトリである「蘭蝶~お宮くぜつ」で立ち方を務め、優雅な舞を舞う。弾き語りは新内枝幸太夫、上調子は新内幸翠が務めた。

新内枝幸太夫の影アナが入っての小休憩の後で第2部に入る。第2部では、松浦大輝と新内幸之介の二人が、舞台で初の主役を務める。

初舞台の松浦大輝は「福助」を謡うが、正直、調子外れのところが多く、まだまだ稽古が必要だと感じた。

初の主役となる新内幸之介は、まだ「新内」の名前を貰えず本名で活動していた頃から知っている人だが、枝幸太夫が書き下ろした「お酒とお餅(肥後座頭琵琶の語りで聴いたことのある「餅酒合戦」を題材にしたもの)」の三味線弾き語りをするが、三味線も歌の調子も合わずかなりの苦戦。ちなみにもう幕が降りる部分まで来ているはずが一向に幕が降りないので枝幸太夫が下手袖を何度も見て促し、ようやく緞帳が下りた。

その後、枝幸太夫の前弾き(舞台ではなく、客席の方に出てきて歌う)を経て、第2部のラストである新内流しとなるのだが、上調子の新内幸翠はちゃんと弾けているものの、松浦大輝と新内幸之介は苦戦。特に新内幸之介は、枝幸太夫師匠に三味線で駄目だしされながらの演奏であり、演奏に詰まると、すぐ師匠の方に目をやって客席から笑いも起こる。これでは公演というよりも公開稽古である。

5分休憩を挟んで第3部。今回は藤流の舞が主役となるが、前に書いた通り、師範の称号を得ている人でも出来は今一つ。舞の難しさや厳しさが伝わってくる。ちなみに昨年の「藤といやさかの会」では舞の出来が散々だったそうで、今年はリベンジに挑んだのだが、家元の藤三智栄は納得がいかなかったそうである。

なお、現在小学1年生の矢野友椛(やの・ゆか)ちゃんが初舞台を踏む。枝幸太夫の歌、友椛ちゃんの祖母である新井美代子の三味線による「祇園小唄」より春と夏である。
まだ、動きの意味もわかっていないはずだが、可愛らしい踊りに客席も明るい笑い声に包まれる。

友椛ちゃんの祖母である新井美代子も枝幸太夫の歌で舞うが、なかなかの出来であった。

更に、神奈川県在住という藤流の弟子の砂川常子という年配の女性も上洛して登場。舞踊であるが、筋が良いのだろう。藤流の師範を得ている人よりも達者だったりする。

全ての演目が終了した後、出演者全員が登場し、枝幸太夫師匠の持ち歌である「電蓄の鳴っていた頃」(日本コロムビアよりCD発売中)に乗せて、舞台上にいる人全員、そして藤三智栄が簡単な振付を示して、客席の人も舞う。枝幸太夫師匠であるが、お疲れのため、「電蓄の鳴っていた頃」の2番の歌詞を忘れるというハプニングもあった。

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