カテゴリー「ピアノ」の126件の記事

2025年5月14日 (水)

コンサートの記(902) 「~浜松国際ピアノコンクール日本人初優勝記念~ 鈴木愛美ピアノ・リサイタル」2025@箕面

2025年4月29日 箕面市立文化芸能劇場大ホールにて

午後2時から、箕面市立文化芸能劇場大ホールで、「~浜松国際ピアノコンクール日本人初優勝記念~ 鈴木愛美ピアノ・リサイタル」を聴く。

YAMAHA、KAWAI、Rolandなどが本社を置き、楽器の街として知られる静岡県浜松市。とりわけピアノの生産は盛んであり、ACT浜松の「浜松ショパンの丘」には、ワルシャワのものと同等のショパン像が置かれているなど、ピアノに関しては日本一のイメージを誇る(なぜか家庭のピアノ所有率は、静岡県は奈良県に負けるようだが)。そんな街に出来た浜松国際ピアノコンクールであるが、これまで日本人の優勝者は現れなかった。それが昨年、第12回目の大会において、鈴木愛美(まなみ)が優勝に輝いている。合わせて室内楽賞、聴衆賞、札幌市長賞(浜松市と札幌市とは文化交流を行っており、優勝者は札幌で演奏会を行うことが出来るという特典)、ワルシャワ市長賞を受賞している。
鈴木は、2023年の第92回日本音楽コンクールピアノ部門でも第1位および岩谷賞(聴衆賞)など多くの賞を受けている。
関西テレビ主催のこの公演。鈴木は、関西テレビのエンターテインメント紹介番組「ピーチケパーチケ」にも事前に出演しているが、そこでコンクールはもう受けないと断言している。浜松国際ピアノコンクール優勝者は、ショパンコンクールへの優先出場権(予選なしで本選に参加出来る)も貰えるはずだが、鈴木は、「出ません」と即答している。コンクールはいくつも受けるものではないという考えのようだ。

 

箕面市立文化芸能劇場大ホールの最寄り駅は、Osaka Metro箕面船場阪大(はんだい)前という、終点の一つ手前の駅。その名の通り大阪大学(大阪大学自体は勿論有名だが、略称の「はんだい」は実はそれほど有名ではない。関東出身者で京都大学を受ける人は多いが、大阪大学を受ける人は余りいないため、略称もスルーされていたりする。「阪大」と漢字で書くと分かるはずだが、口頭で「はんだい」と言っても話題が大学のこと以外だったりすると、「はんだいって何?」となる可能性がある。関西出身者は案外気付いていない)箕面新キャンパスの最寄り駅である。箕面新キャンパスは以前は国立大阪外国語大学だった外国語学部の講義棟が聳えているが、敷地の狭いビルキャンパスで、新しいキャンパスであるため学生街なども構築されておらず、旧帝国大学のキャンパス前にしては寂しい。地下鉄のフロアから地上までは、東京芸術劇場のそれを思わせるかなり長いエスカレーターで上がる。

箕面市立文化芸能劇場大ホールは、阪大の校舎よりも手前にあるが、実は、5月1日からネーミングライツで、東京建物 Brillia HALL 箕面 大ホールに一般的な名称が変わる予定で、箕面市立文化芸能劇場大ホールという名で公演を行うのはどうも今日が最後のようだ(正式名称に変更はないと思われるが)。
箕面にはメイプルホールという地方都市としては比較的キャパの大きいホールがあるが、フル編成のオーケストラ公演などはメイプルホールでやって、中規模コンサートや室内楽、器楽、演劇公演や落語などはこちらに回すようである。
また図書館など一部の施設は大阪大学と併用である。

 

鈴木愛美は、2002年生まれ(やれやれ、俺が京都に越した年だぜ)。箕面市出身で、今回が凱旋公演となる。大阪市内の音楽科を持つ公立高校としては最も有名な大阪府立夕陽丘(ゆうひがおか)高校音楽科を経て、東京音楽大学器楽専攻ピアノ演奏家コースに進学。首席で卒業し、現在は東京音楽大学大学院修士課程に特別奨学生として在籍中。先の土日に、びわ湖ホールで行われた、びわ湖の春 音楽祭2025にも参加している。

 

箕面市立文化芸能劇場大ホールの内装であるが、側壁の木枠が箕面の滝を表していることは分かるのだが、正面と上方の白い壁に描かれた模様がなんなのかは不明。バラバラにした都道府県のようにも見え、高知県や愛媛県や栃木県に似たものはあるが、他は似ておらず、都道府県ではないようだ。

今日は前から3列目の真ん中で良い席である。ピアノの響きのとても良いホールであった。

 

曲目は、ハイドンのピアノ・ソナタ第13番、シューベルトの3つのピアノ曲より第2番、シューベルトの高雅なワルツ集、リストの「ウィーンの夜会」(シューベルトのワルツ・カプリス)第6番、シューマンの幻想小曲集。
リスト以外は、独墺系の曲目が並ぶが、リストの曲もシューベルト作品を基にしたものであるため、実質、オール独墺系プログラムである。

 

鈴木愛美は、一昨日同様、比較的質素な黒の上下で登場する。

 

ハイドンのピアノ・ソナタ第13番は、浜松国際ピアノコンクールで演奏して高い評価を受けた曲である。ハイドンというと、「交響曲の父」「パパ・ハイドン」のイメージで、交響曲や弦楽四重奏曲、宗教曲のイメージが強いが、鈴木はハイドンのピアノ・ソナタを、明るくチャーミング、第3楽章では憂愁を込めて演奏し、魅力な曲として再現する。

 

シューベルトの2曲も、歌心と造形美からたまににじみ出るほの暗さなどを巧みに表現。
ペダリングはオーソドックスで、ソフトペダルの上に置いた左足をたまに跳ね上げる時があるが、特に音楽的効果を狙ったものではないようだ。ただ、超弱音の時にはソフトペダルをぐっと踏み込んでいた。

 

リストの「ウィーンの夜会」第6番はスケールの大きさと華やかさが際立つ演奏。リストの作品だが、シューベルトの原曲だけに寂寥感が顔を覗かせる。

 

メインであるシューマンの幻想小曲集。音楽に文学的要素など様々なものを持ち込んだシューマン。その複雑性やいびつさなどをそのままに音楽にした作品であり、演奏である。可愛らしさ、謎めいた部分、奥深さなど様々な表情の曲が続く。
そんな中で、「子供の憧憬」をそのまま持ち込んだような第6曲「寓話」のノスタルジアの表現が特に良かった。他の曲も構築感と造形美が目立つ。きっちりとした構造設計がこの若いピアニストの最大の特徴と言えるかも知れない。

 

演奏終了後、鈴木はマイクを手にスピーチ。まだコンサートには全然慣れていない感じである。
「聴きに来て下さってありがとうございます。宣伝になってしまうんですが、6月7日に、豊中?(舞台下手を見る。ドアは閉じられていて何も見えない)豊中市立文化芸術センターでベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を弾きます。指揮は飯森先生です」

アンコール演奏は、一昨日のびわ湖の春 音楽祭2025で、びわ湖ホール小ホールでも弾いたシューベルトのピアノ・ソナタ第18番「幻想」より第1楽章。鈴木は、「タイトル通り幻想とか憧れといった様々な」要素を入れた曲だと解説して演奏開始。しっかりとした手応えのあるスケール豊かな演奏である。そしてシューベルトだからかも知れないが、流れよりも構築感を重視しているように聞こえる。ピアノの音はびわ湖ホール小ホールよりも箕面市立文化芸能劇場大ホールの方がクリアで良い。

アンコール演奏は本来は1曲だけだったようだが、やはりびわ湖ホール小ホールでも弾いたシューベルトの「楽興の時」第3番も演奏する。シューベルトの全ピアノ曲の中で最も弾かれているといわれる曲だが、若さ故のキレもあって、愛らしい演奏となった。

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コンサートの記(902) 「~浜松国際ピアノコンクール日本人初優勝記念~ 鈴木愛美ピアノ・リサイタル」2025@箕面

2025年4月29日 箕面市立文化芸能劇場大ホールにて

午後2時から、箕面市立文化芸能劇場大ホールで、「~浜松国際ピアノコンクール日本人初優勝記念~ 鈴木愛美ピアノ・リサイタル」を聴く。

YAMAHA、KAWAI、Rolandなどが本社を置き、楽器の街として知られる静岡県浜松市。とりわけピアノの生産は盛んであり、ACT浜松の「浜松ショパンの丘」には、ワルシャワのものと同等のショパン像が置かれているなど、ピアノに関しては日本一のイメージを誇る(なぜか家庭のピアノ所有率は、静岡県は奈良県に負けるようだが)。そんな街に出来た浜松国際ピアノコンクールであるが、これまで日本人の優勝者は現れなかった。それが昨年、第12回目の大会において、鈴木愛美(まなみ)が優勝に輝いている。合わせて室内楽賞、聴衆賞、札幌市長賞(浜松市と札幌市とは文化交流を行っており、優勝者は札幌で演奏会を行うことが出来るという特典)、ワルシャワ市長賞を受賞している。
鈴木は、2023年の第92回日本音楽コンクールピアノ部門でも第1位および岩谷賞(聴衆賞)など多くの賞を受けている。
関西テレビ主催のこの公演。鈴木は、関西テレビのエンターテインメント紹介番組「ピーチケパーチケ」にも事前に出演しているが、そこでコンクールはもう受けないと断言している。浜松国際ピアノコンクール優勝者は、ショパンコンクールへの優先出場権(予選なしで本選に参加出来る)も貰えるはずだが、鈴木は、「出ません」と即答している。コンクールはいくつも受けるものではないという考えのようだ。


箕面市立文化芸能劇場大ホールの最寄り駅は、Osaka Metro箕面船場阪大(はんだい)前という、終点の一つ手前の駅。その名の通り大阪大学(大阪大学自体は勿論有名だが、略称の「はんだい」は実はそれほど有名ではない。関東出身者で京都大学を受ける人は多いが、大阪大学を受ける人は余りいないため、略称もスルーされていたりする。「阪大」と漢字で書くと分かるはずだが、口頭で「はんだい」と言っても話題が大学のこと以外だったりすると、「はんだいって何?」となる可能性がある。関西出身者は案外気付いていない)箕面新キャンパスの最寄り駅である。箕面新キャンパスは以前は国立大阪外国語大学だった外国語学部の講義棟が聳えているが、敷地の狭いビルキャンパスで、新しいキャンパスであるため学生街なども構築されておらず、旧帝国大学のキャンパス前にしては寂しい。地下鉄のフロアから地上までは、東京芸術劇場のそれを思わせるかなり長いエスカレーターで上がる。

箕面市立文化芸能劇場大ホールは、阪大の校舎よりも手前にあるが、実は、5月1日からネーミングライツで、東京建物 Brillia HALL 箕面 大ホールに一般的な名称が変わる予定で、箕面市立文化芸能劇場大ホールという名で公演を行うのはどうも今日が最後のようだ(正式名称に変更はないと思われるが)。
箕面にはメイプルホールという地方都市としては比較的キャパの大きいホールがあるが、フル編成のオーケストラ公演などはメイプルホールでやって、中規模コンサートや室内楽、器楽、演劇公演や落語などはこちらに回すようである。
また図書館など一部の施設は大阪大学と併用である。


鈴木愛美は、2002年生まれ(やれやれ、俺が京都に越した年だぜ)。箕面市出身で、今回が凱旋公演となる。大阪市内の音楽科を持つ公立高校としては最も有名な大阪府立夕陽丘(ゆうひがおか)高校音楽科を経て、東京音楽大学器楽専攻ピアノ演奏家コースに進学。首席で卒業し、現在は東京音楽大学大学院修士課程に特別奨学生として在籍中。先の土日に、びわ湖ホールで行われた、びわ湖の春 音楽祭2025にも参加している。


箕面市立文化芸能劇場大ホールの内装であるが、側壁の木枠が箕面の滝を表していることは分かるのだが、正面と上方の白い壁に描かれた模様がなんなのかは不明。バラバラにした都道府県のようにも見え、高知県や愛媛県や栃木県に似たものはあるが、他は似ておらず、都道府県ではないようだ。

今日は前から3列目の真ん中で良い席である。ピアノの響きのとても良いホールであった。


曲目は、ハイドンのピアノ・ソナタ第13番、シューベルトの3つのピアノ曲より第2番、シューベルトの高雅なワルツ集、リストの「ウィーンの夜会」(シューベルトのワルツ・カプリス)第6番、シューマンの幻想小曲集。
リスト以外は、独墺系の曲目が並ぶが、リストの曲もシューベルト作品を基にしたものであるため、実質、オール独墺系プログラムである。


鈴木愛美は、一昨日同様、比較的質素な黒の上下で登場する。


ハイドンのピアノ・ソナタ第13番は、浜松国際ピアノコンクールで演奏して高い評価を受けた曲である。ハイドンというと、「交響曲の父」「パパ・ハイドン」のイメージで、交響曲や弦楽四重奏曲、宗教曲のイメージが強いが、鈴木はハイドンのピアノ・ソナタを、明るくチャーミング、第3楽章では憂愁を込めて演奏し、魅力な曲として再現する。


シューベルトの2曲も、歌心と造形美からたまににじみ出るほの暗さなどを巧みに表現。
ペダリングはオーソドックスで、ソフトペダルの上に置いた左足をたまに跳ね上げる時があるが、特に音楽的効果を狙ったものではないようだ。ただ、超弱音の時にはソフトペダルをぐっと踏み込んでいた。


リストの「ウィーンの夜会」第6番はスケールの大きさと華やかさが際立つ演奏。リストの作品だが、シューベルトの原曲だけに寂寥感が顔を覗かせる。


メインであるシューマンの幻想小曲集。音楽に文学的要素など様々なものを持ち込んだシューマン。その複雑性やいびつさなどをそのままに音楽にした作品であり、演奏である。可愛らしさ、謎めいた部分、奥深さなど様々な表情の曲が続く。
そんな中で、「子供の憧憬」をそのまま持ち込んだような第6曲「寓話」のノスタルジアの表現が特に良かった。他の曲も構築感と造形美が目立つ。きっちりとした構造設計がこの若いピアニストの最大の特徴と言えるかも知れない。


演奏終了後、鈴木はマイクを手にスピーチ。まだコンサートには全然慣れていない感じである。
「聴きに来て下さってありがとうございます。宣伝になってしまうんですが、6月7日に、豊中?(舞台下手を見る。ドアは閉じられていて何も見えない)豊中市立文化芸術センターでベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を弾きます。指揮は飯森先生です」

アンコール演奏は、一昨日のびわ湖の春 音楽祭2025で、びわ湖ホール小ホールでも弾いたシューベルトのピアノ・ソナタ第18番「幻想」より第1楽章。鈴木は、「タイトル通り幻想とか憧れといった様々な」要素を入れた曲だと解説して演奏開始。しっかりとした手応えのあるスケール豊かな演奏である。そしてシューベルトだからかも知れないが、流れよりも構築感を重視しているように聞こえる。ピアノの音はびわ湖ホール小ホールよりも箕面市立文化芸能劇場大ホールの方がクリアで良い。

アンコール演奏は本来は1曲だけだったようだが、やはりびわ湖ホール小ホールでも弾いたシューベルトの「楽興の時」第3番も演奏する。シューベルトの全ピアノ曲の中で最も弾かれているといわれる曲だが、若さ故のキレもあって、愛らしい演奏となった。

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2025年5月12日 (月)

コンサートの記(901) びわ湖の春 音楽祭2025~挑戦~より 鈴木愛美、阪哲朗指揮京都市交響楽団

2025年4月27日 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール大ホールおよび小ホールにて

びわ湖ホールで行われている、びわ湖の春 音楽祭2025~挑戦~から2公演を聴く。
びわ湖ホールでの春の音楽祭は、ラ・フォル・ジュルネびわ湖に始まり、その後、沼尻竜典芸術監督の下で独立して、「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭」となり、阪哲朗が芸術監督に就任すると同時に、「びわ湖の春 音楽祭」に改称された。毎年タイトルを掲げてきたが、今年は、~挑戦~ となっている。ただプログラムを見ても何が挑戦なのかはよく分からない。プログラム以外での意味なのかも知れない。
沼尻時代はオペラの上演を目玉にしていたが、今はそうしたことはない。

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午後3時45分から、小ホールで、鈴木愛美(まなみ)のピアノコンサートを聴く。上演番号は、27-S-4。27日のSmallホールでの4公演目という意味である。

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昨年11月に行われた第12回浜松国際ピアノコンクールで、日本人初となる第1位を獲得したことで知名度を上げた鈴木愛美。大阪府箕面市生まれ。大阪府立夕陽丘(ゆうひがおか)高校音楽科を経て、東京音楽大学器楽専攻(ピアノ演奏家コース)を首席で卒業。現在、東京音楽大学大学院修士課程に特別奨学生として在学中である。明後日、自身初となる本格的なピアノリサイタルを出身地の箕面で行う予定である。
出身作曲家は多いし、演奏家自体ももちろん生んでいるが、なかなか有名演奏家が輩出しなかった東京音楽大学。だが、まず、広上淳一教授による改革で、「指揮者になるなら東京音大」と言えるほどに指揮科が充実。次いで、特別奨学生という形ではあるが、藤田真央、辻彩奈などが卒業し、器楽部門もソリストが台頭してきた。広上淳一によると彼の在学中は、「大学自体が『指揮者になれるものならなってみろ』という態度」だったようだが、今は大学全体が本気を出しているようである。

 

曲目は、シューベルトのピアノ・ソナタ第18番「幻想」

黒の上下という質素な格好で現れた鈴木愛美。厳格にドイツのピアニズムを守るかのような、スケール豊かで渋みのある演奏である。ドイツ音楽の演奏は、ドイツの演奏家によるローカル色の強いものを経て、徐々にインターナショナルな方向へと進んできた。教育の失敗があったといわれるがドイツ・オーストリア系の音楽家が減り、様々な国から演奏家が生まれるようになり、人々のドイツ音楽信仰も徐々に薄れつつあったが、ここへ来て、「ドイツ音楽はドイツ音楽らしさを守って」という動きが出てきたように思う。
だからといって、音の彩りを欠いた演奏という訳ではなく、日だまりような温かな音色も奏でた鈴木。

演奏終業後、「お聴き下さりありがとうございました。アンコール演奏を行いたいと思います。シューベルトの楽興の時第3番」と、喋り慣れていない調子で紹介。ただ演奏は設計のしっかりしたものであった。

 

次いで、大ホールで午後5時から行われるファイナル・コンサート。演奏会番号は、27-L-2。Largeホールでは今日は2公演しか行われないようである。演奏は、阪哲朗指揮の京都市交響楽団。びわ湖ホールでの音楽祭は、大阪フィルハーモニー交響楽団なども出演したことがあるが、基本的には大津の隣町の京都市交響楽団が起用される。

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曲目は、リヒャルト・シュトラウスのオーボエ協奏曲(オーボエ独奏:ハンスイェルク・シェレンベルガー)と「ばらの騎士」組曲。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のソロ・オーボエ奏者を務めたシェレンベルガー。退団後は指揮者としても活動しており、長年に渡って岡山フィルハーモニック管弦楽団の首席指揮者を務め、現在は名誉指揮者の称号を得ている。岡山フィルは岡山シンフォニーホールでの全公演を録音しているため、今後、音盤や配信による音源が出る可能性もなくはない。2021年から3年間、ベルリン交響楽団(旧西ベルリン)の首席指揮者を務め、来年には同楽団との日本ツアーも予定されている。

今日のコンサートマスターは泉原隆志。フォアシュピーラーに尾﨑平。ヴァイオリン両翼の古典配置をベースとした布陣である。プログラムなどはないため、楽団員の名簿などは手に入らないが、ヴィオラの客演首席に入った男性奏者はかなり上手そうである(ソロパートがある)。クラリネット首席の小谷口直子は降り番のようだ。

 

リヒャルト・シュトラウスのオーボエ協奏曲。阪はこの曲はノンタクトで振る。
シェレンベルガーのオーボエは美音で、音も豊かだが外連はなく、的確に音楽を追究する姿勢。職人的な要素も持ち合わせているようである。
この曲では、第1ヴァイオリン8の中規模編成で演奏した京響も彩り豊かな音を聴かせる。

アンコールでシェレンベルガーは、「ベンジャミン・ブリテン」と言うのが聞こえたが、以後は聞き取れず。ただおそらく「6つの変容」のうちの1曲だろう。精度の高い演奏であった。

 

「ばらの騎士」組曲。この曲では阪は指揮棒を持って指揮。京響から自在な音色を引き出す。
京響は弦も管も充実していたが、特に弦の出す白い光ような音色が秀逸。華麗なオーケストレーションで知られるこの曲の紳士的エレガンスを十二分に表出していた。

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2025年4月10日 (木)

コンサートの記(899) 「京都市立芸術大学ピアノ専攻教授陣によるプロフェッサーコンサート 煌めくピアニズム」

2025年3月5日 京都市立芸術大学堀場信吉記念ホールにて

四条駅から京都市営地下鉄烏丸線に乗り、京都駅で下車。東に向かって数分のところにある京都市立芸術大学堀場信吉記念ホールで、「京都市立芸術大学ピアノ専攻教授陣によるプロフェッサーコンサート 煌めくピアニズム」を聴く。タイトル通り、京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専攻の教授(全員が教授の肩書きではなく、専任教員や常勤講師もいる)達による演奏会。

出演は、砂原悟、上野真(うえの・まこと)、三舩優子(みふね・ゆうこ)、田村響(男性)、髙木竜馬(りょうま)。最後の演目であるワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲(小林仁編曲)にだけ、京都市立芸術大学専任講師の森本瑞生(パーカッション)が出演するほか、京都市立芸術大学音楽学部や大学院の学生とOBが出演する。

 

事前のプログラムは、2台のピアノのための作品などは発表されていたが、独奏曲に関してはシークレットで直前に発表されることになっている。

なお、ピアノは4台のグランドピアノを使用。コンサートホールに常備されているピアノは2台ほどが基本だが(2台のピアノのための作品は多めだが、3台以上のピアノのための作品は数えるほどしかないため)、京都市立芸術大学ピアノ専攻は、「学生になるべく多くの種類のピアノを弾かせたい」との思いから、堀場信吉記念ホールに4台のピアノを備えている。また芸術大学の音楽学部なので、ピアノは多く所有しており、更に数を増やそうとしてもおそらく可能だろう。

今回使われるピアノは、ウィーンのベーゼンドルファー290インペリアル、イタリアのファツィオリ F-308、スタインウェイ&サンズ D-274(ハンブルク)、スタインウェイ&サンズ D-274(ニューヨーク)。スタインウェイというとアメリカのイメージが強いが、1880年代からはドイツのハンブルクでも製造を開始している。これだけ多くの種類の名ピアノを所有している音楽学部は世界的に見ても珍しいそうで、「世界でもここだけじゃないか」という話もあるらしい。
ベーゼンドルファーのピアノは、昨年の11月に購入したばかりで、今回がお披露目となるそうである。

 

曲目は、モーツァルトのソナタ ニ長調 KV448(田村響&上野真)、三舩優子のソロ曲、髙木竜馬のソロ曲、マーラーの交響曲第5番よりアダージェット(シュトラダールによる2台ピアノ版。髙木竜馬&上野真)、田村響のソロ曲、シューベルトの幻想曲 ヘ短調 作品103 D.940(上野真&砂原悟)、バーバーのスーヴェニール「バレエ組曲」(ゴールドとフィッツデールによる2台ピアノ版)より第5番“Hesitation-Tango”と第6番“Galop” (三舩優子&上野真)、ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲 4台ピアノ16手連弾 打楽器付き(小林仁編曲。髙木竜馬&生駒由奈、田村響&長山佳加、三舩優子&稲垣慈永、砂原悟&廣田沙羅。打楽器:森本瑞生、武曽海結、丹治樹)。

 

かなり有名なピアニストが出る上に、チケットが比較的安いということもあり、客席はかなり埋まっている。

 

堀場信吉記念ホールに来るのは二度目。前回はトイレが狭く、休憩時間に長蛇の列が出来るという欠点が分かったが、堀場信吉記念ホールの入る京都市立芸術大学A棟の向かいにあるC棟のトイレも開放することで、改善を図ろうとしているようだ。

 

京都市内には、京都コンサートホール・アンサンブルホールムラタ、ロームシアター京都サウスホール、青山音楽記念館バロックザールなど、ピアノリサイタルでの使用を想定して作られたホールがいくつもあるが、いずれも音響的に万全という訳ではなかった。だが、堀場信吉記念ホールの音響はピアノ演奏向けとしてはかなり良い部類に入る。京都市内にあるピアノ演奏向けのホールとしては一番であろう。公立大学が所有するホールであるため、貸し館などはどれほど行えるのかは分からないが、「ここで数々のピアノリサイタルを聴いてみたい」と思わせてくれるホールである。

 

モーツァルトのソナタ ニ長調。田村響がハンブルクのスタインウェイを弾き、上野真がベーゼンドルファーのピアノを弾く。
モーツァルトの2台のピアノのためのソナタは、1990年代に、「聴きながら勉強すると成績が上がる曲」として話題になったが、その後に、「そういう見方は出来ない」として否定されている。
モーツァルトらしい典雅で愛らしい楽曲で、二人のピアニストの息もピッタリ合っている。なお、今回は、ソロ曲とワーグナー以外は譜めくり人を付けての演奏で、譜めくり人は各ピアニスト専属の女性が担当。三舩優子の譜めくり人だけは、ワーグナー作品で出演もする稲垣慈永(じえい)が務めていた。

 

三舩優子のソロ演奏曲は、リストのペトラルカのソネット第104番。美しいタッチの光る演奏である。ハンブルクのスタインウェイのピアノを使用。

 

髙木竜馬のソロ演奏曲は、ラフマニノフの前奏曲「鐘」。ラフマニノフの生前から人気曲であり、ラフマニノフのピアノコンサートに来た聴衆が「鐘」を聴きたがり、ラフマニノフが弾くまで帰らなかったという伝説を持つ曲である。
髙木はスケール豊かな演奏を展開する。低音と高音の対比が鮮やかだ。ピアノはファツィオリ。

 

マーラーの交響曲第5番(シュトラダールによる2台ピアノ版)より第4楽章「アダージェット」
髙木竜馬がファツィオリのピアノを、上野真がベーゼンドルファーのピアノを奏でる。
オーケストラの演奏では、おそらくレナード・バーンスタインの影響で、ゆったりとしたテンポが取られることの多いアダージェットであるが、ピアノでの演奏ということでテンポはやや速め。しかし次第にテンポは落ちる。
弦楽ならではの甘さを持つ曲だが、ピアノで演奏すると構造がはっきりと把握しやすくなる。オーケストラでも分かるが、ため息や吐息の部分がより明確に感じられる。
かといって分析的ではなく、エモーショナルな味わいも十分にある。

 

田村響のソロ演奏曲は、ショパンのワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」。元々はスタインウェイ・ハンブルクを使って演奏する予定だったが、ベーゼンドルファーを用いての演奏に変わる。舞台上の転換はないため、ソロではあるが上手側に鍵盤がある形での演奏となる。蓋は取り払われている。
「華麗なる大円舞曲」は、中学校の給食の音楽だった、という個人的な思い出はどうでもよいとして、愛らしさと神秘性、そしてタイトル通りの華麗さを合わせ持った名曲であり、田村の演奏も鮮やかであった。

ピアノが変わったのは、「ソリスト全員に別のピアノを弾かせたい」という意図によるもののようである。

 

シューベルトの幻想曲 ヘ調用。これも元々は連弾用の曲であるため、そのまま連弾の予定だったのだが、2台のピアノで弾く形に変わった。
シューベルトらしく、またドイツらしいという正統派の音楽と演奏である。暗めではあるが、愛らしさやノスタルジックな感じが顔を覗かせる。

 

バーバーのスヴェニール「バレエ組曲」(ゴールドとフィッツデールによる2台ピアノ版)より第5番“Hesitation-Tango”と第6番“Galop”
三舩優子がハンブルクのスタインウェイを、上野真がニューヨークのスタインウェイを演奏する。
アメリカの音楽、それも前衛には手を出さなかったバーバーの作品だけに、軽快で親しみやすく、明るくチャーミングな音楽が繰り広げられた。

 

ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲 4台ピアノ16連弾 打楽器付き(小林仁編曲)。大規模な舞台転換があるため、その間を教員総出演によるトークで繋ぐ。小林仁は砂原悟の直接の師だが、髙木竜馬が12歳ぐらいの時に小林の自宅に伺ってレッスンを受けたことがあったり、田村響が参加したコンクールの審査員が小林だったりと、若手とも繋がりがあるようだ。今回のコンサートにも「ぜひ伺いたい」と言っていたのだが、小林の住む東京は昨日今日と雪。道路でスリップする可能性があるので外出は難しいということで、京都に来ることは叶わなかったようだ。

4台のピアノが上から見るとTwitter状に、じゃなかったX状に配置される。打楽器の森本瑞生(特別客演)、武曽海結(むそ・みゆ)、丹治樹(たんじ・たつき。客演)はその背後に横一列で陣取る。
X状の手前上手側に髙木竜馬&生駒由奈、手前下手側に田村響&長山佳加、奥下手側に三舩優子&稲垣慈永、奥上手側に砂原悟&廣田沙羅。砂原悟&廣田沙羅コンビのみ、学生が第1ピアノ、教員が第2ピアノである。髙木竜馬がタブレット譜を使っているのが確認出来るが、他のピアニストの譜面は私の席からは見えない位置にある。
基本的に時計回りに主役が変わっていくようであるが、主旋律は田村響が受け持つことが多いようだ。
4台のピアノによる演奏を聴くことは少ない上に(多分、初めてである)更に打楽器が加わっての演奏。おそらく唯一無二の体験となるはずである。
オーケストラのように色彩豊かな響きという訳にはいかないが、迫力やスケールなどはこのサイズのホールで聴くには十分すぎるほど大きい。ピアノならではの音の粒が立った響きも印象的である。
実はピアノ専攻の教員の中には、京都市立芸術大学出身者は一人もいないのだが、特別客演としてティンパニを受け持った森本瑞生(京都市立芸術大学専任講師)は京都市立芸術大学のOGである。森本は更にシンガポール国立大学・ヨンシュウトー音楽院、ジョンズ・ホプキンス大学・ピーポディ音楽院(交換留学生として)、ジュリアード音楽院大学院でも学んでいる。
学生達は、京都市立芸術大学ピアノ専攻もしくは大学院に在籍中だが、京芸の学部卒業後に海外の大学院を修了してまた戻ってきていたり、すでにいくつかのコンクール優勝歴や入賞歴があったりする人もいる。客演の丹治樹は、京都市立芸術大学音楽学部管・打楽器専攻を経て同大学院修士課程器楽専攻を修了。卒業時に京都市長賞受賞。パーカッションアンサンブルグループ「アカサタ♮」のメンバーである。
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲は、高揚感溢れる曲だけに、演奏終了後に客席も盛り上がる。

「良かったねー」という声があちこちで飛び交い、聴衆の満足度も高そうであった。
帰りであるが、ここでまた堀場信吉記念ホールの弱点が見つかる。堀場信吉記念ホールは京都市立芸術大学A棟の3階にあり、1階から階段が伸びているのだが、照明がないため、足下がよく見えず危険である。エレベーターもあるが、余り多くの人は乗せられないので、大半の人は階段を選ぶことになるのだが、改善しないと事故が起こりそうである。スマホのライトで足下を照らしながら歩く人もいた。

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2025年3月28日 (金)

コンサートの記(896) 東北ユースオーケストラ演奏会2025@サントリーホール・マチネー公演

2025年3月21日 東京・溜池山王のサントリーホールにて

午後3時から溜池山王のサントリーホールで、東北ユースオーケストラ演奏会2025・マチネー公演を聴く。

東北ユースオーケストラ(TYO)は、東日本大震災で大きな被害を受けた東北地方の復興のために、坂本龍一が音楽監督として立ち上げたユースオーケストラ。小学生から大学院生までの若者が在籍している。入団に関しては音楽経験は不問で、やる気だけが入団条件である。まだ小学生で震災を知らない子もメンバーに加わっている。
今回のコンサートでは、演奏指導を行った東京フィルハーモニー交響楽団の楽団員のゲスト出演や東北ユースオーケストラの卒団生賛助出演などがある。またコンサートミストレス(無料パンフレットなどにも表記はなく、氏名は不明)のフォアシュピーラーは、ウクライナから今日のために駆けつけたイリア・ボンダレンコが務める。

震災発生後、坂本は東北地方を回り、壊れた学校の楽器の修復に尽力すると共に、「こどもの音楽再生基金」を立ち上げ、2012年に「スクール・ミュージック・リヴァイヴァル・ライブ」を開催。翌年も「スクール・ミュージック・リヴァイヴァル・ライブ」を行い、そこから東北ユースオーケストラが生まれた。リハーサルなどでの指揮やピアノは坂本本人が受け持ったが、専属の指揮者は坂本が栁澤寿男(やなぎさわ・としお)を指名。今日も栁澤が指揮を務める。

 

開演前に、東北ユースオーケストラのメンバー数名が登場。自己紹介や楽団、楽曲の紹介、プログラムの意図説明などを行った。

 

曲目は、坂本龍一の「Castalia」、坂本龍一の「Happy End」、坂本龍一作曲/篠田大介編曲の「Tong Poo」(ピアノ独奏:三浦友理枝)、坂本龍一作曲/篠田大介編曲の「Piece for Ilia」(ヴァイオリン独奏:イリア・ボンダレンコ)、坂本龍一の「いま時間が傾いて」、坂本龍一の「BB」(朗読:吉永小百合)、坂本龍一の「Parolibre」(朗読:吉永小百合。ピアノ独奏:三浦友理枝)、坂本龍一の「母と暮せば」(朗読:吉永小百合)、藤倉大の作・編曲によるThree TOHOKU Songs(大漁唄い込み、南部よしゃれ、相馬盆歌)、坂本龍一の「Little Buddha」、坂本龍一の「The Last Emperor」、坂本龍一の「Merry Christmas Mr.Lawrence(戦場のメリークリスマス)」(ピアノ独奏:三浦友理枝)。

司会は元TBSアナウンサーで、現在はフリーアナウンサーの渡辺真理が務める。渡辺は、ターコイズブルーのドレスで登場したが、スクリーンを見ると普通の青のドレスに見えるため、映像の限界も感じられる。

今日はP席(ポディウム)は開放しておらず、スクリーンが降りていて、そこに曲名や楽曲解説、現在進行形の映像や、坂本龍一の映像、抽象的な絵などが投影される。

開演前の紹介に並んだ子の中に、ピアノ担当の女の子がいたが、ピアノ担当は二人いるため、「Castalia」と「Happy End」でピアノ独奏を担当したのがどちらなのかは分からなかった。ソワレ公演では、別の子がソロを務めるのだろう。ネタバレになるが、アンコール曲の「ETUDE」では、二人で連弾を行っていた。「Castalia」と「Happy End」でソロを務めたのは開演前の自己紹介にも出ていた飯野美釉(いいの・みゆう)の可能性が高いがなんとも言えない。もう一人のピアノ奏者は、遊佐明香莉といういかにも東北的な苗字の子である。

 

入団条件に「音楽経験不問」とある以上、他の将来音楽家指向のユースオーケストラやジュニアオーケストラとは異なり、音楽をすること自体に意味があると考える団体のようである。そのため、音楽に対する情熱よりも喜びの方が勝っている印象を受ける。他のユースオーケストラやジュニアオーケストラほど音に厚みはないし、上手くもないかも知れないが、上手く演奏することだけが音楽ではない。かといって特段劣っているということはなく、よく訓練されていて、音の輝きは――サントリーホールの音響の恩恵を受けているかも知れないが――魅力的である。

 

栁澤寿男。コソボ・フィルハーモニー管弦楽団など政情不安定なところでの音楽活動も行う指揮者で、バラバラになった旧ユーゴスラビアの音楽家を集めたバルカン室内管弦楽団を創設したりもしている。知名度はまだ低いが、男前なので人気が出そうである。日本国内では京都フィルハーモニー室内合奏団のミュージックパートナーを務めている。今日はノンタクトでの指揮。

坂本龍一ファンにはお馴染みの曲が続くが、栁澤は坂本本人から指名されただけあって、優れたオーケストラ捌きを見せる。

「Tong Poo」などでピアノソロを受け持った三浦友理枝。美人ピアニストとしても知られるが、英国王立音楽院(アカデミーの方)を首席で卒業。同校の大学院も首席で修了するなど、腕が立つ。第47回マリア・カナルス国際音楽コンクール・ピアノ部門で1位を獲得している。京都市交響楽団とは、オーケストラ・ディスカバリーで共演したことがある。

「Piece for Ilia」でソロを務めるイリア・ボンダレンコは、キーウ音楽院の作曲専攻を卒業。卒業制作の「REN Symphony」は坂本龍一に捧げられている。ロシア軍による侵攻が始まると、30近い国の90人のヴァイオリニストがウクライナ民謡を演奏する様子をZoomなど使って配信。これを見て感動した坂本が、「イリアと共にウクライナ支援のチャリティ・アルバムへ参加しないか」と友人の作曲家から誘われ、すぐさまヴァイオリンとピアノのための曲を作曲。イリアに送った。ロシア軍による空爆後の瓦礫の中でこの曲を演奏するイリアの姿(今回も後部のスクリーンに映像が流れた)は多くの人に感銘を与えている。オーケストラ伴奏による編曲は篠田大介によるものだが、坂本が篠田に依頼したそうである。

「いま時間が傾いて」。タイトルはリルケの詩の一節から取られている。東北ユースオーケストラのために書かれた作品で、おそらく坂本最後のオーケストラ曲である。
3.11、9.11など、「11」という数字に特別なものを感じた坂本が、11拍子というかなり珍しい拍子を取り入れた書いたもの。終盤にはチューブラーベルズが11回鳴らされるが、11回目は弱音である。
途中、奏者に全て任された即興の部分もあり、同じ演奏は二度と出来ないという趣向になっている。
映画音楽などで聴かせるエモーショナルな旋律とは異なっているが、響きは美しく、後半はかなり力強い響きがする。

休憩時間に入るが、渡辺真理は、TYOのメンバーを呼んで物販の宣伝などをさせていた。

 

後半。吉永小百合が登場して、詩の朗読を行う。採用された詩は、和合亮一の「詩の黙礼」より、大平数子の「慟哭」、安里有生の「へいわってすてきだね」の3編。「BB」、「Parolibre」、「母と暮せば」の音楽に乗って朗読が行われる。「BB」は坂本が残した演奏データによる自動演奏ピアノ独奏と共に朗読が行われる。また「母と暮せば」は、吉永自身が主演した映画の音楽である。
東北ユースオーケストラの演奏会には度々参加(東京公演は皆勤だと思われる)しているほか、朗読公演自体も何度も行っている吉永だけに、極めて細やかな心情表現を込めた読みを聞かせる。
ちなみに坂本龍一もサユリストであったことを、第2弾自伝の『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』で明かしている。

 

坂本龍一に多大な影響を受けた藤倉大。高校時代に渡英し、現在もロンドンで活動する作曲家である。英国王立音楽大学(カレッジの方。カレッジとアカデミーはライバル関係にあり、藤倉の取り合いになったことが藤倉の自伝に記されている)出身。キングス・カレッジ・オブ・ロンドンで博士号を取得。指揮者の山田和樹と共に日本人若手音楽家の旗頭的存在で、東京芸術劇場の音楽部門の監督に就任することが決まっている。
東北の、宮城、岩手、福島の民謡のオーケストラバージョンであるが、掛け声をそのまま採用し、楽団員達に言わせることでノリの良い楽曲に仕上がっている。

 

最後は坂本龍一の映画音楽3曲。「Little Buddha」、「The Last Emperor」、「Merry Christmas Mr.Lawrence」。

「Little Buddha」は、ベルナルド・ベルトリッチから、「悲しいけれど救いのある曲を」という難しい注文を受けて書かれたものだが、4度ボツになり(坂本龍一はベルトルッチについて「自分が音楽監督だと思っているから」と述べていたりする)、5度目でようやく採用された。「どんどんカンツォーネっぽくなっていった」とも語っているが、哀切だが光が差し込むような、胸にひびく楽曲となっている。

「The Last Emperor」。坂本龍一は満映理事長の甘粕正彦役で出演。甘粕を演じた俳優は何人もいるが、甘粕本人とは外見が一番似ていない坂本龍一が最も有名なフィクションにおける甘粕像となっている。最初は俳優だけのオファーで、「戴冠式の音楽を書いてくれ」と言われただけだったが、撮影終了後半年ほど経ってから、「音楽を書いてくれ。二週間で」と言われて、まず、中国音楽のLPセットを聴くことから始めて、不眠不休で作曲。納期に間に合わせたが、過労のため、突発性難聴に見舞われて入院することになっている。
映画ではオーケストレーションまでは手が回らなかったため他人に任せたが、その後に自身でオーケストレーションを行い。二胡で奏でられていた主題を木管楽器に置き換えたりしている。
栁澤はかなりスケールの大きい演奏を形成。銅鑼なども盛大に鳴らされた。
なお、スクリーンには映画「ラストエンペラー」本編の映像も投影された。

「Merry Christmas Mr.Lawrence(戦場のメリークリスマス)」。序奏は、坂本龍一が「最後のコンサート」としてNHKのスタジオ5で収録した演奏のデータによるピアノ自動演奏で始まる。その時の映像もスクリーンに映る。
本編に入ってからは三浦友理枝がピアノ演奏を受け持つ。坂本の映像も映り続けるので、テンポは坂本の演奏に合わせる。
ペンタトニックを使った東洋風の作曲技術を用いながら、東洋でも西洋でもない独自の音の世界を生み出した楽曲。栁澤はこの曲でも終盤をかなり盛り上げていた。

 

アンコールは、先に明かしたとおり「ETUDE」(狭間美帆編曲)。ピアノの連弾がある。聴衆も一緒になって手拍子を入れる曲だが、吉永小百合や三浦友理枝もステージに登場して手拍子で参加。盛り上がった。

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2346月日(43) 東京都現代美術館 「音を視る 時を聴く 坂本龍一」

2025年3月21日 江東区三好町の東京都現代美術館(MOT)にて

坂本龍一の展覧会「音を視る 時を聴く 坂本龍一」が行われている東京都現代美術館に向かう。地下鉄清澄白河駅から歩いて15分ほどのところに東京都現代美術館(MOT)はある。住所でいうと江東区三好町ということになる。
連日超満員で、美術館としても「なるべく平日に来て欲しい」という希望を出していたのだが、平日の開館直後でもかなりの長蛇の列であった。今日は夜間開館があり、午後8時まで開いているので、そちらを狙うという手もあったが、並んでいるうちに、「何とか間に合いそうだ」という気配になったため、そのまま並び、中に入る。

まずは、ロームシアター京都メインホールでも上演されたシアターピース「TIME」の映像だが、これは劇場で視ているため、短い時間で離れる。

その他には、降水量のデータを音楽に変えたり、被災した宮城県立農業高校のピアノを自然に逆らわず調律し直したピアノで、世界の地震データを音にしたり(これはテレビでも紹介されていた)と、様々な試みが展示されている。
アルヴァ・ノトことカールステン・ニコライや、ダムタイプの高谷史郎との共作の展示もある。
坂本が残したメモの展示もあり、孤独についての考察や、「映画は偶然ではあり得ない」といった記述などがある。
読んだ本のリストもあり、与謝野晶子訳の『源氏物語』を読んだことが分かる。

《Music Plays Images X Images Play Music》では、1996年に坂本龍一と岩井俊雄によって水戸芸術館で行われた映像と音楽のコラボレーションが再現されており、MIDIデータによるピアノの再現演奏と、ホログラムでよいのかどうかは分からないが、教授を映した立体的な映像が、あたかもその場で演奏を行っているような臨場感を生み出している。
序奏を経て演奏されるのは、「シェルタリング・スカイ」と「Parolibre」。特に「シェルタリング・スカイ」の演奏と映像が残っているのが嬉しかった。

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2025年3月 8日 (土)

コンサートの記(894) アルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)&坂本龍一 「insen」2006@大阪厚生年金会館芸術ホール

2006年10月25日 新町の大阪厚生年金会館芸術ホールにて

大阪へ。午後7時から、新町にある大阪厚生年金会館芸術ホール(2025年時点では現存せず)で、ドイツの映像作家・電子音楽家のアルヴァ・ノトことカールステン・ニコライと坂本龍一のセッション「insen」を鑑賞。アルヴァ・ノトのコンピューターが作る和音に坂本龍一がピアノで即興的に音楽をつけていくという試み。すでに同名アルバムのレコーディングは終了していて、即興といってもある程度のフォルムは出来ているようだ。

開演20分ほど前から下手袖に白髪に黒服の男性がそっと現れ、会場の様子を窺ってはスッと消えていくというのが何度か見られた。坂本龍一である。即興によるセッションということもあり、客の入りが気になるのだろうか。

坂本が心配するまでもなく客席は満員。大きな拍手に迎えられて坂本とアルヴァ・ノトが登場する。 

坂本のピアノにはセンサーが取り付けられており、坂本が音を出す毎にバックモニターに光や映像が現れたり変化したりする仕組みになっている。ピアノの蓋は取り払われていて、坂本はピアノの弦をメスのような金属片で奏でたりノイズを出したりという特殊奏法を見せたりもした。
アルヴァ・ノトの作るノイジーな不協和音に坂本のリリカルなピアノが絡む。音楽によって変化する映像も興味深いが、目に悪そうでもある。 

ラストの曲はコンピューターノイズに「戦場のメリークリスマス」のメロディーをピアノで乗せるというもの。客席からは大きな拍手。 

基本的には実験音楽であり、音楽の面白さよりは可能性を追求したものだが、たまにはこうしたライヴも楽しい。 

坂本はアンコールには余り乗り気ではなかったようだが、アルヴァ・ノトことニコライが「もっとやろうよ」という風に促したので、特別に演奏が行われる。予定外だったので映像はなし。音のみのアンコールとなった。

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2025年3月 4日 (火)

コンサートの記(892) 大植英次指揮大阪フィルハーモニー交響楽団 宇治演奏会2025

2025年2月21日 宇治市文化センター大ホールにて

午後7時から、宇治市文化センター大ホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団宇治演奏会を聴く。指揮は大阪フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者の大植英次。
大植と大阪フィルは今後、奈良県の大和高田さざんかホール大ホールで同一プログラムによる演奏を行った後、神戸国際会館こくさいホールで、阪神・淡路大震災30年メモリアルとなるコンサートを行う。その後、大阪フィルは、指揮者を音楽監督の尾高忠明に替えて、和歌山、彦根、姫路という3つの城下町での特別演奏会を行う予定である。城下町でのコンサートを企画するということは、大フィルのスタッフの中に城好きがいるのだと思われる(日本人でお城が嫌いという人は余りいないが)。

宇治市文化センター大ホールであるが、厳密に言うと、宇治市文化センターという複合文化施設の中にある宇治市文化会館の大ホールということになるようだが、長くなるので宇治市文化センター大ホールという表記に統一しているようだ。宇治市を主舞台とした武田綾乃の小説及び宇治市に本社を置く京都アニメーションによってアニメ化された「響け!ユーフォニアム」の聖地の一つとしても知られているようである。
以前にも、夏川りみのコンサートで訪れたことがあるのだが、とにかく交通が不便なところにある。駅からは遠く、公共の交通手段はバスしかないが、本数が少ない。私は歩くのは得意なので、京阪宇治駅から歩いて行くことにした。なお、駐車場はあるのでマイカーがある人は来られるようである。

延々と歩く。高さ制限があるため、目に付く大きな建物は宇治市役所のみである。京都府内2位となる人口を誇る宇治市。誇るとはいえ18万程度で、140万を超える京都市とは比べものにならない。その割には市役所は立派である。

宇治市文化センターは、登り坂の上、折居台という場所にある。周りは一戸建ての住宅が並んでいる。おそらく住民は皆、自家用車を使って移動しているのだろう。
大ホールは、約1300席で、音響設計などはなされておらず、残響は全くといっていいほどない。首席奏者には立派な椅子があてがわれているが、他の奏者はパイプ椅子に座っての演奏で、いつもとは勝手が違うようである。

入りであるが、かなり悪い。大植と大フィルのコンビはブランドであるが、宇治市文化センターは交通の便が余りに悪く、来たくても来られない人が多数いたと思われる。私のように足に自信があれば別だが、普通の人はあの坂を歩いて上りたいとは思わないだろう。
帰りであるが、バスがないので特別にJRおよび京阪宇治駅行きのシャトルバスが運行されるようであった(ちなみに有料である)。大フィルメンバーは駅までは送迎があったのか、帰りの京阪宇治線で楽器を背負った人々を何人か見かけた。

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曲目は、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(ピアノ独奏:阪田知樹)とチャイコフスキーの交響曲第4番。

コンサートマスターは須山暢大。ドイツ式の現代配置での演奏である。指揮台は高めのものが用いられていたが、おそらく大フィル所有のものの持ち込みだと思われる。

 

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。
宇治市文化センター大ホールは響きが良くないが、その分、阪田の輪郭のはっきりとした清冽なピアニズムははっきりと分かる。華麗にして的確な表現である。
冒頭がゴージャスなことで知られるチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番であるが、大植と大フィルは壮麗さは生かしながら外連味は抑えた伴奏。ただ響きが良くないので派手さが抑えられた可能性もある。
第2楽章のリリシズムなども印象的であった。
第3楽章のラストでは阪田が強靱にしてスケールの大きい、巌のような演奏を展開。大フィルも負けじと大柄な伴奏を行った。

阪田のアンコール演奏は、ラフマニノフ作曲・阪田知樹編曲の「ここは素晴らしいところ」。吹き抜ける風のようにリリカルで涼やかな曲と演奏である。
アンコール演奏の間、大植は下手袖に立って、演奏に耳を傾けていた。

 

チャイコフスキーの交響曲第4番。大植は譜面台を置かず、暗譜での指揮である。要所要所で指揮棒を持っていない左手を効果的に用いる指揮。
21世紀に入ってから、解釈がガラリと変わったチャイコフスキー。「ロシアの巨人」「愛らしいバレエ音楽と交響曲の作曲家」から、「時代の犠牲となった悲劇の天才作曲家」へとイメージが変わりつつある。昨年は、ロシア映画「チャイコフスキーの妻」が日本でも公開され、実生活では英雄とは呼べなかったチャイコフスキー像を目にした人も多かったと思われる。ソ連時代は「聖人君子」的存在であったのが、ロシア本国でも次第に「人間チャイコフスキー」へと変化しているのが分かる。

大植は、冒頭の運命の主題を力強く吹かせた後で、弦楽などを暗めに弾かせて、最初から悲劇的色彩を濃くする。強弱もかなり細かく付けている印象である。
孤独なつぶやきのような第2楽章。同じテーマが何度か繰り返されるが、大植はテンポを落とすなど、次第に寂寥感が増すように演奏していた。
第3楽章は、弦楽がピッチカートのみで演奏するという特異な楽章であるが、音響の面白さと同時に、明るいはずの管の響きもどことなく皮肉や絵空事に聞こえるようである。
盛大に奏でられる第4楽章。「小さな白樺」のメロディーが何度か登場するが、やはり次第に精神のバランスを欠いていくような印象を受ける。そして最後はやけになったとしか思えない馬鹿騒ぎ。チャイコフスキーは、交響曲第3番「ポーランド」までは叙景詩的な曲調を旨としていたのだが、交響曲第4番からいきなり趣向を変えて、以後、最後の交響曲となった第6番「悲愴」まで、苦悩を題材とした人間ドラマを曲に込めるようになる。その第1弾である交響曲第4番は、「第5番や第6番『悲愴』に比べると粗い」などと言われてきたが、実際にはチャイコフスキーが自身の煩悶が最もダイレクトに出した曲であるようにも思われ、評価が上がりそうな予感がある。本当に粗いならチャイコフスキーなら直しただろうが、それをしていないということは本音の吐露なのだろう。

 

大植は、「宇治の皆さんありがとうございました。アンコール演奏を行っていいですか?」と客席に聞き、「チャイコフスキーの『くるみ割り人形』よりマーチ。(コンサートマスターの須山に)なんていうんだっけ? 行進曲」と言って演奏開始。安定した演奏であった。

 

大和高田さざんかホール大ホールでも同一演目による演奏家が行われる訳だが、大和高田さざんかホールは、小ホールで萩原麻未のピアノリサイタルを聴いたことがある。傾斜なし完全平面の客席のシューボックス型ホールで、ピアノ演奏などを主とするホールとしては、これまで聴いた中で最高の音響であった。大ホールはまた勝手が違うかも知れないが、おそらく音響は良いのだろう。宇治で聴くより良いかもしれないが、大和高田はやはり少し遠い。

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2025年1月27日 (月)

コンサートの記(882) 上白石萌音 MONE KAMISHIRAISHI “yattokosa” Tour 2024-25《kibi》京都公演@ロームシアター京都メインホール

2025年1月18日 左京区岡崎のロームシアター京都メインホールにて

午後6時から、左京区岡崎のロームシアター京都メインホールで、上白石萌音 “yattokosa” Tour 2024-25 《kibi》京都公演を聴く。若手屈指の人気女優として、また歌手としても活動している上白石萌音のコンサート。最新アルバム「kibi」のお披露目ツアーでもある。京都公演のチケットは完売。「kibi」はアルバムの出来としては今ひとつのように思えたのだが、実際に生声と生音で聴くと良い音楽に聞こえるのだから不思議である。

上白石萌音の歌声は、小林多喜二を主人公とした井上ひさし作の舞台作品「組曲虐殺」(於・兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール。小林多喜二を演じたのは井上芳雄)で耳にしており、心にダイレクトに染み渡るような美声に感心した思い出がある。ただ女優ではなく純粋な歌手としての上白石萌音の公演に接するのは今日が初めてである。
昨年の春に、一般受験で入った明治大学国際日本学部(中野キャンパス)を8年掛けて卒業した上白石萌音。英語が大の得意である。また、幼少時にメキシコで過ごしたこともあるため、スペイン語も話せるというトリリンガルである。フランス語の楽曲もサティの「ジュ・トゥ・ヴー」を歌って披露したことがある。
同じく女優で歌手の上白石萌歌は2つ下の実妹。萌歌は先に明治学院大学文学部芸術学科を卒業している。姉妹で名前が似ていてややこしいのに、出身大学の名称も似ていて余計にややこしいことになっている。

現在、「朝ドラ史上屈指の名作」との呼び声も高いNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバティ」がNHK総合で再放送中。ヒロインが3人いてリレー形式になる異色の朝ドラであったが、上白石萌音は一番目のヒロインを務めている(オーディションでの合格)。また新たな法曹関連の連続主演ドラマの放送が始まっている。

上白石萌音の声による影アナがあったが、録音なのかその場で言っているのかは判別出来ず。ただ、「もうちょっとで開演するから、待っててな」を京言葉の口調で語っており、毎回、ご当地の方言をアナウンスに入れていることが分かる。

客層であるが、年齢層は高めである。私よりも年上の人が多く、娘や孫を見守る感覚なのかも知れない。また、「『虎に翼』は面白かった!」という話も聞こえてきて、朝ドラのファンも多そうである。若い人もそれなりに多いが、女の子の割合が高い。やはり女優さんということで憧れている子が多いのだろう。なお、会場でペンライトが売られており、演出としても使われる。黄色のものと青のものがあり、ウクライナの国旗と一緒だが、関係があるのかどうかは分からない。

紗幕(カーテン)が降りたままコンサートスタート。カーテンが開くと上白石萌音が椅子に座って歌っている。ちなみにコンサートは上白石萌音が椅子に腰掛けたところでカーテンが閉まって終わったので、シンメトリーの構図になっていた。

白の上着と青系のロングスカート。スカートの下にはズボンをはいていたようで、途中の衣装替えではスカートを取っただけですぐに出てきた。

「『kibi』という素敵な曲ばかりのアルバムが出来たので、全部歌っちゃいます」と予告。「kibi」では上白石萌音も作詞で参加しているが、優等生キャラであるため、良い歌詞かというとちょっと微妙ではある。

浮遊感のある歌声で、音程はかなり正確(おそらく一音も外していない)。聴き心地はとても良い。
思っていたよりも歌手しているという感じで、クルクル激しく回ったりと、ステージでの振る舞いが様になっている。
原田知世や松たか子といった歌手もやる女優はトークも面白く、トーク込みで一つの商品という印象を受けることが多いが、上白石萌音も例外ではなく、楽しいトークを展開していた。

「今日は4階(席)まであるんですね」と上白石。4階席に向かって手を振る。更に、上手バルコニー席(サイド席)に向けて、「あちらの方は見えますか? 首が痛くありません?」、そして下手バルコニー席には、「そして、こちらにも。首がずっと(横を向いていて)。途中で(上手バルコニー席と)交換出来たら良いんですけど」「私も演劇で、ああいう席(バルコニー席)に座ったことがあって、終わったら首がこんな感じで」と首が攣った状態を模していた。ちなみに私は3階の下手バルコニー席にいた。彼女にはオフィシャルファンクラブ(le mone do=レモネードというらしい)があるので、1階席などは会員優先だと思われる。

上白石萌音も上白石萌歌も、「音」や「歌」といった音楽系の漢字が入っているが、母親が音楽の教師であったため、「音楽好きになるように」との願いを込めて命名されている。当然ながら幼時から音楽には触れていて、今日はキーボードの弾き語りも披露していた。

「京都には本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当にお世話になっていて」と語る上白石萌音。彼女の出世作である周防正行監督の映画「舞妓はレディ」も京都の上七軒をもじった下八軒という架空の花街を舞台としており、「カムカムエヴリバティ」も戦前から戦後直後に掛けての岡山の町並みのシーンなどは太秦の東映京都撮影所で撮られていて、京都に縁のある女優でもある(ただ大抵の売れっ子女優は京都と縁がある)。「舞妓はレディ」の時には、撮影の前に、上七軒の置屋に泊まり込み、舞妓さんの稽古を見学し、日々の過ごし方を観察し、ご飯も舞妓さん達と一緒に食べるなど生活を共にして役作りに励んだそうだ。ただ、置屋の「女将さん? お母さん?」からは、帯を締めて貰うときにかなりの力で引っ張られたそうである。着付けは色んな人にやって貰ったことがあるが、そのお母さんが一番力強かったそうだ。そのため転んでしまいそうになったそうだが、お母さんからは、「『こんなんでよろけてたら、稽古なんか出来しません』だったか、正確な言葉は忘れてしまったんですけれども」と振り返っていた。「『舞妓はレディ』を撮っていた頃の自分は好き」だそうである。

「京都には何度もお世話になっているんですけれども、京都でライブをやるのは初めてです」と語るが、「あ、一人でやるのは初めてです。何人かと」と続けるも、聴衆が拍手のタイミングを失ったため、少し前に出て、「京都でライブをやるのは初めてです!」と再度語って拍手を貰っていた。
毎回、ご当地ソングを歌うようにしているそうで、今日は、くるりの「京都の大学生」が選ばれたのだが、「京都なので、この歌もうたっちゃった方がいいですよね」と、特別に「舞妓はレディ」のサビの部分をアカペラで歌ってくれたりもした。「『花となりましょう~おおお』の『おおお』の部分が当時は歌えなかったんですけども」と装飾音の話をし、「でも努力して、今は出来るようになりました」と語った。
また、京都については、「時間がゆっくり流れている場所」「初心に帰れる場所」と話しており、「京都弁は大好きです」と言って、京風の言い回しも何度かしていた。仕事関係の知り合いに京都弁を喋る女性がいて、「いいなあ」と思っているそうだ。京都の言葉では汚い単語を使ってもそうは聞こえないそうである。

京都の冬は寒いことで知られるが、「雪は降ったんですかね?」と客席に聞く。若い男性の声で「まだ降ってないよ」と返ってくるが、続いて、若い女性複数の声が「降ったよ、降ったよ」と続き、上白石萌音は、「どっちやねん?!」と関西弁で突っ込んでいた。「さては、最初の方は京都の人ではないですね」
「降ったり降らなかったり」でまとめていたが、京都はちょっと離れると天気も変わるため、京都市の北の方は確実に降っており、南の方はあるいは降っていないと思われる。

「ロンドン・コーナー」。舞台「千と千尋の神隠し」の公演のため、3ヶ月ロンドンに滞在した上白石萌音。「数々の名作を生んだ、文化の土壌のしっかりしたところ」で過ごした日々は思い出深いものだったようだ。ウエストエンドという劇場が密集した場所で「千と千尋の神隠し」の公演は行われたのだが、昼間に他の劇場でミュージカルを観てスタンディングオベーションをした後に走って自分が出演する劇場に向かい、夜は「千と千尋の神隠し」の舞台に出ることが可能だったそうで、滞在中にミュージカルを十数本観て、いい刺激になったそうだ。英語は得意なので言葉の問題もない。
ということで、ロンドンゆかりの楽曲を3曲歌う。全て英語詞だが、上白石本人が日本語に訳したものがカーテンに白抜き文字で投影される。「見えない方もいらっしゃるかも知れませんが、後で対処します」と語っていたため、後日ホームページ等にアップされるのかも知れない。
ビートルズの「Yesterday」、ミュージカル「メリー・ポピンズ」から“A Spoonful of sugar(お砂糖一さじで)” 、ミュージカル「レ・ミゼラブル」から“夢やぶれて”の3曲が歌われる。実はビートルズナンバーの歌詞を翻訳することは「あれ」なのだが、観客数も限られていることだし、特に怒られたりはしないだろう。
“夢やぶれて”は特に迫力と心理描写に優れていて良かった。

参加ミュージシャンへの質問も兼ねたメンバー紹介。これまでは上白石萌音が質問を考えていたのだが、ネタ切れということでお客さんに質問を貰う。質問は、「これまで行った中で一番素敵だと思った場所」。無難に「京都」と答える人もいれば、「伊勢神宮」と具体的な場所を挙げる人もいる。「行ったことないんですけど寂光院」と言ったときには、「常寂光院ですか? 私行ったことあります」と上白石は述べていたが、寂光院と常寂光院は名前は似ているが別の寺院である。「萌音さんといればどこでも」と言ったメンバーの首根っこを上白石は後ろから押したりする。「思いつかない」人には、「実家の子ども部屋です」と強引に言わせていた。上白石は、「京都もいいんですけど、スペイン」と答えた。

ペンライトを使った演出。舞台上にテーブルライトがあり、上白石萌音がそれを照らすとペンライトの灯りを付け、消すとスイッチを切るという「算段です」。「算段」というのは一般的には文語(書き言葉)で使われる言葉で、口語的ではないのだが、読書家の人は往々にして無意識に書き言葉で喋ることがある。私の知り合いにも何人かいる。上白石萌音は読書家といわれているが、実際にそのようである。
「付けたり消したり上手にしはるわあ」

「スピカ」という曲で本編を終えた上白石萌音。タイトルの似た「スピン」という曲も歌われたのだが、「スピン」は今回のセットリストの中で唯一の三拍子の歌であった。

アンコールは2曲。「まぶしい」「夜明けをくちずさめたら」であった。

「この中には、今、苦しんでらっしゃる方もいるかも知れません。また生きていればどうしても辛いこともあります」といったようなことを述べ、「でも一緒に生きていきまひょ」と京言葉でメッセージを送っていた。

サインボールのようなものを投げるファンサービスを行った後で、バンドメンバーが下がってからも上白石萌音は一人残って、上手側に、そして下手側に、最後に中央に回って深々とお辞儀。土下座感謝もしていた。土下座感謝は野田秀樹も松本潤、永山瑛太、長澤まさみと共にやっていたが、東京では流行っているのだろうか。

エンドロール。スクリーンに出演者や関係者のテロップが流れ、最後は上白石萌音の手書きによる、「みなさんおおきに、また来とくれやす! 萌音」の文字が投影された。

帰りのホワイエでは、若い女性が、「オペラグラスで見たけど、本当、めっちゃ可愛かった!」と興奮したりしていて、聴衆の満足度は高かったようである。

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2025年1月24日 (金)

藤井一興(ピアノ) 武満徹 「リタニ」

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