カテゴリー「室内楽」の57件の記事

2025年1月14日 (火)

コンサートの記(879) 平野一郎 弦楽四重奏曲「二十四氣」京都公演@大江能楽堂

2024年12月10日 京都市役所そばの大江能楽堂にて

午後7時から、押小路通柳馬場東入ル(京都市役所のそば)にある大江能楽堂で、平野一郎の弦楽四重奏曲「二十四氣」の演奏を聴く。二十四節気を音楽で描いた作品。演奏は石上真由子(いしがみ・まゆこ。第1ヴァイオリン)、對馬佳祐(つしま・けいすけ。第2ヴァイオリン)、安達真理(ヴィオラ)、西谷牧人(にしや・まきと。チェロ)。全員、タブレット譜を使っての演奏であった。

能楽堂での演奏ということで色々と制約がある。まずファンヒーターは音が大きいというので本番中は切られるため、寒い中で鑑賞しなくてはいけない。客席もパイプ椅子や座布団などで、コンサートホールほど快適ではない。音響設計もされていないが、能楽堂は響くように出来ている上に空間も小さめなので、弦楽四重奏の演奏には特に支障はない。

弦楽四重奏で、四季よりも細分化された二十四氣を描くという試み。24の部分からなるが、24回全てで切るわけにはいかないので、春夏秋冬の4つの楽章で構成されるようになっている。
作曲者の平野一郎のプレトークに続いて演奏がある。能舞台の上には白足袋でしか上がってはいけない(他の履き物で上がってしまうと、板を張り替える必要があるため、膨大な金額を請求されることになる)ので、全員、白足袋での登場である。白足袋で演奏するクラシックの演奏家を見るのは珍しい。

 

平野一郎は、京都府宮津市生まれ(「丹後國宮津生」と表記されている)の作曲家。京都市立芸術大学と同大学大学院で作曲を専攻。2001年から京都を拠点に作曲活動を開始している。
プレトークで、平野は二十四節気は中国由来だが、すでに日本独自のものになっていることや、調べ(調)などについての説明を行う。

 

「二十四氣」であるが、現代曲だけあって、ちょっととっつきにくいところがある。繊細な響きに始まり、風の流れや鳥の鳴き声が模され、ピッチカートが鼓の音のように響く。弦楽器の木の部分を叩いて能の太鼓のような響きを生んだり、ヴァイオリンが龍笛のような音を出す場面もある。旋律らしい旋律は余り出てこないが、ヴィオラが古雅な趣のあるメロディーを奏でる部分もある(チェロのピッチカートで一度中断される)。ヴァイオリンであるが、秋に入ってからようやくメロディーらしきものを奏でるようになる。
秋には楽器が虫の音を模す場面もある。チェロが「チンチロリン」(松虫)、ヴァイオリンが「スイーッチョン」(ウマオイ)の鳴き声を模す。
冬の季節に入ると、奏者達が歌いながら奏でるようになり、足踏みを鳴らす。面白いのは四人のうちヴィオラの安達真理のみ左足で音を鳴らしていたこと。どちらの足で出しても音は大して変わらないが、おそらく左足が利き足なのだろう。
演奏時間約70分という大作。豊かなメロディーがある訳ではないので、聴いていて気分が高揚したりすることはないが、日本的な作品であることは確かだ。四人の奏者の息も合っていた。

演奏終了後に、安達真理がお馴染みの満面の笑みを見せる。彼女の笑みは見る者を幸せにする。

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2024年11月19日 (火)

コンサートの記(870) 第28回 京都の秋 音楽祭「成田達輝&萩原麻未 デュオ・リサイタル」

2024年11月6日 京都コンサートホール小ホール「アンサンブルホールムラタ」にて

午後7時から、京都コンサートホール小ホール「アンサンブルホールムラタ」で、第28回 京都の秋 音楽祭「成田達輝&萩原麻未 デュオ・リサイタル」を聴く。
ヴァイオリンの成田達輝(たつき)とピアノの萩原麻未は夫婦である。年齢は萩原麻未の方が6つ上で、彼女の方から共演を申し出ており、その時点で「もう決まりだな」と多くの人が思っていた関係である。

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成田達輝は、1992年、青森県生まれ。中学生時代から群馬県前橋市で育ち、桐朋女子高校音楽科(共学)を経て(前橋から高崎まで出て新幹線で通学していたそうだ)、渡仏。パリ国立高等音楽院に学び、2010年のロン=ティボー国際コンクール・ヴァイオリン部門で2位入賞。SACEM著作権協会賞も合わせて受賞。12年のエリザベート王妃国際音楽コンクール(ベルギー)ヴァイオリン部門でも2位とイザイ賞受賞。13年の仙台国際音楽コンクール・ヴァイオリン部門でも2位に入っている。現代の作曲家のヴァイオリン作品演奏に積極的で、酒井健治のヴァイオリン協奏曲「G線上で」初演で、芥川作曲賞(現・芥川也寸志作曲賞)受賞に貢献。一柳慧のヴァイオリンと三味線のための協奏曲も世界初演して、2022年度の芸術祭大賞を受賞している。
最晩年の坂本龍一ともコラボレーションを重ねており、東北ユースオーケストラのサポートメンバーとして最後のオーケストラ曲となった「いま時間が傾いて」の演奏にも参加している。

萩原麻未は、1986年、広島県生まれ。広島県人としては綾瀬はるかの1つ下となる。幼時からピアノの才能を発揮。ピアノを始めて数ヶ月でジュニアコンクールで賞を取っている。13歳の時に第27回パルマドーロ国際コンクール・ピアノ部門に史上最年少で優勝。ピアニスト志望の場合、多くが関東や関西の名門音楽高校へ進学するが、萩原麻未は地元の広島音楽高校(真宗王国の広島ということで浄土真宗本願寺派の学校であった。現在は廃校)に進学しており、「地方の音楽高校でもプロになれる」モデルケースとなっている。卒業後は文化庁海外新進芸術家派遣員として渡仏し、パリ国立高等音楽院および同音楽院修士課程を修了。ジャック・ルヴィエに師事。パリ地方音楽院で室内楽も学んでいる。その後、オーストリアに移り、ザルツブルク・モーツァルティウム大学でも学んだ。
2010年に第65回ジュネーヴ国際コンクール・ピアノ部門で8年ぶりの第1位獲得者となり、注目される。一方で、「バスケットボールでドリブルが出来ない」といったような訳の分からない逸話を多く持つ天然キャラとしても知られている。東京藝術大学常勤講師。
以前はそうでもなかったが、顔が丸みを帯びてきたので、今は横山由依はんに少し似ている。


曲目は、前半がストラヴィンスキーのイタリア組曲とデュオ・コンチェルタンテ。後半がジェフスキの「ウィンズボロ・コットン・ミル・ブルース」(ピアノ独奏)、アルヴォ・ペルトの「フラトレス」、ジョン・アダムスの「ロード・ムービーズ」。珍しい曲が並ぶ。

前後半とも成田達輝がマイク片手にプレトークを行う。
「ようこそこのコンサートにいらっしゃいました。2、30人しか入らないんじゃないかと思ってましたが、沢山お越しいただきましてありがとうございます(ただ、日本人は現代音楽アレルギーの人が多いので、成田達輝と萩原麻未のコンサートにしては後ろの方に空席が目立った)。今日のプログラムは私は100%考えまして、妻の萩原麻未の了解を得て」演奏することになったそうである。成田本人も「何これ? 誰これ?」となるプログラムであることは予想していたようだ。
ミニマル・ミュージックが軸になっている。純粋にミニマル・ミュージックの作曲家と言えるのは、ジョン・アダムスだけであるが、ミニマル・ミュージックの要素を持つ作品をチョイスした。ミニマル・ミュージックについては、カンディンスキーなど美術方面の影響を受けて、音楽に取り入れられ、成田は代表的な作曲家としてフィリップ・グラスを挙げていた。

前半はストラヴィンスキーの作品が並ぶが、イタリア組曲はバロックの影響を受けて書かれた曲でいかにもバロックっぽい、デュオ・コンチェルタンテは、アポロとバッカス(ディオニソス)の両方の神を意識した作風と解説。ちなみに、成田は2013年に北九州市の響ホールで幻覚を見たそうで(「怪しい薬とかそういうのじゃないですよ」)、ストラヴィンスキーに会ったという。「凄いでしょ」と成田。凄いのかどうかよく分からない。


ストラヴィンスキーのイタリア組曲とデュオ・コンチェルタンテ。二人とも前半後半で衣装を変えており、前半は萩原は白のドレス。成田は何と形容したらいいのかよく分からない衣装。中東風にも見える。
夫婦で、共にフランスで音楽を学んでいるが、芸風は異なり、成田はカンタービレと技巧の人、萩原は微細に変化する音色を最大の武器とする。なお、萩原はソロの時はかなり思い切った個性派の演奏をすることがあるが、今日はデュオなのでそこまで特別なことはしなかった。

端正な造形美を誇るイタリア組曲に、かなりエモーショナル部分も多いデュオ・コンチェルタンテ。ストラヴィンスキーは「カメレオン作曲家」と呼ばれており、作風の異なる作品をいくつも書いている。そのため、三大バレエだけでストラヴィンスキーを語ろうとする無理が生じる。


後半。成田達輝のプレトーク。ニッカーボッカーズというべきか、ピエロの衣装というべきか、とにかくやはり変わったズボンで登場。解説を行う。「音楽学者の池原舞先生がお書きになった素晴らしいパンフレットを読めば分かります。全て書いてあります。私、出てくる必要ないんですが」
ジェフスキの「ウィンボロ・コットン・ミル・ブルース」は、機械音を模した音楽で同じ音型が繰り返され、やがてブルースが歌われる。ドナルド・トランプが合衆国大統領に再選されたことを速報として告げ、ジェフスキがトランプとは真逆の思想を持ち、プロテスト・ソングなども用いたことを紹介していた。ちなみに「クラスター奏法」といって、腕で鍵盤を叩く奏法が用いられているのだが、萩原麻未は現在、妊娠6ヶ月で(地元の広島で行われる予定だったコルンゴルトの左手のためのピアノ協奏曲のソリストは負担が大きいためキャンセル。すでに代役も決まっている。左手のための協奏曲はバランス的にも悪い気はする)、外国人の聴衆もいるということで、「赤ちゃんがびっくりしちゃったらどうしようと恐れています」と英語で語っていた。

アルヴォ・ペルトは、現代を代表する現役の作曲家。来年90歳になる。エストニアの出身で、首都のタリンにはアルヴォ・ペルト・センターが存在する。成田自身はアルヴォ・ペルト・センターに行ったことはないそうだが、近くに住んでいる友人がいるそうで、色々と情報を得たという。

ジョン・アダムスについては、「聴けば分かります」と端折っていた。


ジェフスキの「ウィンズボロ・コットン・ミル・ブルース」。ピアノ独奏の萩原麻未は、緑地に、腰のところに白い横線の入ったドレスで登場。タブレット譜を使っての演奏であるが、演奏前に「スイッチが」と言って、すぐに弾き出せない何らかのトラブルがあったことを示していた。
実に萩原麻未らしいというべきか、スケールの大きな演奏である。この人に関しては女性ピアニストだからどうこうというのは余り関係ないように思われる。迫力と推進力があり、ブルースも乗っている。


アルヴォ・ペルトの「フラトレス」。疾走するヴァイオリンと祈るようなピアノの対比。ヴァイオリンが突然止まり、ピアノの奏でるコラールがより印象的に響くよう設計されている。


ジョン・アダムスの「ロード・ムービーズ」。3つの曲からなるが、1曲目の「Relaxed Groove」と3曲目の「40% Swing」は速めのテンポで、ミニマル・ミュージックならではのノリがあり、2曲目の「Meditative」はフォークのようなローカリズムが心地よい。ジョン・アダムス作品はコンサートで取り上げられることも増えており、今後も聴く機会は多いと思われる。


アンコールは、日本のミニマル・ミュージックの作曲家の作品をということで、久石譲の作品が演奏される。ただしミニマル・ミュージックではなく、お馴染みのジブリ映画の音楽である。まず、萩原麻未のピアノソロで、「天空の城ラピュタ」より“忘れられたロボット兵”、続いて成田と萩原のデュオで「ハウルの動く城」より“人生のメリーゴーランド”。海外で学んだとはいえ、ここはやはり日本人の感性がものを言う演奏であったように思われる。繊細でノスタルジックで優しい。


なお、カーテンコールのみ写真撮影可となっていたが、余り良い写真は撮れなかった。これまで成田だけがマイクで語っていたが、最後は萩原麻未もマイクを手にお礼を述べて、二人で客席に手を振ってお開きとなった。

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2024年11月 7日 (木)

コンサートの記(869) 第28回 京都の秋 音楽祭 大阪フィルハーモニー交響楽団京都特別演奏会 尾高忠明指揮

2024年10月27日 京都コンサートホールにて

午後3時から、京都コンサートホールで、第28回 京都の秋 音楽祭 大阪フィルハーモニー交響楽団京都特別演奏会を聴く。指揮は大阪フィルハーモニー交響楽団音楽監督の尾高忠明。

毎年恒例の、京都コンサートホールでの大阪フィルハーモニー交響楽団京都特別演奏会。今回は、オール・ベートーヴェン・プログラムで、ヴァイオリン、チェロ、ピアノのための三重協奏曲(ピアノ三重奏:葵トリオ)と交響曲第6番「田園」が演奏される。

大阪フィルハーモニー交響楽団事務局長の福山修氏がホワイエにいらっしゃったのでまず挨拶する。

今日のコンサートマスターは、須山暢大。フォアシュピーラー(アシスタント・コンサートマスター)に尾張拓登。ドイツ式の現代配置による演奏である。なお、現在は京都市交響楽団のチェロ奏者だが、長年に渡って京都市交響楽団と大阪フィルハーモニー交響楽団の両方に客演を続けていた一樂恒(いちらく・ひさし)が客演チェロ奏者として参加している。彼は大フィルの首席ヴィオラ奏者である一樂もゆると結婚しているので、夫婦での参加となる。


ヴァイオリン、チェロ、ピアノのための三重協奏曲。ピアノトリオによる協奏曲で、比較的珍しい編成による曲である。少なくともベートーヴェンの三重協奏曲と同等かそれ以上に有名な三重協奏曲は存在しない。特殊な編成ということで、ベートーヴェンの協奏曲の中では人気がある方ではないが、実演に接するのはこれが3度目となる。

ヴァイオリンの小川響子、チェロの伊藤裕(いとう・ゆう。男性)、ピアノの秋元孝介という関西出身の3人の音楽家で結成された葵トリオ。第67回ミュンヘンコンクールで優勝し、一躍日本で最も有名なピアノトリオとなっている。紀尾井ホールのレジデンスを務めたほか、サントリーホールと7年間のプロジェクトが進行中。2025年からは札幌にある、ふきのとうホールのレジデントアンサンブルに就任する予定である。これまで第28回青山音楽賞バロックザール賞、第29回日本製鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞、第22回ホテルオークラ賞、第34回ミュージック・ペンクラブ賞などを受賞している。
ヴァイオリンの小川響子(SNSからニックネームが「おがきょ」であることが分かる)は、今年の4月から名古屋フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターに就任している。
また、チェロの伊藤裕は、現在、東京都交響楽団の首席チェロ奏者を務めている。

三重協奏曲は、1803年頃から作曲が始められたことが分かっており、1804年もしくは1805年に完成したとされる。1804年の試演を経て、1808年にウィーンで公開初演が行われたが不評であったという。ピアノ三重奏の協奏曲という特殊な楽曲であり、チェロが最も活躍し、難度も高いことから優れたチェリストから依頼があったことが予想され、一方で、ピアノの技巧はそれほど高いものが求められないなど、各楽器の難度に差があることから、特定の奏者を想定して書かれたことが予想される。ただ、具体的に誰のために書かれたのかは分かっていないようだ。

普段からピアノ三重奏団として活躍している葵トリオの演奏だけに、息のピッタリあった演奏が展開される。技巧面は申し分ない。小川響子が旋律を弾き終えると同時に、弓を高々と掲げるのも格好いい。小川のヴァイオリンには艶とキレがあり、伊藤のチェロは温かく、秋元のピアノはスケールが大きい。
ベートーヴェンの楽曲としては決定的な魅力には欠けるとは思うが、ヴァイオリン、チェロ、ピアノとオーケストラのやり取りによって生まれる独自の音響がなかなか楽しい。

尾高指揮する大フィルは、磨き抜かれた音色を最大の特徴とする。ベートーヴェンの演奏としては綺麗すぎる気もするが、アンサンブルの精度も高く、構造もきっちりとして見通しも良く、「好演」という印象を受ける。


演奏終了後、何度かカーテンコールに応えた葵トリオ。最後は譜面を手にして現れ、アンコール演奏があることが分かる。
演奏されるのは、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第6番変ホ長調より第3楽章。瑞々しい音楽であり、叙情味に溢れた演奏であった。ピアノの音は三重協奏曲の時よりも輪郭がクッキリしていて、やはり難度によって響きが変わることが分かる。



ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」。尾高と大フィルは、大阪・中之島のフェスティバルホールで「ベートーヴェン交響曲チクルス」を行っており、私も交響曲第3番「英雄」と第4番の回を除く全ての演奏を聴いているが、「田園」のみ大人しく、不出来であっただけに不安もある。
ただ、今回は弦の音色も瑞々しく、歌心にも溢れ、金管はやや安定感に欠けたが、木管も堅調で優れた演奏になる。

ベートーヴェンの交響曲の中でも「田園」は特に名演が少なく、演奏が難しいことが予想される。ベートーヴェンの交響曲の中でも旋律主体であり、描写的(ベートーヴェン本人は否定しているが)であるため、他の交響曲とは性質が異なり、ベートーヴェンを得意としている指揮者でも合わない人が多いのかも知れない。考えてみれば、「田園」の名盤を残していることで知られるブルーノ・ワルターもカール・ベームも「ベートーヴェン交響曲全集」を作成しているが全集の評判自体は必ずしも高くない。一方で、ベートーヴェン指揮者として知られるヴィルヘルム・フルトヴェングラーの「田園」は特異な演奏として知られており、「ベートーヴェン交響曲全集」を何度も作成しているヘルベルト・フォン・カラヤンや朝比奈隆の「田園」もそれほど評価は高くないということで、「田園」だけは毛色が違うようである。
ということで、フェスの「ベートーヴェン交響曲チクルス」では上手くいかなかったのかも知れないが、今回は「田園」1曲ということで、チクルスの時とスタンスを変えることが可能だったのか、しっかりとした構造を保ちつつ、流れも良く、日本のオーケストラによる「田園」の演奏としては上位に入るものとなった。
ピリオドを強調した演奏ではないが、弦のボウイングなどを見ると、H.I.P.なども部分的に取り入れているようである。ティンパニもバロックティンパニは使用していないが、堅めの音で強打するなど、メリハリを生み出していた。
第5楽章も神や自然に対する畏敬の念が大袈裟でなく表れていたように思う。ある意味、日本的な演奏であるとも言える。

演奏終了後、尾高のスピーチ。「お世辞でなく」「大好きなホール」と京都コンサートホールを讃えるが、その後の言葉はマイクを使っていないということもあってほとんど聞き取れず。「パストラルシンフォニーは」という言葉は聞こえたため、「田園」交響曲にまつわる話であるということが分かるだけであった。

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2024年11月 4日 (月)

京都コンサートホール フォール ピアノ五重奏曲第1番、第2番よりダイジェスト映像

エリック・ル・サージュ(ピアノ)、弓新&藤江扶紀(ヴァイオリン)、横島礼理(ヴィオラ)、上村文乃(チェロ)
2024年10月5日 京都コンサートホール小ホール「アンサンブルホールムラタ」にて

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2024年10月21日 (月)

コンサートの記(863) 安達真理(ヴィオラ)&江崎萌子(ピアノ) 「月の引用」@カフェ・モンタージュ

2024年10月4日 京都市中京区 柳馬場通夷川東入ルのカフェ・モンタージュにて

午後8時から、柳馬場(やなぎのばんば)通夷川(えびすがわ)東入ルにあるカフェ・モンタージュで、ヴィオラの安達真理とピアノの江崎萌子によるコンサート「月の引用」を聴く。

曲目は、ブラームスのヴィオラ・ソナタ第1番とショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタ。ブラームスのヴィオラ・ソナタ第1番は、ブラームス最後の室内楽曲。ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタは、ショスタコーヴィチの最後の作品で、死の5日前に完成している。


人気ヴィオリストの安達真理。関西で実演に接する機会も多い。国内ではソリストや室内楽での活動が多かったが、2021年に日本フィルハーモニー交響楽団の客演首席ヴィオラ奏者に就任している。
桐朋学園大学、ウィーン国立音楽大学室内楽科、ローザンヌ高等音楽院ソリスト修士課程を修了。若手奏者との共演の他、坂本龍一との共演経験もあり、6月に行われた日本フィルの坂本龍一追悼演奏会でも客演首席ヴィオラ奏者として乗り番であった。指揮者のパーヴォ・ヤルヴィとはエストニア・フェスティバル管弦楽団のメンバーとして、ヨーロッパ各地で共演を重ねている。コロナの時期にはインスタライブなども行っていて、私も見たことがあるのだが、かなり性格が良さそうで、彼女のことを嫌いという人は余りいないのではないだろか。笑顔がとてもチャーミングな人である。
ロングヘアがトレードマークであるが、今日はポニーテールで登場した。

ピアノの江崎萌子は、東京出身。桐朋女子高校音楽科を首席で卒業後、パリのスコラ・カントルム(エリック・サティが年を取ってから入学し、優秀な成績で卒業したことでも知られる音楽院である)とパリ国立高等音楽院修士課程に学び、ライプツィッヒ・メンデルスゾーン音楽大学演奏家課程で国家演奏家資格を取得している(日本と違って資格がないとプロの演奏家として活動出来ない)。ヴェローナ国際コンクールで2位獲得、東京ピアノコンクールでも2位に入っている。


ブラームスのヴィオラ・ソナタ第1番。カフェ・モンタージュは空間が小さいので音がダイレクトに届く。ブラームスらしい仄暗い憂いの中に渋さと甘さの感じられる曲だが、憧れを求める第2楽章、そして第3楽章などは清澄な趣で、穏やかな魂の流れのようなものが感じられる。
間近で聴いているので迫力が感じられ、二人のしなやかな音楽性も伝わってくる。

演奏終了後に安達真理のトーク。マイクがないので、地声で話す。空間が小さいので十分に聞こえる。ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタが彼の最後の作品であり、もう右手が使えず左で記譜したこと、死の直前まで奥さんにチェーホフの小説「グーセフ」を読み聞かせて貰っていたことなどを話す。
今回のタイトルは、「月の引用」であるが、ショスタコーヴィチはヴィオラ・ソナタの第3楽章でベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「月光」第1楽章の旋律を引用しており、そこからタイトルがつけられたことを明かす。第1楽章には「ノベル(小説)」、第2楽章には「スケルツォ」、第3楽章には「偉大な作曲家の思い出に」という副題が付いていたようだ。

休憩後に演奏開始。ヴィオラはピッチカートで始まる。深遠さと諧謔の精神を合わせ持ついつものショスタコーヴィチであるが、背後に何か得体の知れないものが感じられる。
第2楽章は、流麗な舞曲風の曲調。再びピッチカートの歩みが始まり、悲歌のようなものが歌い上げられて、再びピッチカートが姿を現す。

第3楽章には、「月光」ソナタからの引用と共に、自身の交響曲全15曲からの引用がさりげなくちりばめられてるのだが、それが発見されたのは、作曲者が亡くなってから大分経ってからであった。それほど巧妙に隠されていたということになる。ベートーヴェンをカモフラージュにして意識をそちらに向かわせるよう仕向けたのであろう。
「月光」からの引用はまずピアノに現れ、すぐにヴィオラが歌い交わす。
次第にピアノが叩きつけるような音に変わり、その上をヴィオラの月光の旋律が滑る。
ベートーヴェンの「月光」は、「神の歩み」「十字架」「ゴルゴダの丘」などを描写しているという説があるが、ショスタコーヴィチがそうしたことを知っていたのかどうかは不明である。

二人ともショスタコーヴィチの鋭さの中に優しさを含ませたかのような演奏。


アンコール演奏は1曲。聴いたことのない曲だったが、安達真理は、「なんの曲かは私のXをご覧下さい」と告げていた。確認すると、平野一郎の「あまねうた」という曲だったようだ。

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2024年10月20日 (日)

コンサートの記(862) ザ・フェニックスホール アンサンブル・ア・ラ・カルト67「ジャパニーズ・ミニマル・ミュージック~オール・久石譲・プログラム~」

2024年10月12日 大阪・曾根崎のあいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホールにて

午後3時から、大阪・曾根崎の、あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホールで、アンサンブル・ア・ラ・カルト67「ジャパニーズ・ミニマル・ミュージック~オール・久石譲・プログラム~」という公演を聴く。
演奏は、いつもの面々。

じゃ、分からないか。
中川賢一(ピアノ/音楽監督)、石上真由子(いしがみ・まゆこ。ヴァイオリン)、森岡聡(ヴァイオリン)、安達真理(ヴィオラ)、鈴木皓矢(こうや。チェロ)、長谷川順子(コントラバス)、大石将紀(まさのり。サクソフォン各種)、井上ハルカ(サクソフォン各種)、畑中明香(あすか。パーカッション各種)、宮本妥子(やすこ。パーカッション各種)。
しかし、どう見ても「いつもの面々」である。

タイトル通り、オール・久石譲・プログラム。
第1部が、「Shaking Anxiety and Dreamy Global-揺れ動く不安と夢の球体-」2台のマリンバのための、
アルバム「フェルメール&エッシャー」より、「Muse-um」(for piano)、「Circus」(for piano trio)、「Virtical lateral thinking」(for piano torio)、「Sense of the light」(for piano quintet)、「Encounter」(for piano quintet)。

第2部が、アルバム「ヴィオリストを撃て」より。ヴィオラ・ジョークですね(違う)。
「794BDH」、「KIDS RETURN」、「MKWAJU」、「LEMOLE」、「TIRA-RIN」、「DA・MA・SHI・絵」、「Summer」


まず「Shaking Anxiety and Dreamy Global-揺れ動く不安と夢の球体-」2台のマリンバのための。
畑中明香が上手側の、宮本妥子が下手側のマリンバを演奏する。不思議な浮遊感のある音楽である。

久石譲に関しては説明不要とも思えるが、クインシー・ジョーンズから芸名を取った音楽家で、本名は藤澤守。1950年生まれ。幼い頃から音楽に親しみ、作曲を島岡譲(ゆずる)に師事。国立(くにたち)音楽大学作曲科でも島岡に学び、現代音楽に衝撃を受け、新しい音楽を志すようになる。当時は前衛的な音楽を作っていたが、聴きに来るのは身内ばかり。この頃、ミニマル・ミュージックを知り、傾倒する。その後、ポピュラーミュージックへと転向し、スタジオジブリの映画音楽を手掛けたことで一気に知名度が上がる。ただこの「ジブリ映画の久石譲」はあくまで仮の姿である。北野武監督作品の映画音楽の作曲家としても知られるようになった。指揮者で元NHK交響楽団オーボエ奏者、エッセイストとしても知られる茂木大輔の義兄弟でもある(奥さん同士が姉妹)。
最近は指揮活動に力を入れており、大阪の日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任。更に来年には音楽監督に昇格する予定である。久石の指揮については余りよく知らず、独学なのかと思っていたが、仕事の合間を縫って秋山和慶に師事していたようである。「齋藤メソッド」の正統的な継承者である秋山さんなら間違いないだろう。
ミニマル・ミュージックの作曲家、久石譲が彼の本当の姿である。

アルバム「フェルメール&エッシャー」より。「Muse-um」。中川賢一のピアノ独奏。偶然かどうかは分からないが、琉球音階のような進行をする。

中川賢一、石上真由子、鈴木皓矢による「Circus」と「Vertical lateral thinking」。ミニマル・ミュージックというと、マイケル・ナイマンといい、スティーヴ・ライヒといい、フィリップ・グラスといい、乾いた響きのする作曲家が多いが(ナイマンは「ピアノ・レッスン」を機にロマンティックな作風へと方向転換)、日本の作曲家によるミニマル・ミュージックはウエットなものが多く、久石の音楽も同傾向である。

中川賢一、石上真由子、森岡聡、安達真理、鈴木皓矢による「Sense of light」と「Encounter」。この間、京都のカフェ・モンタージュで聴いたばかりの安達真理。今日もポニーテールでの演奏である。
腕が立つ人ばかりであるため、迫力のある演奏が展開される。私の席からは安達真理さんのチャーミングな笑顔がよく見えてとっても(以下の文章は検閲により削除されました)


ちなみに今日は客席に明らかに音楽関係者と思われる人が多い。現代音楽に強い演奏家ばかりが集っているが、案外、空席も目立つ。久石譲とはいえ、やはり現代音楽アレルギーのある人は多いのだろうか。


第2部。PAを使った10人編成での演奏である(全員参加)。
中川賢一が客席に背を向けて中央に座り、弾き振りのスタイルで演奏(実際には振る場面はほとんどない)。総譜を使ってピアノを弾き、時折、指示を出す。
石上真由子がコンサートミストレス。弦楽器は下手側にピアノを囲むように並び、その背後(下手側)にサキソフォンの二人が来る。舞台上手側にはパーカッションの二人が陣取る。
中川は譜めくり人を使っての演奏。
石上真由子、森岡聡、大石将紀はタブレット譜を使っての演奏。安達真理とパーカッションの二人は紙の楽譜。その他の人は座席の関係で何を使っているのかは確認出来ず。

北野武監督作品の映画音楽の中でも人気の高い「KIDS RETURN」と「Summer」(「菊次郎の夏」より。CM楽曲としても使用された)はやはり親しみやすい。切れ味の鋭い演奏である。

「KIDS RETURN」の、「俺たちもう終わっちゃったのかな?」「馬鹿野郎! まだ始まっちゃいねえよ!」は映画の幕切れのセリフとしてかなり有名なものである。
ただ北野武は、「良い曲なのに、少年犯罪の時に使われてばかりで困る」とも語っている。
オリジナルは声が入っているのだが、その部分は演奏されなかった。
「KIDS RETURN」は、当初は別のストーリーだったのだが、安藤政信のボクシングの上達が金子賢より早かったため、内容が変わっている。自転車での二人乗りのシーンは、淀川長治が、「詩だ」と絶賛した。

その他の曲であるが、変拍子、突然の転調、ポリリズム、音型の変化、出だしの意図的なずらしなど、現代音楽の要素がたっぷり詰まったものである。いずれもとても楽しい音楽だ。楽器の音の受け渡しなど、視覚的にも面白い。
乗れる音楽なのだが、日本のコンサートは体を動かして聴くのは厳禁なんですね。ということで、指先だけでリズムを取ったりしていた。


アンコール演奏は、「KIDS RETURN」をリターン。やはりこの曲は良い。

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2024年9月29日 (日)

コンサートの記(857) 大友直人指揮 第13回関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホール

2024年9月15日 京都コンサートホールにて

午後3時から、京都コンサートホールで、第13回関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホールを聴く。

大阪音楽大学、大阪教育大学、大阪芸術大学、京都市立芸術大学、神戸女学院大学、相愛大学、同志社女子大学、武庫川女子大学の8つの音楽大学や音楽学部を持つ大学が合同で行う演奏会である。指揮は、大阪芸術大学教授、京都市立芸術大学客員教授でもある大友直人。大友は他に東邦音楽大学特任教授、洗足学園音楽大学客員教授も務めている。

大阪音楽大学は大阪府豊中市にある音楽学部のみの単科大学で、大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウスを持っていることから、声楽に特に強いが器楽も多くの奏者が輩出している。朝比奈隆がこの大学でドイツ語などの一般教養を教えており(大阪音楽大学には指揮科はない)、目に付いた優秀な演奏家を自身の手兵である大阪フィルハーモニー交響楽団にスカウトすることが度々であった。

大阪教育大学は、大阪府柏原(かしわら)市にあるのだが、大阪府の東端にある柏原市の中でも更に東端にあり、ほぼ奈良県との県境に位置している。教育大学なので音楽の先生になる課程もあるが、音楽を専門に学ぶコース(芸術表現専攻音楽表現コース)も存在する。このコースの校舎は奈良との県境が目の前のようだ。

大阪芸術大学は、大阪府南河内郡河南町にある総合芸術大学で、音楽よりも演劇、ミュージカル、文芸、映画などに強いが、音楽学科も教員に大友直人、川井郁子(ヴァイオリン)、小林沙羅(ソプラノ歌手)などを迎えており、充実している。

京都市立芸術大学は、音楽学部と美術学部からなる公立芸術大学で、西日本ナンバーワン芸術大学と見なされている。これまでは西京区の沓掛(くつかけ)という町外れにあったが、このたび、JR京都駅の東側にある崇仁地区に移転し、都会派の公立芸術大学に生まれ変わった。有名OBに佐渡裕がいるが、彼は指揮科ではなくフルート科の出身である。少数精鋭を旨としている。

神戸女学院大学は、神戸を名乗っているが、西宮市にメインキャンパスがあるミッションスクールである。以前は西日本ナンバーワン私立女子大学であった神戸女学院大学であるが、女子大不人気により、最近は定員割れするなど苦しい状況にある。音楽学部を持つ。キャンパスにはウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計の建物(多くが重要文化財に指定)が並ぶ。

相愛大学は、浄土真宗本願寺派の大学で、人文学部と音楽学部と人間発達学部を持ち、キャンパスは大阪市の南港と、北御堂(浄土真宗本願寺派津村別院)に近い本町(ほんまち)の2カ所にある。

新島八重が創設したミッション系の同志社女子大学は、京都市上京区の今出川、同志社大学の東隣にもキャンパスがあるが、本部のある京都府京田辺市に設置された学芸学部に音楽学科を持つ。京田辺キャンパスのある場所は田舎である。京都市内で活躍する女性音楽家には、同女(どうじょ)こと、この大学の出身者が割と多い。

武庫川女子大学は、日本最大の女子大学であり、西宮市にメインキャンパスがある。総合大学であり、音楽学部を持つ。


曲目は、千住明のオペラ「万葉集~二上山挽歌編~」(大津皇子・大伯皇女レクイエム)より抜粋(オーケストラバージョン,2013。台本:黛まどか)とベルリオーズの幻想交響曲。


開演前にウェルカムコンサートがあり、ホワイエで、大阪教育大学の学生と、大阪芸術大学の学生が演奏を行う。

大阪教育大学は、全員が打楽器奏者で、木製のスツールにバチを当ててリズム音楽を奏でる。ジュリー・ダビラの「スツール・ビジョン」という曲である。リズミカルに躍動感を持って音を出す大阪教育大学の学生。互いのバチ同士を当てて音を出す場面もあり、仲の良さが伝わってくる。

大阪芸術大学は、レイモンド・プレムルの5つの楽章「ディヴェルティメント」よりを演奏。トランペットとトロンボーンが4、ホルンとチューバが1人ずつという編成。ちょっと音が大きめの気もするが、快活な演奏を聴かせてくれた。


千住明のオペラ「万葉集~二上山挽歌~」(大津皇子・大伯皇女レクイエム)より抜粋(オーケストラバージョン)。
千住明のオペラ「万葉集」は2009年に作曲され、2011年に改訂されて「明日香風編」と「二上山挽歌編」の二部構成になった。初演は東京文化会館小ホールで行われており、オペラではあるが、音楽劇、オラトリオ的な性質を持っており、「二上山挽歌編」は挽歌とあることからも分かる通り、レクイエム的性格が強い。

独唱者は、伊吹日向子(ソプラノ。京都市立大学大学院修士課程声楽専攻1回生)、吉岡七海(メゾソプラノ。大阪音楽大学大学院声楽研究室に在籍)、向井洋輔(テノール。京都市立芸術大学大学院修士課程2回生)、芳賀拓郎(大阪芸術大学大学院在学中)。
合唱は、各大学からの選抜。大阪音楽大学、大阪芸術大学、武庫川女子大学(当然ながら女声パートのみ)の学生が比較的多めであり、これらの大学は声楽が強いことが分かる。

この曲のコンサートミストレスは、原田凜奏(京都市立芸術大学)。メンバーは弦楽器は京都市立芸術大学在籍者が圧倒的に多く、管楽器や打楽器は各大学がばらけている。

大津皇子と草壁皇子による皇位継承問題を題材とした作品であり、讒言により失脚した大津皇子は自害して果て、亡骸は二上山に葬られた。姉である大伯皇女(大来皇女。おおくのひめみこ。日本初の伊勢斎宮)が弟を思って詠んだ「うつそみの人なる我や明日よりは二上山(ふたかみやま)を弟(いろせ)と我(あ)が見む」(現世の人である私は明日よりは二上山を弟と見なして生きていきます)がよく知られており、この作品でも歌われている。

大津皇子も草壁皇子も、天武天皇の子であるが、大津皇子と大伯皇女の母親は大田皇女の子、一方の草壁皇子の母親は神田うのの名前の由来として有名な(でもないか)鸕野讃良皇女(うののさららのこうじょ/ひめみこ)、後の持統天皇である。大田皇女は鸕野讃良皇女の姉であるが若くして亡くなっており、息子の後ろ盾にはなれなかった。そこで草壁皇子が立太子するが、草壁皇子は病弱であった上に、異母兄の大津皇子は文武両道の「人物」であり、鸕野讃良皇女は危機感を持ち、大津皇子に謀反の疑いを掛け、死へと追い込んだとされる。時に24歳。
しかし鸕野讃良皇女の願いも空しく、草壁皇子は即位することなく28歳の若さで病死。そこで鸕野讃良皇女は、草壁皇子の息子を次の天皇に就けることにするが、その軽皇子は8歳と幼かったため、繋ぎとして自らが女帝として即位。持統天皇が誕生する。軽皇子はその後、文武天皇として即位している。

今回の黛まどかの台本は、石川女郎(いらつめ)と大津皇子の問答歌、草壁皇子の歌で始まる。草壁皇子は石川女郎に恋心を寄せているのだが、石川女郎は大津皇子に惚れている。

その後、初代の伊勢斎宮に選ばれ、神宮に赴いた大伯皇女の下に、弟の大津皇子がやって来る。この頃はまだ皇室では近親婚もそれほどタブー視されておらず、大津と大伯の間には姉弟を超えた愛があることが仄めかされる。

飛鳥浄御原宮(あすかきよみはらのみや)では、草壁皇子が「大津皇子が謀反を企てている」と母親に讒言(史実では讒言を行ったのは川島皇子であるとされる)。大津皇子に死を賜ることが決まる。大津皇子は死ぬ前に姉に一目会いたいと伊勢までやって来たのだった。当時、意味なく伊勢神宮に参拝するのは禁止されていたようで、これが大津が死を賜る直接の原因となったという説もある。
大和へと帰る大津皇子を大伯皇女がなすすべもなく見送り、和歌のみを詠んだ。
鸕野讃良皇女と息子の草壁皇子は、大津を排し、新たな国を作る決意をする。

フィナーレは、大伯皇女の「うつそみの人なる我や明日よりは二上山を弟と我が見む」の和歌に始まり、天武天皇(合唱のバスのメンバーの一人が歌う)、大伯皇女、持統天皇、草壁皇子、大津皇子、民の合唱が、大津皇子の御霊がシリウス(天狼)として青い炎を身に纏い、大和で輝き続けることを願う歌詞となって終わる。

大友直人は今日は全編ノンタクトで指揮。この曲は4拍子系が基本なので振りやすいはずである。
いかにもレクイエム的な清浄な響きが特徴であり、分かりやすくバランスの良い楽曲となっている。メロディーも覚えやすい。

独唱は学生で京都コンサートホールの音響に慣れてないということもあってか、声量が小さめで、発声ももっと明瞭なものを求めたくなるが、まだ大学院生なので多くを望むのは酷であろう。合唱もバラツキがあったが、臨時編成でもあり、これも許容範囲である。

大友は若い頃はしなやかな感性を生かした音楽作りをしていた。最近は押しの強い演奏が目立っていたが、パワーがそれほど望めない学生オーケストラということもあってか、歌心と造形美の両方を意識した音楽作りとなっていた。大友は声楽付きの作品には強いようである。
オーケストラは、弱音の美しさに限界があるが、なかなかの好演だったように思う。


後半、ベルリオーズの幻想交響曲。大友は譜面台を置かず、暗譜での指揮となる。
幻想交響曲のコンサートミストレスは、日下部心優(京都市立芸術大学)。
大友は比較的遅めのテンポで開始。じっくりと妖しい音を愛でていく。オーケストラも輝きと艶やかさがあり、臨時編成の団体としてはレベルが高めである。アンサンブルの精度も高く、金管や打楽器にも迫力がある。

第2楽章は、コルネット不採用。典雅なワルツが奏でられ、やがて哀しきとなり、最後は強引に盛り上げて切り上げる。ベルリオーズの意図通り。

第3楽章でのオーボエのバンダは、上手袖すぐの場所で吹かれるため音が大きい。寂寥感が自然に表出されている。

第4楽章「断頭台への行進」。大友さんなので狂気の表出まではいかないが、力強い金管と蠢くような弦楽のやり取りや対比が鮮やかである。

第5楽章「最初のワルプルギスの夜」も、弦楽のおどろおどろしさ、クラリネットなどが奏でる「恋人の主題」の不気味さなど、よく表れた演奏である。鐘は下手袖で叩かれた。明るめの音色である。大友のオケ捌きは万全であり、学生のみの演奏としては十分に納得のいく出来に達していた。

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2024年8月31日 (土)

NHKBS「クラシック俱楽部」 村治佳織 村治奏一 ギター・デュオ・リサイタル 岡山県津山市公開収録

録画しておいたNHKBS「クラシック俱楽部」村治佳織 村治奏一 ギター・デュオ・リサイタル 岡山県津山市公開収録を視聴。冒頭に村治佳織が演奏した、映画「ディア・ハンター」のテーマ曲であるマイヤースの「カヴァティーナ」が流れるが、公開収録ではこの曲は演奏されない。

演目は、カルッリの対話風小二重奏曲第2からロンド、エンニオ・モリコーネの映画「ミッション」から「ガブリエルのオーボエ」(村治佳織独奏。モーガン&ポーチン編曲)、坂本龍一の映画「戦場のメリークリスマス」から「Merry Christmas Mr.Lawrence」(村治佳織独奏。佐藤弘和編曲)、ヘンリー・マンシーニの映画「ひまわり」から「ひまわり」(村治奏一独奏:鈴木大介編曲)、映画「プマリアネッリの「プライドと偏見」から夜明け(牟岐礼編曲)、藤井眞吾の「ラプソディー・ジャパン」

津山城の一角にある津山文化センター大ホールでの2020年12月11日の収録。津山文化センターは1965年の竣工。2020年にリニューアル工事が行われ、リニューアルオープンを記念しての収録だと思われる。

コロナが猛威を振るっていた時期であるため、感染対策を十分に講じての収録となった。

4歳差の村治姉弟。ギタリストである村治昇の子である。デビューは姉の村治佳織の方が早く、15歳でデビュー。当時は「女子高生ブーム」だったので(今考えると変なブームである)「女子高生ギタリスト」としてもてはやされ、村治自身もそれを強みと考えている旨を発言していたりする。同世代の男子高校生は村治佳織のことを「ムラジー」のあだ名で呼んだとの記録があるが本当かどうかは定かでない。クラシック音楽の奏者としてはトップレベルのビジュアルの持ち主であり、若い頃からテレビ番組への出演も多く、写真集も出している。
姉がアイドルのような人気を博す一方で、弟の村治奏一は周囲に騒がれることなくギターに専念できた強みがある。

映画音楽を多く取り入れたプログラム。モリコーネの「ガブリエルのオーボエ」は、現在ではオーボエ奏者のアンコール曲目の定番となっているが、ギターで演奏されるのは珍しい。

坂本龍一の「Merry Christmas Mr.Lawrence」。村治佳織は生前の坂本龍一と交流があり、この曲も村治のギター、坂本龍一のピアノで共演しており、その時の映像は今でもYouTubeなどで確認することが出来る。2020年ということで、坂本龍一はまだ存命中であるが、今、放送ということで追悼の意味も込められているのかも知れない。
村治佳織の演奏はギターによるものとしてはスケールが大きいのが特徴である。

指揮者の藤岡幸夫の大のお気に入りでもあるマンシーニの「ひまわり」。私も簡単な編曲によるピアノ版を弾いたことがあるが、単に聴くよりも弾いた方が胸に響く楽曲である。マンシーニは、作曲する際には女優の顔を思い浮かべるのが常だったようだが、この曲もソフィア・ローレンを思い浮かべながら作曲したのだろうか。
村治奏一の演奏は切々とした語り口が印象的である。

二人によるトーク。村治佳織はパリのエコールノルマルで、村治奏一はニューヨークのマンハッタン音楽院で学んでいるため、スタイルが異なるはずなのだが、実の姉弟ということで、間の取り方や表現の仕方の根っこの部分が同じになるので、敢えて違えるように工夫しているそうである。
ちなみにテレビ収録ということで、村治佳織は弟のことを「奏一さん」、村治奏一は姉のことを「佳織さん」と呼んでいるが、普段はどう呼んでいるのかは分からない。


藤井眞吾の「ラプソディー・ジャパン」は、日本の民謡や日本人作曲家の旋律を取り入れた作品で、「さくらさくら」、瀧廉太郎の「花」(村治姉弟は東京都台東区出身なので隅田川を「地元」と語る)、川越城が舞台とされる「とおりゃんせ」、「かごめかごめ」、成田為三の「浜辺の歌」、「ずいずいずっころばし」 、「故郷」 などが次々に演奏され、ノスタルジアに浸ることが出来た。

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2024年8月19日 (月)

Eテレ「クラシック音楽館」2024年8月11日 沖澤のどか指揮 NHK交響楽団第2014回定期演奏会ほか

Eテレ「クラシック音楽館」。今日は京都市交響楽団第14代常任指揮者である沖澤のどかがNHK交響楽団に初客演した第2014回定期演奏会の模様を送る。今年の6月14日、東京・渋谷のNHKホールでの収録。

イベールの「寄港地」、ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲(ピアノ独奏:デニス・コジュヒン)、ドビュッシーの「夜想曲」(女声合唱:東京混声合唱団)というオール・フレンチ・プログラム。沖澤は京響でもオール・フレンチ・プログラムの定期演奏会を行っているが、フランスものには自信があるようである。今まで何度か実演に接しているが、情熱バリバリ系では全くなく、知的コントロール系なのでフランス音楽は合っているだろう。

以前はドイツもの一辺倒だったN響だが、シャルル・デュトワを常任指揮者・音楽監督・名誉音楽監督として据え、フランスものも得意なパーヴォ・ヤルヴィを首席指揮者(現在は名誉指揮者)に招いたことで、音のパレットがどんどん広がっている。


イベールの「寄港地」は、京響の定期演奏会でも取り上げている沖澤だが、色彩感の豊かさや音の濃さ、エキゾチシズムなどをN響からも引き出している。


ラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲。ピアノ独奏のデニス・コジュヒンは1986年生まれのロシアのピアニスト。2010年にベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクール・ピアノ部門で優勝している。コジュヒンは重厚且つ力強い演奏を展開。沖澤指揮のN響は気品ある伴奏を展開する。

アンコール演奏は、チャイコフスキーの「子どものアルバム」から「教会で」。短く、音の冷ややかさが印象的な曲と演奏である。


ドビュッシーの「夜想曲」。この6月には、カーチュン・ウォン指揮日本フィルハーモニー管弦楽団も東京音楽大学の女声合唱で取り上げている。「夜想曲」が同一都市で同じ月に2度取り上げられるというは珍しい。しかも両方とも女声合唱を伴う第3曲「シレーヌ」をカットしないでの演奏である。
東京混声合唱団は、舞台下手端、オーケストラの最後列の後ろに陣取る。

カーチュンと日フィルの「夜想曲」は、シャープで音の色彩鮮やかといった印象だったが、沖澤とN響の「夜想曲」は丁寧さエレガントさが目立つ。カーチュンがドビュッシーの才気に、沖澤がドビュッシーの「粋」に焦点を当てているようでもある。音色もN響の方がソリッドな印象を受けるが、実演とテレビ放送なので単純に比較は出来ない。


続いて、京都コンサートホール小ホール「アンサンブルホールムラタ」で行われたヴォーチェ弦楽四重奏団によるドビュッシーの弦楽四重奏曲(テロップが弦楽四重奏団と誤植されたままであった)とバルメールの「風に舞う断章」より第3曲。

ドビュッシーの「夜想曲」と弦楽四重奏曲は、いずれも坂本龍一が生前最も愛した曲であり、続けて聴くことになる。ヴォーチェ弦楽四重奏団はフランスのアンサンブルということで切れ味鋭く解像度の高い演奏を行うという印象。
バルメールの「風に舞う断章」より第3曲演奏終了後には作曲者がステージ上に姿を現し、拍手を受けた。

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2022年9月20日 (火)

スタジアムにて(41) J1 京都サンガF.C.対横浜F・マリノス@サンガスタジアム by KYOCERA 2022.9.14

2022年9月14日 サンガスタジアム by KYOCERAにて

午後7時から、サンガスタジアム by KYOCERAで、J1 京都サンガF.C.対横浜F・マリノスの試合を観る。
J1昇格は果たしたが苦戦することも多い京都サンガF.C.。現在のところ降格圏にはいないが13位に甘んじている。一方、対戦相手の横浜F・マリノスは現在首位であり、サンガの劣勢が予想される。

今日は試合前に京都市交響楽団の楽団員(塩原志麻、片山千津子、小田拓也、渡邉正和、黒川冬貴)による弦楽五重奏団の演奏がある。
まずは今日は宇治市DAYということで、宇治市内の中学校から各部門で業績を上げた生徒らがスタジアム内(といっても端の方だが)を歩き、京都市交響楽団の弦楽五重奏団が大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のオープニングテーマを3回ほど繰り返して演奏した。
弦楽五重奏団はキックオフの前のセレモニーでも演奏を行ったが、よく知らない曲で、音も応援団の太鼓にかき消されがちであった。


サンガとF・マリノスの実力差は、パッと見で分かるものではないが、上がりはF・マリノスの選手の方が速めである。

サンガも相手ゴール前で決定的なチャンスを迎えたりもしたが、あと一押しが足りず、逆にF・マリノスのエドゥアルドにヘディングシュートをゴール右隅に決められ、先制点を許す。

後半に入ってもF・マリノスのペースは続き、エルベルのループシュートがキーパーとその後ろにいたディフェンダーの頭の上を超えてゴールネットを揺らす。2-0。

サンガは、残り後3分というところで、コーナーキックを得る。クロスに井上黎生人が反応。これは相手キーパーに阻まれるが、こぼれたボールを金子大毅が蹴り上げ、ゴールの上のネットを揺らす。サンガ、一矢報いて更に攻撃を続けるが追加点はならず。J1首位の壁は厚く、サンガは1ー2での惜敗となった。

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