上七軒 第七十四回「北野をどり」
2026年3月28日 上七軒歌舞練場にて
午後4時30分から、上七軒歌舞練場で、第七十四回「北野をどり」を観る。
これまで、五花街の内の四花街、いずれも鴨川に近い、祇園甲部、祇園東、宮川町、先斗町の春のをどり(宮川町だけは「おどり」)は観ているのだが、一つだけ離れたところにあり、始まりも早い上七軒のをどりは観たことがなかった。交通の便がそれほど良くない(悪いという程ではない)ことに加え、始まりが早いので、「そういえば上七軒は」と思った頃には券が売り切れているということもよくあった。「都の賑い」など、五花街総出の催しでは、上七軒の芸舞妓も見たことがあるが、上七軒単独ではないということである。
一つだけ離れたところにあるということで、上七軒は他の花街とは性質も異なる。
まず室町時代に、時の将軍・足利義稙の命ですぐそばにある北野天満宮の社殿造営工事が行われた際に、余った木材で七軒の茶屋が作られたのが最初とされる。豊臣秀吉が行った北野大茶会では、団子などを提供して、秀吉に気に入られ、日本初の茶屋を営む権利を許されたという。
そして江戸時代になると、西陣織や染め物など、西陣の旦那衆が遊ぶ花街として上七軒は発展する。しかし、昭和に入り、西陣での工芸や工業が振るわないようになると、上七軒も規模を縮小するようになり、去る人も多かったので、芸舞妓募集の貼り紙が行われるようになったという。今はやや持ち直しているが、インターネットで舞妓の募集をしているそうで、上七軒をもじった下八軒という架空の花街を舞台にしたミュージカル映画「舞妓はレディ」と全く同じことが行われていることが分かる。おそらくインターネットでの舞妓募集は周防正行監督の思いつきではなく、上七軒を取材して実際に行われていることを描いたのだろう。OLなど他の職種からの芸舞妓受け入れも行っているようだ。
以前はよく、上七軒文庫に通って絵本の朗読を聞いたり、仏教について教わったりしていたため、上七軒への生き方は分かっている。バスで行くのだが、行きも帰りも空いていて、座ることが出来た。北野天満宮の祭りの日には満員になるが。
少し早めに上七軒に着いて、上七軒通を歩いて回る。すぐそばに北野天満宮があるが、何回参拝したか分からないくらい来ているので、今日は遠慮する。
ちなみに、上七軒歌舞練場は上七軒通から外れたところにあり、歌舞練場の前の通りにはおそらく名前がついていない。これも五花街で唯一である(祇園甲部は花見小路通、祇園東は東大路通、宮川町は宮川筋、先斗町は先斗町通に面している)。
上七軒歌舞練場は大正時代に建った建物を大規模改修して使用している。管理は行き届いているようだが、他の花街の歌舞練場に比べると一回り小さめ。花道は下手に一本あるだけで、その裏が地方のスペースとなる。上手側は桟敷席になっている。
なお、席順は前から「いろは」順。いろは四十七文字全てを言えない人もいるだけに迷う人も出そうである。外国人観光客もいたが、彼らはそもそも「いろは」を知らないはずである。
演目は二部構成で、第一部は、舞踊劇「鐘を数えるお姫さま」(原作は「シンデレラ」)、第二部が純舞踊「俗曲(ぞっきょく)わすれな草」そしてフィナーレ「上七軒夜曲」が続く。前半が舞踊劇で後半が純舞踊というのは、先斗町の「鴨川をどり」と同じである。
舞踊劇「鐘を数えるお姫さま」。実は「シンデレラ」が坪内逍遙の訳で紹介されたとき、シンデレラの名は「おしん」になっており、連続テレビ小説風の役名になっていた。今回もヒロインの名は「おしん」になっている。
舞踊劇なのだが、皆、声が聞こえない。腹式呼吸ではなく、明らかに胸式呼吸である。男役の人も声を作らず女声のままで演じる。
先斗町がしっかりした演劇を行うことが多いだけに、上七軒はこのままでは評価出来ない。通路を演者が通るなど、工夫も凝らされているが、その前にちゃんと演じられないと。
上七軒は一つだけ離れているだけに、他の花街の芸舞妓は来ていないと思われるが、先斗町の芸舞妓が観たら「勝った!」と思うだろう。何と言っても声が聞こえないというのは致命的である。
ちなみに今回の劇は、おしんがお城に行くのではなく、王子様に相当する若殿、その正体は猿田彦命で、おしんが見初められるという展開になる。可哀相だったけど優しさに気づけたかららしい。
ちなみに「とんでもございません」というセリフがある。
猿田彦と一緒になるということは、彼女は天鈿女命で、猿女になるということである。猿女氏の子孫が稗田氏であり、現在の大和郡山市を根拠地として、稗田阿礼を生んでいる。
第二部「俗曲わすれな草」。十日戎に始まり、愛宕山を越えて(おそらく亀岡の方から)更に近江に出て八景を巡る。結構、露骨な色町の描写を経て、上七軒の名物の団子と江戸から明治に掛けての京都が描かれる。そして「名所名所」となるのだが、出てくるのは金閣寺だけ。後はお軽と勘平の話になる。次は「京都名所」で、こちらは、祇園、円山(公園)、清水、八坂となぜかライバル花街のそばを通り、南禅寺、知恩院、黒谷真如堂(「黒谷」こと金戒光明寺と、「真如堂」こと真正極楽寺。隣接している)、三十三間堂、金閣寺、銀閣寺、北野天満宮、平野神社、嵐山、高雄、永観堂、下鴨(神社)、上賀茂(神社)、御所の遊園地(不詳)、新京極と寺町京極、四条通、千本通と経て上七軒に至る。ちなみに京の東側の名所の方が多い。
フィナーレの「上七軒夜曲」は、短調の楽曲。宮川町の「宮川音頭」もそうだが、儚い感じがする。「宮川音頭」については、男性は儚く感じ、女性は威勢が良いと男女で違うものを聴いているような現象が起きているのだが、「上七軒夜曲」も男女で印象が異なるのかも知れない。歌詞は色っぽいものである。
踊りに関してだが、ちょっと大人しい気はする。やはり一つだけ離れた花街であることは大きいだろう。他の四花街は、色々なお客さんが来て中にははしごする人もいるのかも知れないが、上七軒は近くに大きな企業があるわけでもないし、繁華街のそばにある鴨川沿いと比べて行きにくい。
他の花街は、色々実験して、結果的には失敗しているが、実験が必要なのは他の花街ではないのかも知れない。そしてその前に、セリフが聞き取れるようでないと厳しい。
パンフレットは、800円で、セリフと歌詞の全てが載っているという良心的なものであった。




















































































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