2024年11月3日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて観劇
正午から、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで、読売新聞創刊150周年記念 よみうり大手町ホール開場10周年記念舞台「罠」を観る。ロベール・トマの人気サスペンス作品で、これまでに何度も上演されている。日本テレビの企画・製作。
作:ロベール・トマ、テキスト日本語訳:平田綾子、演出:深作健太。出演は、上川隆也、藤原紀香、渡辺大(わたなべ・だい)、財木琢磨、藤本隆宏、凰稀(おうき)かなめ、赤名竜乃介(あかな・りゅうのすけ)。
よみうり大手町ホールでの上演を経て、昨日今日が大阪。今後、北九州、高松、岡山、愛知県東海市、富山県氷見市を回る。
開演前にはずっと時計の針音が響いている。音楽に関しては何の説明も記述もないが、ピアソラではないかと思われる。いずれにせよ音楽は要所要所にしか用いられない。
フランスのシャモニーの山荘が舞台。黄昏時、ダニエル(渡辺大)が窓の外を気にしている。実は妻のエリザベートが失踪したのだ。警察には届け出ているのだが、行方は分かっていない。ダニエルとエリザベートは3ヶ月前に結婚したばかりである。ダニエルには余り資産がなく、エリザベートも家族は亡くしているが、親戚に金持ちのおじさんがいるようである。
カンタン警部(上川隆也)がやって来る。上川隆也は、声をいつもより低めにして貫禄を出している。カンタン警部がそういう人物であるようだ。喋り方にどこか警部コロンボを思わせるところがあるが、意識しているのかどうかは分からない。
カンタン警部は、右手に腕時計をしている。また、注射器を手にするシーンがあるのだが(注射を打つことに慣れているそうだが、なぜ警部が注射を打つことに慣れているのかは不明)、左手に注射器を持っていた。利き手以外に注射器を持つことはまずない。ということで、カンタン警部が左利きであることが分かる。左利きというキャラクター設定には特に意味がなさそうだが、帽子を取るときは右手で取って、そのまま右手で手にしている(いざという時のために、利き腕の左手を空けておく)、よく観察していると左手を使う頻度が高いなど、きちんと左利きの演技をしていることが分かり、上川の俳優としての技量の高さが感じられる。ちなみに上川は演出の深作健太から、「カンタンはこの物語における○○家」というアドバイスを貰ったそうだが、おそらく「演出家」だと思われる。
エリザベートが帰ってくる。神父のマクシマン(財木琢磨)と一緒である。しかしダニエルは「彼女はエリザベートではない」と断言する。実際、このエリザベートを名乗る女(藤原紀香)はエリザベートではない。マクシマン神父(フランスはカトリックの国なので神父になる)のところで過ごしていたというエリザベート。ダニエルの質問(「新婚旅行はどこに行った?」など)も全て言い当てるが、ジュネーヴのホテルにいたという記憶だけが異なる。カンタン警部は一応、中立を保つが、彼女が本物のエリザベートではないというダニエルの意見には同調する。
エリザベートは次第に偽物であることを露わにし始めるのだが、意図はダニエルには分からない。
ダニエルとエリザベートの結婚式に参加したという芸術家(といっても街角で絵を描いているような貧乏芸術家だが)のメルルーシュ(藤本隆宏)が呼ばれ、「この女はエリザベートではない」との証言を得るが、メルルーシュはエリザベートを名乗る女に銃撃され、入院することになる。銃撃はダニエルが行ったことにされる。
また、エリザベートを看護したことがあるという看護婦のベルトン(凰稀かなめ)も最初のうちは、「彼女はエリザベートではない」と語るも、エリザベートを名乗る女に何かを渡されて証言を覆す。
やがてメルルーシュが病院で死亡したという報告が届く。メルルーシュを撃ったのはダニエルということになっているので、ダニエルが午後8時に逮捕されることになる。一方でカンタン警部は、「彼女はエリザベートではない」と断言するが、ここからどんでん返しが始まる。
ロベール・トマはフランスの劇作家・脚本家・映画監督。1927年生まれというから、指揮者のヘルベルト・ブロムシュテットと同い年である。1989年に没。「罠」は1960年にパリのブーフ・パリジャン劇場で初演。他にも「8人の女たち」や「殺人同盟」などの作品があり、「フランスのヒッチコック」と呼ばれている。
現在、舞台俳優として活躍している中堅男性俳優の中で、上川隆也は内野聖陽と並んでツートップを張る実力者だと思われる。少し下に阿部寛、堺雅人(最近は余り舞台をやらないが)、佐々木蔵之介が、そのまた少し下に高橋一生が来ると思われる。
現代を代表する舞台俳優だけに存在感は抜群。非常に理知的な演技を行う俳優であるが、今回はそれほど細かい演技は行わず、堂々とした演技を見せている。やはりカンタン警部は劇中の演出家なのであろう。
「代表作のない女優」などと揶揄されることも多い藤原紀香だが、今回は役にピッタリはまっており、予想以上の好演を見せる。この人は王道のヒロインをやるよりもこうしたミステリアスだったり、「翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛を込めて~」の悪徳神戸市長のような癖のある役を演じた方が個性が生きるように思う。実は明るい女性の役は合っていないタイプなのだろう。藤原紀香は、女優デビュー時はとんでもなく下手だったのだが(セリフがまともに言えないレベル)、時を経て、演技力もかなり進歩しているようである。
現在放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」の赤染衛門役が好評を博している凰稀かなめの宝塚風ではあるが大仰さのない演技も好印象である。
その他の俳優も充実した演技を見せ、休憩時間なし約2時間の作品であるが、飽きることなく魅せてくれた。良い上演だったように思う。
座長である上川隆也の挨拶。「とう、とう(「東京」と言おうとしたようである。周りの俳優に突っ込まれる)大阪公演も無事千秋楽を迎えることが出来ました。これから皆様とキャスト全員でこの場を借りて1時間ほど芝居の感想を語り合いたいと思うのですが」と冗談を言い、「この後……(聞き取れず。おそらく「バラし」であろう)をしなければならないので、出来ません」と語ってからお礼を述べた。そして「これからもツアーは続きますが、大阪の千秋楽なので一丁締めを行いたいと思います。(客席に)一丁締めって分かります? 一回だけの」と言って、会場にいる人全員で一丁締め(一本締め、関東一本締め)を行った。俳優の退場の仕方にも個性があり、藤原紀香はエリザベートを名乗る女の正体にちなんだポーズを見せて、笑いを誘っていた。

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