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2021年9月 5日 (日)

配信公演 2021 セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラコンサートBプログラム YouTubeライブ配信 シャルル・デュトワ指揮サイトウ・キネン・オーケストラ 2021.9.3

2021年9月3日

午後7時から、2021 セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラコンサートBプログラムのYouTubeライブ配信を視聴。キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)からの無観客公演の配信である。

2021 セイジ・オザワ 松本フェスティバルは、新型コロナの影響によって全プログラム中止となったが、シャルル・デュトワの指揮によるオーケストラコンサートBプログラムは、YouTubeによって全世界にライブ配信されることになった。

本番開始前には、事前に収録した、サイトウ・キネン・オーケストラのメンバーが一言ずつ抱負を述べた映像が流れるという演出がある。勿論、語るのが得意な人も苦手な人もいる。


曲目は、ラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」、ドビュッシーの「海」~3つの交響的スケッチ~、ドビュッシーの牧神の午後への前奏曲、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)。

曲目は、小澤征爾とデュトワの二人で決めたそうだが、デュトワの十八番が「これでもか」とばかりに並んでいる。なお、小澤征爾とデュトワは、年齢は1つ違い(1935年生まれの小澤の方が1つ年上)。そして共にシャルル・ミュンシュの弟子であり、ミュンシュが音楽監督として活躍していたボストン交響楽団繋がりでもある。

デュトワは、「音の魔術師」の異名を取るフランス音楽の名手として知られているが、小澤もフランス音楽を得意としており、1980年代にフランス国立管弦楽団を指揮した、ビゼーなどいくつかの録音は最良の演奏の一つであると思われる。なお、デュトワは1991年から10年間、フランス国立管弦楽団を音楽監督を務めており、私が初めて聴いた海外のオーケストラもシャルル・デュトワ指揮のフランス国立管弦楽団であった(1996年5月、サントリーホールにて)。
デュトワは1996年にNHK交響楽団の常任指揮者に就任。その後、N響初の音楽監督に昇格し、辞任してからも名誉音楽監督の称号を得て共演を続けていたが、ヨーロッパでのセクハラ疑惑によって、NHK交響楽団からは招聘の見送りが続いている。N響絡みでも小澤との共通点がありそうにも見えるが、ここでは語らないでおく。

今日は、指揮台なし、ノンタクト、全暗譜での指揮である。


桐朋学園のOB、OGを中心に結成されたサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)。小澤の師である齋藤秀雄に由来する楽団名を持つ団体だが、非常設であり、小澤と仲の良い海外有名奏者も参加することでお馴染みである。ただ、今年はコロナの影響で、海外から駆けつけたメンバーは少なめとなっている。


ラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」。繊細と優雅の極みのような音をデュトワはSKOから引き出す。非常設でありながらアンサンブルの精度は海外からも高く評価されているSKOであるが、短いリハーサルの期間で、単なる精度の高さを超えた一体感と音の表情の多彩さを生み出していた。

ドビュッシーの「海」も温かな音で、それまでのデュトワの「海」(モントリオール交響楽団とのCD録音や、N響との定期演奏会を収録した映像など)とも違った独特の音世界が繰り広げられる。

休憩中にはデュトワへのインタビューが流れ、「危機的な状況だからこそ、松本にやって来た」「セイジのためなら是非に」という言葉が語られていた。


ドビュッシーの牧神の午後への前奏曲でも、半睡半覚醒の「淡い」が巧みに音像化されていく。

ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」も鮮烈なだけではない温かさが全編に渡って感じられるという、余り例を見ないタイプの秀演となっていた。

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2021年5月23日 (日)

配信公演 鈴木優人指揮 京都市交響楽第656回定期演奏会(文字のみ)

2021年5月15日 京都コンサートホールより配信

京都市交響楽団の第656回定期演奏会は、予定通り午後2時30分の開演となったが、無観客に切り替わり、ニコニコ生放送での配信公演となった。
指揮台に立つのは、「古楽の貴公子」鈴木優人。鈴木優人が京都市交響楽団を指揮するのはこれが初めてとなる。鈴木優人指揮の実演には、日本人作曲家の作品を並べた関西フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会と、よこすか芸術劇場で聴いたベンジャミン・ブリテンの歌劇「カーリュー・リヴァー」に接しており、いずれも優れた出来であったが、鈴木優人の十八番である古楽ではなかった。今回の京響定期は、前半に古楽のレパートリーが並んでいたのだが、配信のみの公演となったため、「実演に接した」とはいえない状況になってしまったのだが残念である。

曲目は、ヘンデルの歌劇「忠実な羊飼い」序曲、ラモー作曲・鈴木優人編曲の歌劇「みやびなインドの国々」組曲、ヴィヴァルディのチェロ協奏曲ト長調 RV414(チェロ独奏:上村文乃)、ベートーヴェンの交響曲第7番。

ニコニコ生放送ということで、視聴者からのコメントが流れるのだが、プレトークで鈴木はそれらを拾いながら進めていく。ニコニコ生放送ならではの面白さである。休憩時間にも鈴木はソリストの上村文乃と共に視聴者コメントを読みつつトークを行っていた。

今日のコンサートマスターは、京都市交響楽団特別客演コンサートマスターの「組長」こと石田尚泰。フォアシュピーラーに泉原隆志。前半はドイツ式の現代配置をベースにしつつコントラバスが下手側に回るという独自の配置、後半はヴァイオリン両翼の古典配置での演奏である。
今日はクラリネット首席の小谷口直子が全編に出演(ヘンデルの時代にクラリネットという楽器は存在しないが、原典版ではなく編曲したバージョンでの演奏)。それ以外の管楽器首席奏者はベートーヴェンのみの出演である。

前半に並ぶ3つの古楽の曲目は、全て鈴木優人がチェンバの弾き振りを行う。典雅なハイドン、個性的でエスニックなラモーは、古楽を得意とする鈴木が存分に腕を振るい、上質の響きと旨味を提供する。今年の3月で放送が終わってしまったが、Eテレの「らららクラシック」でラモーの特集があり、歌劇「みやびなインドの国々」の上演風景などが流された。今回の歌劇「みやびなインドの国々」組曲の演奏も、歌劇の上演ではないが、その光景が目に浮かぶような描写力に長けたものである。

ヴィヴァルディのチェロ協奏曲ト長調 RV414。ヴィヴァルディの作品といえば「四季」、その他に「調和の霊感」ぐらいしか聴けないという時代は終わり、まずNAXOSレーベルがヴィヴァルディの作品の多くを録音、配信でも聴けるようになり、その他のレーベルからもヴィヴァルディの全集が出るようになった。
ソリストの上村文乃(かみむら・あやの)は、6歳からチェロを始め、第7回日本演奏家コンクール弦楽器中学生部門1位及び芸術賞受賞を皮切りに、第15回日本クラシック音楽コンクール全国大会中学生部門最高位、第5回東京音楽コンクール弦楽部門第2位、第4回ルーマニア国際音楽コンクール弦楽器部門第1位及びルーマニア大使館賞受賞、第80回日本国際コンクール第2位、第65回全日本学生音楽コンクール大学の部1位などのコンクール歴を誇る。桐朋学園大学ソリストディプロマコース卒業後にスイスに渡り、バーゼル音楽演劇大学とバーゼル音楽院に学ぶ。現在は鈴木優人が首席指揮者を務めるバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のメンバーとしても活躍している。

上村は、エンドピンのないバロックチェロを使用しての演奏。独特のコクのある音色が特徴で、技術も高い。

ニコニコ生放送ということでコメントを読むのも面白く、コンサートマスターの石田尚泰が石田組長と呼ばれているのを見て、「下の名前が組長なのかと思った」というコメントがあったり、「イケメンおるやん」「向井理おる」「向井理やで」と、「京響の王子」こと泉原隆志に関するコメントが並んだりする。九州在住と思われる視聴者が、クラリネット首席奏者の小谷口直子に、「小谷口さん、九響(九州交響楽団)に客演してくれてありがとう」というコメントを書いていたりもする。謎のキャラクター、Juviちゃんに関するコメントも多かった。Juviちゃんに合わせてコーデリア中山という謎のキャラになることもあるティンパニ(打楽器首席)の中山航介に対する絶賛のコメントも続く。

アンコール演奏は上村単独ではなく、チェンバロの鈴木も加わったボッケリーニのチェロ・ソナタ第6番よりアレグロ。超高音を美しく奏でる、上村の卓越した技巧が鮮やかであった。


ベートーヴェンの交響曲第7番。かなり優れた演奏となる。史上初めてリズムを最重要視して書かれ、ワーグナーによって「舞踏の聖化」と激賞された作品。人類史上初のロックンロールと見なしても良いと思われるほどのノリの良さを持つ曲である。
鈴木と京響(ぱっと見、「鈴木京香」に見えるな)は、確かな造形美を確立しつつ熱狂を盛り込むという理想的な演奏を展開。弦楽はビブラートを抑えたピリオドの響きを築き、管楽器がそれらを華やかに彩る。ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏に若々しさを注ぎ込んだような演奏で、後世まで伝説として語り継がれそうなほどの快演であった。これが生で聴けないというのが残念極まりないが、このコロナ禍をくぐり抜けることが出来たのなら、また鈴木優人指揮のベートーヴェンの交響曲第7番を聴く機会もあるだろう。

演奏終了後に、今回のコンサートの出来を聞くアンケートがあり、「とても良かった」に投票した人が97%を超えた。

放送は、楽団員がステージ上から奏者達が去った後も続き、京響を影で支えるスタッフ達の仕事ぶりが全国に流された。

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2021年3月 2日 (火)

配信公演 阪哲朗指揮山形交響楽団 『ベートーヴェン「英雄」~ベートーヴェン生誕250年記念特別公演』(文字のみ)

2021年2月26日

午後7時前から、クラシック専門配信サービス「カーテンコール」で、阪哲朗指揮山形交響楽団による『ベートーヴェン「英雄」~ベートーヴェン生誕250年記念特別公演』を視聴。やまぎん県民ホールからの同時配信である。

開演前に、山形交響楽団専務理事の西濱秀樹と阪哲朗によるプレトークがある。本番の前のプレトーク(二重表現だが、正確な日本語で書くと却って伝わりにくい)を日本に根付かせたのは山形交響楽団とされる。飯森範親が山形交響楽団の常任指揮者就任と共に始めた、というのは飯森範親本人が、大阪で行われた「さくらんぼコンサート」(山形交響楽団の本拠地以外での演奏会に付けられる名称)のプレトークで自慢として話していたことである。指揮者ではなくビジネスマンになっていたとしても有能であったことが確実視される飯森の広報戦略に乗り、山形交響楽団は「田舎のオーケストラ」というイメージで営業に苦労していた時代が嘘のようにブランドオーケストラへと成長した。この辺りの経緯は、松井信幸著、飯森範親監修の『マエストロ、それはムリですよ…』~山形交響楽団と飯森範親の挑戦~(ヤマハミュージックメディア)に詳しい。

プレトークの進行役である西濱さんは、関西フィルハーモニー管弦楽団の事務局長時代からプレトークを行っており、関西出身ということで大阪ではユーモラスな語り口で笑いを取っていたのだが、山形のお客さんは大阪に比べるとかなり大人しいようで、明らかに受け狙いのことを言っても反応がなかったりする。

京都市の生まれ育ちである阪哲朗であるが、両親が共に山形県内の出身ということで、子どもの頃は夏休みに山形に遊びに行くことも多かったそうである。山形交響楽団の常任指揮者に就任してからはよく「山形は夏暑いし、冬寒いので大変でしょう」と言われるそうだが、「京都も夏暑くて、冬寒いので余り変わらない。盆地なので」だそうである。
近年は、国内最高気温の記録が毎年のように更新されているが、それまでは長きに渡って1933年7月25日に山形市で記録された摂氏40.8度という気温が日本最高記録として定着していた。ただフェーン現象によるもので、山形市が特別暑い街というわけではないようである。

今回の曲目は、ニコライの歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲、ヨハン・シュトラウスⅡ世の「アンネン・ポルカ」、ヨハン・シュトラウスⅡ世&ヨーゼフ・シュトラウスによる「ピッチカート・ポルカ」、ヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「ウィーン気質(かたぎ)」、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」であるが、全てウィーンゆかりの作曲家で、最もオーソドックスな4拍子の曲や楽章が存在しないという共通項で選ばれているようである。

阪哲朗は、ウィーンというのは多国籍都市で、「これがウィーン人」といえるような典型的な市民は余りいないという内容の話をする。それもあって、当時はプロイセン領であったロシアのカリーニングラード出身のオットー・ニコライ(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の創設者でもある)、ユダヤ系ハンガリー人の家系であるシュトラウスファミリー、西ドイツが存在した頃には首都にもなったこともあるボンの生まれ育ちで、祖父がベルギー・オランダ語圏からの移民であるベートーヴェンと、よそからウィーンに来た作曲家達のプログラムになったようである。

 

古典配置による演奏。阪は、ニコライとベートーヴェンは指揮棒を使って、シュトラウス作品はノンタクトで指揮を行う。

ニコライの歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲は、阪らしいキビキビとした音運びと躍動感で聴かせる。

阪はプレトークで、ウィーンの人はワルツを三等分で演奏したがらないと話していたが、シュトラウスファミリーの作品では、意図的なパウゼを長めに取るなど、日本のオーケストラが演奏しがちなポルカやワルツとは異なる演奏を行う。山形交響楽団の各奏者達の技術も高く、楽しめる仕上がりとなった。

休憩時間には、山菜料理・出羽屋に取材した映像(山形交響楽団が独自に作成したものではないそうである)が、通常版と英語字幕付き版とで2度流れる。料理の宣伝ではなく、山形県の魅力に迫るもので、山菜採りや山歩きなど、山形に「移住したくなる魅力」を発信していた。

 

メインであるベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。ホルンとトランペットはナチュラルタイプのものを使用(ナチュラルトランペットとモダンのトランペットの中間であるバロックトランペットなるものもあるそうであるが、見分けはつかず)。ティンパニも当然ながらバロックタイプのものである。

速めのテンポによる溌剌とした「英雄」になるのではないかと予想されたが、テンポはピリオドのものとしては中庸で、鮮烈さを強調するよりも地に足のついた安定感を重視した演奏となる。阪を正面から捉えた映像も流されるが、指揮棒の先をかなり細やかに動かして指揮していることが確認出来る。
第2楽章の重厚さ、第3楽章の軽快さ、第4楽章のアポロ的な造形美など、阪と山形交響楽団の相性の良さが伝わってくる好演となった。

 

山形交響楽団は、オリジナルの「Bravoタオル」を公式サイトで販売しており、今日も「Bravoタオル」を掲げているお客さんを確認することが出来た。

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2020年12月29日 (火)

2346月日(26) 東京芸術劇場オンライン「ドイツ アウフブルッフによる刑務所演劇の挑戦――芸術と矯正の融合を目指して――」

2020年12月21日

東京芸術劇場のオンラインイベント、「ドイツ アウフブルッフによる刑務所演劇の挑戦 ――芸術と矯正の融合を目指して――」を視聴。約3時間の長丁場である。事前申し込み制で、当初定員は先着100名であったが、申し込みが多かったため、150名に増えている。

事前に、稽古やワークショップの様子や、本番のダイジェスト映像、資料などにアクセスするURLが書かれたメールが送られて来ており、それに目を通すことで、内容がわかりやすくなるようになっている。

ドイツで刑務所の受刑者に演技指導をして上演するという活動を続けているアウフブルッフ(ドイツ語で「出発」という意味)の芸術監督で舞台美術家のホルガー・ズィルベによるレクチャーと、坂上香監督のドキュメンタリー映画「プリズン・サークル」にも出演していた毛利真弓(同志社大学心理学部准教授、元官民協働刑務所民間臨床心理士)による日本の刑務所で矯正のために行われている治療共同体(Therapeutic Community。頭文字を取ってTCと呼ばれる)の活動報告、そしてホルガー・ズィルベと毛利真弓の対談「矯正教育による芸術の可能性」からなるオンラインイベントである。モデレーターは、明治大学国際日本学部教授の萩原健(専門はドイツの演劇及びパフォーマンスと日本の演劇及びパフォーマンス)。

アウフブルッフは、刑務所演劇を専門に行っている団体ではなく、フリーのプロ演劇カンパニーだそうで、1996年に結成。翌1997年から刑務所演劇に取り組みようになったという。

アウフブルッフが本拠地を置くベルリン都市州は大都市ということもあって犯罪率も高めだが、「移民が多い」「教育水準の低い人が多い」「再犯率が高い」という特徴があるそうで、刑務所演劇によって再犯率が低くなればという狙いもあったようだが、演劇を行ったことで再犯率に変化があったかどうかの立証は不可能であるため、統計も取られていないようである。
「移民で教育水準が低い」と悪条件が重なった場合はドイツ語も喋れないため、犯罪に手を出す確率は高くなることは容易に想像される。また職業訓練も上手く受けられない場合も多いようだ。そうした状態にある人に芸術でのアプローチを試みたのが、ズィルベ率いるアウフブルッフである。アウフブルッフは、ドイツの他にもロシアやチリの刑務所での上演も行っているようだ。

刑務所演劇の意義として、刑務所のマイナスイメージに歯止めをかけることが挙げられる。受刑者以外で刑務所に入ったことのある人は余り多くないため、その中やそこから出てきた人に対するイメージはとにかく悪い。ただ、刑務所で受刑者が演じる演劇を観て貰うことで、両者を隔てる壁が少しだけ低くなるような効果は生まれる。少なくとも「断固拒絶すべきスティグマ」ではなくなるようである。
1997年にドイツ最大の男性刑務所であるテーゲル司法行刑施設での、「石と肉」という作品で上演が始まり、今に到るまでベルリンの全ての刑務所で公演を行ったほか、外部プロジェクトとして元受刑者で今は社会に出ている人などをキャスティングし、プロの俳優や市民と共同で上演を行う混成アンサンブルによる上演が、博物館、裁判所、教会、ベルリンの壁記念碑の前などで行われているそうである。

ちなみに小さい刑務所の場合は上演を行うスペースがないため、代わりに演劇のワークショップなどを行っているという。

キャストであるが、刑務所側が止めた場合(暴行罪や暴力癖のある人)を除くと希望者がトレーニングを受けて本番に臨むというスタイルのようである。アウフブルッフ側は敢えて受刑者の知識は入れないようにしており、罪状なども一切知らないで稽古を進めるようだ。最初は1回4時間の稽古を4~6回行い、その先に行きたい希望者向けに計300時間ほどの稽古を行うという。刑務作業以外の自由時間は全て稽古に費やす必要がある。無断欠席を3回行った場合は脱落者と見做されるそうである。

ラップや合唱など、コーラスを使った演出も特徴で(演出は全てペーター・アタナソフが行っている)、その他にもセリフの稽古、書き方のワークショップなどが音楽の練習と並行して行われる。本番は6回から14回ほど、キャパは75人から250人までだそうである。受刑者には芸術に触れた経験も興味もない人も多いため、最初は暇つぶしのために参加したり、人から勧められて参加したりと、前向きな理由で加わる人はほとんどいないそうだが、稽古を重ねるうちに社会性が高まる人もおり、更に本番では観客からの拍手を受けるのだが、それが生まれて初めての称賛だったという人も多いそうで、「人生で初めて何かを最後までやり遂げた」と感激の表情を浮かべる受刑者もかなりの数に上るそうである。これにより自信を付け、自己肯定感を得て再犯率も減り……、だといいのだが先に書いたとおり、再犯率低下に演劇が貢献しているのかどうかまではわからないようである。
ただ、刑務所に入るまでに抱き続けていた劣等感は、仮にたった一時であったとしても振り払えるため、何らかの形での再生に繋がっている可能性は否定出来ないように思う。
稽古の終わりに、毎回、キャスト全員で反省会を行い、各々の意見を述べるのだが、これも受刑者がそれまでの人生で余りやってこなかったことであり、人間関係と他者の存在とその視点を知るという意味では有意義なように思われる。

ズィルベによると犯罪者はいずれ社会復帰することになるため、社会の側も刑務所演劇を観ることで受刑者に対する新たな見方を得て彼らを受け入れるための準備をすることが出来る。そうした意味での刑務所演劇の可能性も語られた。

 

毛利真弓による刑務所の報告。「プリズン・サークル」の舞台となった島根あさひ社会復帰促進センターという半官半民の刑務所で臨床心理士をしていた毛利だが、島根あさひ社会復帰促進センターでTCを受けた人の再犯率は9.5%と、TCを受けていない人達の19.6%より優位に低かったそうである。
日本の刑務所は、あくまで収監し、懲役を行うのが主目的で、社会復帰のための教育は遅れているのが現状であり、職業訓練などはあるが、再犯防止のための教育策は基本、取られてこなかった。それでも2006年から少しだけ風向きが変わっているという。

島根あさひ社会復帰促進センターでは、アミティという海外で考え出されたプログラムを使い、イメージトレーニングや加害者と被害者を一人二役で演じる自己内対話を経て他者の視点を得る訓練、また受刑者が受刑者に教えるというシステムもあり、他者と接する機会を多く設けている。これまでの日本の刑務所は他者と触れ合うこと自体が禁じられていることも多かったため、画期的なことであったといえる。

島根あさひ社会復帰促進センターは、初犯の男性受刑者のみが収監されるが、それまでの人生で他者と向き合う機会がほとんどなかったという人も少なくなく、「他者を通して自己と向き合う」「生身の人間のリアルに触れる」ことを目標としたトレーニングが組まれているようである。

ホルガー・ズィルベが島根あさひ社会復帰促進センターの情報を得て、「社会と繋がっていないように感じる」と述べたが、やはり日本の場合、受刑者が社会と直接的な繋がりを持つのは難しいだろう。刑務所演劇の場合は、目の前で受刑者が演技を行い、終演後に観客と受刑者が会話を交わすことも許されているようだが、日本の場合は受刑者という存在に対するスティグマがかなり強いため、少なくともドイツと同様というわけにはいかないように思う。

「犯罪の加害者と上演をしているが、被害者とはどうなんだ?」という視聴者からの質問が来ていたが、被害者とは接点が持てないそうで、まず被害者同士で纏まるということもなく、接触も禁じられているため、手を打とうにも打てないようである。加害者が出演している芝居を観た被害者から一度連絡が来たことがあったそうだが、その一例だけのようである。

刑務所演劇も稽古や上演に到るまで、何ヶ月にも渡って行政と話し合いを持ったそうだが、最終的には「やってやる!」というズィルベの意志が勝ったそうで、毛利も「日本では(刑務所演劇は)難しい」ということを認めながら、「違いを超える」必要性を説いていた。

折しも、日本では第九の季節である。シラーとベートーヴェンが唱えたように「引き裂かれていたものが再び結び合わされる」力にもし演劇がなれるとしたのなら、それに携わる者としてはこの上ない喜びである。

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2020年12月28日 (月)

YouTubeLive ONTOMO(音楽之友社)「おめでとう!ベートーヴェン~3時間ノンストップ音楽トーク」(ダイジェスト記事。アーカイブ映像あり)

2020年12月16日

午後7時から音楽之友社によるYouTubeLive配信、「おめでとう!ベートーヴェン~3時間ノンストップ音楽トーク」を視聴。音楽評論家でベートーヴェン研究家の平野昭、音楽ジャーナリストの林田直樹を中心に、音楽之友社スタッフが作るベートーヴェンの250回目の誕生日祝賀オンラインイベントである。ウィーンから指揮者でピアニストの大井駿がベートーヴェンゆかりの地のライブ中継を行うほか、音楽之友社のSNS等で募ったベートーヴェンの好きな曲アンケートの発表などがある。
視聴者プレゼントなどもあったが、面倒くさいので参加はしなかった。

年末ということで第九の分析などもあり、第4楽章は特に顕著だが、戦いと平和の対比があるという。第九と一対をなすとされる「荘厳ミサ曲(ミサ・ソレムニス)」にもそうした場面があり、ベートーヴェン自身も双子の作品と考えていたようだ。

ベートーヴェンは「双子」とされる作品が多いのも特徴で、交響曲第5番と第6番「田園」が最も有名だが、交響曲第7番と第8番も同じ事を形を変えて表しているようなところがある。

リモートとして、鈴木優人が東京オペラシティコンサートホール“タケミツメモリアル”でのコンサートの休憩中に参加したり、元NHK交響楽団首席オーボエ奏者で現在は指揮者として活躍、エッセイでもお馴染みの茂木大輔や、ベートーヴェン研究家で『ベートーヴェンとバロック音楽「楽聖」は先人から何を学んだか』の著者である越懸澤麻衣(こしかけざわ・まい)が自宅から参加。二人はベートーヴェンの好きな曲ランキングの予想や、自分が好きなベートーヴェンの楽曲5選などにも加わった。

また、録画メッセージとして、ピアニストの金子三勇士(かねこ・みゅうじ)や小菅優、田中彩子(ソプラノ)、鳥木弥生(メゾソプラノ)、藤木大地(カウンターテナー)と成田達輝(ヴァイオリン)、吉田誠(クラリネット)、葵トリオ(ピアノトリオ)が自分が好きなベートーヴェンの楽曲について語った。

好きなベートーヴェンの楽曲アンケートは1位から発表されていく。
トップスリーだけ挙げるが、第1位は第九こと交響曲第9番「合唱付き」、第2位は交響曲第7番、第3位はピアノ・ソナタ第8番「悲愴」であった。

第2位に交響曲第7番が入っていることについて、「『のだめ(カンタービレ)』効果ではないか」と平野が言い、「茂木さんの領域かな?」という話になる。茂木大輔はテレビドラマ「のだめカンタービレ」の音楽監修を手掛け、「のだめカンタービレ」コンサートを全国各地で行い、指揮を手掛けている。
茂木によると、「オーケストラを始めた頃にも交響曲第7番はそんなに有名な曲とは思ってなかった」そうである。


最後は「不滅の恋人」についての平野昭の考察。不滅の恋人については、アントーニエではないかと推測しているそうである。
もう一人の有力候補であるヨゼフィーネについてだが、ベートーヴェンがヨゼフィーネに宛てて書いたラブレターが13通ほど残っているそうである。ヨゼフィーネは当時未亡人だったが、その後に他の男と再婚。ただその再婚相手が変わり者であり、再び離婚することになって、貧困の内に若くして亡くなっている。



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2020年12月15日 (火)

配信公演 坂本龍一 「Ryuichi Sakamoto Playing the Piano 12122020」(文字のみ)

2020年12月12日

午後7時半から、坂本龍一の有料配信コンサート、「Ryuichi Sakamoto Playing the Piano 12122020」を視聴。高画質・高音質配信が可能なMUSIC/SLASHを使っての配信である。
配信の本番が始まる前に、坂本龍一が屋外で皿などを割る模様を捉えた映像が流れ、要約すると「2020年は否応なしに変化を求められる年となった」という意味の字幕が流れる。

7時30分から、まずアーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマで今回の演出を任された真鍋大度(まなべ・だいと)へのインタビュー映像が流れ、コロナでの自粛期間中、配信の公演は沢山観たし、Zoomで色々な人と話したりもしたが、身体が感じられなかったといったようなことを語る。
今度は、真鍋がインタビュアーとして坂本龍一に質問をすることになるのだが、犬型のロボットにスマホ状(スマホそのものなのかも知れないがよくわからず)をセットし、犬型ロボットがガシガシとした足取りで坂本龍一のいる部屋に赴くという趣向になっている。

坂本龍一の住むニューヨークの街はかなり厳しくコントロールされており、4段階ある安全基準の今は3段階目だそうで、レストランに定員の25%までなら入れていいなど、細かな決まりがあるそうである。
ブロードウェイの俳優やダンサー、ミュージシャンなどは仕事が完全になくなってしまったため、ストリートで様々な芸を披露したりしているという。
犬型ロボットの動きに無駄がなくて不自然だという話から、坂本は雨音が大好きでずっと聴いていられるという話になり、「ベートーヴェンやマーラーが色々構築した音楽を書いているけれど、結局のところ雨音に勝てないんじゃないか」と最近では思うようになっているそうである。
ピアノの演奏に関しても変化はあるそうで、ピアノの弦の一本一本の響きを味わいながら弾くことが最近では好きなのだが、それだとどうしてもテンポが遅くなり、昔からのファンに、「最近、ピアノ遅くないですか?」と指摘されるそうである。

本編では、まず円形オペラ劇場のようなところでの演奏から始まる。真鍋から受けたインタビューにより、坂本は帰国して2週間の隔離を経ており、東京で配信のための演奏を行うことは知らされていたのだが、東京にああいった劇場があるとは思えないため、CGか合成だろうと思われるわけだが、最近の技術力はかなり高いようで、実際に円形オペラ劇場にいるように見える。その後、背景は変化し、雲の上にいるようになったり、浜辺で弾いているように見えたり、白い壁と白枠の大きな窓のある部屋の中に移ったりする。

曲目は王道で、「async」の第1曲である「andata」に始まり、「美貌の青空」、「青猫のトルソ」、「BEFORE LONG」、「シェルタリング・スカイ」、「ラストエンペラー」、「戦場のメリークリスマス」、「PERSPECTIVE」などの代表曲が次々に弾かれていく。坂本龍一のピアノコンサートには2度行ったことがあるが、また参加してみたくなる。

最後のピアノ曲は、無印良品のCM曲「MUJI2020」。これが公開初演になるという。その後に、冒頭の映像で坂本が割っていた皿の断片などを使ったノイズミュージックが奏でられる。音と雑音の境界への挑戦であった。

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2020年11月 3日 (火)

配信公演 「栗コーダーカルテット25周年記念コンサート in LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂) 無観客ライブ」

2020年10月29日 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で収録した演奏の配信(生配信。期間限定アーカイブ配信あり)

木曜日に有料配信された栗コーダーカルテットの25周年記念無観客ライブをアーカイブで視聴。LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で収録されたものである。

「題名のない音楽会」の収録会場としても知られた渋谷公会堂。改装後はネーミングライツによりC.C.Lemonホールになったりもしていたが、東京を代表するコンサートホールの一つであった。私も2002年に鬼束ちひろのコンサートをここで聴いている。その後、老朽化のため建て替え工事に入り、2019年10月に新しい渋谷公会堂が竣工。LINEがネーミングライツを獲得している。

「マヨネーズ」第2番などのオリジナル曲からバロック音楽まで幅広い音楽を奏でる栗コーダーカルテット。今回はゲストとして湯川潮音、ビューティフルハミングバードらを招いてオリジナル曲に加えて童謡が歌われるなど、バラエティーに富んだ音楽が奏でられていく。
リコーダーということで素朴な音楽ではあるのだが、コミカルな感じから一種の崇高さに到るまでとりどりの音色が奏でられる。

湯川潮音とミュージカルハミングバードの小池光子は、共に幼少期から児童合唱団に入って歌唱を行っていたのだが(所属していた合唱団は異なる)、そのためなのかどうか、発声法が似ているのが新しい発見であった。

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2020年10月 2日 (金)

YouTubeLive「ポーランド・フェスティバル2020 ONLINE」(アーカイブ動画掲載)

2020年9月26日

午前11時から、YouTubeLiveで、「ポーランド・フェスティバル2020 ONLINE」が配信されるので見てみる。

毎年、東京で行われているポーランド・フェスティバルであるが、今年はコロナのために配信で行われることになった。ポーランド・フェスティバルには興味があるのだが、そのために東京に行くわけにもいかず、しかも私がポーランドについて興味があるのは主に映画と音楽であり、他のことに興味が持てるからどうかの自信もない。
というわけで行くに行けないという状態だったのだが、今年は配信となったので家にいながら色々と楽しむことが出来た。

まず、簡単なポーランド語講座があるのだが、どうにも覚えられそうにない。語学の才能のある人はちょっと目にするだけで単語や言葉を記憶出来たりするのだが(私の場合は物語的な記憶はかなり強いが、単純暗記は向いていない)、私の場合はアルファベットを使った言語というだけでお手上げになってしまう。「そのまま読む」とのことだったが、どう見ても変則的な読みをしているようにしか見えない。
ユダヤ系ポーランド人のザメンホフは、英語を学習してその余りの簡単さに驚き、ルールを簡約化した言語は作れるということでエスペラントを生み出した。だが、私の場合は英語は全く出来ないため、英語が簡単だと思う感覚がわからない。ポーランド語はスラブ系の言語ということで怖ろしく複雑だと思われ、私では入り口に立つことさえ出来ないだろう。


続いて、ポーランドの絵本朗読のコーナー。「ミツバチのはなし」という邦訳も出ている(3千円以上するのでちょっと高い)絵本を、ポーランド語と日本語で同一内容を交互に朗読していく。
ミツバチが恐竜の時代よりも以前から地球に存在したという話に始まり、元々はスズメバチなどと同様、肉食だったと思われるのだが、花粉を運ぶ役割を虫に託していた花々の計略(?)により、蜜を吸って花から花へと移ることで花粉を運ぶ役割を担うのと同時に主食も変わって食糧事情が安定するという、花とミツバチにとってWin-Winの関係に変わったことなどが語られる(あくまでも一つの説だと思われるが)。
その他に蜂蜜の種類が紹介されたり、宗教方面に蜂蜜が影響したことなど、興味深い内容が盛り込まれている。元々、大人も子どもも楽しめる絵本として書かれたもののようだ。


ポーランドシベリア孤児100年の話。100年前、日本の敦賀港にシベリアからポーランド系の孤児達がたどり着いた。1920年、ロシア革命が起こった3年後である。中世には強国であったポーランドだが、その後は他国に侵略される歴史を繰り返す。
20世紀前半にはポーランド独立のためにロシアで活動していた人々が政治犯としてシベリア流刑となっていた。その後、第一次世界大戦でポーランドはドイツとロシアとが戦う戦場となったため、シベリアに逃げてきた人もそれに加わり、シベリア移民は一説には20万人にも達したという。シベリアでの生活は苦しく、特に孤児となった子ども達への救助要請が出されたのだが、それを受けたのが日本赤十字社であったという。孤児達の受け入れには今も東京都渋谷区広尾にある福田(ふくでん)会という育児院が大きな役割を果たしたということである。


ずっと見ているわけにも行かないので、その後は配信を離れたが、ポーランド国立民族舞踊合唱団「シロンスク」の新作上演の紹介と、ポーランド映画祭の話が行われる時間にパソコンに前に戻る。
私は昨年、「シロンスク」の公演を大阪のフェスティバルホールで観ており、昨年は京都でも行われたポーランド映画祭も同志社大学寒梅館と出町座で作品を目にしている。

ポーランド映画祭は今年は東京のみで行われるようだが、クシシュトフ・キェシロフスキ監督の大作「デカローグ」が上演されるようだ。また、昨年は同志社大学寒梅館クローバーホールでの「バリエラ」上映の前に舞台挨拶を行ったイエジー・スコリモフスキ監督もビデオレターでの出演を果たす。ビデオレターは急遽届いたものだという。

「シロンスク」は、昨年の日本ツアーではポーランドの伝統舞踊を中止とした公演を行ったが、今年は一転してコンテンポラリーダンスで別の面を披露する予定だったという。残念ながらコロナで来日公演は出来なくなってしまったが、収録録された映像を東京、大阪を始め、札幌など日本各地で上映する計画があるそうだ。予告編はすでに出来上がっていたので流されたが、シャープで格好いいダンスである。


昨年の「シロンスク」では、日本でもお馴染みのポーランド民謡「森へ行きましょう」が歌われていたが、ポーランド語の発音を片仮名にしたものを字幕として出し、みんなで歌うというコーナーも設けられている。配信なので合唱にはならないわけだが、参加しやすい試みになっていたように思う。

その後、グルメなどの話になるのだが、あんまり興味はないのでパソコンの前から離れ、ポーランドのクラクフとワルシャワからの映像が流れる午後6時30分からのコーナーが始まるまで待つ。

「ポーランドの京都」に例えられることがある古都・クラクフからの生中継。留学してクラクフで学ぶ日本人の女性や、日本について学んでいるポーランド人女子大学生などが出演する。クラクフには日本美術技術“マンガ”館があり、そこからの配信である。日本人留学生である女性が、アンジェイ・ワイダ監督が、ウッジ映画大学に転学する前にクラクフ美術大学で日本画の影響を受けた絵を描いていたという話をして、美術技術館に展示されているワイダ監督が若い頃に描いた絵を紹介するのだが、スタッフが小声で言った言葉をそのまま繰り返していることが分かるため、かなり頼りない。まあ、芸能活動などを行っていない一般的女子大生のレポート能力はこんなものだと思われるが。

そしてワルシャワの映像。こちらは収録されたものである。ポーランドが生んだ世界的作曲家、フレデリック・フランソワ・ショパンゆかりの地を訪ねるというもので、合間にはショパンのピアノ曲も演奏された。

「ポーランド・フェスティバル2020 ON-LINE 」は、来年の6月頃までアーカイブを残す予定だという。


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2020年9月30日 (水)

配信公演 「京都能楽チャリティ公演~祈りよとどけ京都より~」2020.9.25

2020年9月25日

午後7時から、YouTubeライブで「京都能楽チャリティ公演~祈りよとどけ京都より~」を観る。東日本大震災の被災地のためのチャリティ公演であり、ロームシアター京都完成後は、毎年サウスホールで公演が行われていたのだが、今年は新型コロナの影響で中止となり、代わりに配信が行われることになった。
なお、今回は新型コロナウイルスの流行中であるということで、チャリティ募金は行われない。東日本大震災での被災地は、主に東北地方の太平洋側であったが、今現在は全世界が新型コロナの被災地といって過言ではない状態になってしまっている。

「能楽チャリティ公演」は、例年は昼夜別演目1回ずつの2回公演であったが、今回は流石に2回は難しいということで、能2番、狂言1番の1公演分の演目が先月20日にロームシアター京都サウスホールで収録され、観世流シテ方の片山九郎右衛門がライブ出演して、特別に演目の解説を行うというスタイルとなった。歌舞伎などではイヤホンガイドがあるが、能や狂言にはそうしたものはないので、貴重な機会である。

まず、祝言謡「四海波」が能楽師有志によって謡われ、能「羽衣」(出演:浦田保浩ほか)、狂言「口真似」(出演:茂山千五郎ほか)、能「大会(だいえ)」(出演:片山九郎右衛門ほか)が上演される。


「四海波」は、能楽師が最もよくうたう謡だそうである。


能「羽衣」。世阿弥の作と伝わるが、確たる証拠はないという演目である。舞台となっているのは駿河国の三保の松原。舞台設定や登場人物、あらすじは歌舞伎舞踊になっているものとほぼ同じである。
能舞台の場合は鏡板があるわけだが、今回は能楽堂ではなく劇場での公演ということで、背景は富士山の山稜や雲を表しているかのような抽象的な線が照明で描かれている。
天女の昇天(でいいのかな?)は、富士山の煙と二重写しになるように描かれており、また天女は月世界からやって来たということで、「竹取物語」も意識されているようである。

英語の字幕スーパー入りでの上演。ちなみに羽衣は英語で“Robe(ローブ)”となっており、確かにそうかも知れないが大分イメージが異なる。英語圏の人に「羽衣とは何か」を説明しても、多分、すぐにはわからないので、ローブが適当なのだろう。
歌舞伎ではそうではないが、能では天女は面を付けているため、明らかに異界の人である。
また、天女の舞も迫力重視である。
ラストでは富士山が須弥山に例えられ、月の光は浄土の無量寿光に重なって、この世の安寧が祈念される。


狂言「口真似」。主(茂山茂)が酒を飲もうとするのだが、一人で飲んでも面白くない。そこで太郎冠者(茂山千五郎)を呼び、「面白い奴を客人として呼んでこい」と無茶を言う。太郎冠者は酔狂人(飲んべえ)の逸平(茂山逸平)を呼ぶことにする。主は、酔狂人が来ると聞いて不満に思うも無下にするわけにもいかず、太郎冠者に自分の言う通りにして逸平に接するよう命じるのだが、太郎冠者は主の言ったことを一言一句そのまま逸平に伝えてしまい……。

どこかで見た覚えがあったのだが、1996年の大河ドラマ「秀吉」の第48回の劇中で、豊臣秀吉(竹中直人)が徳川家康(西村雅彦。現・西村まさ彦)と共に演じ始めたのがこの演目であったことを思い出す。一度、確認してみたいのだが、残念ながら今すぐに確認出来る手段はないようだ。調べてみたところ、能狂言好きとしても知られた豊臣秀吉は、「口真似」の元となる狂言を徳川家康と前田利家と共に3人で舞ったことがあるそうである。


能「大会(だいえ)」。大会というのは、釈迦が霊鷲山(りょうじゅせん)で行った説法を指す言葉のようである。
前段が、絵本で紹介される。片山九郎右衛門の制作で「大会」を絵本化した『天狗の恩返し』からの引用である。

天狗(片山九郎右衛門)が鳶に化けて東北院(とうぼくいん)近くの都大路で遊んでいたところ、武士の投げた石で落とされ、子ども達に捕まって、殺されそうになった。たまたま通りかかった僧侶が鳶の命を助けたのだが、鳶の正体である天狗は僧侶にお礼がしたくなって寺院(原作では比叡山延暦寺とされているが、今回の上演では具体的な寺院名は出てこなかった)を山伏に化けて訪れる。山伏に化けた天狗は、僧侶に「望みがあれば仰って下さい」という。大会の様が見たいと僧侶が言うと、天狗は法力(でいいのかな?)を使って大会の様子を再現してみせる。ただ、これは明らかに釈迦と邪魔の話に重なるため、激怒した帝釈天が姿を現し……。

天狗が強者・帝釈天に追われるという話なのだが、今回の上演では天狗が帝釈天に立ち向かい、一騎打ちとなる。YouTubeLiveということで、チャットにコメントが書き込めるのだが、一騎打ちの場面では、「かっこいい」「凄い」という言葉が並ぶ。
帝釈天と天狗が去った後、舞台上に鳶の羽が一つ舞い落ち、僧侶がそれを拾い上げるという、映像でしか出来ない詩的な演出が施されており、これも好評であった。


私もチャットに参加していたが、こうした上演に立ち会うと、「日本人に生まれて良かった」としみじみ思う。こうした考えも決して大袈裟ではないはずだ。

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2020年9月 2日 (水)

配信公演 小林沙羅ソプラノ・リサイタル「日本の詩(うた)」@浜離宮朝日ホール

2020年8月10日 東京・築地の浜離宮朝日ホールから配信

ソプラノ歌手の小林沙羅が東京・築地の浜離宮朝日ホールで行ったソプラノ・リサイタル「日本の詩(うた)」の、ぴあLiveStreamによる見逃し映像を視聴してみる。

曲目は、前半が、武満徹作詞・作曲の「小さな空」、山田耕筰の「この道」(詩:北原白秋)、山田耕筰の「赤とんぼ」(詩:三木露風)、 山田耕筰の「ペチカ」(詩:北原白秋)、中田章の「早春賦」(詩:吉丸一昌)、越谷達之助の「初恋」(詩:石川啄木)、武満徹の「死んだ男の残したものは」(詩:谷川俊太郎)、中村裕美の「智恵子抄」(詩:高村光太郎)より“或る夜のこころ”“あなたはだんだんきれいになる”“亡き人に”

後半が、早坂文雄の「うぐいす」(詩:佐藤春夫)、瀧廉太郎の「荒城の月」(詩:土井晩翠。変換したら「工場の付き」になったが、なんだそりゃ?)、宮城道雄の「せきれい」(詩:北原白秋)、宮城道雄作詞・作曲の「浜木綿」、井上武士の「うみ」(詩:小林柳波)、橋本國彦の「お六娘」(詩:林柳波)、橋本國彦の「舞」(詩:深尾須磨子)、小林沙羅自身が作曲した「ひとりから」(詩:谷川俊太郎。本邦初演)。


本来は、小林沙羅が3月にリリースした日本の歌曲アルバムのためのリサイタルとして企画されたのだが、コロナの影響で延期になり、真夏になってようやくの開催となった。小林がマイクを手に曲目を紹介してから歌うというスタイルである。

ピアノ伴奏は小林沙羅と一緒に仕事をすることも多い河野紘子。後半の「荒城の月」では箏の澤村祐司が伴奏を務め、2つの宮城道雄作品では澤村と尺八の三澤太基(みさわ・たいき)が二人で伴奏を務める。

1曲目の武満徹作品「小さな空」を歌い終わった小林沙羅は、約半年ぶりに聴衆と同じ空間で歌えたということですでに泣きそうになっていると告げる。

ただそうした感傷に浸ることなく、明るめの伸びやかな声で、小林は日本の歌曲を歌い上げていく。やはり歌声というのはどの楽器よりも馬力がある。

高村光太郎の「智恵子抄」に収められた詩に曲を付けた中村裕美(なかむら・ゆみ)は学生時代から小林と共にVOICE SPACEというユニットで活躍していた友人だそうである。

また、有名童謡の「うみ」や「お六娘」を作詞した小林柳波は、小林沙羅の曾祖父だそうだ。

日本におけるフランス音楽の紹介者でもあった橋本國彦の「お六娘」では一度止まってしまい、歌い直すというハプニングもあったが、オペラで培って演技力を生かした表現力豊かな歌を披露する。
またやはり橋本國彦の「舞」では、小林が10歳の頃から日本舞踊を習い続けているということで、タイトル通り「舞」を入れながらの歌唱となった。小林が舞いながら歌うことは、小林が衣装チェンジのために引っ込んでる間にピアノの河野紘子がマイクを手にアナウンスする。何の予告もなくいきなり本格的な日舞が始まったら聴き手も驚くだろうから、当然の措置であるが、河野の声を聴く貴重な機会ともなった。

王道の曲目も多いが、映画音楽などで知られる早坂文雄や「春の海」で知られる邦楽の大家、宮城道雄の歌曲も入れるなど、新たな試みも行っている。いずれもイメージにない作風を持つ曲である。

谷川俊太郎に頼んで詩を書いて貰い、小林自身が作曲した「ひとりから」は、「ホモサピエンス」と広い範囲を指す言葉を使用していたのが印象的であった。


アンコールとして、岡野貞一作曲の「ふるさと」が歌われる。小林は「本当は皆さんと一緒に歌いたいのですが」と述べる。新型コロナの感染に繋がるというので、客席で歌うことは推奨されていない。

最後の曲として小林沙羅作詞・作曲の「えがおの花」が歌われる。編曲は中村裕美で、ピアノ、箏、尺八伴奏版となっている。 ほのぼのとした良い曲であり、歌唱であった。

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