美術回廊(84) パリ ポンピドゥーセンター 「キュビスム展 美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ」
2024年5月29日 左京区岡崎の京都市京セラ美術館1階南北回廊にて
左京区岡崎の京都市京セラ美術館1階回廊(南・北とも)で、パリ ポンピドゥーセンター「キュビスム展 美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ」を観る。
タイトル通り、パリのポンピドゥーセンターが所蔵するキュビスムの絵画や彫刻、映像などを集めた展覧会。「50年ぶりの大キュビスム展」と銘打たれている。
写実ではなく、キューブの形で描写を行うことを特徴とする「キュビスム(キュービズム)」。抽象画ではなく、あくまで実物をキューブ化して描くのが特徴である。元々は「印象派」同様、どちらかというと蔑称に近かった。パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって始まり、最初は不評だったが、代表作「ミラボー橋」で知られる詩人で評論家のギヨーム・アポリネールがその創造性を評論『キュビスムの画家たち』において「美の革命」と絶賛したことで、次第に多くの画家に取り入れられるようになる。マリー・ローランサンがアポリネールと彼を取り巻くように並ぶ友人達を描いた作品(「アポリネールとその友人たち」第2ヴァージョン。ローランサンとアポリネールは恋仲だった)も展示されている。ローランサンもこの絵においてキュビスムの要素を取り入れているが、結局はキュビスムへと進むことはなかった。
キュビスムの源流にはアフリカの民俗芸術など、西洋の美術とは違った要素が盛り込まれており、それがアフリカに多くの領土(植民地)を持っていたフランスに伝わったことで画家達に多くのインスピレーションを与えた。だが、ピカソやブラックが全面的にキューブを取り入れ、分かりにくい絵を描いたのに対し、それに続く者達はキューブを意匠的に用いて、平明な作風にしているものが多い。ピカソやブラックの画風がそのまま継承された訳ではないようで、キュビスムが後々まで影響を与えたのは絵画よりもむしろ彫刻の方である。
ピカソはフランスで活躍したスペイン人、ブラックはフランス人だったが、キュビスム作品を扱った画商のカーンヴァイラーがドイツ系だったため、「キュビスムは悪しきドイツ文化による浸食」と誤解されて、第一次大戦中にフランス国内で排斥も受けたという。ブラックらキュビスムの画家も前線に送られ、カメレオン画家のピカソはまたも画風を変えた。これによりキュビスムは急速に衰えていく。
ピカソもブラックも楽器を題材にした作品を残している。ブラックは、「ギターを持つ女性」を1913年の秋に描き、翌1914年の春に「ギターを持つ男性」を作成して連作としたが、「ギターを持つ男性」が抽象的であるのに対して、「ギターを持つ女性」の方はキュビスムにしては比較的明快な画風である。顔などもはっきりしている。
キュビスムの画風はフェルナン・レジェ、ファン・グリスによって受け継がれたが、それ以降になると具象的な画の装飾的傾向が強くなっていく。
ロベール・ドローネーは、キュビスムを取り入れ、都市を題材にした絵画「都市」と壮大な「パリ市」を描いたが、マルク・シャガールやアメデオ・モディリアーニになるとキュビスムと呼んで良いのか分からなくなるほどキュビスム的要素は薄くなる。共に個性が強すぎて、流派に吸収されなくなるのだ。
発祥の地であるフランスでは衰えていったキュビスムであるが、他国の芸術には直接的にも間接的にも影響を与え、イタリアの未来派やロシアの立体未来主義に受け継がれていく。
フランスにおけるキュビスムを総括する立場になったのが、建築家、ル・コルビュジエの名で知られるシャルル=エドゥアール・ジャヌレ=グリである。ル・コルビュジエは画家としてスタートしており、キュビスムの影響を受けた絵画が展示されている。初期のキュビスムとは異なり、込み入った要素の少ない簡素な画だが、シンプルな合理性を重視した建築家としての彼のスタイルに通じるところのある作品である。ル・コルビュジエは、「純粋主義(ピュリスム、ピューリズム)」を提唱し、『キュビスム以降』を著して、装飾的傾向が強くなったキュビスムを批判し、よりシンプルで一般人の関心を惹く芸術を目指した。
最後に展示されているのは、実験映画「バレエ・メカニック」(1924年)である。坂本龍一が影響を受けて、同名の楽曲を作曲したことでも知られるフェルナンド・レジェとダドリー・マーフィー制作の映像作品で、作曲はアメリカ人のジョージ・アンタイル。彼の作曲作品の中では最も有名なものである。上映時間は13分48秒。
音楽は何度も反復され、映像は断片的。女性の顔がアップになったり、部分部分が隠されたり、同じシーンが何度も繰り返されたり、機械が動く要素が映されたり、マークが突如現れたりと、当時の最前衛と思われる技術をつぎ込んで作られている。キュビスムとは直接的な関係はないかも知れないが、現実の再構成やパーツの強調という似たような意図をもって作られたのだろう。
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