カテゴリー「ドイツ映画」の3件の記事

2024年9月26日 (木)

これまでに観た映画より(346) 伊藤沙莉&須賀健太主演「獣道」

2024年9月13日

ひかりTVの配信で、日英独合作映画「獣道」を観る。監督・脚本は、「ミッドナイトスワン」の内田英治。出演:伊藤沙莉(主題歌も担当)、須賀健太(ナレーショ兼任)、アントニー(マンテロウ)、吉村界人、でんでん、矢部太郎、韓英恵、広田レオナ、近藤芳正ほか。

実話に基づく話とされる。

長く続く初恋の物語でもある。

伊藤沙莉演じる愛衣は、いくつもの新宗教にのめり込んでいる母親の下、地方都市で育ち(シングルマザーのようである。演じるのは広田レオナ)、やがてある新宗教の施設に引き取られて、アナンダ(釈迦の十大弟子の一人であるアーナンダに由来)の法名を得て信仰生活を送るようになるのだが、教祖ら教団幹部が警察に逮捕されて事実上の解散。初めて学校(中学校)に通うようになり、ここで亮太(須賀健太)と出会うが、共に暴走族のグループに関わるようになる。高校には進まなかったか早々に辞めたかで、彼氏が出来て、彼の家族と暮らすようになった愛衣は、髪を金色に染める。彼ら北見家は半グレ一家であり、万引きや生活保護(おそらく不正受給)で暮らしている(愛衣は煙草を吸うが、演じている伊藤沙莉は大の煙草嫌いであることが兄のオズワルド・伊藤俊介の証言で分かっている。オズワルド伊藤は喫煙者であるが、妹と同居していた時代に、「家では絶対煙草を吸わないで」と言われていたにも関わらず、風呂場で何度も吸ってしまい、ついには「家賃上げるよ(兄が4万、妹が12万と言われている)」「お前は、馬鹿お兄ちゃんか」とキレられたとのこと)。
だが彼と別れて行き場をなくした愛衣は、男絡みのいざこざに巻き込まれ、拉致された上、生き埋めにされて危うく殺されそうになる。何とか救い出された愛衣は、半グレの一家にいる同級生を訪ねてきた女の子であるユカに誘われ、家にやっかいになることに。清楚系に変わった愛衣。実の娘のように可愛がられる。だが、媚びた態度がユカの反感を買う。夜には工場で働いているということにしていたのだが、実はホステスをやっていた。愛衣の後を付けてそれを発見したユカの告げ口を受けて、義理の父親(ユカの実父。近藤芳正)が店に訪ねてくる。義絶を仄めかされた愛衣は女の武器を使って、何とか気持ちを引き留めようとするが上手くいかず、やがてホテトル嬢へと身を落とす。亮太と再会した愛衣は、「東京に行こう」と告白されるが、拒絶した。最終的には人気AV女優となり、身内からも尊敬されて多くのファンを持つことになる愛衣だが、表情はどこか寂しそうである(つま先をくっつけ、足の開きを「∧」の形にすることで愛らしくも弱々しく立っているように見える演技を行っていることが確認出来る)。

基本的に伊藤沙莉を見るための映画である。新宗教時代のすっぴんと見られる表情、清楚系からヤンキー、友人キャラに夜の仕事そして性風俗業界に生きる女性、可愛らしさから狂気までと様々な顔を見せてくれる。一々顔や声が変わるのが面白い。かなり妖艶なシーンもあり、AV女優になってからのとろんとしたあざとい目つきなどは実際にAVを見て研究しているようでもある。

伊藤沙莉の演技により、内容がかなり変わったそうで、他にも色々とあるのだが、伊藤沙莉を楽しむための映画と割り切った方が良さそうである。

なお、愛衣のモデルとなった女性がこの映画に出演しているようだが、はっきりとは分からない。

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2024年2月 2日 (金)

これまでに観た映画より(319) 「PERFECT DAYS」

2024年1月17日 京都シネマにて

京都シネマで、ヴィム・ヴェンダース監督作品「PERFECT DAYS」を観る。主演の役所広司がカンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した作品。出演は役所広司のほかに、田中泯、中野有紗、柄本時生、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和ほか。

平山(役所広司)は、渋谷区の公衆トイレ(デザイナーズトイレ)の清掃員をしている。朝早く起き、身支度を整え、自宅アパート前の自動販売機で缶コーヒーを買い、運転する車の中で洋楽のカセットテープを流し、いくつものトイレを丹念に磨く日々。仕事帰りには銭湯に入り、浅草の地下で食を味わい、浅草の居酒屋で一杯やる。仕事から帰ってからは自転車で移動し、古本屋に立ち寄って本を買い、夜にはその本を読むという毎日。
昼食は神社の境内でサンドウィッチを食べ、同じく境内で食事をしているOLと挨拶をする。無口で不器用な男である。

仕事の部下というか同僚であるタカシ(柄本時生)がアイという女性(アオイヤマダ)と恋仲になる。アイが働くガールズバーでデートをしたいタカシは金がないことを嘆き、平山はタカシに金を貸すのだが、やがてタカシは仕事を辞めてしまい……。

一方、平山の姪(妹の娘)であるニコ(中野有紗)が、母親(麻生祐未)と喧嘩をして平山のアパートを訪ねてくる。

淡々とした日常の中に起こるちょっとした出来事が丁寧に描かれているという印象を受ける作品。平山の日常はほとんど毎日変わらないのだが、周囲の人々が少しずつ変わっていく。仕事を辞めたタカシ、突然訪ねてくるニコ、浅草の居酒屋のママ(石川さゆり)の元夫で癌を患っている友山(三浦友和)。平山の周囲を様々な人々が駆け抜けていく。そんな些細な日常の変化を上手く捉えた作品といっていいだろう。決して派手な映画ではなく、むしろ地味な作品に分類されると思われるが、ラストで説明される木漏れ日のようにたゆたう日常が不思議な浮遊感を伴って観る者の胸をとらえる。

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2020年12月 8日 (火)

これまでに観た映画より(232) 手塚治虫原作 手塚眞監督作品「ばるぼら」

2020年12月2日 京都シネマにて

京都シネマで「ばるぼら」を観る。日本・ドイツ・イギリス合作映画。原作:手塚治虫。監督は息子の手塚眞。脚本:黒沢久子。撮影監督:クリストファー・ドイル。音楽:橋本一子。出演は、稲垣吾郎、二階堂ふみ、渋川晴彦、石橋静河、美波、大谷亮介、片山萌美、ISSAY、渡辺えり他。9月に自殺という形で他界してしまった藤木孝も大物作家役で出演している。

手塚治虫が大人向け漫画として描いた同名作の映画化である。原作を読んだことはないが(その後、電子書籍で買って読んでいる)、エロス、バイオレンス、幻想、耽美、オカルトなどを盛り込んだ手塚の異色作だそうで、そうした要素はこの映画からも当然ながら受け取ることが出来る。

主人公は売れっ子作家の美倉洋介(稲垣吾郎)である。耽美的な作風によるベストセラーをいくつも世に送り出し、高級マンションに住む美倉。美男子だけにモテモテだが、未婚で本命の彼女もいない。秘書の加奈子(石橋静河)や、政治家の娘である里見志賀子(美波)が思いを寄せているが、美倉は相手にしていない。仕事は順調で連載をいくつも抱えているが、「きれいすぎる」ことばかり書いているため、奥行きが出ておらず、才能に行き詰まりも感じていた。

ある日、美倉は新宿の地下街で寝転んでいたホームレス同然の女(原作漫画では「フーテン」と記されている)ばるぼら(スペルをそのまま読むと「バーバラ」である。二階堂ふみ)を見つける。ヴェルレーヌの詩を口ずさんだばるぼらに興味を持った美倉は自宅に連れ帰る。実は美倉は異常性欲者であることに悩んでいたのだが、自分のためだけに書き上げたポルノ小説風の原稿をばるぼらに嘲笑われて激怒。すぐに彼女を家から追い出すが、それから現実社会が奇妙に歪み始める。

街で見かけた妖艶な感じのブティックの店員、須方まなめ(片山萌美)に心引かれた美倉は、彼女の誘惑を受け入れ、店の奥へ。美倉のファンだというまなめだったが、「何も考えずに読める」「馬鹿な読者へのサービスでしょ」「頭使わなくていい……ページ閉じれば忘れちゃう」と内心気にしていることを突きまくったため美倉は激昂。そこに突然ばるぼらが現れて……。

長時間に渡るラブシーンあるのだが、ウォン・カーウァイ監督映画でスピーディーなカメラワークを見せたクリストファー・ドイルの絶妙のカメラワークが光り、単なるエロティシズムに終わらせない。美醜がない交ぜになった世界が展開されていく。

ばるぼらの登場により、美倉の頭脳と文章は冴え渡るようになる。美倉はばるぼらのことをミューズだと確信するのだが、ばるぼらは映画冒頭の美倉のナレーションで「都会が何千万という人間をのみ込んで消化し、垂れ流した排泄物のような女」と語られており、一般的なミューズ像からは大きくかけ離れている。取りようによっては抽出物ということでもあり、究極の美と醜さの両端を持つ存在ということにもなる。

原作では実際にミューズのようで、バルボラ(漫画内では片仮名表記である)と会ったことで美倉はテレビドラマ化や映画化もされるほどの大ベストセラー『狼は鎖もて繋げ』を生むようになるが、バルボラと別れた途端に大スランプに陥り、6年に渡ってまともな小説が書けなくなってしまう。そして時を経てバルボラの横でバルボラを主人公にした小説を書き始める。のちに大ベストセラー小説となる長編小説『ばるぼら』がそれだが、美倉は執筆中に小説に魂を奪われてしまうという展開になっている。

この映画でも、ラストで美倉が『ばるぼら』という小説を書き始めるのだが、その後は敢えて描かずに終わっている。

この映画では、美倉の作家仲間である四谷弘之(原作では冒頭のみに登場する四谷弘之と、筒井隆康という明らかにあの人をモデルとした作家を合わせた役割を担っている。演じるのは渋川晴彦)がミューズについて、「お前にミューズがいるとしたら加奈子ちゃんだろ?」と発言している。美倉が売れない頃から苦楽を共にしてきた加奈子。清楚で真面目で家庭的で頭も良くて仕事も出来てと良き伴侶になりそうなタイプなのだが、それでは真のミューズにはなり得ないのだろう。おそらく耽美派の作家である美倉にとって、創作とは狂気スレスレの行いであろうから。

SMAP時代から俳優活動にウエイトを置いてきた稲垣吾郎。風貌も耽美派小説家によく合い、演技も細やかである。優等生役から奔放な悪女まで演じる才能がある二階堂ふみは、真の意味でのミューズとしてのばるぼら像を巧みに現出させていたように思う。出番は多くないが、美波、石橋静河、片山萌美も印象に残る好演であった。

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