カテゴリー「ドキュメンタリー番組」の13件の記事

2024年9月15日 (日)

NHKスペシャル「サイパン陥落から80年 “最後の1人を殺すまで” サイパン戦 発掘・米軍の音声記録」

2024年8月18日

NHKスペシャル「サイパン陥落から80年 “最後の1人を殺すまで” サイパン戦 発掘・米軍の音声記録」を見る。新たに発見されたアメリカのラリー・ヘイズら通信兵による米兵へのインタビュー音声などが公開されている。

日米戦争において大きなターニングポイントとなったサイパン決戦。日本がサイパンを絶対国防圏として重要な防衛ラインと見ていたのと同様に、アメリカもサイパンも日本本土攻撃の重要拠点になる場所として是が非でも取りたい場所であった。サイパンを落とせば、そこから飛び立ったB29が日本本土に直接爆撃を行うことが出来る。当時のサイパンには日本からの移民約2万人が原住民と共に暮らしていた。

サイパンでの戦いに投じられた兵員はアメリカが日本の約倍。序盤から日本は兵力の大半を失うなど不利な展開であったが、「万歳! 万歳!」と叫びながら突撃する攻撃は米軍を大いに悩ませる。

米軍は南北戦争での教訓もあったと思われるが、民間人にはなるべく手を出さないつもりであったが、崖際に追い込まれても降伏せず、自死を選ぶ民間人を見て、「日本人に対してはそうしたやり方は通じない」として、無差別攻撃へと方向転換を行っている。
日本側も、陸軍省の佐藤賢了が「女子供には玉砕してもらいたい。大和民族の気魂を世界と歴史に示すために、生き延びずにみんな死ね」と、自死を強要する方針であった。

通信兵が録音した音声はアメリカでは公開されることなく、眠ることとなった。

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2024年9月 2日 (月)

NHK MUSIC SPECIAL「玉置浩二~愛と平和のハーモニー」

2024年8月29日

祇園富永町にある4th AVENUEというショットバーまで飲み行った(といっても酒は飲めないので、ソフトドリンクを飲んで歌っているだけ。レパートリーはだいたい300曲ぐらいある)のだが、他にお客がいないので、マスターとその妹さんと(二人とも私より大分年上である)、モニターでNHK MUSIC SPECIAL「玉置浩二~愛と平和のハーモニー」を視聴。

オーケストラとの共演を続けている玉置浩二。今回は、栁澤寿男(やなぎさわ・としお。バルカン室内管弦楽団音楽監督、京都フィルハーモニー室内合奏団ミュージックパートナー、東北ユースオーケストラ指揮者)が指揮するバルカン室内管弦楽団+大阪交響楽団との共演で、大阪府吹田市の万博記念公園太陽の塔前お祭り広場で行われた公演を中心とした音楽兼ドキュメンタリー番組として放送された。語りは坂本美雨。冒頭に玉置浩二が太陽の塔の中に入る場面がある。玉置は岡本太郎の作品に強い感銘を受けており、太陽の塔の前で歌うのが長年の夢だったという。

バルカン室内管弦楽団は栁澤が旧ユーゴスラビアの音楽家を組織して結成したオーケストラで、今は紛争を経て別々の国に分かれた旧ユーゴスラビアの音楽家達を再び結びつける役割を担っている。
歌われたのは、「悲しみにさよなら」、「夏の終わりのハーモニー」、「ボードビリアン~哀しみの道化師~」、「SACRED LOVE」、「田園」(ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」の旋律が伴奏に現れるバージョン)、「メロディー」

普段は音楽を聴くときは何もしないのだが、バーでは余興で指揮をすることがある。今日も指揮しながら見ていた。話すことも音楽とは余り関係ないことで、「大阪交響楽団の首席フルートの三原萌って子が可愛くてね。あの子」といった、どうでもいいことを喋っていた。

今年の玉置浩二のオーケストラコンサートツアーは沖縄でスタート(指揮者は大友直人)。
玉置浩二は沖縄戦の激戦地の跡を訪れ、戦没者墓園に花を手向ける。なお、奥さんの青田典子が常に付き従っているが、クレジットも「妻:典子さん」と一般人のような紹介であり、青田典子も仲睦まじそうな様子を見せるも一言も発することはなく、内助の功に徹しているようである。玉置浩二は精神的にいくつかの不調を抱えている人だけに支えてくれるのはありがたいことである。

4月には長崎平和公園を訪れ、長崎原爆についての説明を受けている(長崎原爆「ファットマン」はプルトニウムを使っており、広島原爆の1.3倍の威力であった)。長崎の鐘が鳴らされる場面があるが、今回のコンサートでも祈りの鐘が鳴らされる。玉置浩二は左胸に手を当てる。歌われるのは「SACRED LOVE」。バッハの鍵盤楽器音楽のような伴奏が印象的である。

2014年、玉置浩二は東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市を訪れている。依頼を受け、ギター一本でライブを行ったのだ。それから10年を経た今年、玉置は再び石巻を訪れる。10年前に貼ったバミリが今もそのままになっていた。東日本大震災発生直後に玉置は「清く正しく美しく」という曲を一晩で作っており、2014年の石巻ライブで歌っている。その時の映像も流れる。

玉置浩二は、「愛を世界の平和のために」という思いで安全地帯を結成したという。これまで出会った人、別れた人から「しっかり生きなさい」と言われているような気がするという玉置浩二。そういう思いを受け止めて歌うのが使命と感じ、それでみんなが幸せになることを望んでいる。それは中学生の頃にバンドを始めた頃から変わっていないようである。


番組が終わった後、沖縄戦が登場したということで、カラオケで、沖縄の反戦歌である「さとうきび畑」(森山良子。「さとうきび畑」のオリジナルは長いため「みんなのうた」バージョンを選んだ)とTHE BOOMの「島唄」を歌った。なお、店に入っての第1曲目として森山直太朗の反戦歌「夏の終わり」を歌っている。

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2024年6月18日 (火)

ホームドラマチャンネル「笠置シヅ子スヰング伝説」

2024年6月10日

録画しておいたホームドラマチャンネルのオリジナル特番「笠置シヅ子スヰング伝説」を見る。司会は佐藤利明。「スヰングかっぽれ ラッパと娘」「HOT CHINA 聖林(ハリウッド)見物」「HOT CHINA ほっとちゃいな」という神戸映画資料館から見つかった3本のショートフィルムが公開される。
いずれも笠置シヅ子が、SGDこと松竹楽劇団に所属していた26歳頃の映像である。

「スヰングかっぽれ ラッパと娘」には、まず、やんちゃガールズという4人組(荒川おとめ、雲井みね子、志摩佐代子、波多美喜子)の女性グループが現れ、「スヰングかっぽれ」を踊りながら歌う。続いて、笠置シズ子(笠置シヅ子)が現れ、デビュー曲の「ラッパと娘」を歌う。音声も映像も古いので途中で飛んだり、ノイズが多かったりするが、戦前の笠置シヅ子の映像は存在しないとされていただけに貴重である。単に映像を撮っているだけではなく、トランペットの映像を重ねるなど、当時としては凝った編集が施されている。トランペット独奏は斉藤広義。SGDスイングバンドのバンドマスターで、「ラッパと娘」のSP盤でもトランペットを吹いている奏者である。新交響楽団、日本交響楽団(いずれもNHK交響楽団の前身)を経て、大阪に渡り、関西交響楽団(大阪フィルハーモニー交響楽団の前身)の首席トランペット奏者として活躍した。

「HOT CHINA 聖林見物」。聖林というのは、Hollywood(柊林)のHollyをHolyだと勘違いして付けられた日本語表記である。
まず、リズム・ボーイズ(一條徹、上白潔、飛鳥亮、三上芳夫。「あすか・りょう」という人物がいるのが面白い)の「お江戸日本橋」の歌唱があり、SGDスイングバンドの演奏を経て、笠置シズ子が登場して「紺屋高尾の聖林見物」を歌う。「紺屋高尾の聖林見物」は、篠田実の浪曲「紺屋高尾」を服部良一がジャズ化したもので、途中でアニメーションが挿入され、笠置シズ子がハリウッド俳優のタイロン・パワーと出会う様が描かれている。

「HOT CHINA ほっとちゃいな」は、笠置シズ子の「ホットチャイナ」と、やんちゃガールが「支那の夜」ならぬ「支那の朝」を歌う様が収録されている。
SGDスイングバンドの華麗な演奏(予想以上に上手い)に始まり、爆竹の鳴る映像が流れて、笠置シズ子が中華風の衣装を纏って登場して歌う。普段よく見るのは、笠置シズ子が「東京ブギウギ」を発表して以降の映像なので、若くて可愛らしい頃の笠置シズ子の映像を見ることが出来るのは新鮮な心地を覚える。
やんちゃガールズは、まず「支那の夜」(李香蘭主演の同名映画の主題歌。渡辺はま子が歌った)を歌い、その後、小芝居を挟んで、中国を題材にした楽曲を次々に歌い、最後は「支那の夜」のパロディーである「支那の朝」を歌って終わる。途中でタップを踏む場面があるなど、やんちゃガールズがかなり器用な女性の集まりであることが分かる。

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2024年6月10日 (月)

NHK「かんさい熱視線 奈良を“音楽の都”へ ピアニスト・反田恭平」

2024年5月26日

NHK「かんさい熱視線 奈良を“音楽の都”へ ピアニスト・反田恭平」を見る。昨年の11月にオンエアされたものの再放送。反田恭平が奈良県文化会館(現在は耐震工事のため休館中)の芸術監督に就任することが発表されたのを受けての再放送だと思われる。

ショパン国際コンクールで2位となり、内田光子と並ぶ日本人最高位を獲得した反田恭平であるが、1位を取れなかったことに心残りがあり、次世代から1位を取れる逸材を生み出す学び舎を作り出そうと、奈良で教育活動を始めた。反田が教育活動の拠点の条件としてあげたのが、「空気が澄んでいること」「文化・歴史的背景があること」「外国人が多く訪れる場所であること」で、それに合致するのが奈良だった。指揮活動もしている反田は、株式会社立であるジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)を結成。若手の実力派を集めている。本拠地は響きの良い、やまと郡山城ホールに置いているが、あるいは芸術監督となった奈良県文化会館国際ホールに移るかも知れない。
現在、奈良県ではムジークフェストならという音楽祭が行われているが、知名度は今ひとつで、ほとんど奈良の人しか知らない。奈良フィルハーモニー管弦楽団というプロオーケストラもあるが、定期演奏会は年2回ほどで、恵まれた状態にあるとは言えないのが現状である。
そんな奈良から音楽発信をすべく、反田とJNOは世界中で演奏会を行い、反田のみならずJNOのメンバーも奈良で教育活動も行っている。

東大寺開山・良弁僧正1250年御遠忌の法要として東大寺大仏殿の前での奉納演奏を行うことになった反田とJNO。反田は大の雨男だそうで、デビュー2年目のツアーの時は毎回雨。東大寺大仏殿の前での演奏当日も雨となった。悪環境の中ではあったが、ショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」と、ブラームスの交響曲第1番が演奏される。リハーサルにもカメラが入っているが、反田と年の近いメンバー同士ということもあって、対等の立場で「仲間」として音楽が形作られていく様を見ることが出来、一世代前の指揮者とオーケストラの関係とは大分異なっていることが分かる。

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2024年4月14日 (日)

ETV特集「未来へのETUDE ~坂本龍一監督から東北ユースオーケストラへ~」

2024年4月13日

Eテレで、ETV特集「未来へのETUDE ~坂本龍一監督から東北ユースオーケストラへ~」を見る。NHK名古屋放送局の制作。語りは、のんが務める。
東北ユースオーケストラ(TYO)は、東日本大震災で大きな被害が出た福島、宮城、岩手の3県に震災発生時に暮らしていた小学生から大学院生までの若者で結成されたオーケストラ。音楽経験は不問である。坂本龍一が創設し、監督も務めた。毎年、震災の起きた3月に定期演奏会を行っており、坂本龍一と共演を続けてきたが、昨年の3月26日に行われたコンサートに坂本龍一の姿はなく、その2日後の3月28日に坂本はこの世から旅立つことになる。坂本は26日のコンサートを病床で見守っていたことが先日放送されたNHKスペシャル「Last Days 坂本龍一 最期の日々」で明らかになった。
そして今年、坂本龍一のいない東北ユースオーケストラは、坂本の追悼演奏会を東北3県と東京で行う。指揮は結成当時から参加している栁澤寿男(やなぎさわ・としお)。坂本から直々にTYOの指揮者に指名されている。栁澤は、京都フィルハーモニー室内合奏団のミュージックパートナーとして、京都でも知られた存在である。

生前の坂本龍一との交流と、坂本亡き後のメンバーの思いや活動が中心となったドキュメンタリーであるが、象徴的な楽曲である「いま時間が傾いて」の紹介とハイライト映像が流れる。坂本が3.11のレクイエムとして東北ユースオーケストラのために作曲した「いま時間が傾いて」の第3部「predicament(苦境)」には、楽譜に音符が一切書かれていない部分が存在する。「津波のスローモーション」をイメージし、楽団員がおのおの即興で旋律を奏でるのだが、坂本はこの曲の創作メモに「自発性」を重要視するよう記している。坂本も自身の寿命がそれほど長くないことは十分に自覚していたはずで、自身がこの世を去ってからも東北ユースオーケストラに自発的に活動を続けて欲しいとのメッセージが込められているように感じられる。

今年は元日に能登半島を中心に北陸地方で大きな地震があった。東北ユースオーケストラはサントリーホールでの公演をパブリックビューイングという形で北陸地方に同時配信することに決める。富山県氷見市でのパブリックビューイングの様子が流れ、遠く離れてはいるが、被災という共通点を持つ者同士の心の通い合いが伝わってきた。

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2022年10月13日 (木)

MBSドキュメンタリー 「【悲運の神童】天才バイオリニスト渡辺茂夫の『劇的すぎる半生』輝かしい未来から命の淵に…」

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2022年6月20日 (月)

BSプレミアム 「忌野清志郎 ゴッホを見に行く」 2015.5.2

※2015年5月2日に再放送されたものである

今日は忌野清志郎の命日である。録画しておいたBSプレミアム「忌野清志郎 ゴッホを見に行く」を観る。2004年に収録、2010年に放送された番組の再放送。清志郎が、岩手県立美術館で行われたゴッホとミレーの展覧会を観に行くという内容である。30分足らずの短い番組。10年以上前に収録されたものだが、デジタル技術の発達により、映像は古びていない。

清志郎が高校卒業後すぐに描いた画にはゴッホの影響が濃厚であるが、その後の清志郎の画からはゴッホらしさが消えている。清志郎が53歳時収録の番組であるが、清志郎が本物のゴッホの画を観るのは実はこの時が初めてだそうだ。

ゴッホとミレーの画を見比べて、ミレーの画の方が上手いと清志郎は言う。「ゴッホは自分に負けちゃったんじゃないですかね。最後は」とも語る。

ゴッホの自分にのめり込んでいく姿勢がロックだと思っていた清志郎だが、実際はミレーの方がもっと執念深く闘っていたのがわかるそうだ。最晩年のゴッホの画は真面目に描くことを諦めてしまった白旗状態にも見えるという。

最後は東京で、ゴッホの「ひまわり」を観る。これは画を超えたパワーが感じられて良いそうだ。何だかんだで清志郎にとってはゴッホはジミ・ヘンドリックスのようなアイドル的存在なのだそうである。

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2022年3月25日 (金)

Eテレ 「ドキュランド 『プーチン大統領と闘う女性たち』」

2022年2月25日

Eテレでドキュランド「プーチン大統領と闘う女性たち」を見る。2021年製作のイギリスのドキュメンタリー。プーチン大統領独裁下のロシアで、反プーチンのナワリヌイを支持しようとしたり、自ら立候補しようとする女性達に迫っているが、ロシアのやり方はかなり強引且つ滅茶苦茶で、立候補の完全阻止が行われている。「新型コロナウイルスを広めようとした」「新型コロナウイルスに感染した」として刑務所化している病院に閉じ込めるという政策である。「『よし、パンデミックだ、これを利用しよう』。こんなことをしている国は世界でロシアだけ」と彼女達も揃って苦笑するが、ここには民主主義も公正な選挙もなく、20世紀のソ連となんら変わりのない警察国家が続いている。

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2021年8月27日 (金)

NHKBSプレミアム 「追悼 ウォルフガング・サヴァリッシュ ~マエストロの肖像 ウォルフガング・サヴァリッシュ 音楽に愛された男~」2013.3.4

2013年3月4日

NHKBSプレミアムで、「追悼 ウォルフガング・サヴァリッシュ ~マエストロの肖像 ウォルフガング・サヴァリッシュ 音楽に愛された男~」を観る。2003年に作成されたドキュメンタリーの再放送。先日(2013年2月22日)逝去した指揮者でNHK交響楽団の桂冠名誉指揮者であったウォルフガング・サヴァリッシュ追悼放送である。

幼児の頃から楽才を発揮したこと。第二次大戦では聴力を生かした傍受係を担当したこと。ミュンヘン音楽大学を首席で卒業したこと。初めての指揮台での演奏は失敗に終わったこと。アーヘンの歌劇場でのキャリアの出発。34歳の時に史上最年少でバイロイト音楽祭の指揮者を務めたこと。38歳でバイエルン国立歌劇場という、ドイツ国内でも一二を争う名門オペラハウスの芸術監督に就任したこと。歌劇場の総支配人との対立。1993年にフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督に就任したことなどが、サヴァリッシュ指揮によるリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」に乗せて描かれていく。

私はサヴァリッシュの実演には一度しか接することが出来なかったが(1998年11月21日、NHK交響楽団の第1366定期演奏会)、この愛すべきマエストロの生前の姿を観て、一度きりだったことを残念に思うし、改めてサヴァリッシュの音楽が聴きたくなった。

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2021年8月 7日 (土)

NHKBSプレミアム ドキュメンタリードラマ「Akiko's Piano(明子のピアノ) ~被爆したピアノが奏でる和音(おと)~」

2021年8月5日

昨年の8月15日に録画して、そのまま見ないままにしてしまっていたNHKBSプレミアムドキュメンタリードラマ「Akiko's Piano(明子のピアノ) ~被爆したピアノが奏でる和音(おと)~」を観る。広島市の中心部で被爆し、翌日に19歳でこの世を去った河本明子(かわもと・あきこ)さんが残した日記を基にドラマとドキュメンタリーで構成された作品である。主演とナビゲーターは芳根京子が務める。

河本明子は、1926年、ロサンゼルス生まれ。父親の源吉は船乗りとしてアメリカに渡って保険会社で働き、ピアノを趣味とするシヅ子と結婚。二人の間には長女の明子、そして二人の弟の計三人が生まれた。明子が小学校に上がる年齢になったため、一家は日本に帰国。母方の実家があった広島県三滝町(現在の広島市西区三滝町)に居を構えた。ロサンゼルス時代に買ったアメリカ製のピアノは、1926年の製造で、偶然、明子と同い年。明子はこのピアノを心から愛していた。

ドラマの部分は、子役の出演部分を経て、明子(芳根京子)が(旧制)中学校に通っていた14歳の時から始まる。勉強好きで成績優秀、ピアノの演奏にも秀でるという優等生だった明子は、地理の教師でデッサンを趣味とする芸術家肌の竹内茂(町田啓太)に片思いするのだが、竹内は召集令状を受け取り、明子の夢の一つが絶たれることになる。その後も日中戦争が泥沼化したため働き手が足りなくなり、生徒達にも勤労奉仕が義務づけられる。日米開戦以降はピアノ音楽自体が敵性のものとして思うように弾けなくなった(クラシック音楽の盛んなドイツやイタリアは同盟国だが、当時の日本国民には音楽の違いなどはほとんど分からない)。夢がどんどん絶たれていく。

配給制が始まり、米が十分に得られないため、料理なども工夫しなければならない。育ち盛りの二人の弟に十分に食べさせるため、明子は食事を少しずつ減らすようになる。

中学校を卒業した明子は、広島女学院専門学校(現在の広島女学院大学の前身)に進学し、被服科で服飾デザインを専攻する。ここでも明子は1番の成績を誇り、級長も務めていた。

気になるのは、明子が県立広島女子専門学校(現在の県立広島大学の前身)に進むのに十分な学力がありながら、敢えて広島女学院専門学校に進んだと取れる会話が出てくることと、広島女子専門学校の生徒が広島女学院専門学校の生徒よりも明らかに優遇されていることが仄めかされる場面があることである。公立と私立で差があったようなのだが、なぜこうした情報が提示されているのかは良く分からない。ただ、広島女子専門学校に進んでいたら、あるいは8月6日の朝に広島の都心の税務署に勤労奉仕に出ることもなく、彼女の人生もまた別のものになっていたかも知れない。父親の源吉(田中哲司)と母親のシヅ子(真飛聖)は、明子の顔入れが優れないのに気づいており、源吉は「今日は家におれ」と明子に告げるが、級長ということで責任を感じていた明子は広島の都心へと向かう。

昭和20年8月6日午前8時15分。税務署の外で友人と話していた明子は被爆。爆風により、近くに停めてあった自動車の下まで飛ばされたという。その後、明子は、自宅までの3キロの道のりを歩いて帰ろうとする。旧太田川に掛かっていた橋は落ちており、明子は川を泳いで渡る。そして自宅まであと少しというところで倒れてしまう。両親に発見された明子だが、翌8月7日に死去した。河本家の墓石に明子の家族の名が刻まれているが、源吉は100歳、シヅ子は103歳まで生きるという長命の家系であったことが分かる。それだけに明子の早逝が一層悲しくなる。実家も被爆し、ピアノにはガラスの破片が突き刺さっていた。なお、上の弟は神戸経済大学(神戸大学経済学部の前身)の予科に進学しており、下の弟は学童疎開で福山にいて無事であった。一家でピアノが弾けるのは明子とシヅ子だけだったが、明子が亡くなってからはシヅ子はピアノを封印してしまい、蓋を開けたことすらなかったという。廃棄寸前だった被爆ピアノだが、15年前に修復が行われ、被爆ピアノではなく「明子さんのピアノ」と呼ばれるようになる。
この「明子さんのピアノ」のために、ロンドン在住の気鋭の作曲家である藤倉大がピアノ協奏曲を書き、それが2020「平和の夕べ」コンサートの曲目として広島文化学園HBGホールで初演される様子も流される。初演が行われたのは2020年8月5日で、翌6日にも同一プログラムで演奏されている。
初演のピアニストは、マルタ・アルゲリッチが予定されていたが、コロナ禍のため来日出来ず、広島出身の気鋭のピアニストである萩原麻未が演奏することになった。リハーサルと本番の様子が収録されているが、ピアノの譜めくり人は旦那さんであるヴァイオリニストの成田達輝が務めたようである。まずグランドピアノとオーケストラによるやり取りがあり、ラストで萩原が「明子さんのピアノ」に向かう。「明子さんのピアノ」付近以外の照明が落とされ、ピアノのモノローグが奏でられる。最後は高音が鳴らされ、明子の思いが光となって浄化されていくような印象を受けた。

2020年8月6日。芳根京子は広島平和記念式典に出席。ただ演出の都合上、マスクを付けることは出来ないため、平和記念公園には入らず、平和大通りで平和の鐘を聞き、なるべく人のいないところを選んで明子が被爆後に自宅まで歩いたルートを辿った。

藤倉大のピアノ協奏曲第4番「Akiko's Piano」の初演にも接した芳根は、「明子さんのピアノ」の前の椅子に腰掛ける。鍵盤に向かった芳根だが、「弾く勇気はないな」と語った。

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