カテゴリー「時代劇」の18件の記事

2024年5月28日 (火)

これまでに観た映画より(335) 黒澤明監督作品「蜘蛛巣城」

2022年11月29日 京都シネマにて

京都シネマで、黒澤明監督作品「蜘蛛巣城」を観る。4Kリマスター版での上映だが、京都シネマは基本的に2K対応なので4Kで上映されたのかどうかは不明である。
1957年の作品ということで、制作から60年以上が経過しているが、今もなお黒澤明の代表作の一つとして名高い。シェイクスピアの「マクベス」の翻案であり、舞台が戦国時代の日本に置き換えられた他は、基本的に原作にストーリーに忠実である。ただ、有名シーンを含め、黒澤明の発想力が存分に発揮された作品となっている。
脚本:小國英雄、菊島隆三、橋本忍、黒澤明。出演:三船敏郎、山田五十鈴、千秋実、志村喬、佐々木孝丸、浪花千栄子ほか。音楽:佐藤勝。

マクベスは三人の魔女にたぶらかされて主君を殺害するが、「蜘蛛巣城」の主人公である鷲津武時(三船敏郎)は、物の怪の老女(浪花千栄子)の発言と妻の浅茅(山田五十鈴)の煽動により、主君で蜘蛛巣城主である都築国春(佐々木孝丸)を暗殺することになる。

魔女や物の怪が唆したからマクベスや鷲津は主君を討つことにしたのか、あるいは唆す者の登場も含めて運命であり、人間は運命の前に無力なのか。これは卵が先か鶏が先かの思考に陥りそうになるが、いずれにせよ人間は弱く、その意思は脆弱だということに間違いはない。人一人の存在など、当の本人が思っているほどには強くも重くもないのだ。

冒頭、土煙の中「蜘蛛巣城趾」の碑が立っているのが見え、栄華を誇ったと思われる蜘蛛巣城が今は碑だけの廃墟になっていることが示されるのだが、そうした砂塵が晴れると蜘蛛巣城の城門や櫓などが見え、時代が一気に遡ったことが分かる。
ラストも蜘蛛巣城が砂埃に包まれて消え、「蜘蛛巣城趾」の碑が現れる。「遠い昔あるところに」といった「スター・ウォーズ」の冒頭のような文章や「兵どもが夢の跡」といった語りが入りそうなところを映像のみで示しており、ここに黒澤明の優れた着想力が示されている。

鷲津が弓矢で射られるシーンは、成城大学弓道部の協力を得て本物の矢が射られている。メイキングの写真を見たことがあるが、思ったよりも三船の体に近いところを射ており、黒澤の大胆さを窺うことが出来る。

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2024年5月27日 (月)

これまでに観た映画より(334) 草彅剛主演「碁盤斬り」

2024年5月20日 新京極のMOVIX京都にて

MOVIX京都で、草彅剛主演映画「碁盤斬り」を観る。白石和彌監督作品。草彅剛も白石和彌監督も私と同じ1974年生まれである。主演:草彅剛。出演:清原果耶、國村隼、中川大志、小泉今日子、音尾琢真、奥野瑛太、市村正親、斎藤工ほか。脚本:加藤正人(小説化も行っている)、音楽:阿部海太郎。エグゼクティブプロデューサー:飯島三智。
囲碁シーン監修:高尾紳路九段(日本棋院東京本院)、岩丸平七段(日本棋院関西総本部)。

落語「柳田格之進」をベースにしており、碁を打つシーンが多いという異色時代劇である。

撮影は昨年(2023年)の春に、京都、彦根、近江八幡で行われた。

元彦根藩進物番の柳田格之進(草彅剛)は、清廉潔白な人柄で、井伊の殿様からの覚えもめでたかったが、狩野探幽の掛け軸を盗んだ疑いで藩を追われて浪人となり、今は江戸の裏長屋で娘のお絹(清原果耶)と二人暮らし。長屋の店賃も滞納する貧乏ぶりである。ちなみに格之進の妻は琵琶湖で入水自殺している。格之進は篆刻を、娘のお絹は縫い物をして小金を稼ぐ毎日。吉原の女郎屋・松葉屋の大女将であるお庚(こう。小泉今日子)から篆刻を頼まれており、吉原に篆刻を届けに行ったついでに、お庚に碁を教える格之進。格之進は碁の名手であり、今日は裏技「石の下」をお庚に教える。お庚は篆刻の費用のついでに碁を教えて貰ったお礼代も払う。これで店賃を払えることになった格之進であったが、帰り道、馴染みの碁会所で囲碁好きの質両替商・萬屋源兵衛(國村隼)が賭け碁を行っているのを知る。格之進は金がないので刀を売ってしまい、脇差ししか差していない。一目で賭ける金のない貧乏侍と見た源兵衛だったが、格之進は勝負に乗る。腕は格之進の方が上だったが、途中で一両を払って勝負を降りてしまう。
その後、萬屋で不逞の侍が家宝の茶碗に傷を付けたと言い掛かりを付ける騒ぎがある。元彦根藩進物番の格之進は目利きであり、一発で偽物の茶碗と見抜く。恥をかいた侍は退散。源兵衛はお礼にと十両を渡そうとするが、潔癖な人柄の格之進は受け取らない。
格之進と源兵衛は碁を通して次第に親しくなり、度々碁を打つ関係になる。碁仲間を得た源兵衛は性格が和らぎ、それまでは「鬼のケチ兵衛」と呼ばれていたのが、「仏の源兵衛」と呼ばれるまでになる。清廉潔白で実直な人柄の格之進は、「嘘偽りのない手」を打つことを専らとしており、源兵衛も影響を受ける。碁が分からないので退屈していたお絹と萬屋の手代・弥吉(中川大志)は退屈している者同士、次第に親しくなる。格之進はお絹と弥吉に碁を教え、二人で碁の勝負をするよう勧めたことで、更に惹かれ合う二人。
しかし、ある日、格之進の元に、「柴田兵庫が探幽の掛け軸を盗んだことが分かり、すでに出奔した」という知らせが伝わる。柴田兵庫(斎藤工)と格之進は折り合いが悪く、彦根城内で斬り合いになったこともあった。更に兵庫が格之進の妻を脅して関係を迫り、それを苦にして妻が自殺したことも判明する。復讐心に燃える格之進。

中秋の名月の日。源兵衛に誘われて碁を打ちに出掛けた格之進。しかし碁の最中に柴田兵庫の話を聞いた格之進は、いつものような手が打てない。源兵衛の提案で対局は中止となった。対局の最中に淡路町の伊勢屋から五十両が源兵衛に届く。碁に夢中な源兵衛はその五十両をどうしたのか失念してしまう。番頭の徳兵衛(音尾琢真)が、柳田様が怪しいというので、弥吉を格之進の元に使いに出す。格之進は、弥吉を「無礼者!」と一喝した。しかし五十両といえば大金である。格之進は吉原のお庚に五十両を貸してもらい、お絹が自ら進み出て松葉屋に入ることになる。住み込みの小間使いだが、期限の大晦日までに返済しないとお絹も女郎として店に出ることになる。

柴田兵庫が中山道をうろつきながら賭け碁で稼いでいるという情報を得た格之進は、中山道を西へ。碁を打てる場所を片っ端から当たるが、兵庫は見当たらない。兵庫は六尺の大男で、格之進に斬られた片足が悪いという特徴があるので、他の人物よりは見つけやすいが、情報網の発達していない江戸時代にあって人捜しは困難を極める。塩尻宿で彦根藩時代の同僚、梶木左門(奥野瑛太)と出会った格之進。左門は潔白が証明されたので彦根に戻ってはどうかと格之進に告げる。だがそれより先に兵庫を探さねばならない。中山道に兵庫はいないと見た二人は甲州街道を下り、韮崎宿で兵庫とおぼしき男がいたという情報を手に入れる。その男は今は韮崎を去り、江戸の両国で行われる碁の大会に出ると話していた。二人は急ぎ江戸へと向かう……。

落語が原作ということもあり、昨日、志の輔の落語で聞いた「文七元結」にも似た要素が出てくるのが興味深い。金をなくす経緯や若い二人が祝言に至る過程などがそっくりだ。

普段は穏やかで知的だが、激高すると凄みの出る柳田格之進を演じた草彅剛。「白川の清き流れに魚住まず」と言われるほど生一本な性格で、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」で演じた羽鳥善一とは真逆に近いキャラクターであるが、どちらも立体的な人物に仕上げてくるのは流石である。髭を伸ばした姿にも色気があり、普段バラエティーや彼の公式YouTubeチャンネルで見せる「親しみやすい草彅君」とは違った姿を見ることが出来る。
格之進は清廉すぎて不正を見逃せず、殿様に度々讒言を行って多くの者が彦根を追われている。そうしたどこか親しみにくい人柄や己に対する後悔も随所で表現出来ていたように思う。

格之進の娘・お絹役の清原果耶と萬屋の手代で源兵衛の親類に当たる弥吉を演じた中川大志は美男美女の組み合わせで、この作品における甘いエピソードを一手に引き受けている(格之進はああした性格なので女遊びはせず、色恋とも縁がない)。二人とも特別好演という訳ではなかったように思うが、若さ溢れる姿は魅力的だった。

敵役の柴田兵庫を演じる斎藤工は、まず容姿が格好いいが、格之進と反りが合わなかっただけで、根っからの悪人というわけでもなさそうな印象を受けるのは斎藤の持つキャラクターゆえだろう。

最初出てきた時は小悪党っぽかった萬屋源兵衛を演じた國村隼。身内にとにかく厳しい性格だったが、次第に和らいでいく様が印象的である。

ちなみに「キネマ旬報」2024年5月号の草彅剛へのインタビューと白石監督との対談には、草彅剛、國村隼、斎藤工らは囲碁の知識が全くないまま対局シーンに臨んでおり、囲碁のルールが分かっているのは本来は碁を知らないという設定のはずの清原果耶と中川大志の二人だけだったという逆転話が載っている。白石和彌監督は「碁盤斬り」を撮ることを決めてからスマホに囲碁のアプリをダウンロードしてやり方を覚えたそうである。

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2021年2月18日 (木)

これまでに観た映画より(249) 長谷川一夫主演「四谷怪談」

2007年9月8日

DVDで長谷川一夫主演の「四谷怪談」を観る。1959年、大映作品。三隅研次監督作品。
「四谷怪談」というタイトルで、民谷伊右衛門とお岩を始め、登場人物も原作にほぼ忠実なのだが、民谷伊右衛門を悲劇のヒーローに仕立ててしまうという異色作。京極夏彦原作、蜷川幸雄監督の「嗤う伊右衛門」など同類の作品もあるが、「四谷怪談」と銘打っておきながら別の話にしてしまうというのは凄い。

浪人・民谷伊右衛門(長谷川一夫)は清廉な人柄。袖の下を通すのが嫌で職にありつけない。それでも妻のお岩(中田康子)とともに内職などをしながら清貧の生活を送っている。ある日、職を求めて代官・伊藤喜兵衛のところに出向いた伊右衛門。しかし、「今どき金も渡さず職にありつこうなんて」と伊藤に小馬鹿にされて帰る。ところが、伊藤の娘であるお梅(近藤美恵子)が伊右衛門に惚れてしまった。だが、お岩という妻があるため、伊右衛門はお梅を相手にしない。そこで伊藤や伊右衛門の家に出入りしている直助(高松英郎)はお岩に毒を盛り、顔を醜くして伊右衛門と離縁させようと謀る……。

ラストでは、伊右衛門が伊藤の家にお岩の恨みを晴らすべく討ち入るという妙な展開になる(長谷川の当たり役である大石内蔵助を意識したのだろうか)。こういう四谷怪談もありだとは思うが、その場合はタイトルを変えるなり、付け加えるなりした方がいいと思うのだが。人によっては、「こんなの四谷怪談じゃない」と怒るかも知れないし。

映像は美しく、構図も綺麗。時には繋ぎが不自然になってでも絵のようにバランスの良い構図を重視する。
耽美的な四谷怪談になっているが、それが物足りなくもある。


同時期に新東宝は天知茂主演の「東海道四谷怪談」を制作、公開している。長谷川一夫には敵わないと、低予算で、無名の天知茂を起用して作った「東海道四谷怪談」であるが、こちらは長谷川一夫版「四谷怪談」とは比較にならないほどの傑作となった。床に水を張った直助殺害シーンなどはアイデアも仕上がりも素晴らしいの一言である。

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2020年9月17日 (木)

これまでに観た映画より(209) 三谷幸喜 原作・脚本 市川準監督作品「竜馬の妻とその夫と愛人」

2020年9月14日

録画してまだ観ていなかった日本映画「竜馬の妻とその夫と愛人」を観る。市川準監督作品。原作・脚本:三谷幸喜。三谷幸喜が佐藤B作率いる劇団東京ヴォードヴィルショーのために書き下ろした舞台作品の映画化で、三谷幸喜もカメオ出演している。
2002年の映画であるが、意図的に「古さ」を出す画が撮られている。出演:木梨憲武、鈴木京香、江口洋介、橋爪功、トータス松本、小林聡美、中井貴一ほか。音楽:谷川賢作。

フォスター作曲の「金髪のジェニー」とアイルランド民謡「ダニー・ボーイ」の谷川賢作編曲版が何度も流れ、ノスタルジアをくすぐる。

舞台となるのは、明治13年(1880)である。坂本竜馬(トータス松本。回想シーンのみの出演)の13回忌が京都の霊山で大々的に執り行われることが決まり、勝海舟(橋爪功)は竜馬の妻であったおりょう(鈴木京香)の動向を気にしている。13回忌にはおりょうにも出席して貰いたいのだが、今でも彼女が坂本竜馬の妻に相応しい生き方をしているのかどうか。勝はおりょうの義理の弟(おりょうの妹であるきみえの旦那)に当たる菅野覚兵衛(中井貴一)におりょうの様子を探るよう命じる。
菅野覚兵衛は、千屋寅之助を名乗っていた時代に土佐勤王党や海援隊に所属していた実在の人物であり、竜馬亡き後、おりょうの面倒を見ていたことがある。

おりょうは西村松兵衛(木梨憲武)と再婚し、神奈川県横須賀市のボロ長屋で暮らしていた。旦那の松兵衛はテキ屋などをして暮らしている甲斐性のない男であり、竜馬の妻の今の夫として相応しいとは思えない。実は覚兵衛は以前、松兵衛に海軍の仕事を世話してやったことがあるのだが、松兵衛のうっかりミスが原因ですぐにクビになってしまっている。

横須賀のテキ屋の元締めとして頭角を現している虎蔵という男(後に「新選組!」で坂本龍馬を演じることになる江口洋介が扮している。虎蔵の名は、おりょうに懸想していたことでも知られる近藤勇の愛刀・虎徹に由来するのかも知れないが本当のところはよくわからない)を、おりょうは気に入る。竜馬と同じ土佐出身で、土佐弁を喋るが、虎蔵は坂本竜馬なる人物は知らないと語る。豪放磊落で北海道での開拓を夢見るという虎蔵の姿勢にもおりょうは竜馬を重ねていた。

おりょうが虎蔵に走りそうになっているのを感じた松兵衛は覚兵衛と組んで剣術の稽古をするなど、なんとか虎蔵を上回ろうとするのだが……。

 

今は亡き坂本竜馬に取り憑かれている人々を描いた作品である。ある者は坂本竜馬に憧れて少しでも近づこうとし、ある者は研究を重ねて竜馬になりきろうとし、ある者は竜馬以上の男は現れないとして、思い出に生きようとしている。
ただ、これもいかにも三谷幸喜作品らしいのだが、「生きていることが一番だぞ」という強烈なメッセージが発せられている。結局のところ、今はいない存在に身を委ねても人生がややこしくなるだけであり、そもそもそんな人生では「自分の人生を生きた」とは到底言えないものになってしまうであろう。

鈴木京香が宮本武蔵(役所広司が演じていた)の奥方であるお鶴役で出演した舞台「巌流島」(1996)を想起させるシーンがいくつも出てくるが、おりょうの現在の名前は楢崎龍ではなくて西村ツルであり、三谷幸喜が意図的に重ねている可能性もある。

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2020年4月29日 (水)

これまでに観た映画より(168) 黒澤明監督作品「羅生門」

※この記事は2005年11月11日に書かれたものを加筆修正したものです

DVDで映画「羅生門」を観る。言わずと知れた黒澤明監督作品。1951年度ヴェネチア映画祭金獅子賞受賞作品。
前に「羅生門」を観たのはまだ10代だった時だから10数年ぶりの鑑賞になる。

芥川龍之介の小説を原作としているが、原作になったのは「羅生門」ではなく、「藪の中」である。
光と影が織りなす妙なる映像が何ともセクシーである。映像美だけでも賞賛に値する。

人間のエゴ、醜さをあぶり出した作品。しかし、これが1950年に公開されたということを考えると、戦後の闇市の記憶がまだ生々しく、時代の背後で一般民衆を巻き込んだどす黒いものが淀んでいた時期であり、当時の観客は今よりもずっと生々しいものをこの画に見ていたであろうことが想像される。

三船敏郎が藪の中を駆け抜けるシーンは中央に置かれたカメラの周りをグルグル回ることで撮られたものだという。だから安心して思い切り駆け抜けることが出来た上に、広い場所も必要ではなかった。黒澤の職人芸が感じられる。

京マチ子は、10代で初めて見たときには、少しも美人に感じられなかったのだが、今見ると、妖しい雰囲気を出していてなかなかである。

「藪の中」を原作にしたのに何故タイトルを「羅生門」にしたのか? 事実はわかっていないようだが、人間の醜悪さを描いた「藪の中」を描きながらも、その醜悪な都や時代(戦後すぐの東京)を抜け出す希望に比重が置かれているからではないか、と考える。羅生門は希望への出口なのだ。

ボロボロに崩れた羅生門から赤子を抱いて、未来へと歩き出す男(志村喬)の表情がそれを裏付けているように思える。

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2020年4月 1日 (水)

これまでに観た映画より(164) 「のぼうの城」

録画したまま長く未見であった映画「のぼうの城」を観る。原作・脚本:和田竜、監督:犬童一心&樋口真嗣。出演:野村萬斎、榮倉奈々、佐藤浩市、成宮寛貴、山口智充、上地雄輔、山田孝之、平岳大、前田吟、中尾明慶、尾野真千子、芦田愛菜、ピエール瀧、和田聰宏、西村雅彦、中原丈雄、鈴木保奈美、平泉成、夏八木勲、市村正親ほか。TBS開局60周年記念作品として制作された作品であり、安住紳一郎がナレーターを務めている。もとは2011年に公開予定であったが、忍城に迫る激流が東日本大震災での津波を連想させるとして、公開が1年ほど延びている。

関白・豊臣秀吉の小田原征伐に伴う忍城の戦いを描いた作品である。

まずは、天正10年(1582)、後に秀吉の中国大返しの発端となったことで知られる毛利征伐、備中高松城の戦いの描写から入る。羽柴秀吉(市村正親)は備中高松城を土塁で囲い、河川の水をその中に注ぎ込んで城を孤立させるという、水攻めを行った。城攻めの名手、秀吉の最も効果的な戦略として知られる(だが、その戦略のために落城まで時間が掛かり、このことが本能寺の変が起きる伏線ともなった)水攻めに、佐吉と呼ばれていた頃の石田三成(上地雄輔)は感動。いつかこの戦法を用いてみたいと心に誓う。

それから8年が経ち、豊臣の氏を賜った秀吉は、反抗する唯一の大名である小田原北条氏を攻めることを決意。石田三成には、北条方の城である館林城と忍城を落とすよう命じる。三成は官僚としては有能で頭も良いが、これといった戦績がなく、人望も上がらないでいた。秀吉には三成に功を上げさせようという目論見もあった。
三成は、盟友である大谷吉継(山田孝之)や、余り反りは合わないが後に共に五奉行に名を連ねることになる長束正家(平岳大)らを引き連れてまずは館林に向かうが、館林城は豊臣方の大軍に怖れをなして戦わずして開城。余りの呆気なさと相手の胆力のなさに失望した三成は、次の目標である忍へと向かう。

忍城の城主は成田氏長(西村雅彦)であったが、氏長は北条の本城である小田原城に向かう必要があったため、叔父の成田泰季(やすすえ。平泉成)に城代を任せる。実は氏長は秀吉側と通じるつもりであり、忍籠城は見せかけにせよと家臣らに命じた。

石田軍が忍城を包囲する中、泰季は病に倒れ、長男の成田長親(野村萬斎)に城代を譲る。長親は、「うつけ」と評判であったが、人に愛される質であり、「でぐのぼう」に由来する「のぼう様」として領民に好かれていた。
長親も降伏・開城に異論はなかったが、ここで三成が策を用いる。長束正家の性格を見抜いた上で軍使に命じ、忍城に送り込む。上の者には下手に、下の者には居丈高に出る正家は成田氏を見下す発言を続け、結果として長親らの反発を招く。長親は開城を翻して開戦を決意。正木丹波(佐藤浩市)、酒巻靭負(さかまき・ゆきえ。成宮寛貴)、柴崎和泉守(山口智充)らも長親を支持し、ここに忍城の戦いの幕が切って落とされた。


人たらしであるが武将としてはいささか頼りない長親と、知略に優れるが人望がなく、これといった戦績がないため侮られている三成は、一見すると対極のようでありながら実は表裏一体の関係であり、共に人の心を読むことに長けている。あるいは立場が違ったなら互いを補い合う形で良き友、良き同僚ともなり得た間柄のように思われる。負け戦であることを大声で認める三成の清々しい表情がそれを表しているようでもある。
戦国武将の友情を描いた作品ではないが、すれ違う中で一瞬、わかり合えた関係である二人が愛おしく見えたりもする。

パブリックイメージでいうと三成に近い野村萬斎が成田長親を、長親らしい要素のある上地雄輔が石田三成を演じるという逆転の配役も妙味がある。

エンドクレジットでは忍城のあった埼玉県行田市の映像が流れ、今も残る忍城の戦いの名残が紹介されている。

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2020年1月22日 (水)

これまでに観た映画より(152) 「武士の家計簿」

午後9時からBSプレミアムで放送された日本映画「武士の家計簿」を観る。森田芳光監督作品。2010年公開の映画である。テレビ出演も多い歴史学者の磯田道史のベストセラー『武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新』が原作である。脚本は柏田道夫。出演:堺雅人、仲間由紀恵、松坂慶子、中村雅俊、西村雅彦、草笛光子、伊藤祐輝、藤井美菜、嶋田久作、宮川一朗太、小木茂光、茂山千五郎ほか。音楽:大島ミチル。

幕末に加賀前田家の御算用者を務めた猪山直之(堺雅人)とその息子である成之(なりゆき。幼名は直吉。伊藤祐輝)が残した入払帳(家計簿)に取材した作品である。

代々算用を家業としてきた猪山家。加賀前田家は百万石を超えるため、帳簿の計算は重要視されたのだが、御算用者を務めるのは下級武士に限られていた。七代目である信之(中村雅俊)は婿養子として入ったのだが、猪山家として初めて知行地を貰うなど、御算用者としては異例の出世を遂げており、加賀江戸藩邸上屋敷の赤門(現在の東京大学赤門)を経費節減のために表だけ赤に塗るという手法を編み出したことを常々自慢している(史実ではないようであるが)。

息子の直之も御算用者として前田家に仕えることになるのだが、とにかく計算好きであり、「算盤バカ」とまで呼ばれている。一方で、剣術の方は下手の横好きであったが、剣術の師範である西永与三郎(西村雅彦)の娘である駒(仲間由紀恵)と祝言を上げる。
藩内で起こった貧農への「お救い米」の横流し事件の真相に迫ったことから能登・輪島に左遷させられそうになる直之であったが、農民達が一揆を起こしたことから事が明るみに出て、逆に御執筆係に栄転する。
そのまま順調な人生を歩むかと思われた直之であるが、実は猪山家の家計が火の車であることが発覚。金になるものを全て売り払うことで切り抜けることを決断、以後、猪山家の全ての金の出入りを入払帳に書き記すことに決め、質素倹約に励むようになる。

息子の直吉にも御算用者になるよう厳しく接する直之であったが、幕末の騒乱の中、元服して成之と名を改めた直吉は、徳川将軍家と足並みを揃えることを決めた前田家の一兵卒として京へ向かうことになる。


下級武士の悲哀を描きながら、比較的淡々と進む物語である。幕末が舞台であるが、幕末ものにつきものの戦闘シーンなどは一切出てこない。刀ではなく算盤を武器とする武士の物語である。成之は長州の大村益次郎(嶋田久作)に算術の力を見込まれて新政府軍に入るのだが、これが新しい時代の到来を告げることになる。


計算が苦手で、ディスカリキュア(算数障害)ではないかという噂もある堺雅人。計算が苦手なのは本当のようで、国立大学(東京大学ではないかといわれている)の入試で数学の問題が全く解けなかったという話や、早大生時代にアルバイトをしていたドーナツ店でおつりを盛大に間違えたというエピソード、数に弱いので「半沢直樹」の銀行員役を受けるべきか躊躇したという逸話があったりもするが、この作品では算盤を弾く姿が絵になっている。

仲間由紀恵を始め他のキャストも豪華であるが、なんといっても堺雅人演じる猪山直之のキャラが立っており、堺雅人と猪山直之を見るべき映画と断言しても構わないであろう。

今や日本を代表する作曲家となった大島ミチルの音楽も実によく、物語をしっかりと支えている。

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2018年9月19日 (水)

これまでに観た映画より(106) 薬師丸ひろ子主演「里見八犬伝」

DVDで映画「里見八犬伝」を観る。曲亭馬琴の戯作「南総里見八犬伝」ではなく、それをモチーフにした鎌田敏夫の小説「新・里見八犬伝」の映画化。深作欣二監督作品。主演:薬師丸ひろ子、真田広之。出演は、千葉真一、京本政樹、志保美悦子、寺田農、夏木マリ、萩原流行、目黒祐樹ほか。

1983年の作品。私が小学生の頃に、一度テレビで放送されたのを観た記憶があるが、観るのはそれ以来である。

いかにも一昔前のアクション時代劇という趣であるが、脚本も鎌田敏夫が担当しているということもあり、活劇としては結構面白い。深作欣二の演出も冴えており、エンターテイメントとしてのクオリティも高い。

観る前は、そう期待していなかったのだが、映像の古さはともかくとして、娯楽作品としては今でも通用する水準に達しているのではないだろか。

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2017年2月20日 (月)

これまでに観た映画より(87) 「竜馬暗殺」

大分前に録画しておいた日本映画「竜馬暗殺」を観る。黒木和雄監督作品。1974年の映画である。脚本:清水邦夫&田辺泰志、音楽:松村禎三。出演:原田芳雄、石橋蓮司、松田優作、中川梨絵、桃井かおり、田村亮ほか。
16ミリモノクロ映像であり、トーキーであるが黒バックに白抜き文字で字幕が入るなど、活動写真を意識した作りになっている。

慶応三年十一月十三日から竜馬が暗殺される十一月十五日までの三日間を描くフィクション。

坂本竜馬(原田芳雄)が、近江屋の土蔵に移る場面から始まる。
中岡慎太郎(石橋蓮司)は、近江屋の娘の妙(桃井かおり)を寝取られた恨みから竜馬を斬ろうとしている。近江屋の土蔵に竜馬が潜伏先を移すように仕向けたのも土佐藩邸から遠ざけるためであった(これは事実とは異なり近江屋は土佐藩邸の目の前である)。
竜馬は寺田屋で幕吏二人を殺害したかどで指名手配されているのだが、人相書きを竜馬は「真情あふるる軽薄な顔をしちょる」と言う。「真情あふるる軽薄」というのは脚本を手がけた清水邦夫の出世作「真情あふるる軽薄さ」(蜷川幸雄演出の舞台)から取られた遊びである。

近江屋の土蔵に入るとき、竜馬は向かいの家の女、幡(中川梨絵)を見て惹かれる。その後、男と女の関係になる竜馬と幡だったが、幡は新撰組隊士の情婦であった。

幡の弟である右太(うた。松田優作)は薩摩藩士に頼まれて竜馬を暗殺するべく狙っている。

かくて、中岡慎太郎、右太、薩摩藩に狙われている竜馬は微妙なバランスの上で生きている。中岡慎太郎とも右太とも時には味方、時には敵だ。

「ええじゃないか」の喧噪が溢れるなか。竜馬は変装して中岡慎太郎を探しに出かける。途中で右太を捕まえ、変装させて、陸援隊士から迫られて窮地に陥っている中岡を連れ出し、中岡も変装させる。

そして運命の十一月十五日。風邪を引いた竜馬は土蔵から近江屋の母屋の2階に移る。竜馬は中岡に「幕府を倒すのは薩長に任せちょけ」と言った上で、「その上で薩長を討つ」と真意を打ち明けるのだった……。


原田芳雄の色気ある竜馬だけが語られることの多い映画だが、確かに原田芳雄の男くさくも色気満点の竜馬は魅力的である。ただ、薩長に幕府を討たせた上で薩長を討つと語る竜馬像はありそうでなかなかなかったものであり、新鮮に映る(史実ではないと思われるが)。

墓地でのロケが多いが、近江屋の裏手は寺町で墓地がたくさんあったという事実もあるが、生と死の近しさが暗示されているようでもある。

坂本竜馬は近眼という設定であるが、これは司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』で語られたフィクションである。竜馬の視力についてはわかっていないが、目が悪かったという証言はなく、庶民でも眼鏡を掛けることがさほど珍しくなかった時代だが、竜馬が眼鏡を持っていた形跡もない。また船を操る海援隊の隊長であったことから視力に問題はなかったのではないかと思われる。
また竜馬が二年前から革靴(ブーツ)を履いているという設定になっているが、有名な写真は写真館にあったブーツをたまたま履いて撮影したもので、日頃からブーツを愛用していたという事実はない。そもそも、身長が170cm以上はあった大男(当時の成人男性の平均身長は150cmちょっと)で目立つため、更に目立つブーツを履くような愚行はしない。

この映画では、刺客は中村半次郎(外波山文明)ら薩摩藩の手のものという設定になっている。薩摩を討つ計画が露見していたということである。

松村禎三のギターなどを中心としたジゴロな雰囲気の音楽も実に良い。

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2016年7月12日 (火)

観劇感想精選(190) 劇団そとばこまち 「五右衛門」

2016年7月1日 大阪・天王寺の近鉄アート館にて観劇
午後7時から、大阪あべのハルカス8階にある近鉄アート館で、劇団そとばこまちの「五右衛門」を観る。盗賊・石川五右衛門を主人公にした歴史活劇。

劇団名はとにかく有名なそとばこまち。辰巳琢郎、上海太郎、生瀬勝久らが座長を務め、関西の名物劇団とも呼べる存在になっている。元々は京都大学の演劇サークルとしてスタートし、京大生と京大OB・OGによる劇団となるが、同志社大学出身の生瀬勝久が座長になったことからもわかる通り次第に京大色を薄めていき、現在は本拠地も大阪である。

現在では、劇団員からなる女性アイドルグループをプロデュースしていたり、俳優養成所を併設するなど活動は多岐にわたる。

「五右衛門」は劇団そとばこまちの実に第114回目の公演演目。作・演出は現在のそとばこまち座長の坂田大地。出演は、竹村晋太朗(劇団 壱劇屋)、田中尚樹、新谷佳士、南園みちな、佐藤美月、土井隆、くぼたゆういち、岡崎裕樹、井本涼太、坂本真菜、石原正一(石原正一ショー)、オオサワシンヤ、川内信弥(劇団レトルト内閣)、酒井高陽、白木三保、中道裕子、福山俊朗(は・ひ・ふ・の・か/syubiro theater)、後藤啓太ほか。客演の俳優も多い。ゲスト出演:桜 稲垣早希。

石川五右衛門は義賊という伝説そのものの設定。ある日、五右衛門(竹村晋太朗)は、阿漕な豪商・大和屋(後藤啓太)の家に忍び込み、金庫を開けていくつかの宝を盗む。しかし、その中に実は重要な文書が含まれていた。

この劇では、五右衛門は伊賀忍者の息子ということになっている。親が誰なのかはわからなかったが、天正伊賀の乱で伊賀忍者勢が壊滅しそうになった時に、当時の伊賀忍者の総領であった百地丹波(オオサワシンヤ)から、実は自分と妾の間の子供が五右衛門なのだと告げられる。そして丹波の娘である理久(南園みちな)とは義兄妹であるということも。織田信長の勢いは凄まじく、このままでは伊賀忍者自体が滅んでしまう。そこで丹波は理久に記憶喪失の術を施し、五右衛門と共に伊賀から脱出させる。記憶をなくした理久はお凛という名を与えられ、茶店である伊勢屋の看板娘になる。「父上と共に討ち死にしたい」と申し出るほど勇ましい女性だった理久は忍術によって可愛らしい性格へと変えられていた。五右衛門も五郎と名を変え、伊勢屋で働くことになる。

五奉行の一人で京の治安を任されていた前田玄以は元々五右衛門一味には手を焼いていた。しかし、大和屋の一件以来、言動がせわしなくなる。同じく五奉行の一人である石田三成(田中直樹)は実は以前に五右衛門と出会ったことがあり、顔馴染みでもある。しかし今は敵同士であり複雑な関係である。

豊臣秀吉(酒井高陽)が関白を退いて太閤と呼ばれるようになり、秀吉の甥である豊臣秀次(土井隆)が関白を継ぐ。秀次の家臣である木村重茲(きむら・しげこれ。福山俊朗)は師である千利休が切腹に追い込まれたことを今も恨みに思っており、秀吉の首を密かに狙っていた。

大坂城内ではまだ正式に秀吉の側室とはなっていない茶々(木村真菜)が物思いに沈んでいる。秀吉は茶々の父親である浅井長政と母親のお市の方を共に死へと追い込んだ憎き敵。とてもではないが秀吉の側室になる気分になどなれない。
茶々が落ち込んでいるというので、日の本一の芸人として桜 稲垣早希が呼ばれる(この公演では毎回、吉本のお笑い芸人が呼ばれる)。「笑えなかったら切腹だ」と茶々は言う。
アスカのコスプレで登場した早希ちゃんは、「私が誰のコスプレをしているかわかりますか?」と茶々に聞き、顔の前で手を振りながら「わからない」というポーズをされると、「あんたバカぁ~?!」とお馴染みのセリフを繰り出す。
今回の演目はフリップ芸「関西弁でアニメ」。吉本の劇場ではよくやられている演目である。早希ちゃんのネタの中では特に良い方というわけでもないのだが、今日の会場は大受け。お笑いを見慣れていない人にはかなり面白く映るネタのようだ。
「残酷な天使のテーゼ」の替え歌である「残酷な天王寺のロース」は歌い出しから終わるまで客席の笑いが止まらず、早希ちゃんも上機嫌であった。
茶々(演じる坂本真菜は最初から最後まで大笑いしていた)から、「そなたは声が可愛すぎるので切腹じゃ!」と言われる早希ちゃんであったが、「なにが切腹よ! あんたバカぁ~?!」と言って帰ってしまう。

ちなみに女性は切腹はしません。自刃です。

木村重茲は、たまたま五右衛門が盗んだ宝の中にある連名状が入っているのを発見する。それは秀吉の朝鮮出兵反対の連名状で、筆頭に名が記されているのは千利休。二番目に記された名前は前田玄以だった。前田玄以は連名状に名を連ねたことが露見した場合、利休同様切腹に追い込まれる可能性が極めて高いことから連名状を取り返そうとしていたのだ。連名状には徳川家康や前田利家らの名前もあった。重茲は連名状を秀次に見せ、秀吉を殺害して秀次が天下を取ることを皆が望んでいると唆す。重茲は天正伊賀の乱で伊賀忍者でありながら甲賀の忍者として伊賀忍者討伐に動いた多羅尾光俊(井本涼太)を配下とし、秀吉暗殺へと動き始める。

一方、播磨時代(姫路時代)の秀吉に滅ぼされた播磨石川氏の末裔である案山子(石原正一)と蜻蛉(くぼたゆういち)の兄弟も石川五右衛門を名乗り、洛中で金子を撒いているのだが、その量は本物の石川五右衛門に比べるとお話にならないほど少額で、京の民を呆れさせる。

そんな中、伊勢屋が襲撃される。お凛は逃げることが出来たが、佐吉(今中美里)らが人質に取られる。石川五右衛門は佐吉の命を救いたければ秀吉の首を取るよう命じられ、やむなく大坂城に向かう。

一方、記憶を取り戻した理久も伊賀を殲滅した織田信長の後継者である豊臣秀吉殺害を計画、大坂城へと向かっていた。

混乱する大坂城。重茲は、「混乱に乗じて援軍に来たと偽り、中から大坂城を落とすのです」と秀次に提案。秀次もそれに乗るのだったが……。

殺陣をふんだんに取り入れたアクション時代劇。石川五右衛門が伊賀のしのびの末裔であるという設定が面白く、理久がラストで「狸」という言葉を使って徳川家康の世となることを暗示するなど(服部半蔵が家康に仕えていたため、服部半蔵系の伊賀忍者は天正伊賀の乱を免れている)上手く繋がっていく。
ポルトガル人宣教師が、実は堺の商人と組んで日本人を奴隷として売りさばいていたという史実を千利休切腹に結びつけるのも巧みだ。

基本的にストーリーで見せる劇であるが、ダンスなども存分に取り入れられ、華やかな舞台となっている。
ただ、日本の場合、小劇場の観客層は若い人が中心となるということもあり、話もそれに合わせた軽めのものになっている。人物造形が薄っぺらいのは避けられないのかも知れない。
私は大人が楽しめる舞台を観てみたいと京都に来たときから思っていたし、欧米の劇作家の本による公演は大人の鑑賞に堪えうる。

小劇場の方向性がこのままで良いのか悪いのかはわからない。同じそとばこまちでも小原延之の本は重めであったし(ただ酷い出来であった)、そとばこまちがいつも今回のような作風であるとは限らないが、今日観たそとばこまちの劇がある意味、関西の小劇団のメインストリームであるということはいえると思う。そして「関西の小劇場のメインストリーム」などと纏めることが可能なのも問題ありなのではないかと思う。
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