2024年5月20日 新京極のMOVIX京都にて
MOVIX京都で、草彅剛主演映画「碁盤斬り」を観る。白石和彌監督作品。草彅剛も白石和彌監督も私と同じ1974年生まれである。主演:草彅剛。出演:清原果耶、國村隼、中川大志、小泉今日子、音尾琢真、奥野瑛太、市村正親、斎藤工ほか。脚本:加藤正人(小説化も行っている)、音楽:阿部海太郎。エグゼクティブプロデューサー:飯島三智。
囲碁シーン監修:高尾紳路九段(日本棋院東京本院)、岩丸平七段(日本棋院関西総本部)。
落語「柳田格之進」をベースにしており、碁を打つシーンが多いという異色時代劇である。
撮影は昨年(2023年)の春に、京都、彦根、近江八幡で行われた。
元彦根藩進物番の柳田格之進(草彅剛)は、清廉潔白な人柄で、井伊の殿様からの覚えもめでたかったが、狩野探幽の掛け軸を盗んだ疑いで藩を追われて浪人となり、今は江戸の裏長屋で娘のお絹(清原果耶)と二人暮らし。長屋の店賃も滞納する貧乏ぶりである。ちなみに格之進の妻は琵琶湖で入水自殺している。格之進は篆刻を、娘のお絹は縫い物をして小金を稼ぐ毎日。吉原の女郎屋・松葉屋の大女将であるお庚(こう。小泉今日子)から篆刻を頼まれており、吉原に篆刻を届けに行ったついでに、お庚に碁を教える格之進。格之進は碁の名手であり、今日は裏技「石の下」をお庚に教える。お庚は篆刻の費用のついでに碁を教えて貰ったお礼代も払う。これで店賃を払えることになった格之進であったが、帰り道、馴染みの碁会所で囲碁好きの質両替商・萬屋源兵衛(國村隼)が賭け碁を行っているのを知る。格之進は金がないので刀を売ってしまい、脇差ししか差していない。一目で賭ける金のない貧乏侍と見た源兵衛だったが、格之進は勝負に乗る。腕は格之進の方が上だったが、途中で一両を払って勝負を降りてしまう。
その後、萬屋で不逞の侍が家宝の茶碗に傷を付けたと言い掛かりを付ける騒ぎがある。元彦根藩進物番の格之進は目利きであり、一発で偽物の茶碗と見抜く。恥をかいた侍は退散。源兵衛はお礼にと十両を渡そうとするが、潔癖な人柄の格之進は受け取らない。
格之進と源兵衛は碁を通して次第に親しくなり、度々碁を打つ関係になる。碁仲間を得た源兵衛は性格が和らぎ、それまでは「鬼のケチ兵衛」と呼ばれていたのが、「仏の源兵衛」と呼ばれるまでになる。清廉潔白で実直な人柄の格之進は、「嘘偽りのない手」を打つことを専らとしており、源兵衛も影響を受ける。碁が分からないので退屈していたお絹と萬屋の手代・弥吉(中川大志)は退屈している者同士、次第に親しくなる。格之進はお絹と弥吉に碁を教え、二人で碁の勝負をするよう勧めたことで、更に惹かれ合う二人。
しかし、ある日、格之進の元に、「柴田兵庫が探幽の掛け軸を盗んだことが分かり、すでに出奔した」という知らせが伝わる。柴田兵庫(斎藤工)と格之進は折り合いが悪く、彦根城内で斬り合いになったこともあった。更に兵庫が格之進の妻を脅して関係を迫り、それを苦にして妻が自殺したことも判明する。復讐心に燃える格之進。
中秋の名月の日。源兵衛に誘われて碁を打ちに出掛けた格之進。しかし碁の最中に柴田兵庫の話を聞いた格之進は、いつものような手が打てない。源兵衛の提案で対局は中止となった。対局の最中に淡路町の伊勢屋から五十両が源兵衛に届く。碁に夢中な源兵衛はその五十両をどうしたのか失念してしまう。番頭の徳兵衛(音尾琢真)が、柳田様が怪しいというので、弥吉を格之進の元に使いに出す。格之進は、弥吉を「無礼者!」と一喝した。しかし五十両といえば大金である。格之進は吉原のお庚に五十両を貸してもらい、お絹が自ら進み出て松葉屋に入ることになる。住み込みの小間使いだが、期限の大晦日までに返済しないとお絹も女郎として店に出ることになる。
柴田兵庫が中山道をうろつきながら賭け碁で稼いでいるという情報を得た格之進は、中山道を西へ。碁を打てる場所を片っ端から当たるが、兵庫は見当たらない。兵庫は六尺の大男で、格之進に斬られた片足が悪いという特徴があるので、他の人物よりは見つけやすいが、情報網の発達していない江戸時代にあって人捜しは困難を極める。塩尻宿で彦根藩時代の同僚、梶木左門(奥野瑛太)と出会った格之進。左門は潔白が証明されたので彦根に戻ってはどうかと格之進に告げる。だがそれより先に兵庫を探さねばならない。中山道に兵庫はいないと見た二人は甲州街道を下り、韮崎宿で兵庫とおぼしき男がいたという情報を手に入れる。その男は今は韮崎を去り、江戸の両国で行われる碁の大会に出ると話していた。二人は急ぎ江戸へと向かう……。
落語が原作ということもあり、昨日、志の輔の落語で聞いた「文七元結」にも似た要素が出てくるのが興味深い。金をなくす経緯や若い二人が祝言に至る過程などがそっくりだ。
普段は穏やかで知的だが、激高すると凄みの出る柳田格之進を演じた草彅剛。「白川の清き流れに魚住まず」と言われるほど生一本な性格で、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」で演じた羽鳥善一とは真逆に近いキャラクターであるが、どちらも立体的な人物に仕上げてくるのは流石である。髭を伸ばした姿にも色気があり、普段バラエティーや彼の公式YouTubeチャンネルで見せる「親しみやすい草彅君」とは違った姿を見ることが出来る。
格之進は清廉すぎて不正を見逃せず、殿様に度々讒言を行って多くの者が彦根を追われている。そうしたどこか親しみにくい人柄や己に対する後悔も随所で表現出来ていたように思う。
格之進の娘・お絹役の清原果耶と萬屋の手代で源兵衛の親類に当たる弥吉を演じた中川大志は美男美女の組み合わせで、この作品における甘いエピソードを一手に引き受けている(格之進はああした性格なので女遊びはせず、色恋とも縁がない)。二人とも特別好演という訳ではなかったように思うが、若さ溢れる姿は魅力的だった。
敵役の柴田兵庫を演じる斎藤工は、まず容姿が格好いいが、格之進と反りが合わなかっただけで、根っからの悪人というわけでもなさそうな印象を受けるのは斎藤の持つキャラクターゆえだろう。
最初出てきた時は小悪党っぽかった萬屋源兵衛を演じた國村隼。身内にとにかく厳しい性格だったが、次第に和らいでいく様が印象的である。
ちなみに「キネマ旬報」2024年5月号の草彅剛へのインタビューと白石監督との対談には、草彅剛、國村隼、斎藤工らは囲碁の知識が全くないまま対局シーンに臨んでおり、囲碁のルールが分かっているのは本来は碁を知らないという設定のはずの清原果耶と中川大志の二人だけだったという逆転話が載っている。白石和彌監督は「碁盤斬り」を撮ることを決めてからスマホに囲碁のアプリをダウンロードしてやり方を覚えたそうである。
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