観劇感想精選(509) 稲垣吾郎主演「プレゼント・ラフター」
2026年3月5日 京都劇場にて観劇
午後6時から、京都劇場で、「プレゼント・ラフター」を観る。ノエル・カワードが自身の生活をモデルにしたとされるドタバタ喜劇。ノエル・カワードはシチュエーションコメディが得意な人だが、この劇は完全にスラップスティックである。
ロンドンにあるギャリー・エッセンディーン(稲垣吾郎)の高級アパートメントの一室が舞台であり、セットの転換はない。
作:ノエル・カワード、テキスト日本語訳:徐賀世子(じょ・かよこ)。演出:小山(こやま)ゆうな。
出演:稲垣吾郎、倉科カナ、黒谷友香、桑原裕子、望月歩、金子岳憲、中谷優心、白河れい、浜田信也、広岡由里子。
時代から言って、多くの人が喫煙をするが、ニコチンなしの茶葉スティック、つまり偽煙草であることがホワイエに掲示してある。今はどの芝居も演技で用いるのは「ネオシダー」などの偽煙草であることが掲示されており、事実上、舞台上で本物の煙草を吸うことは不可能になっている。この茶葉スティック、結構匂う。
トップクラスのスター俳優であるギャリー・エッセンディーン。間違いなく成功者だが、俳優の職業病故か、常に演技をしてしまう癖がある。そう言いつつ演技でない部分も多いと思われるが、「マクベス」の「眠りを殺した」など有名ゼリフを引用してしまうことがある。
2日間の出来事が描かれる。ギャリーの朝は遅め。スウェーデン人の家政婦であるミス・エリクソン(広岡由里子。広岡由里子に家政婦役だけではもったいないので、もう一つ別の役を演じる)が掃除をし、付き人兼使用人のフレッド(中谷優心)が朝食を作り、秘書のモニカ(桑原裕子)が、ギャリーが起きる前にやるべきことを始める。主が起きるより先に働いているので、この人達は住み込みなのだと思われる。
ギャリーには妻のリズ(倉科カナ)がいる。彼女は劇作家で業界人だが、現在は別居中だ。
だが、この家にやたらと人が訪ねてくる。アフリカでのツアーが迫っており(この時代、イギリスはアフリカに多くの植民地を持っていた。今は全て手放しているが、元英国領の多くは英語を公用語としている。ということでアフリカの植民地でなら英語での芝居が打てたのである)、その関係者が来るのは分かるのだが、劇作家志望のローランド・モール(望月歩)が戯曲を読んでほしいと訪ねてきたり(リズが本職の劇作家なのでリズに聞いた方がいいような気がするが、二人が夫婦と知らないのかも知れない。ギャリーは「20回作品を書け、そうすれば21回目に光が見える」とアドバイスする)、プロデューサーのヘンリー・リピアット(金子岳憲)の妻のジョアンナ(黒谷友香)が、「トスカニーニ(指揮)のコンサートを聴きに行ったけれど鍵を落とした」というので夜遅く訪ねてくる。二人が抱き合うのが第1幕のラストだが、二人は普通に考えて男女の関係になっているということで、仕事関係で女を巡るゴタゴタが起こりそうになったりする(ギャリーが大スターなので、よく起こるような展開にはならない)。
その他にも、ギャリーに憧れた母子が訪ねてきたりする。
なんでこんなに人が訪ねてくるんだろうという展開には、三谷幸喜作の「巌流島」の佐々木小次郎(益岡徹)のセリフ、「どうして今日に限って沢山人が訪ねてくるんだ!」が思い起こされたりするが、三谷幸喜も連なる英米系の喜劇作家の作風を作り上げたのがノエル・カワードだと言っても差し支えないので、似てはくるのである。「巌流島」で人が訪ねてくる理由は、「宮本武蔵の居場所が珍しく知られているから」だが、ギャリーに会いに来るのは、「今日を逃すとしばらくギャリーに会えないから」だと思われる。
ノエル・カワードは、1899年生まれ。聖歌隊で知り合った両親の子であり、音楽的才能にも優れていた。階級的には下層中流階級で、余り大金を稼ぐことは望めないが、母親が「子役募集」のチラシを見つけ、息子の才能を信じて応募。ノエルは売れっ子子役となり、そのまま俳優、劇作家へと進んでいく。学校教育はほとんど受けていない。
常に自分を格好良く見せる強迫に駆られているようなギャリーだが、稲垣吾郎なら伊達男を演じても嫌な気はしない。
倉科カナは、初舞台を観ている女優である。2008年、兵庫県立芸術文化センター中ホール。クラシックの室内楽とコラボレーションした「4×4」という芝居である。当然ながら演技は上手くなかったが、それから5年後に上川隆也主演版の舞台「真田十勇士」にくノ一役で出たときはかなりの成長が見られ、今日の演技も役に馴染んでいる。
なお、イギリスが舞台なので、基本的に新劇スタイルの演技が採用されている。
黒谷友香は久しぶりだが、大人の女の色香がほんのりと漂い、魅力的。彼女とならギャリーが間違いを犯したとしても仕方ないように思える。
出捌けが多く、とにかく導線が重要となる舞台である。登場人物達も個性的で、ローランドが2日目に特に用もないのに訪ねてきたり、ジョアンナが夫のヘンリーの前で2人の男と関係を持ったことを明かしてしまったりと、2日間だというのに、10年分のことが起こったりする。
ヘンリック・イプセンの「ペール・ギュント」の話が出てくる。イプセンがレーゼドラマ(読むための戯曲)として書いたもので、上演を想定していなかったが、クリスチャンセン(現・オスロ)の国民劇場から何度も上演依頼があり、イプセンも「グリーグの劇附随音楽付きでなら」と許可。当初は大ヒットするが、一度上演が途切れるとほとんど上演されなくなる。
「ペール・ギュント」は、山の魔王の娘と結婚させられそうになったり、モロッコで富豪になったり、アラビアで予言者となって尊敬されるも騙されて無一文になったりと波乱万丈のストーリーである。予言的ではある。
「ペール・ギュント」の舞台でもあるアフリカでのツアーには妻のリズも愛人となったジョアンナも同行するようだ。
稲垣吾郎に最も合う音楽は、マーラーの「アダージェット」だと思っていたが、今日は実際にアダージェットが響く。ギャリーが蓄音機から流した。












































































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