カテゴリー「ミステリー」の13件の記事

2025年11月23日 (日)

これまでに観た映画より(413) 「第三の男」

2025年11月17日

Amazon Prime Videoで、「第三の男」を観る。映画誌などの「歴代映画トップ10」などでたびたび1位に輝く名画である。原作:グレアム・グリーン。制作:デヴィッド・O・セルズニック。監督:キャロル・リード。出演:ジョゼフ・コットン、アリダ・ヴァリ(ヴァリ名義)、オーソン・ウェルズほか。音楽:アントン・カラス。俳優、演出、音楽等全てが高水準で「完璧映画」と称されることもある。

アントン・カラスがオーストリアの民族楽器、ツィターを使って奏でるテーマ音楽(ハリー・ライムのテーマ)は日本ではつとに有名で、ヱビスビールのCM曲となり、更にはJR恵比寿駅の発着音にも採用されている。

第二次大戦終了直後。連合国側(米、英、仏、ソ)による分離統治下にあったウィーンが舞台である。アメリカの三文西部劇小説家のホリー・マーティンス(ジョゼフ・コットン)は、ウィーンに住む親友、ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)から、「良い仕事がある」と誘われ、ウィーンへとやって来る。しかし、その直前にハリーは交通事故で亡くなっていた。ハリーの死はアパートの管理人によってホリーに告げられるのだが、この構図が実に格好いい。そしてハリーの葬儀に出席したホリーは、イギリス軍のキャロウェイ少佐からハリーが横流しの売人だったと告げられる。

ハリーの葬儀に気が強そうだが美しい女性が一人。ハリーの恋人であったアンナ・シュミット(アリダ・ヴァリ)である。彼女はオーストリア人の舞台女優として活躍していたが、実際はチェコスロバキア国籍であり、そのことで強制送還させられるのではないかと不安を感じていた。

そして、事故現場に、「第三の男」がいたことが明らかになる。この「第三の男」の姿を探してホリーは奔走するが、やがて「第三の男」が姿を現す……。

 

中学校3年の時、民放の深夜で、ノーカット日本語字幕付きの映画が放送されることがあった。「第三の男」もそうした深夜放送映画の1本としてビデオ(まだVHS)に録画して観たのが始まりである。ミステリー仕立てである上にユーモアにも溢れ、映画史上最高を争うのに相応しく思っていたが、今日、この配信を観て、これまでノーカットだと思っていた民放深夜の放送版には数カ所カットがあったことが分かった。勿論、話の展開には関係のないところがカットされているのだが、騙されていた気分である。配信の時代となり、多くの作品が観られるようになった今日にあっては、民放深夜の映画放送はもう需要がないかも知れない。

ミステリー作品なので、ネタバレ出来ない部分も多いのだが、下水道での大立ち回り、そして、「映画史上、最も長い歩くだけのシーン」とも言われるラストシーンは必見である。

なお、原作者のグレアム・グリーンは別のラストを用意していた。高校に入り、図書室で『グレアム・グリーン全集』を見つけた私は、「第三の男」を読んでみた。グレアム・グリーンの名は、赤川次郎が目標とする推理作家として知っていた。グリーンは映画版を観て、「納得がいくわけではないが、映画版の方が上と認めざるを得ない」と評価していた。

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2025年11月18日 (火)

観劇感想精選(501) M&Oplaysプロデュース「私を探さないで」

2025年11月8日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて観劇

午後6時から、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで、M&Oplaysプロデュース「私を探さないで」を観る。作・演出・出演:岩松了。出演:勝地涼、河合優実、富山えり子、篠原悠伸、新名基浩、小泉今日子。

対岸に観光地の無人島がある、本町という街が舞台である。対岸の無人島は、昼間は観光地で本町から渡った人がいるが、滞在する場所がないため、夕方に帰りの便が出てからは文字通り無人島となる。だが、最近では、数件、滞在出来る場所が出来ているそうだ。

タイトルの「私を探さないで」の「私」は、具体的には河合優実演じる三沢晶(みさわ・あきら)のことである。この町の高校に通っていた晶は、17歳の時に突然失踪する。その直前に高校の教師である大城ユイ子(小泉今日子)が小説を発表。自身が勤める高校をモチーフにした話で、相手役のモデルは古賀アキオ(勝地涼)であるが、「橘」という名になっていた。だが、三沢晶は、三沢エミリと苗字はそのままであった。大城の小説はモデルがいるフィクションとして発表され、高校生にしては衝撃的な内容であり、話題になったが、三沢晶は小説中でも苗字が一緒であり、すぐに誰がモデルなのが分かってしまう。ということで三沢晶は姿を消さざるを得なかったのだ。大城は小説家に転身した。

古賀がこの町に戻ってきた。高校の同級生と再会し、今は小説家となった大城とも顔を合わせるが、高校の制服を着た晶を見かける。すぐにそれは幻影だと分かるのだが、町に一つしかない映画館で、晶と二人で「(スター・ウォーズ)ジェダイの復讐」(現在の邦題は、「ジェダイの帰還」)を観た記憶が蘇る。古賀の記憶では、大城先生からチケットを譲られて、晶と二人で観に行き、上映後に晶と目を合わせて決まりが悪くなった、なのだが、大城先生からチケットを譲られたという記憶も怪しい、更に晶と二人で観に行ったのかどうかも記憶のねつ造によるところが大きいのではないかと思い始める。
ただ最終的には、チケットを誰から譲られたのかは分からないが、古賀と晶の二人で映画を観に行ったという記憶は正しいのではないかと思われる。古賀と晶は親しかった。古賀はバスケットボール部であったが、部室かどこかで余り公には出来ないことをしていたのも確からしい。一方、大城も古賀には目を掛けていた。
晶はサプライズ好きな性格で、大城先生の誕生日に手焼きのクッキーをプレゼントして驚かせた。晶も大城も同性間での行いには余り抵抗がなく、やはりそうした関係になるのだが、ここで大城が裏切った。三沢晶の苗字そのままに三沢エミリというキャラクターを創造し、バイセクシャルで奔放な少女として描いた。フィクションではあるため、高校生という立場もあって何も言い出すことは出来ない、というよりも何か言ったらモデルであることが確定してしまう。のんびりとした街で起きた残酷な情念の物語である。現在の晶がどうしているのかは不明。大城の前にも姿を現す晶だが、大城は「本物のわけない」と晶がこの町にいるわけがないことを知っている。だが、晶の生死に関しては情報を得ていないだろうから、あくまで「幻覚」と見なしているということだ。あるいは亡くなっているのかも知れないがその情報はない。

話題作への出演が続く河合優実。舞台にも何度か出演している。独特のムードを持った人で、演技も巧みだが、声は鼻に引っかかり気味の高いものであるため、舞台よりもやはり映像に向いているかも知れない。
ステップも独特だが、大きく向きを変える時は、バレエ経験者でしかもかなり巧い人でないと出来ないと思われるターンを見せていた。

キャリアは長いが、私は初めて舞台で見る小泉今日子。彼女は女優や歌手、書評家よりも 何よりもまず「アイドル」であると思われる。その証拠にスペースの作り方が上手い、ソロのアイドルとして数々のステージやテレビ番組をこなしてきた結果、自分だけの見せ場を作る技術が身についたのかも知れない。セリフに関しては計3回言い間違えるなど安定感には欠けたが、演技スタイル自体は確立されているため、「誰だって言い間違いはある」という風に受け取ることが出来る。ポッと出の人が力が足りずに言い間違えた訳ではない。

 

岩松了の芝居は比較的分かりにくいと言われているが、今回は対立の構図が明白だったため、核の部分はつかめたように思う。

カーテンコールでは、多くの人が大阪のグルメについて挙げる。河合優実は、一昨日、昨日と大阪グルメを堪能したが、明日しっかり食べるため、今日は揚子江ラーメン(他の俳優が何人も名を挙げていた)は食べないという話をしてから、緊張していたのか「よろしくお願いします」と場違いな挨拶をしそうになり、慌てて止めていた。

岩松了は、マチネー公演で3つ下がっている短冊状のカーテンの1つがどうしても下りてこず、仕方ないので2本でやったという話をする。この公演もどうかと思ったが、幸い、きちんと3本下りてくれたようである。

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2025年10月26日 (日)

これまでに観た映画より(409) 東野圭吾原作「ある閉ざされた雪の山荘で」

2025年10月12日

J:COM STREAMで、日本映画「ある閉ざされた雪の山荘で」を観る。東野圭吾の同名小説の映画化。出演:重岡大毅(しげおか・だいき)、中条あやみ、岡山天音(おかやま・あまね)、西野七瀬、堀田真由(ほった・まゆ)、戸塚純貴(とづか・じゅんき)、森川葵、間宮祥太朗ほか。監督は、「GTO」(AKIRA版)の飯塚健。

タイトル通り「ある閉ざされた雪の山荘」が舞台、ではない。実際の舞台となるのは海に近い別荘地にある貸別荘である。東京から近い海のそばの貸別荘となると千葉か神奈川になると思うが、エンドロールで千葉県南房総市でロケが行われたことが確認出来る。
そこで、劇団水滸の役者達が最終オーディションに臨むことになる。劇団水滸は比較的大きな劇団であるが、毎回オーディション制で、劇団員が所属しているという訳ではないらしい。東郷という男が主宰者で演出家だが、声のみで別荘に姿を現すことはない。監視カメラの映像に表示されている日付から、現在が冬ではなく3月初旬であることが分かる。
オーディション制といっても毎回受かっている人もいて、今回は7人中6人が数回共演している仲間であり、前回公演もこの6人で行われた。三次オーディションで合格した久我和幸(くが・かずゆき。重岡大毅)が新参者だ。久我だけは現地での合流となる。

海から近い貸別荘は豪華な作り。久我、中西貴子(中条あやみ)、田所義雄(岡山天音)、元村由梨江(西野七瀬)、笠原温子(あつこ。堀田真由)、雨宮恭介(あまみや・きょうすけ。戸塚純貴)、本多雄一(間宮祥太朗)は、この貸別荘で最終オーディションを受けることになる。一番優れた者が次回作の主役となる探偵役に抜擢される。東郷は現れないが、カメラが何カ所か据え付けられていて、モニターで監視しているということらしい。
更に設定が加えられ、今いる場所は海の近くの貸別荘ではなく、雪に閉ざされた山荘で、外に出ることは出来ず、通信手段も何もないということになる。なぜこうしたことをするのかというと、この話の元ネタであるアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』の設定にしてみたかったからだと思われる。部屋には『そして誰もいなくなった』が人数分置いてある。アガサ・クリスティの時代にはそもそも通信手段自体が未発達だったが、今はいくらでもある。それを敢えて手放して行動することがオーディションになるようだ。「本当にオーディションになるのか?」という疑問は当然起こるが、疑問が起こってもストーリーが変わるわけではないので、それはそれとする。

連続殺人が起こるわけだが、当然ながら疑問に思うところは出てくる。最初の事件は、「この人物はこれが得意で、あるものを装着しながらこれを行う」こと知らないと事件を起こせない。これはかなり引っかかる点である。それ以外の事件については特にやり方に問題はない。

若い俳優ばかりが出てくる作品だが、今の若い俳優は私たちの時代と比べて演技が細やかでナチュラルである。私の家は映画館に行くのは年に1度で、それ以外はテレビドラマかテレビで放送されるカットと吹き替え付きの洋画、やはりカットありの邦画ぐらいしか演技している人を見る手段がなかった。一方、今の若い俳優はそれに加えてインターネットや配信サービスなどを利用して何時間でも演技をしている人を見ることが可能だ。その分、有利な環境にあるといえる。持って生まれた才能に関しては今も昔もどうしようもないわけだが。私も以前は、「才能はなくても稽古をすればある程度は伸びるはず」と思っていたが、全く伸びずに終わった俳優(彼のために上演10分の平易な戯曲を書き下ろしたが、それすら無理であった)を見ると持って生まれたものの大きさについて思いをはせたりする。

登場人物が全員役者ということで生まれたミステリー。テレビドラマの延長的な作りであるため、そこを嫌う人がいるかも知れないが、ひと味違ったものを観たいという人には向いているかも知れない。

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2025年10月 6日 (月)

「警部補・古畑任三郎」 さよなら、DJ

2025年6月8日

ひかりTVで「古畑任三郎」の「さよなら、DJ」を見てみる。1994年当時はデジタルで映像が撮られている時代だが、初期なので劣化したのか、それともアナログで撮ったのか、今から見ると少し古く感じられる映像である。

桃井かおりが演じるのは、「おたかさん」の愛称で知られるラジオDJ、中浦たか子である。運転免許を持っていないため、専属運転手として沢村エリ子(八木小織)を雇ったのだが、たか子のボーイフレンドを寝取ったため、たか子は沢村殺害を計画する。

たか子がラジオ局内を猛ダッシュで駆け抜け、駐車場で待機していた沢村を殺害してラジオブースに戻ってくるまでに掛かっているのが越路吹雪の「サン・トワ・マミー」である。越路吹雪というと、「大ベテラン」というイメージで老年まで歌っていそうなのであるが、実際には56歳で亡くなっており、美空ひばりや江利チエミなとど共にイメージとは異なり早逝した人物の一人である。

私が、「サン・トワ・マミー」を知ったのは、勿論、越路吹雪版によってであるが、現在、よく聴いたり歌ったりするのはRCサクセションのロックバージョンである。因縁のアルバム「COVERS」に収録されているもので、越路吹雪版の主人公が女なのに対し、RC版は主人公が男になっている。ちなみに原曲のアダモ版では主人公は男である。

トリック自体は単純で、たか子のミスにも多くの人が気づくはずであり、ミステリーとしての完成度は余り高くない。ただ、桃井かおりの存在感に激走、殺人直後なので、エルヴィス・プレスリーのLPを手が震えて掛けられないので相方に任せるというリアルさなど印象深い回である。田村正和がわざと下手くそに歌う「ラストダンスは私に」が聴けるのも面白い。桃井かおりは学生時代に陸上部所属だったそうで、ノリノリで走ったそうである。

なお、有名な「赤い洗面器の男」は、この回が初出であり、冒頭でたか子が話をするのだが、落ちは当然ながら明かされない。

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2025年7月 2日 (水)

NHK「松本清張シリーズ 天城越え」(大谷直子主演版)

2025年6月27日

ひかりTVで、NHK「松本清張シリーズ 天城越え」を見る。1978年、「天城越え」最初の映像化である。出演:大谷直子、佐藤慶、鶴見慎吾、宇野重吉、三代目中村翫右衛門、荒井注、松本清張ほか。演出:和田勉。和田勉演出の代表作である。音楽:林光。

大塚ハナ役の大谷直子は、他の「天城越え」のハナに比べると幾分地味だが、最も万人受けする美貌の持ち主であるように思う。ただその分なのか、生田絵梨花、田中美佐子、田中裕子に熱心なファンがいるのに比べて、大谷直子に熱心なファンがいるようには感じられない。私がテレビドラマを見始めた頃には、大谷直子は盛りを過ぎた脇役の多い地味な女優であり、主演作もこの「天城越え」が最後のようである。
土工役に佐藤慶を配し、他の「天城越え」ではほとんど何も語らない土工役の過去などが明かされている。
説明ゼリフなどが多用されているのもやや気になる。また伏線がきちんと張られていないため、殺害動機が分かりにくくなっているし、直接的な言葉を使う必要も出てくる。
照明が美しく、今に至るまで「照明のNHK」と呼ばれているのが納得の出来である。
暴力シーンなども他の「天城越え」に比べると控え目である。
ただ、ハナが自供するのは本当の犯人に気づいたからではなく、眠らせてくれないので眠かったからで、ハナが真犯人に気づくのは無罪で釈放されてからだ。この辺は上手い描き方ではない。
ハナが少年(鶴見慎吾)の実家である下田の鍛冶屋を訪ねてくるのはオリジナル。ただ余り意味が感じられなかった(どういう意図で入れられたのかは分かる)。

47年前の作品ということで、出演者の多くが今では消息が分からなくなっているようであるが、今と違い、出演者に美男美女が少なく平凡な容姿の人が多い。今では、「テレビはイケメンと美女が出るもの」となっており、実生活では会ったこのないハイレベルの容姿の人ばかりが出ていることもあるが、この「天城越え」が制作された頃は、容姿よりも演技力が重視されていたことが察せられる。当時もニューフェイス出身など容姿端麗な人はいたが、劇団出身など、容姿で勝負するところでない場所から勝ち上がってきた人が多かったと予想される。
ただ現在は、オーディション、アイドル出身、モデル出身などの俳優が増えた。当然、眉目秀麗である。演技力は二の次になることも多いがそれがいいことなのか悪いことなのかは分からない。

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これまでに観た映画より(389) 松竹・霧プロダクション映画「天城越え」(田中裕子版)

2025年6月26日

ひかりTV見放題で、松竹・霧プロダクション映画「天城越え」を観る。4度映像化されている当作の2度目の映像化で、唯一の映画化である。1983年公開。ということで美術や映像などには古さも感じられる。一方で、天城山の自然は最も美しく撮られているように思う。原作:松本清張、監督:三村晴彦。出演:渡瀬恒彦、田中裕子、樹木希林、北林谷栄、伊藤洋一、坂上二郎、柄本明、石橋蓮司、吉行和子、伊藤克信、車だん吉、阿藤海(阿藤快)、加藤剛(特別出演)、平幹二朗ほか。

この映画は、前半に捜査や取り調べの場面が来て、大塚ハナ(田中裕子)と少年(役名は小野寺建造となっている。伊藤洋一)の二人連れの場面は後半に出てくる。そのため、全編を通しての主人公は元刑事の田島(渡瀬恒彦)になるが、存在感を最も放っているのはやはり田中裕子である。
冒頭付近ですでに犯人が分かるような描写があり、少年のハナに対する悔いが全編を通して流れる。この作品は、生田絵梨花主演の2025年版や、田中美佐子主演の 1998年版のように、主人公が老いたハナを訪れるという、原作にない場面の追加はなく、ハナは無罪になったがほどなく死ぬという原作通りの末路を辿っている。

俳優が本業でなく、タレントや芸人を本職としている人が多く出演しているのも特徴だが、今の芸人やタレントとは違い、セリフ術などには拙さが強く感じられる。時は移って、ここ20年ほどは本職の俳優以外は演技の上手い芸人かタレントしか映画に起用されないようになっているように思う。

この作品の最重要人物である大塚ハナを演じる田中裕子は、雌雄眼ということもあって、美貌では生田絵梨花や田中美佐子に及ばないが、女としての魅力、強さ弱さ儚さ艶やかさなどでは大きく上回り、田中裕子の天才的な表現力を味わうことが出来る。彼女も略奪愛などがなければ、もっと活躍の場が広がっていたのかも知れないが。

封切られた1983年を舞台にするため、冒頭付近には、当時流行っていたタケノコ族が踊っている姿が映っており、ラストは天城隧道へと入って行く暴走族の姿を映して、時の移り変わりや無常を感じる演出が施されているが、ラストシーンの暴走族はいらなかったかも知れない。また、1983年を舞台にするために、事件の発生を大正15年(1926)から昭和15年(1940)に変えているが、日米開戦間近であることは特に物語展開に関係しない。一応、時代が分かるよう出兵の場面はある。

14歳の少年の動機を成人男性が理解出来ないという松本清張の一種のトリックは巧みである。

音楽は「砂の器」の菅野光亮(かんの・みつあき)。甘いメロディーが奏でられているが、この映画が公開された1983年に44歳の若さで他界しており、これが最後から二番目の映画音楽となった。

田中裕子は、第7回日本アカデミー賞優秀主演女優賞、第38回毎日映画コンクール主演女優賞、第26回ブルーリボン賞主演女優賞、第7回モントリオール世界映画祭主演女優賞、第29回アジア太平洋映画祭主演女優賞など、本作で多くの賞を獲得した。

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2025年6月30日 (月)

1998年 TBS元旦特別企画「天城越え」(田中美佐子主演版)

2025年6月17日

ひかりTVで、TBS元旦特別企画「天城越え」を見る。1998年の元日の放送。4種類ある「天城越え」の映像の田中美佐子主演版である。他の「天城越え」と大きく異なるのは、他の「天城越え」では女郎の大塚ハナを28歳前後の女優が演じているのに対し、TBS版で大塚ハナを演じている田中美佐子は当時38歳と10歳ほど年上でベテラン女優と見られていたということである。1998年時点では女優の寿命はまだ短く、田中美佐子も「女優は28歳でおばさん、40歳で終わり」と言われたことがあるそうで、主役がいつまで出来るか分からない状態だったが、この世代にしては珍しく38歳でもかなりの人気があった女優である。経歴も変わっていて、TBSの俳優養成機関に入り、デビューしたはいいが、人見知りもあって「根暗な女」とみなされ、「女優には向いていない。故郷に帰れ」と言われたこともある。萩本欽一と同じ浅井企画にいたため、欽ちゃんのバラエティにコメディエンヌ枠で出たりもしていた。この経験により一転して「面白い人」という評価が高まり、また連続ドラマで主演を張る女優としては珍しく、2時間サスペンスや1時間ミステリーなどの番組にいくつも主演・出演している。今では2時間サスペンスのようなドラマ枠はなくなってしまったが、連続ドラマなどに比べると格落ちと見られることが多く、それでも差別なく出演していたということになる。ということで好感度はかなり高かった。
そんな田中美佐子のハナであるが、年齢を感じさせない華やかさがあり、妖艶であるが温かな女性というイメージである。無邪気なところもあり、魅力的な女性に仕上げているのは流石、田中美佐子である。
少年役を務めるのは二宮和也。リアルタイムで見ている時にジャニーズの話を妹としているので、二宮和也がジャニーズの子だということはこの時点でかなり有名だったようである。
ハナと少年の天城越え(少年は下田から天城隧道を抜け、静岡方面に向かうはずが修善寺から下田方面へと向かうハナに惹かれて引き返しているので、厳密には天城越えをしたのはハナだけで少年は越えてはいない)の過程で川遊びをしたり、少年がハナに「赤とんぼ」の歌をうたうなど、行程は2025年版よりも詳しく描かれている。
暴力のシーンは、2025年版に比べるとかなり激しく、今ではコンプライアンスで地上波放送出来ないかも知れない。BSでも無理の可能性がある。ということで、2025年現在ではこうしたドラマは作りにくい。映画なら可能だろうが。
成人した少年(長塚京三)が老いたハナに会いにいく原作にはない場面があるが、これは2025年版でも同じようなラストとして付け加えられている。1998年版では舞台は能登で、田中美佐子は老けメイクは余りせずに体の動きと声を変えて30年後のハナの演じている。2025年版は俳優が変わり、若い頃のハナは生田絵梨花が演じ、30年後のハナは若村麻由美がハナの故郷である茨城の浜で作業をしている様子が映される。
2025年版と1998年版を比べると一長一短であるが、個人的には1998年版の方が思い入れが強い。それにしても「天城越え」という小説自体がかなりの名作である。トリックというよりタネはかなり簡単なのであるが、なぜ大人の男が見抜けなかったのかが、15歳の少年という絶妙な設定によって成り立っている。
1998版は第35回ギャラクシー賞優秀賞受賞、第38回日本テレビ技術賞(録音)も受賞している。
当時無名に近かったと寺島しのぶと遠藤憲一も出演。寺島しのぶは今に比べると若干拙いように感じられるが、遠藤憲一は演技面では仕上がっており、あとは誰が自分を見出すかという段階にあるように思われる。

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2025年6月29日 (日)

特集ドラマ「天城越え」(生田絵梨花主演版)

2025年6月15日

NHKオンデマンドで、特集ドラマ「天城越え」を見る。松本清張の短編小説の実に4度目となる映像化。映画の田中裕子主演版と、NHKの大谷直子主演版が有名だが、1998年放送のTBSの田中美佐子主演版はリアルタイムで見ていて、これもかなり出来が良い。二宮和也のテレビドラマ初出演作でもある。

今日見るのは昨日NHKBSで放送されたばかりの生田絵梨花主演版である。萩原聖人が余りイメージに合わないが、岸谷五朗が良い味わいを出している。生田絵梨花の女郎姿も可憐だ。

ひかりTVでは、現在は4種類の映像全てを見ることが可能である。

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2021年5月22日 (土)

フジテレビオンデマンド「警部補・古畑任三郎」(古畑任三郎第1シーズン)第5回「汚れた王将」

2021年5月19日

田村正和逝去ということで、フジテレビオンデマンドで「警部補・古畑任三郎」第5回「汚れた王将」を見てみる。1994年の放送。デジタル収録だと思われるが、四半世紀以上も前の作品ということで映像は大分古い印象を受ける。犯人役は5代目坂東八十助、後の10代目坂東三津五郎である。三津五郎も2015年に59歳の若さで亡くなっている。

「将棋の街」山形県天童市で行われている将棋の竜王戦を背景にした殺人事件であるが、トリックとなる将棋の「封じ手」は実際には「古畑任三郎」で描かれているものとは大きく異なるそうで、かなりフィクション性が強い回であった。ストーリー展開や設定も今から振り返ると少し妙な部分があるのは確かである。

「古畑任三郎」シリーズは、三谷幸喜の構想では最初から「古畑任三郎」というタイトルで行くつもりだったようだが、「『古畑任三郎』だけだとなんだか分からない」という声が関係者からあったため、第1シーズンだけ「警部補」という階級をタイトルに入れている。階級が警部補なのは、日本の場合、警部になってしまうと現場に真っ先に到着ということがほとんどなくなるためだと思われる。刑事ドラマで、警部補階級の人が主人公に多いのもそうした理由によるものだろう。

「古畑任三郎」シリーズは、ピーター・フォーク主演の「刑事コロンボ」の日本版であるが、倒叙ミステリーの仕組みを利用して、どちらかというと犯人像、特にその悲哀を丹念に描くことに力を入れているように見える。全員が「太陽がいっぱい」のリプリーのようでもある。
三谷幸喜はたまにそれとなく本音をセリフに潜ませる人なのであるが、この回で古畑が語る「何も知らない連中は平気でそういうことを言うんです」というセリフは三谷の本音なのではないだろうか。

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2021年2月 7日 (日)

これまでに観た映画より(246) 「ハサミ男」

2007年6月3日

DVDで日本映画「ハサミ男」を観る。池田敏春監督作品。原作:殊能将之。出演は、豊川悦司、麻生久美子、阿部寛ほか。音楽担当:本田俊之。

日活ロマンポルノの監督として一時代を築いた池田敏春によるサイコホラーサスペンス。なお、本多俊之は、「ハサミ男」のラッシュフィルムを観ながら即興でサックスを吹いており、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」と同じ手法が取られている。

2004年の作品だが、冒頭から古い感じの映像と、学生の自主製作映画のような脚本と演出に違和感を覚える。わざとやっているとしか思えず、「どうしてなのかな?」と思っていたが、途中でその理由がわかった。それらは観る者の意識をそちらへと引きつけるための罠だったのである。

豊川悦司の怪しい魅力が生きているが、実質的な主役は麻生久美子。この映画での麻生久美子の演技には女優魂を感じる。「時効警察」の麻生久美子しか知らない人は、三日月クンと同じ女優がやっているとは気付かないかも知れない。

和製ホラー映画というと「リ×グ」(×は伏せ字です)のように、ショッキングな映像が頼りのちょっと情けないものが多いが、この映画はじんわりと来る怖さを持つ。何でもないようなラストも実は怖かったりする。

殊能将之が書いた原作の評価は極めて高く、原作好きの人からは「がっかり」という意見が聞かれたというが、純粋に映画作品として観ると良い作品だ。

(後期)その後、池田敏晴監督は三重県志摩市で投身自殺を遂げ、原作者の殊能将之も不可解な突然死を迎えるという因縁の作品となった。殊能将之は覆面作家であったが、死後に正体が明かされ、本名は田波正といい、高校生の頃からSF・ミステリー小説界では「福井の神童」といわれるほどの逸材であったことが明らかとなった。

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