柴田淳のアルバム『僕たちの未来』(ビクター・エンタテインメント)を紹介します。亡くなった愛犬のビビアンに捧げられたアルバムです。
まず聴いてわかるのは柴田淳(愛称:しばじゅん)のファルセットの美しさ。柴田淳は1976年11月19日生まれなので、今日で35歳、このアルバム録音時には34歳ですが、ファルセットが今まで以上に美しくなっています。普通は声帯は年齢とともに衰えるものなのですが、しばじゅんの場合は逆に喉が開いていっているような感じすら受けます。
さて、『僕たちの未来』はタイトルから想像すると明るい内容のはずで、実際、暗めの曲調より、穏やかで優しい曲の方が多いです。しかし、歌詞のほとんどは、別れや無常、自意識の揺らぎなどを歌っており、そうした歌詞と明るめの曲調が見事なアウフヘーベンを成しています。自身の曲のタイトルを歌詞の中に入れた「この世の果て」が第1曲ですが、これはもがき続ける自意識を歌っています。それが徐々に寛解していくような構成になっています。シリアスな曲調が前半は続きますが(ピアノ曲のタイトルが両大陸の英雄といわれた「LAFAYETTE」というのも象徴的な印象を受けます。「LAFAYETTE」の曲調はイン・メモリアム風です)、それらを「段々と受けいれていく」姿勢へと変わっていきます。
2曲は「あなたの名前」。配信限定シングルにもなった曲ですが、まれびとが情念で歌っているのではないかと思えるようなちょっと不吉な感じのする一編です。そうした不安定な2曲で開始しますが、あとは亡き愛犬、ビビアンとの想い出を歌った曲など、悲しみは湛えながら優しさにも溢れた曲が増えていきます。1拍目を強調する舞踏のリズムでオリエンタルな雰囲気を出した「ハーブティー」は、しばじゅんの母親が好きだという歌謡曲の影響を受けていると思われ、歌詞はどこか、なかにし礼の「別れの朝」を想起させるところがあります。そして、やまと心を表した桜の出てくる「桜日和」。ナイフやフォークといった単語の出てくるデモーニッシュな歌詞を持つ「マナー」も日本人らしいキッパリとした別れを歌ったものです。アルバムを通して、動から静へ、激しい揺さぶられていた感情が癒されていく過程を描いているかのようです。そして最後の曲のタイトルは「おやすみなさい。またあとで…」です。
ということでヒーリング効果もあるアルバムです。
初回限定版には柴田淳画伯による絵本、『魔法のマドラーが』ついており、村上春樹のいう小確幸(小さいけれど確固たる幸せ)が表されているかのようです(しばじゅんが目標としているシンガーの一人であるスガシカオは、村上春樹に影響を受けた、いわゆるハルキキッズを自認しています)。
余りはっきり言いたくはないのですが、敢えてズバリ言います。このアルバムはレクイエムです。
柴田淳 『僕たちの未来』(タワーレコード)
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