カテゴリー「韓国映画」の22件の記事

2022年12月25日 (日)

これまでに観た映画より(317) 「夜明けの詩」

2022年12月7日 京都シネマにて

京都シネマで、韓国映画「夜明けの詩(うた)」を観る。キム・ジョングァン監督作品。出演:ヨン・ウジン、イ・ジウン(歌手としての名前はIU)、キム・サンホ、イ・ジュヨン、ユン・ヘリほか。

イギリス暮らしをいったん切り上げて、冬のソウルに帰ってきた小説家のチャンソク(ヨン・ウジン)。様々な人との出会いの中で小説を仕上げることになる。既婚者であり、妻はイギリスに置いてきている。離婚の危機が目の前にある。

先に書いたとおりチャンソクが様々な人々と一対一の対話を行うことで物語が進んでいく。それぞれのエピソードについてだが、特につまらないという訳ではないが、面白くもないという最も感想に困る種類の作品である。設定など、個人的には好感を持ったが、映画好きでない人、特に芸術映画を好まない人には受けが悪いと思われる。

全体を通して夢のような淡さを湛えた空気が漂っており、見終わった後には、それこそ邦題になっている「詩」のような独特の手応えがある。ただ万人向けの作品ではないことは確かで、退屈に感じる人も多いだろう。
「観る」というより「浸る」ような感じで接するのが吉と出る映画である。

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2022年3月 3日 (木)

これまでに観た映画より(285) 「私にも妻がいたらいいのに」

2022年2月20日

DVDで韓国映画「私にも妻がいたらいいのに」を観る。2001年の作品。監督:パク・フンシク。出演:チョン・ドヨン、ソル・ギョング、ソ・テファ、チン・ヒギョンほか。

非モテ系男女の王道ラブストーリーである。
銀行員のキム・ボムス(当時29歳。演じるのはソル・ギョング)は、1997年の元日、ビデオレコーダーに向かって3年以内に結婚したいという意味のメッセージを録画する。まだ見ぬ彼女へのメッセージという、取りようによってはちょっとあれな内容である。

時間は飛んで、2000年7月。32歳になったキム・ボムスは相変わらず独身である。友人のチョン・ホンタク(ソ・テファ)よりは先に結婚するはずだと思っていたキムだが、チョンは出版社に勤める女性と結婚を決めてしまい、キムはチョンの車に乗って洗車機の中に入り、チョンを散々に罵る。

キムが勤めるハンミ銀行の向かいにある学習塾(韓国ではこの2000年まで学習塾は認められていないため、放課後のみの補助塾というのが実際に近いようだ)の講師であるチョン・ウォンジュ(チョン・ドヨン)は、ハンミ銀行にたびたび寄り、窓口担当のキムとも顔を合わせている。そしてその他の場所でもすれ違っている。
という訳で、どう考えてもこの二人のラブストーリーであり、二人が結婚するまでにどういう展開があるのかが映画の軸となる。塾の蛍光灯が切れかかった時に、ウォンジュが銀行から出てきたキムに声を掛けて蛍光灯の交換を頼むなど、すんなり恋愛関係になれそうな間柄なのだが、キムが鈍い上に、彼が乗っていたタクシーが後続の車に追突され、入院した時に、学生時代の友人であるテラン(チン・ヒギョン。特別出演とクレジットされている)と再開したことから、キムの心はテランへと傾き始める。キムのことを彼氏候補だと思っていたウォンジュは、ある日思い切って振り込み用紙に「この間のお礼に夕食をご一緒しませんか」と書いて窓口にいるキムに渡すが、キムは「先約があります。からかわないで」と返事を書き、ウォンジュはショックを受ける……。

結末は見えているだけに、安心して楽しめる甘い物語である。特別なことは何も起こらないが、チャーミングな一本と評価出来る。

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2022年2月11日 (金)

これまでに観た映画より(279) イ・ジュヨン主演「野球少女」

2022年2月7日

録画してまだ観ていなかった韓国映画「野球少女」を観る。2019年製作の作品。監督:チェ・ユンテ。出演:イ・ジュヨン、イ・ジュニョク、ヨム・ヘラン、ソン・ヨンギョ、クァク・ドンヨン、チェ・ヘウンほか。

創部間もない高校野球部で男子に混じって女子ピッチャーとして活躍し、「天才野球少女」としてマスコミにも取り上げられたチュ・スイン(イ・ジュヨン)が主人公である。高校の野球部には基本的には女子は入部出来ないのだが、スインは実力で認めさせてきた。高校の野球部に入れないと思っていた時期を思い出し、「自分の未来は自分ですら分からないのに、他人が自分の未来を分かるはずがない」と語る場面がある。

女性ピッチャーを主人公にした場合、男子よりも速い快速球を放れたり、魔球を操れたり、アンダースローの変則技巧派だったりすることが多いのだが、この作品の主人公であるチュ・スインはオーバースローから130キロ台前半のストレートを投げるという、かなりリアルな設定となっている。モデルになった女子野球選手がいるようだ。

映画はまず字幕で始まる。韓国プロ野球発足時には、医学的に男子でない者は不適格選手として入団を禁じるという規約があったが、この決まりは1996年に撤廃された。だが、今に至るまで、男子に混じってプロ野球で活躍した女子選手は出ていない。NPBも同時期に女子の加入を許可しており、ブルーウェーブ時代のオリックスの入団テストを女性2人が受けたことがあったが、合格には至らなかった。

高校の野球部の面々がドラフトの結果を待っている。女子としては超高校級とされたチュ・スインも朗報を待っていたが、結局指名されたのはスインの幼なじみであるイ・ジョンホ(クァク・ドンヨン)一人だけだった。
高校の日本語教師であるキム先生(韓国の高校には英語の他に第二外国語の授業があり、日本語が一番人気である)が女子野球経験者だったことから、女子のアマチュア野球に進むことを勧められたり、ハンドボールの選手への転向を示唆されたりするが、スインはどうしても韓国プロ野球に進みたい。そこでトライアウトに参加しようとするが、女子という理由で断られてしまう。

新しく高校野球部のコーチに就任したチェ・ジンテ(イ・ジュニョク)は、「力が劣る」「150キロのストレートを投げられない」と諦めさせようとするが、スインは、「なら150キロの球を投げてやる」とムキになって投球練習を続ける。このままでは故障してしまうということで、ジンテは「速球ではなく、自身の長所を生かしたピッチングスタイルに取り組むよう」に説得する。

スインは、学業面では劣等生。試験も真面目に受ける気はない。ということで、大学に進むという道は端から考えていない(おそらく大学の野球部に女子は入部出来ないのだと思われる)。だが、スインの父親というのが甲斐性なしであり、宅建の試験を受け続けているが、いつまで経っても合格出来ないでいる。
そうしたこともあり、母親はスインに野球を諦めて就職して貰いたいと考えていた。

スインのストレートはスピードこそ男子に劣るが、回転が良く、浮き上がるような軌道を持つ(なぜかジャイロ回転している場面もあるが)。そこで真逆の無回転ナックルを投げることでピッチングに幅を持たせようとジンテは考えていた。最初はストレートでの真っ向勝負にこだわっていたスインであるが、「速い球ではなく、打たれないのが良い球だ」というジンテの助言を受け容れ、ナックルボーラーに向けての特訓を繰り返す。

仁川を本拠地とする韓国プロ野球・SKワイバーンズ(現・SSGランダーズ)のトライアウトを受けることを許されたスインは、同じくトライアウトを受けに来た選手達と対戦。球速が出ていないというので舐めてかかってきた男子選手を打ち取っていく。遂にはワイバーンズの選手とも対戦することになったのだが……。

野球映画というと、前述のようにどうしても劇画タッチになりがちなのだが、その国のアマチュアトップ野球選手にいそうなキャラクターを設定することで、リアリティを生むと同時にヒロインに肩入れしやすい構造を生んでいる。女子としては凄いが男子の野球選手に比べると劣るという歯がゆい設定が、ヒロインの背中を押したくなるような心情に観る者を誘っていくのである。

これはスインの映画であるが、同時にコーチのジンテの物語でもある。ジンテは長年に渡って独立リーグでプレーし、韓国プロ野球入りを目指していたが、夢が叶わぬまま四十路を迎えてしまった。そして高校の野球部のコーチになるのだが、その直前に妻とも離婚している。夢も家庭も失ったが、独立リーグ時代にコーチ業ではないが、後輩の選手に指導することで選手の力量を上げたという実績があった。それがスインの指導にも生きたのだ。
野球のみでなく、社会へと旅立つ青春の時代もきちんと描いた映画であるが、やはりスインとジンテの二人三脚での成長を楽しむべき映画であるように思う。野球映画好きは必見である。

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2020年12月 1日 (火)

これまでに観た映画より(229) 「詩人の恋」

2020年11月24日 京都シネマにて

京都シネマで、韓国映画「詩人の恋」を観る。2017年の制作。第18回韓国女性映画祭脚本賞、第18回釜山映画批評家協会賞脚本賞などを受賞している。監督・脚本:キム・ヤンヒ(女性映画祭脚本賞を受賞していることからも分かる通り女性である)。出演:ヤン・イクチュン、チョン・ヘジン、チョン・ガラムほか。

「韓国のハワイ」というベタなキャッチフレーズでもお馴染みのリゾート地、済州島を舞台とした作品であるが、リゾート的な場面はほとんど出てこない。

済州島で生まれ育った詩人のヒョン・テッキ(ヤン・イクチュン)は、6年ほど前には文学賞などを受賞したこともある詩人だが、そもそも詩は売れないものである上に最近はスランプ気味。小学校の放課後の作文教室の講師なども始めたが稼ぎには乏しく、月収は30万ウォン(日本円だと3万円に届かない。ちなみに韓国は経済発展が堅調で、物価自体はもう日本と余り変わらない)ほどで、妻のガンスン(チョン・ヘジン)の収入に頼り切りの生活である。趣味はサッカーのテレビゲームのようで運動不足により肥満気味。詩を書くこと以外は「冴えない」感じの中年男性である。幼なじみで漁師のボンヨン(キム・ソンギュン)によると、高校の頃から詩にしか興味のない変わった男だったらしい。済州島の詩のサークルに参加しており、自作を朗読するシーンがある。耽美的な作風を持つが、「美しいだけが詩ではない」と批判されて不貞腐れながら帰路に就くテッキ。
妻のガンスンは下ネタ好きで、詩人の妻らしくない開けっぴろげな性格だが、子どもを望むようになっている。結婚した当初は二人でもいいかと思っていたが、年齢的に最後のチャンスということで夫にせがむ。テッキは余り積極的にはなれない。

夫婦で診察を受けたところ、ガンスンは年齢に比べると胎内も綺麗で問題はなさそうとのことだったが、テッキは乏精子症と診断される。健康な男性に比べて精子の数が少なく、女医によると少ない精子も「怠け者」だそうである。女医は、テッキの職業が詩人と知って、「じゃあストレスの少ない仕事ですね」と発言するなど、いちいちテッキの気に触るようなことを言う。

テッキの家の近くにドーナツ屋がオープンする。テッキは、店先で店員の美少年、セユン(チョン・ガラム)を見かけ、不思議な気持ちにとらわれる。

セユンのことが気になり始め、「自分は同性愛者だったのか?」と驚くことになるテッキ。

同性愛っぽくなるところもないではないのだが、「おっさんずラブ」だとかBLだとかとは違った路線の映画である。テッキもセユンも両親からは余り愛されていないという共通点がある。セユンの父親は病気で寝たきりであり、母親は金にがめつく、情が深いタイプでもない。セユンは高校を中退してドーナツ屋でアルバイトをし、夜は悪友達と飲み歩くという生活を続けていたが、そのことを母親からなじられている。
テッキは父親を早くに亡くしている。父親との関係についてはよくわからないが、母親とは余り上手くいっていないようである。
そんな肩身が狭い、相似形の二人の物語である。

テッキはセユンとの新しい生活を試みるが、世の中の常識に負け、「あるべき家庭人像」の前に屈することになる。詩人としての敗北。ソウルならともかくとして、ここは観光が売りの、革新性とは無縁の島、済州島である。上手くいくわけはない。

数年後、テッキは名誉ある詩人賞を受賞。子どもも産まれて、子どもの1歳の誕生日を民族衣装を着けた一族全員が祝う。そんな伝統的な幸福の中にあって、テッキは破れなかった常識と築けなかった「新しい生き方」にふと涙することになる。

正直、余り良い映画だとは思わなかったが、「ありきたりの生き方」の桎梏から逃れようとして叶わなかった詩人の喪失感を描いた映画として、文学的側面からは一定の評価が出来るように思う。映画でなく小説だったら、もっと良いものになったのではないだろうか。

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2020年10月22日 (木)

これまでに観た映画より(220) 「愛と、死を見つめて」

2006年4月8日

DVDで韓国映画「愛と、死を見つめて」を観る。アン・ジェウク、イ・ウンジュ主演。ほぼ同じタイトルの書簡集が、かつて日本でベストセラーになり、それを基にしたドラマが最近リメイクされたが(「愛と死をみつめて」。草彅剛、広末涼子主演)関係は全くない。

映画のメイクアップアーチストをしているヨンジェ(イ・ウンジュ)は27歳の若さで胃ガンを患い、常に死を意識して生きている(イ・ウンジュにはこういう不幸な役しか来ないのだろうか?)。ある日、助監督をいびる監督の態度に激怒して暴言を吐いたヨンジェは助監督ともどもクビになってしまう。すぐには職が見つからず、仕方なくホステスを始めたヨンジェは客としてきていた医師のオソン(アン・ジェウク)に自分が胃ガンであることを見破られ……。

ある日本映画のリメイクなのだが、実は契約の手違いで日本側の許可を取らないまま映画は完成してしまった。そのためか日本未公開映画となっている。

基本的には悲劇なのだが、笑えるシーンもあり、ヨンジェの死の場面を描かないことで、後味爽やかな映画になっている。くさいセリフも笑いとして生きており、この手の映画にありがちなお涙頂戴路線とは一線を画している。優れた映画ではないかも知れないが、一見の価値あり。

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2020年9月 5日 (土)

これまでに観た映画より(203) シム・ウナ主演「インタビュー」

2005年11月16日

韓国映画「インタビュー」を観る。主演は、元韓国のトップ女優シム・ウナ。そして「イルマーレ」、「純愛譜」のイ・ジョンジェ。

映画監督のチェ・ウンスク(イ・ジョンジェ)は、様々な人々の恋愛に関するインタビューをまとめた映画を作ろうとしている。ある日、女優のクォン・ミンジュン(クォン・ミンジュン。本人役での出演)へのインタビューを申し込んだADが、たまたま一緒にいたミンジュンの友人イ・ヨンヒ(シム・ウナ)のインタビューも一緒に撮ってくる。美人だが地味で影のあるヨンヒにウンスクは一目で惹かれ……。

事前にパソコン通信などで出演者を募り、その人自身の恋愛話の数々を収録。シム・ウナ以外の人々へのインタビューはノンフィクションである。

ただ、知らない人の恋愛話というのは退屈なもので、本人達にとっては素敵な話なのかも知れないが、客観的に見るとそうでもない。単なるのろけや自慢話が続く。

そこへ、イ・ヨンヒへのインタビューという形でフィクションが紛れ込んでくるという仕掛けである。

ヨンヒの話はほとんどが嘘であり、時間が経つに連れて真相が明らかになっていくという展開。ヨンヒの恋愛話も特に目新しいものではないが、ノンフィクション場面の出演者達が得意になって答えているのに比べると、好感が持てる。それがこの映画の狙いなのでそれは当然である。

バレリーナを夢見ていたヨンヒ。しかし恋人に死なれ、魂の抜け殻のようになっている。そんなヨンヒにウンスクは急速に惹かれていくのだが、誰の目にもウンスクがヨンヒに恋をしたのは明らかであり、分かり易すぎるのは難点かも知れない。もっと葛藤のようなものも欲しい気がする。

ウンスクがパリに留学していた時期に撮った映画に、フランス人女性が死んだ恋人の墓の前で苦悩を一人語りする場面が登場する。かなり嘘くさいシーンだが、何と全く同じセリフをヨンヒが言う場面があり、こちらは聴き手としてカメラを持ったウンスクが目の前にいるので一人で悲劇のヒロインを気取っているようには見えず、こちらの胸に迫ってくるものがある。同じセリフでも場面設定によって真実味が異なるということを示したかったのであり、ある程度成功しているように見える。

場面の重複や前後する時間などの技法も用いられているが、成功と失敗が半々といったところだ。

舞踏を学んでいたシム・ウナのダンスシーンや映像や風景の美しさなど見所は多い。ただ心理的な動きはあってもそれがダイナミックなドラマへと発展することはないので物足りなく感じる人も多いような気がする。

現時点でシム・ウナ最後の映画出演作であり、彼女が好きな人は必見。芸術映画に興味がある人も観ておいた方がいいだろう。ただストーリー性のあるドラマティックな恋愛ものが好きな人にはあまりお薦め出来ない。

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2020年7月14日 (火)

これまでに観た映画より(192) 「子猫をお願い」

2005年7月5日

DVDで韓国映画「子猫をお願い」を観る。監督は女流監督:チョン・ジェウン。出演は、ペ・ドゥナ、イ・ヨウォン、オク・チヨン、イ・ウンシル、イ・ウンジュ(2005年に自殺した有名女優と同じ名前であるが別人である。イ・ウンジュとイ・ウンシルは実の双子)、オ・テギョンほか。

高校を出た20歳前後の女の子5人の青春ストーリー。ただし、かなり暗めである。

仁川の商業高校を出たものの、韓国の厳しい学歴社会に阻まれ、5人のうち4人は仕事に就くことができなかった。双子の姉妹、オンジョ(イ・ウンジュ)とピリュ(イ・ウンシル)はマーケットなどをやってそれなりに楽しくやっているようだが、テヒ(ペ・ドゥナ)は実家の料理店で働き、脳性麻痺の青年の作る詩を代筆するボランティアをしている。ジヨンは家が貧しいためデザインの勉強をすべく海外留学を希望するも叶わず、両親もいないため就職も出来ないでいる。

一人、ソウルの大手の証券会社に就職し、若いということもあってチヤホヤされていたへジュ(イ・ヨウォン)も大卒の優秀な人材が入ってくると次第に男性社員も遠ざかっていき、尊敬する女性上司から「学位がないと一生雑用係よ」と言われ、社会の苦さを味わう。

蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督作品並みに苦い味わいを持つ 画なのだが、女性が監督したということもあってか、まだ何とか救いを感じることが出来る。

ラストは夢へ向かっての旅立ちなのか、それともさらなる転落が待っているのかわからないが、とにかく一歩を踏み出したという明るさは感じることが出来る。テヒを演じるペ・ドゥナは日本人的な顔立ちで、吉本興業の武内由紀子にどことなく似ている。

携帯メールやタイプライターなどの文字をスクリーン上に堂々と映し出す演出が面白い。また韓国映画に多いことだが、この作品でも省略が多く、場面が飛ぶ箇所がある。

韓国の若い世代の現実を知る上で興味深い作品である。映画としてのクオリティが十分でないような場面もあるが、ほろ苦い青春映画として一見の価値がある。

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2020年7月 8日 (水)

これまでに観た映画より(187) 「ブラザーフッド」

2005年6月20日

DVDで「ブラザーフッド」を観る。朝鮮戦争を舞台とした韓国映画。チャン・ドンゴン、ウォンビン主演。イ・ウンジュがチャン・ドンゴン演じるジンテの恋人ヨンシン役で出ている。

とにかく戦闘シーンがもの凄い迫力だ。人海戦術にCG、特撮、スタントを駆使して阿鼻叫喚の世界を現出してみせる。

同じ民族でありながら、時には同じ韓国人でありながら疑い合い、殺し合わなければならない人間の愚かしさを、これでもかというほどに熱いタッチで描く。チャン・ドンゴン演じるジンテとウォンビン演じるジンソクの兄弟愛の強さ。韓国人の血に対する思いに心打たれる。悔しいが、こういったタイプの映画は日本人には撮ることは出来ないだろう。韓国人を語る時に必ず出てくる「恨(ハン)」の成せる技だ。

イ・ウンジュは共産主義者との関係を疑われ、味方であるはずの韓国人の手によって無惨に撃ち殺されてしまう役。彼女はこうした不幸な役が多い。幸せな役を演じる彼女をもっと観てみたかった。

映画の中でも語られるように、人間を不幸にしても構わないほど思想とは大切なものなのか、と深く考えさせられる。

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2020年5月 4日 (月)

これまでに観た映画より(170) 「カル Tell me something」

※この記事は2004年9月17日に書かれたものです。

DVDで韓国映画「カル Tell me something」を観る。チャン・ユニョン監督作品。東京でサラリーマンをしていた頃に買ったもの。

謎が謎を呼ぶ迷宮映画である。気絶した人間を生きたまま切り刻んで血が噴き出したり、ゴミ袋から生首が飛び出したりするシーンがあるので心臓の悪い方は注意されたし。

主演は韓国のトップスター、ハン・ソッキュ(韓石圭)とシム・ウナ(沈銀河)。

チョ刑事を演じるハン・ソッキュが格好いい。そしてシム・ウナも美しい。こういう女性が猟奇的な部分を見せると怖い。幽霊役と殺人鬼役は美女に限る。もっとも、この映画ではシム・ウナ演じるチェ・スヨンが異常者であることは、仄めかされるだけで直接的には描かれていない。

次から次へとバラバラ死体が発見される。怪しいと思われた男もバラバラ死体となって見つかる。皆それぞれ体の一部が無くなっている。

最後に首のない縫合死体が見つかる。首はおそらく、チョ刑事のものを載せる予定だった。少なくともチョ刑事はそう思っていることがわかる。

韓国で公開時、観客はこの映画の主犯は誰で何を言いたかったのかを皆で推理しあい、何度も映画館に足を運んだそうで、興行的には大成功した。映像はスタイリッシュであり、またアジア映画の弱点として音楽や音の使い方が下手というの点が上げられたのだが、この映画は本当に音と音楽の使い方が巧みである。特にエンヤのヴォカリーズ曲「Boadicea」の使い方は絶妙だ。韓国でよく起こる贈収賄事件を始め、警察の不祥事、盗聴・盗撮問題、児童虐待などにも触れている。

本当に「Tell me something」で何が何だかわからない部分があるが、わけのわからない怖さがあるのも確かである。

チョ刑事を車で轢こうとしたのはおそらくスヨンであろう。影から見てもこれはほぼ間違いないと思われる。

ただ写真に何が写っていたのか、子供の死はどういう関係があるのかないのかはっきりしない。

スヨンが父親から虐待されたことでおかしくなったことや、同性愛者であることなどは、はっきり示されてはいないが何となくわかる。

死体を切り刻んでいたスンミンは最後は全ての罪を自分で被ろうとしたのだろうか? スヨンを殺して自分も死のうと。

黒沢清の映画にも通じるところがあるのでネオクロサワファンは必見である。

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2019年12月16日 (月)

これまでに観た映画より(148) 「完璧な他人」

2019年12月11日 京都シネマにて

京都シネマで、韓国映画「完璧な他人」を観る。イタリア映画「おとなの事情」のリメイク。監督:イ・ジェギュ、出演:ユ・ヘジン、ヨム・ジョンア、チョ・ジヌン、キム・ジス、イ・ソジン、ソン・ハユン、ユン・ギョンホ。

幼馴染み4人とその妻が、新居完成祝いに集まり、自分達の間に秘密はないとして、互いのスマホに掛かってくる電話やメールを公開する(電話はスピーカーモード使用、メールは読み上げソフトを使う)という、誰がどう考えてもやらない方がいい「ゲーム」を始めてしまったがために起こるシチュエーションコメディ。喜劇ではあるが「俯瞰で見ると」という喜劇で、かなりビターな味わいのある大人のための作品である。そして、出演者がやらずもがなのことをするたびに客席から「あー!」といったような叫びが起こる。このスクリーンと客席との絶妙の一体感。映画館で観るべき作品といえる。

登場する男性達は全員同級生の45歳という設定であり、今の私と丁度同い年だ(韓国は数え年なので厳密に言うと少し違う)。全員がミッドライフクライシスを抱えており、家庭、男女間、仕事などでそれぞれが問題に直面している。

ソクホ(チョ・ジヌン)とイェジン(キム・ジス)は医師同士の夫婦である。ソクホは「韓国の東大」として日本でも知られるソウル国立大学校医科大学出身の美容外科医、イェジンは精神科医である。二人には二十歳になる娘がいるが、イェジンは二十歳はまだ子どもだとして娘が男性と付き合うことに猛反対している。ちなみにソクホもイェジンとの結婚をイェジンの父親に猛反対されたらしく、職場に乗り込んでの嫌がらせをされたりもした過去があったようだ。

テス(ユ・ヘジン)もソウル国立大学校のおそらく法科大学出身で弁護士。亭主関白である。二人の高校時代の恩師からの電話も入るのだが、「ソウル国立大学校に入るという快挙」というセリフがあるため、二人の出身大学がわかる。テスの妻・スヒョン(ヨム・ジョンア)は専業主婦だが、文学講座に通っており、韓国の有名詩人の詩をそらんじている。

ジュンモ(イ・ソジン)はレストラン経営者だが、これまで様々な事業で失敗を重ねており、学歴面で皆に及ばないことでコンプレックスを抱いていることを告白するセリフがある。また、カンボジアでタピオカのビジネスを始める計画を語って、皆から一笑に付される場面もある。かなりのプレイボーイで女性に不自由したことはない。妻のセギョン(ソン・ハユン)は獣医だが、これまたいかにも男にもてそうなタイプであり、さりげない嫌みで場の空気を掻き乱すのを得意としている。

校長の息子で、教員を辞めたばかりのヨンベ(ユン・ギョンホ)は、バツイチであり、新しい恋人を連れてくると言ったが、風邪で寝ているということで一人で来る。いかにもわけありそうで、実際のところ多くの人が予想するであろう通りの結果なのだが、とある事情でテスとスマホを交換することになり、そのことがあらぬ疑いを招く結果となってしまう。
なお、ヨンベが新居完成祝いとして大量のトイレットパーパーを持ってくるシーンがあるが、韓国ではトイレットパーパーを送ることは「末永く幸せが続くことを祈る」という意味があるそうで、新居完成や引っ越し祝いの定番だそうである。日本人が見ると奇異に感じるが、ヨンベがおかしなことをしているというわけではない。

男性と女性とでは、そもそも脳の仕組みが違うというセリフがあり、それぞれがスマートフォンに例えられるのだが、男性はAndroidで、「安くて効率が良くてアップデートしないと使い物にならない」、女性はiPhoneで、「美しくて機能的だが高くて互換性がなく、生意気」らしい。ちなみスマホの世界シェアトップはサムスンで、当然ながら韓国ではAndroidが主流である。

ということで、ソクホのスマホには娘から「彼氏と一夜を共にしたい」という内容の電話が入り、スヒョンのスマホには文学講座の仲間から電話が入るのだが、影でイェジンに対する悪口雑言を並べていることがバレてしまう。イェジンには実父からの電話があり、イェジンの手術を夫のソクホに任せることはまかり成らんというお達しがある。イェジンの父親が今もソクホのことを馬鹿にしていることもわかる。
セギョンには元彼からの電話がある。ジュンモは「俺は元カノの電話には出ない」と怒るが、元彼が愛犬の対処法を頼んでいるということで、スピーカーモードでの施術が行われる。だが、下のことであるため、妙な雰囲気が漂ってしまう。

ソクホの投資へ失敗、ジュンモの部下との浮気(更に他の女性とも浮気をしている)、ヨンベが教師を辞めたわけなど、人生の真ん中に差し掛かった男と女の「よくあるが深刻な危機」が描かれており、秘密にして誰にも明かしていない部分ということでよそ目には「完璧な他人」であるが、内情は誰もが経験する可能性のあることであり、特に私は彼らと同世代ということで、「あり得たかも知れない自分」を彼らの中に見出すことになった。そう感じる人は私一人だけではないはずで、彼らは全員「あなたに似た人」でもある。
暴露だけではなく、勘違いが勘違いを生むというシチュエーションコメディの王道を行く展開もあり、「面白ろうてやがて悲しき」悲喜劇となっている。

国家戦略として映画に国を挙げて取り組んでいる韓国。この映画でも思い切ったアングルを用いたり、他のものに託して心理描写を行うなど意欲的な仕上がりとなっている。

 

2005年に自殺してしまった女優、イ・ウンジュの最後の連続ドラマとなった「火の鳥」(2004)で相手役を務めていたイ・ソジン。最初はイ・ソジンじゃ笑っちゃうということだったのかイ・スジン表記だったがまあそれはいい。アメリカで演技を学んだ本格派で(当初は映画監督志望だったが両親に反対されたため、俳優の道に進んでいる)インテリを演じることが多かったのだが、この映画では女の敵ともいうべき遊び人役であり、ものにしている。

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