コンサートの記(674) 「京都市交響楽団 クリスマスコンサート」2020
2020年11月20日 京都コンサートホールにて
午後3時から京都コンサートホールで、「京都市交響楽団 クリスマスコンサート」を聴く。
メインはレイモンド・ブリッグズ原作の無声アニメーション「スノーマン」(1982年制作)のフィルムコンサートであり、主に子ども向け、親子向けのコンサートである。「スノーマン」のフィルムコンサートは、以前にも京都市交響楽団のオーケストラ・ディスカバリーで園田隆一郎の指揮によって上映されたことがあり、好評を受けての再演ということになったのだと思われる。
今日の指揮者は広上淳一門下の関谷弘志。知名度はそれほど高くないが、「三度の飯よりクラシック音楽が好き」という人なら名前ぐらいは知っているという指揮者である。
関谷弘志は、元々はフルート奏者で、パリのエコール・ノルマルでのフルート科を卒業し、大阪センチュリー交響楽団(現・日本センチュリー交響楽団)のフルート奏者として活躍した後に東京音楽大学の指揮科に入学し、広上淳一と三石精一に師事している。
これまでに仙台フィルハーモニー管弦楽団副指揮者、オーケストラ・アンサンブル金沢の専属指揮者などを経て、現在は同志社女子大学学芸学部音楽学科講師(吹奏楽担当)を務めている。
曲目は、第1部「ファンタジック・メロディ」が、ルロイ・アンダーソンの「そりすべり」、「忘れられた夢」、「フィドル・ファドル」、J・S・バッハ/グノーの「アヴェ・マリア」(オーケストラ編曲者不明)、チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」から“花のワルツ”。第2部が、ハワード・ブレイクの音楽による「スノーマン」フィルムコンサートだが、途中休憩はなく、上演時間約1時間に纏められている。
今日のコンサートマスターは泉原隆志、フォアシュピーラーに尾﨑平。ドイツ式の現代配置による演奏だが、「スノーマン」の上映のため、ステージは管楽器奏者が一段高くなっているだけで、高さは抑えられている。
今日も客席は前後左右1席空けのソーシャルディスタンス対応布陣となっていた。見切れ席は販売されていないため、集客も抑え気味であるが、それに指揮者の知名度などを加えて勘案すると入りはまあまあといったところである。
関谷弘志の指揮するルロイ・アンダーソン作品は、色彩豊かではあるが表情はやや堅め。昔、ドイツのオーケストラが演奏したルロイ・アンダーソン作品のCD(正確に書くと、ピンカス・スタインバーグ指揮ケルン放送交響楽団のCDである)を聴いたことがあるが、それに少し似ている。もう少し洒落っ気が欲しいところである。
関谷弘志は、マイクを両手に持って自己紹介と京都市交響楽団の紹介をし、客席に向かって「コロナ禍にお集まり下さったことに感謝致します」と述べた。
J・S・バッハ/グノーの「アヴェマリア」は、沼光絵理佳のピアノ・チェレスタでバッハ作曲の伴奏(元々は伴奏ではなく、平均律クラーヴィアのプレリュードという独立した楽曲である)が奏でられた後に泉原のヴァイオリンがグノー作曲のメロディーをソロで奏で始めるという編曲で、弦楽合奏にホルンとファゴットが加わり、フルートがソロを奏でて全楽合奏に到るというものである。
チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」より“花のワルツ”も華やかさには欠け気味だったがきちんと整った演奏になっていた。
第2部「スノーマン」。映写は京都映画センターが行う。上映時間は約26分。映像に演奏を合わせるのは難しく、時折、音楽が先走ったりする場面もあったが、全般的には状況によく合ったテンポと描写による演奏を行っていたように思う。関谷の指揮する京響の音色もアニメーションの内容にピッタリであった。「ウォーキング・イン・ジ・エア」のボーイソプラノを務めるのは京都市少年合唱団の谷口瑛太郎(一応、カヴァーキャストとして稲葉千洋が控えていたようである)。美しくも幻想的な歌声を聴かせ、「スノーマン」の空中飛行の場面を彩った。
「スノーマン」はキャラクターはよく知られているものの、内容は誰でも知っているという類いのものではないが、男の子が雪の日に自分で作り上げたスノーマン(雪だるま)と共に空を舞いながら冒険の旅に出掛けるという物語である。レイモンド・ブリッグズの絵のタッチが愛らしく、雪景色の描写の美しさとファンタスティックな展開(子どもの頃に映画館で「大長編ドラえもん」シリーズを観た時の心持ちが思い出される)、そしてラストなどが印象に残る。
アンコール演奏は、藤岡幸夫司会の音楽番組「エンター・ザ・ミュージック」(BSテレ東)のオープニング楽曲としても知られるようになった、ルロイ・アンダーソンの「舞踏会の美女」。関谷もフィルムコンサートの指揮という大仕事を成し遂げた後であるためか、今日聴いたルロイ・アンダーソン作品の演奏の中でも最もリラックスした感じのチャーミングな仕上がりとなっていた。
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