カテゴリー「書籍紹介」の77件の記事

2024年9月 3日 (火)

NHK特集ドラマ「ももさんと7人のパパゲーノ」(再放送)+伊藤沙莉フォトエッセイ『【さり】ではなく【さいり】です。』より

2024年8月23日

「そうやってフェードアウトできたら楽かもしれない、怖いけど」(伊藤沙莉『【さり】ではなく【さいり】です。』より)

NHK総合で、深夜0時45分から、特集ドラマ「ももさんと7人のパパゲーノ」の再放送がある。2022年放映の作品。伊藤沙莉は、主人公のももに扮しており、この作品で令和4年文化庁芸術祭で放送個人賞を受賞している。パパゲーノというのは、モーツァルトの歌劇(ジングシュピール)「魔笛」に登場するユーモラスな鳥刺し男だが、絶望して首つり自殺を図ろうとする場面があることから、「死にたい気持ちを抱えながら死ぬ以外の選択をして生きている人」という意味の言葉になっている。自殺願望を抱えている人を周りが救った例をメディアが取り上げて自殺を抑止することを「パパゲーノ効果」といい、NHKは「わたしはパパゲーノ」というサイトを開設して、寄せられたメッセージを読むことが出来る他、自身で投稿することも出来るようになっている。
冒頭に掲げた言葉は、伊藤沙莉に自殺願望があったという意味ではないが、芸能生活が上手くいかなくなった時期の気持ちを表したもので、彼女の失意がストレートに出ている。

出演は、伊藤沙莉のほかに、染谷将太、山崎紘菜、中島セナ、橋本淳、野間口徹、平原テツ、池谷のぶえ、堀内敬子、浅野和之ほか。語り:古舘寛治。
作:加藤拓也、演出:後藤怜亜。精神科医療考証:松本俊彦(国立精神・神経医療研究センター 精神科医)、自殺対策考証:清水康之(NPO法人 自殺対策支援センターライフリンク代表)

ももが路上で寝転がり、「死にてー」というつぶやくシーンからドラマは始まる。
埼玉県川口市出身で都内で一人暮らししているOLのもも(伊藤沙莉)は、一緒にカラオケなどを楽しむ友人がおり、仕事も余り良い仕事ではないかも知れないがそこそこ順調。セクハラを交わす術も覚えて、陶芸など打ち込む趣味(伊藤沙莉の趣味が陶芸らしい)もあり、一般的と言われる人生を送っていた。
しかし、ある日、ももはオーバードーズ(薬物大量摂取)をしてしまい、救急車で病院に運ばれる(薬が病院で貰ったものなのか、また一人暮らしで意識のないももがどうやって救急車を呼んだのかは不明。だが事件を起こした後で、精神科に通い始めたことが分かるセリフがある)。自分に自殺願望があったことに気づくもも。死にたい気持ちを抑えるために、カッターナイフで足の甲を傷つけるレッグカットを行うようになってしまう。

特に好きではないが断る理由もない男から交際を申し込まれ、OKするももだったが、彼のSNSを見て余りの寒さに地雷臭を感じる。それでも一緒に部屋で暮らす時間を作るほどには親しくなるが、足の甲の傷を見つけられてしまい、説教される。一方的なメッセージにももは別れを決意する。
翌朝、出社するために電車に乗ったももだが、途中下車して休んでいるうちに気分がどんどん悪くなってしまい、会社に休むとの電話を入れる。その後もももは駅のベンチから動くことが出来ない。結局、ももは会社を辞めることを決意。SNSで「辛いけど楽しいことをしている人」を募集し、メッセージをくれた人に会いに行く。
ももはパパゲーノと出会う旅に出掛けることになる。

ももは自殺願望はあるものの、端から見るとそれほど強い動機には見えないため、そのため却って葛藤する。「たいしたことないよ」という風に言われるため、助けを求めることが出来ないのだ(「私が苦しいって思ってるんだから苦しいんだよ。貴様に何が分かる。くらいまでいく時はいく」『【さり】ではなく【さいり】です。』より。実はこの後、オチがあるのがお笑い芸人の妹らしい)。

セクハラを拒否したことで村八分にされ、IT会社を辞めて農業をする女性(玲。演じるのは山崎紘菜。たまたまももの同級生だった)と出会ったももは、宿を確保していなかっため、近所の家に泊めて貰おうとするという「ロケみつ」的展開となるが、早希ちゃんより可愛くないためか…、あ、こんなこと書いちゃ駄目ですね。ともかく断られ、テントがあると教えられてそこで野宿生活を送ることになる。

喫茶店で待ち合わせた雄太(染谷将太)と出会うもも。雄太は保育士のようなのだが、ももの影響を受けて仕事を辞めてしまう。ももは一人で旅したかったのだが、結果として雄太はももと二人で過ごす時間が増え、二人でアルバイトなどをしてお金を稼ぎながら旅を続ける。
その後も、トランペットに挫折した女子高生、もともとろくに働いていなかったが年を取って仕事に就けなくなった男性、仕事は苦手だが妻子を養うために辞められない男性、何をするでもなく生きている男、山口(浅野和之)らと出会い、様々な人生観に触れながらももは生きていく決意をする。

伊藤沙莉は、NHK連続テレビ小説「虎に翼」で、現在40代になった主人公の佐田寅子を演じており、40代の演技をしているため、20代前半を演じている「パパゲーノ」とはギャップが凄い。丸顔で童顔なため、今回は実年齢より若い役だが違和感はない(最近痩せてきているのが気になるところだが)。
比較的淡々と進む作品だが、そのなかで微妙に変化していくももの心理を伊藤沙莉が丁寧かつ自然体の演技で表している。

先進国の中でも自殺率が特に高い国として知られる日本。基本的に奴隷に近い就業体制ということもあるが、生きるモデルが限定されているということもあり、しかもそこから外れるとなかなか這い上がれない蟻地獄構造でもある。実際のところ、ももも何の展望もなく会社を辞めてしまったことを後悔するシーンがあり、「一人になりたい」と雄太に告げ、それでもその場を動かない雄太に、「一人になりたいの! なんで分からないの!」と声を荒らげてもおり、どこにも所属していない自分の不甲斐なさに不安を覚えてもいるようだ。
それでも自分だけがそんなんじゃないということに気づき、歩み始める。まっすぐに伸びた道を向こうへと歩き続けるももの後ろ姿を捉えたロングショットが効果的である。


引用があることからも分かるとおり、遅ればせながら伊藤沙莉のフォトエッセイ『【さり】ではなく【さいり】です。』(KADOKAWA)を買って読む。伊藤沙莉自身があとがきに「文才なんて全く持ち合わせておりません」と記しており、口語調で、Webに書き込むときのような文章になっているのが特徴。読点がかなり少なめなのも印象的である。文字数も余り多くなく、読みやすい。くだけた表現も多いので、ライターさんは使っていないだろう。お芝居以外は「ポンコツ」との自覚があるため、この人が演技にかけている演技オタクであり、結構な苦労人であることも分かる。出てくる芸能人がみんな優しいのも印象的(態度の悪いスタッフに切れるシーンはあるが、無意識にやってしまい、後で落ち込んでいる)。基本的に伊藤沙莉は愛されキャラではあると思われるが、この手の人にありがちなように悪いことは書かないタイプなのかも知れない。

ちょっと気になった記述がある。子役時代に連続ドラマ「女王の教室」に出演して、主演の天海祐希に金言を貰ったという、比較的有名なエピソードを語る場面だ。これに伊藤沙莉は、天海祐希の言葉を長文で載せ、「『A-studio+』でも言わせて頂いたが完全版はこれだ」と記しているのである。さらっと記しているが、長文で記された天海祐希の言葉は天海が実際に話した言葉を一言一句そのまま書き記したものだと思われる。ということで、伊藤沙莉は人が言った言葉をそのまま一発で覚えて長い間忘れないでいられるという異能者であることがここから分かる。他にも様々な人のセリフが出て来て、長いものもあるが、「だいたいこんな感じ」ではなく、言われた言葉そのままなのだろう。やはり彼女は並みの人間ではないということである。あとがきで伊藤は、「昔から記憶力だけはまあまあ良くて だったらそれをフル活用してやんべ(語尾が「べ」で終わるのは「方言がない」と言われる千葉県北西部地方の数少ない方言で、彼女が千葉県人であることが分かる)」と記しているが、「まあまあ」どころではないのだろう。彼女が挙げた膨大な「何度も観るドラマや映画」のセリフもかなり入っている可能性が高い。

「なぜこの人はこんな演技を軽々と出来てしまうのだろう」と不思議に思うことがあったが、本人の頑張りもさることながら(観て覚えて引き出しは沢山ある)、やはり持って生まれたものが大きいようである。実兄のオズワルド伊藤が妹の伊藤沙莉のことを「天才女優」と呼んでいるが、身贔屓ではないのだろう。

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2013年4月28日 (日)

前田健太 『エースの覚悟』(光文社新書)

今や広島東洋カープのエースのみならずセントラル・リーグのエース、そして日本を代表するエースの一人にまで成長した前田健太。そんなマエケンこと前田健太の投球する際の心がけや、2012年に達成したノーヒットノーランのこと、少年時代の回想、見たり接したりしたプロ野球の選手の姿などを綴ったのが本書『エースの覚悟』(光文社新書)です。

前田健太 『エースの自覚』(光文社新書)前田投手の特徴の一つとして、子供の頃からコントロールに苦労したことがほとんどないということが挙げられます。普通はプロになる投手でもスピードはあってもコントロールがない、コントロールがあっても球威がない、あるいはスピードもコントロールも思うようにいかないところからスタートすることがほとんどなのですが、前田投手の場合はコントロールで苦労したことがないので、スピードを上げることだけに専念出来たということは大きいと思います。前田投手は子供の頃から「プロ野球選手になるのが当たり前」だと思っていたそうですが、コントロールが抜群だったので、自分が投手をやることに疑問を持たなかったのでしょう。しかし、それでもPL学園高校時代には、大先輩の桑田真澄投手の球を受けていたOBが捕手をかってでたりして、「桑田ならここに10球来たぞ」と、伝説的なコントロールの持ち主を比較に出されて、自然にコントロールの精度を高めることが出来るという幸運にも恵まれていたようにも思います。

前田投手はスピードとコントロールは抜群でしたが、変化球を投げるには苦労したようで、スライダーなどは他のピッチャーが絶対にやらないような握りで独自のものを投げます。前田投手の信条として、他の選手の話を聞いたりはするけれど、全てを受けいれるということはないということが挙げられます。何でも取り入れてやろうという良く言えば研究熱心になりますが、悪く言えば思考停止的な面がなく、柔軟な発想が出来る選手であることがわかります。また「僕はまだ全盛期じゃない」といつも自分に言い聞かせており、WBCでベストナインに選ばれても、更に上を追求しようとする姿勢に好感が持てます。

広島東洋カープは13年連続Bクラスが続いており、前田投手は日本シリーズはおろか、クライマックスシリーズでも投げたことがなく、「いい経験をしていない」という自覚が投手タイトルをいくつも受賞しながら、もっと上を目指す原動力になっていることは確かです。

また、阿部慎之助、アレックス・ラミレス、坂本勇人、井端弘和、稲葉篤紀、糸井嘉男といった相手に対する評価、そして田中将大、澤村拓一、斎藤祐樹、吉川光夫といった同じ1988年生まれのプロ野球投手への思いを窺うことも出来る一冊です。

前田健太 『エースの覚悟』(光文社新書) honto

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2010年4月 2日 (金)

木村幸比古 『25通の手紙で読む龍馬の肉声』(祥伝社新書)

現存する130余通が重要文化財に指定されている坂本龍馬の手紙。その中から25通を選び、活字にて紹介しているのが本書『25通の手紙で読む龍馬の肉声』(祥伝社新書)です。

『25通の手紙で読む龍馬の肉声』(祥伝社新書)

龍馬自身が「天下無二の軍学者」と呼ぶ勝海舟に弟子入りして、「エヘンエヘン」と得意になっている有名な手紙から、四国艦隊下関砲撃事件(下関戦争。馬関戦争)の際、異国船の修理を幕府が手伝っていることを知り、「日本を今一度せんたくいたし申候」という有名な一説で憤ってみせた手紙、妻となるお龍を姉の乙女に紹介する手紙やお龍とともに新婚旅行に出かけた霧島の様子をスケッチ入りで記した手紙、寺田屋で幕吏に襲われ、銃撃戦になった時のことを活劇さながらに描写した手紙など、坂本龍馬という男の人となりについて触れることのできる手紙の数々が紹介されており、龍馬ファン、幕末ファンならずとも興味深い一冊になっています。

『25通の手紙で読む龍馬の肉声』(祥伝社新書) bk1

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2010年2月 5日 (金)

『もういちど読む山川日本史』(山川出版社)

山川出版社から出ている『もういちど読む山川日本史』を紹介します。かなり売れている本らしいです。

Img

高校の日本史教科書を社会人用に書き直したという『もういちど読む山川日本史』。

山川の日本史教科書といえば定番中の定番。私の高校の日本史教科書は山川のものではなかったのですが、大学受験用に山川の日本史教科書も読みました。

私より少し下の世代では、日本史は選択科目になってしまったようですが(当時の文部省から日本史が嫌われていたためだといわれています。当時、新しい歴史教科書をつくる会などが表に出てきていて、それまでの日本史教科書が自虐史観に基づくものだと攻撃されていました)、日本人が日本史を知らないというのは恥以外の何ものでもないと私は考えます。

改めて読み返してみて、当時は知識としてしか理解していなかった問題を、切実なものとして感じるようになっている自分を感じました。新たな歴史を生み出す宿命にある我々にとって必読の書といえるのかも知れません。

『もういちど読む山川日本史』(山川出版社) bk1

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2010年1月27日 (水)

『図解 日本の城 普及版』(西東社)

「歴女」という言葉が流行語大賞にノミネートされるなど、細く長く続いている歴史ブーム。中でも戦国時代は人気を呼んでいます。

私も戦国史は好きですが、そのきっかけは小学生の頃に城郭に興味を持ったことでした。

日本建築の美と技術が集結された城郭に魅せられる人は多いのですが、これから城郭について知ってみたいと思っている人に入門書としてまずお薦めしたいのが、西東社から出ている『図解 日本の城 普及版』です。

『図説 日本の城 普及版』(西東社)

城郭の発達と、その魅力である天守、石垣、縄張りなどの歴史と発展を図解でわかりやすく示してくれます。

日本を代表する城郭(松本城、姫路城、江戸城、名古屋城、大坂城、熊本城、宇和島城、彦根城、金沢城、会津若松城、松江城、岡山城、高知城)、東日本の代表的な城郭(五稜郭、小田原城、犬山城など)、西日本の代表的な城郭(二条城、和歌山城、福岡城、首里城など)の縄張りの特徴と歴史をこれ一冊で知ることが出来ます。

その他に城を知るための書籍やウェブサイトの紹介コーナーも充実したものでお薦めです。

『図解 日本の城 普及版』(西東社) bk1

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2009年10月12日 (月)

眞鍋圭子 『素顔のカラヤン』(幻冬舎新書)

音楽プロデューサー眞鍋圭子が書いた『素顔のカラヤン』(幻冬舎新書)という本を紹介します。

眞鍋圭子 『素顔のカラヤン』(幻冬舎新書) 著者は上智大学卒業後に東京藝術大学別科でチェロを学び、その後ドイツに渡って音楽を専攻、その間にカラヤンへの雑誌インタビューのインタビューアーとしてカラヤンの知遇を得、カラヤンが来日する際にはコーディネーター兼秘書を務めるなど、カラヤンを間近で見てきた人です。

眞鍋圭子の目から見たカラヤンは帝王という称号からは懸け離れた、音楽好きでナイーブな好々爺といったところ。巷間いわれている権力志向や財テクなどとも無縁の人物であります。

一人物には様々な側面があり、ここでは音楽を愛し、また日本と日本人を愛したカラヤンの穏やかな芸術家としての一面を窺い知ることの出来ます。

カラヤン自ら音響アドバイスを行ったサントリーホール開館までのエピソードや、大阪のザ・シンフォニーホールでの振り間違い事件の真実など、日本の音楽ファンに興味深い記述も多い一冊です。

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2009年8月30日 (日)

『教如上人と東本願寺創立』(東本願寺出版部)

本願寺は江戸時代(正確には織豊時代末期)東本願寺と西本願寺に分裂しました。従来、本願寺の東西分裂は本願寺の内部抗争に乗じた徳川家康の策謀という説が有力でしたが、それに異議を唱えているのが東本願寺出版部から出ている『教如上人と東本願寺創立』です。

『教如上人と東本願寺創立』(東本願寺出版部) 慶長7年(1602)に徳川家康から東六条の地を賜い、東本願寺を創立した教如上人。本願寺第十一世・顕如の長男として生まれた教如上人ですが、本願寺十二世となった直後に豊臣秀吉から弟の准如に位を譲るようにいわれ、隠退しました。しかし、実際には教如は本願寺十二世としての活動を続けており、大坂に大谷本願寺を築こうとするなど、表立っての活躍も目立っていました。

東本願寺の寺地を与えたのは徳川家康ですが、関ヶ原の戦いの前に、上杉景勝討伐のために下野国小山にいた家康を教如上人はわざわざ京都から訪ねており、関ヶ原の戦い後、天下人となった家康のもとにも教如は足繁く通っており、もともと教如自体が本願寺分派の意図を持っており、家康は教如の意志に応えただけなのではないかと本書は結論づけています。

従来の、本願寺分派は家康の陰謀だとする説に一石を投じる好著です。

『教如上人と東本願寺創立』(東本願寺出版部) bk1

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2009年8月16日 (日)

西原祐治監修 『わが家の仏教・仏事としきたり 浄土真宗』(日東書院)

お盆ですので、お墓参りをされる方も多いと思います。そこで今日は西原祐治監修による『わが家の仏教・仏事としきたり 浄土真宗』(日東書院)を紹介します。

西原祐治監修 『わが家の仏教・仏事としきたり 浄土真宗』(日東書院) 釈迦牟尼に始まる仏教の歴史と日本仏教史に続き、浄土真宗(真宗)の開祖である親鸞の生涯と著書そして親鸞の弟子である唯円の書いた「歎異抄」の紹介、「正信偈」などのお経の紹介、真宗十派の本山案内、浄土真宗における日々のおつとめと葬儀のやり方などが記されています。

「門徒もの知らず」といわれるように、浄土真宗の葬儀の仕方は独特で、例えば線香は立てずに折って寝かせたり、「冥福を祈る」という言葉を使わなかったりと、他の宗派の人からは風変わりだと見られることも多くあります。

浄土真宗の人は亡くなると同時に阿弥陀仏の国である極楽浄土に生まれ変わるという考え方をするので、死は忌むべきことではなく、浄めの塩なども用いません。

今日8月16日は京都の五山送り火の日で、5つある送り火にはそれぞれの宗派が割り当てられていますが、浄土真宗の送り火だけはありません。浄土真宗では人は亡くなると極楽に生まれ変わり、この世に霊となって帰ってくることはないと考えるためです。帰ってこないので送ることもしないのです。

西原祐治監修 『わが家の仏教・仏事としきたり 浄土真宗』(日東書院) bk1

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2009年8月14日 (金)

中川右介 『世界の10大オーケストラ』(幻冬舎新書)

音楽書を多く出しているアルファベータ社の代表取締役でもある中川右介の『世界の10大オーケストラ』(幻冬舎新書)。

中川右介 『世界の10大オーケストラ』(幻冬舎新書) 選ばれたオーケストラは、シュターツカペレ・ベルリン、ニューヨーク・フィルハーモニック、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、イスラエル・フィルハーモニック管弦楽団、フィルハーモニア管弦楽団、パリ管弦楽団。

世界の10大オーケストラにどの楽団を選ぶかは、それぞれに様々な意見があると思われますが、著者である中川右介は、彼自身が最もよく聴いた指揮者であるヘルベルト・フォン・カラヤンを軸に10のオーケストラを選んでいます。
シュターツカペレ・ベルリンは、カラヤンが初めてレコーディングを行ったオーケストラ、ニューヨーク・フィルハーモニックはライバルであるレナード・バーンスタインの手兵、ベルリン・フィルはカラヤンが芸術監督、ウィーン・フィルは母体であるウィーン国立歌劇場の総監督を務めており、フィルハーモニアは結成時にカラヤンが深く関わっています。その他の5つの楽団はカラヤンと疎遠だったということで特徴的なオーケストラが選ばれています。

オーケストラの歴史を辿るということで、当然、政治史や国家の背景が影響しています。例えばチェコ・フィルは政変の度に常任指揮者が亡命しており、政治の流れにオーケストラが無縁でないことがよくわかります。

またナチ党員だったカラヤンを軸に据えることで、当然ながらナチスドイツの問題も深く関わってきます。

音楽の書物でありながら、政治背景も追うことで、これまで余り知られてこなかったエピソードなども数多く記されることになりました。

音楽書ではないため、これを読めば音楽がよりわかるようになるというものではありませんが、音楽の背景にあるものを知ることで、音楽が歴史という縦軸の中で生まれたものであるということを確認することの出来る好著です。

中川右介 『世界の10大オーケストラ』(幻冬舎新書) bk1

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2009年8月 4日 (火)

山田太一 『異人たちとの夏』(新潮文庫)

山田太一の小説『異人たちとの夏』(新潮文庫)を紹介します。

山田太一 『異人たちとの夏』(新潮文庫) 基本的には怪談路線でありながら、人間の温かさと怖さの両方に触れることの出来る作品です。山本周五郎賞受賞作。

シナリオライターの原田英雄は、妻と19歳になる息子と別れたばかり。家を妻に譲ったので、仕事場として借りていたマンションの一室に移り住む。環状八号線沿いで少々やかましいそのマンションは主に事務所として使われており、夜になると人がほとんどいなくなってしまう。

ある日、ふと浅草に出かけた原田は、36年前に事故で亡くなった父にそっくりの男と出会う。誘われるままに男の住むアパートに行くと、そこには原田の母そっくりの女が待っていた…。

映画や舞台にもなっている作品です。映画の方はレンタルできるので観ることをお薦めします。秀作です。脚本は山田太一本人ではなく、市川森一が担当しています。

山田太一 『異人たちとの夏』(新潮文庫) bk1

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