これまでに観た映画より(436) 「国宝」
2026年6月12日
Amazon Prime Videoで、日本映画「国宝」を観る。昨年の6月に公開され、1年経った今も日本全国の映画館で上映され続けているという大ヒット作。興行収入は邦画史上ナンバーワンを記録している。
原作:吉田修一、監督:李相日。脚本:奥寺佐渡子。歌舞伎の世界を描いた作品であり、上方歌舞伎の家ということで京都や大阪でもロケが行われている。上方歌舞伎は1980年代に崩壊。多くの家が東京に移り、上方に残った歌舞伎俳優は僅かである。ただ東京在住であるが片岡仁左衛門は京都の人から「京都の歌舞伎俳優」と見なされており、中村鴈治郎は元々上方の家で、今は東京が本拠地だが、上方にも拠点を置くということで、「成駒家」という新たな屋号を生み出している。実際、鴈治郎や息子の壱太郎(かずたろう)が京都や大阪で公演やイベントを行う機会は多い。
上映時間が3時間を超える作品であり、体力的な心配から映画館には観に行かなかった。行けなかったというべきか。
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、森七菜、寺島しのぶ、田中泯、見上愛、嶋田久作、瀧内公美、宮澤エマ、三浦貴大、永瀬正敏、中村鴈治郎、渡辺謙ほか。歌舞伎指導:中村鴈治郎。音楽:原摩利彦(京都市在住)。
1964年の長崎で物語は始まる。長崎の料亭(花月がモデル)で行われている、任侠・立花組の新年会。歌舞伎俳優の花井半二郎(渡辺謙)は、新年会に参加している。興行は元々はヤクザの仕事であり、たまたま長崎に来たからなのか、長崎公演を行うためには顔を出す必要があるためか、それは分からないが半二郎は立花組組長の立花権五郎(永瀬正敏)のご機嫌を取る。
余興があり、「関の扉」を演じた子どもに半二郎は魅せられる。芸子と思っていた平二郎だが、実際は立花の息子の喜久雄と知り、半次郎は喜久雄に優れた才能と資質を感じた。
突如、刃傷沙汰が起こる。立花組と敵対する組が襲撃してきたのだ。権五郎は中庭で命を落とす。長崎としては珍しい雪の日であり、これがラストの「鷺娘」に繋がる。背中に刺青を入れた喜久雄だが、才能を高く買う半次郎に呼ばれ、大阪へ。半二郎の息子である大垣俊介と共に歌舞伎の稽古に打ち込むことになる。半二郎の稽古は厳しかったが、東一郎の名を貰った喜久雄は稽古が性に合っており、稽古が終わっても「今すぐ稽古をしたい気分」と完全にのめり込む。半二郎は二人の姿を見て、「二人で女形をやらせてみたらどうだろう」と考える。花井半二郎家(屋号は「丹波屋」)は半二郎を含め、女形を得意とする家だった。
歌舞伎というのはドロドロした世界で、まず家系がものを言う。名優と呼ばれた歌舞伎俳優の息子なら、多少下手でも良い位置までは行けたりする。だが、父親や祖父が亡くなったりすると後ろ盾なしで出世が望めなくなったりもする。
名優の息子だった歌舞伎俳優が幼かった頃、よく会う歌舞伎俳優は、「坊ちゃん、坊ちゃん」と優しげだったが、父親が亡くなった途端、「おい! 小僧!」と罵られた、というのは実際にあった話である。
具体的な例を挙げると、「平成の三之助」の一人であった、尾上松之助改め尾上松緑は、早くに父親と祖父を亡くした。そこで七代目尾上菊五郎の弟子となるが、南座の顔見世でだんまりで立っているだけなど、扱いは良くなかった。三代目市川猿之助は、父と祖父をほぼ同時に亡くし、「劇界の孤児」と言われている。
喜久雄は、大物歌舞伎俳優である小野川万菊(田中泯)に顔を褒められるが、それが足を引っ張るのではと忠告される。
さて、W女形として売り出された東一郎(この頃から吉沢亮が演じる)と俊介(花井半弥。横浜流星が演じる)。評判になる。
ちなみに劇場であるが、京都四條南座(劇中では京座)、先斗町歌舞練場(劇中では浪花座)、上七軒歌舞練場などの京都の劇場のほか、撮影協力には国立劇場の名もある。東京・築地の歌舞伎座も上のビルをCGで消した形で登場するが、ここで撮影が行われたのかは分からない。ちなみに歌舞伎座(劇中では別の名前)で二人が公演を行っているときに、黒子として渡辺哲が参加しているのが確認出来る。
渡辺謙演じる花井半二郎に気に入られた東一郎。半二郎は糖尿病で目が見えにくくなっているので、演じられなくなる前に花井白虎を襲名。三代目花井半二郎に東一郎を抜擢する。実子の半弥を差し置いての出世だった。
しかし、花井白虎となった二代目花井半二郎は、劇場で口上を述べている時に吐血。息子の名を呼びながら倒れ、そのまま帰らぬ人となる。やはり実子の方が可愛かった。
その後は、半弥は2年ほど歌舞伎を離れ、半二郎となった喜久雄はセリフのある役が貰えなくなり、大勢で一つのセリフを唱えるか、だんまりもしくはいるだけの役をこなす日々が続く。更に大物歌舞伎俳優の娘である彰子(森七菜)と結婚して後ろ盾を得ようとするが、認められず、彰子が親子の縁を切ったことから、歌舞伎の劇場にも出演出来なくなる。
平二郎と彰子は、舞台のある食堂やホテルで独演の舞の公演を行うが、地方なのでろくに観て貰えず、更には女形を知らない人々から芸者と間違われて絡まれたりと、苦渋の日々を送る。
一方、半弥は「丹波屋再興」に取材する番組に出演。妻の春江(高畑充希)や子どもたちと共に意気込みを語る。血縁者はやはり強かった。ちなみに春江は平二郎が最初にプロポーズした女性だが、「結婚じゃなくて稼いで貢ぐ」というようなことを言われ、結婚出来なかった相手である。幼馴染みで、背中に彫り物があることからやはりそっち系の女性らしい。元はホステスだった。
平二郎には、他にも馴染みの相手がいた、芸妓の藤駒(見上愛)で、女の子を一人設けたが、その後、藤駒は出てこなくなり、捨てられたことが暗示されていた。平二郎と藤駒の娘・綾乃(瀧内公美)は、総白髪となった半二郎の前に現れる。平二郎が異例の早さで人間国宝に指定されることが決まった直後である。ここでの瀧内公美のセリフは説明的だが重要である。
「二人藤娘」や「二人道成寺」などを再び二人で演じるようになった平弥と平二郎。平二郎のドサ回り生活も終わった。だが、半弥が榎本健一も罹ったことで知られる脱疽に冒され、左足の膝から下を切断、右足もその後切断となる。原因は糖尿病であった。
二人は、以前に演じた「曽根崎心中(お初徳兵衛)」を演じることに決める。実は「曽根崎心中」は文楽では大ヒット作だが、歌舞伎では人気がなく、成駒家しか上演していない。平成時代には通算で5回しか演じられなかった。令和に入ってからは後述する。
しかしお初の足を徳兵衛が撫でる有名なシーンは愛そのものだ。二人とも異性愛者で、妻も子どももいる。同性に性的な感情は持たない。だが、虚構の場で演じる虚構の愛は、現実の愛以上に深く感じられる。誰より一緒にいた二人だ。その瞬間に人生の味を、生きる意味を悟ったことだろう。
実は、今年の3月に南座で、「曽根崎心中物語」が上演され(令和初演となる。中村鴈治郎監修)、中村壱太郎が「『国宝』のおかげ」と言っていた。文楽に比べると完成度が下がってしまうようだが、面白いことは面白かった。
花井半弥は糖尿病が原因で死去。息子が花井白虎を名乗った。
「国宝」というのは、勿論、人間国宝を指すが、平二郎が味わった人生にも国宝的価値はあるのかも知れない。












































































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