カテゴリー「映画」の419件の記事

2022年12月28日 (水)

これまでに観た映画より(318) 第44回ぴあフィルムフェスティバル in 京都 ブラック&ブラック「ザ・ビッグ・ビート:ファッツ・ドミノとロックンロールの誕生」 ピーター・バラカンのアフタートーク付き

2022年11月25日 京都文化博物館フィルムシアターにて

午後6時から、京都文化博物館フィルムシアターで、第44回ぴあフィルムフェスティバル in 京都、ブラック&ブラック 日本未公開/関西初上映の音楽映画「ザ・ビッグ・ビート:ファッツ・ドミノとロックンロールの誕生」をピーター・バラカンのアフタートーク付きで観る。

共にルイジアナ州ニューオーリンズ近郊に生まれたファッツ・ドミノとデイヴ・バーソロミューを中心に、黒人音楽がリズム&ブルールへ、そしてロックンロールへと昇華する過程を様々なミュージシャンや伝記作家などへのインタビューと往年の演奏姿によって綴る音楽映画である。
ジャズ発祥の地としても名高いニューオーリンスが生んだ二人の天才音楽家が生み出した音楽が、エルヴィス・プレスリーやビートルズなどの白人ミュージシャンに影響を与え、ロックンロールという名を与えられていく。
ちなみに、リズム&ブルースは1949年に生まれたとされる言葉で、それまでは黒人の音楽を指す専門用語はほとんど存在しなかったようである。ただ、リズム&ブルースは、黒人音楽のイメージが余りに強いため、ロックンロールという新語が生まれたようだ。ともあり、ファッツ・ドミノが生み出し、デイヴ・バーソロミューが演奏とプロデュースを手掛けた音楽は全米で大ヒット。新たな音楽の潮流を生むことになった。
ブラスの分厚いニューオーリンズサウンドがとにかく華やかで、音楽性の豊かさに魅せられる。

ピーター・バラカンのアフタートークは、ニューオーリンズの紹介を中心としたもので(持ち時間が限られていたためにそこから先に行けなかったということもある)、フレンチクオーターと呼ばれる地域があり、フランス統治時代の面影が残っている(ルイジアナ州のルイジアナとはルイ○世のルイ由来の地名であり、オーリンズとはフランスのオルレアン地方が由来である)。フレンチクオーターの北の方にコンゴスクエアという場所があるが、ここで黒人奴隷達が週に1回音楽を奏でることが許されたそうで、ここが黒人音楽の発祥の地ということになるようである。音楽をすることを許されたのは、ピーター・バラカンによると統治していたフランスがカトリックの国であったことが大きいという。その他の地域、イギリスの統治下にあったところは、黒人が音楽を奏でることは許されなかったそうである。

| | | コメント (0)

2022年12月20日 (火)

これまでに観た映画より(316) 「天上の花」

2022年12月12日 京都シネマにて

京都シネマで、没後80年「萩原朔太郎大全2022」記念映画「天上の花」を観る。原作:萩原葉子(『天上の花――三好達治抄――』)、監督:片嶋一貴。脚本:五藤さや香&荒井晴彦。出演:東出昌大、入山法子、浦沢直樹、萩原朔美、林家たこ蔵、鎌滝恵利、関谷奈津美、鳥井功太郎、間根山雄太、川連廣明、ぎぃ子、有森也実、吹越満ほか。

萩原朔太郎の弟子である三好達治(東出昌大)と朔太郎の一番下の妹である慶子(実際の名前はアイ。演じるのは入山法子)の短い同棲生活を描いた作品である。

東京帝国大学を出た詩人の卵である三好達治は、萩原朔太郎(吹越満)の妹である慶子と出会い、一目惚れする。だが三好は詩作や翻訳を行うだけで、帝大卒とはいえ、定職に就いていないということで、慶子は難色を示す。「就職していれば結婚の可能性がある」ということで、三好は、北原白秋の弟が経営するアルスという出版社に朔太郎の口利きで入れて貰い、慶子と婚約するが、アルスは三好の入社2ヶ月後に倒産。婚約も破談となり、三好は佐藤春夫の姪である智恵子と結婚し、二児に恵まれる。一方の慶子は、詩人の佐藤惣之助と結婚。しかし惣之助が亡くなり、未亡人となった慶子に三好は果敢にアプローチ。智恵子とは離婚に至り、三好と慶子は福井県の三国で同棲生活を送ることになるのだが……。

三好も慶子も多分に不器用な人間であり、そうした不器用な人間のぶつかり合いが戦時を背景に破局へと向かっていく。普段は温和な三好だが、愛ゆえに束縛も強く、慶子へのそして詩の戦争抑止力の可能性を信じながら戦争礼賛の詩を書かねばならなかった自身への怒りが暴力へと向かっていく。ある意味、二人は似たもの同士であり、それが故に幸福には至れない運命だったのかも知れない。

スキャンダルまみれといった感じの東出昌大主演の映画だけに、観客は五指に余るほど。正直、興行的に成功するのは難しいだろう。とはいえ、東出昌大も入山法子もイメージには合っており(皮肉なことにスキャンダル後の東出昌大のイメージにまで合っている)不器用な文人達を描いた映画として一定の評価は出来るように思う。

Dsc_2088

| | | コメント (0)

2022年11月22日 (火)

これまでに観た映画より(315) 「追想ジャーニー」

2022年11月21日 京都シネマにて

京都シネマで、日本映画「追想ジャーニー」を観る。谷健二監督作品。出演:藤原大祐、高橋和也、佐津川愛実、真凛、髙石あかり、岡本莉音(りおん)、伊礼姫奈(いれい・ひめな)、赤間麻里子、外山誠二ほか。上映時間60分ちょっとの中編である。

若手俳優が多数出ているため、若い人向けの作品かなとも思ったのだが、実際には中高年の背中を押すような作品であった。

文也(高橋和也)は48歳。アルバイトをしながら売れない俳優をしている。小劇場の舞台には出ているようだが、収入にはならず、駐車監視員(緑のおじさん)として何とか生計を立てている。久しぶりのテレビドラマの仕事があり、セリフはわずかだったが、それを見ていた人から、人を介してとある精神療法を紹介され……。

21世紀生まれの若い俳優達が瑞々しい演技を見せ、佐津川愛実や真凛といった中堅女優も魅力的である。それでありながら主役は高橋和也が演じる48歳の文也(18歳の文也を藤原大祐が演じている)であり、主に氷河期世代に当たる40代後半から50代前半に当たる人々への力強い応援歌が奏でられる。

予告編を観て気になり、観ることにした映画であり、設定からも「ありきたりなものなのかな」と悪い予感もしていたのだが、節目節目(劇中では「分岐点」という言葉が用いられている)でのエピソードも上手く凡庸に陥るのを回避しており、巧さを感じさせる。
「掘り出し物的逸品」と呼んでも大袈裟でないほどの好編であった。

Dsc_1960

| | | コメント (0)

2022年11月10日 (木)

これまでに観た映画より(314) ドキュメンタリー映画「役者として生きる 無名塾第31期生の4人」

2022年11月1日 京都シネマにて

京都シネマで、ドキュメンタリー映画「役者として生きる 無名塾第31期生の4人」を観る。

仲代達矢が主宰する無名塾。1975年に仲代と妻の宮崎恭子と共に創設した俳優養成所である。入塾のための倍率は高く、文学座と共に「演劇界の東大」と呼ばれることもある。

無名塾に第31期生として入ったのは、上水流大陸(かみずる・たいりく)、中山正太郎、島田仁(じん)、朝日望(のぞみ。女性)の4人である。バックボーンは様々で、中山正太郎は日大一高演劇部から日大藝術学部演劇学科を卒業して入塾。上水流大陸は鹿児島高校の演劇部での活動を経て無名塾に入り、島田仁は国立香川高等専門学校の5年次に無名塾に合格、国立大学の編入試験にも合格していたが無名塾を選んでいる。朝日望は以前に無名塾に合格するも短大での学生生活より無名塾を優先させることがためらわれて一度辞退し(最終面接で、「短大は辞めて来て下さい」と言われたようである)、短大卒業後に無名塾を再度受けてまた合格し、第31期生となった。

無名塾は学費無料だがアルバイトは原則禁止であり(新入生に仲代本人が説明する場面がある)、塾生(でいいのだろか)は常に俳優としてのスキルを上達させることが望まれる。
第31期生は2017年の入塾ということで、新型コロナによる中断を経て、2021年の11月に、総決算ともいえる「左の腕」(松本清張原作、仲代達矢の演出。能登演劇堂ほかでの上演)に全員が出演することとなる。

無名塾は自主稽古が多く、無名塾の先輩からの指導で稽古をすることも比較的多く、仲代が年4回ほどの直接指導を行う。

仲代は、「俳優はアスリート」と考えを持っており、身体訓練は自主的に行うことが求められる。第31期生も、近くの砧公園でランニングを行い、それぞれが成長を自覚しているようである。

養成課程修了後に関しては仲代は、「自由にしていい。ただ演劇は続けて欲しい。技術が必要になるから」と述べている。

4人の演劇観もそれぞれ異なり、小劇場指向で、「お金のために演技をしたくない。稼ぐにはアルバイトがあるので」と昔ながらの舞台俳優としての生き方を志すメンバーもいた。

Dsc_1855

| | | コメント (0)

2022年11月 3日 (木)

これまでに観た映画より(313) ドキュメンタリー映画「フェルナンド・ボテロ 豊満な人生」

2022年10月28日 京都シネマにて

京都シネマで、ドキュメンタリー映画「フェルナンド・ボテロ 豊満な人生」を観る。現在、京都市京セラ美術館で開催されている「ボテロ展」に合わせて公開されているものである。2018年の制作で、監督はドン・ミラー。バンクーバーを拠点とするカナダ人スタッフを中心に制作されている。フェルナンド・ボテロ本人を始め、ボテロの実子や孫などが出演し、コメントをしたりインタビューに応えたりしている。キュレーターや評論家といった絵画・美術の専門家も多数登場する。

3人兄弟の次男として生を受けたフェルナンド・ボテロ。父親は商売人であり、馬にまたがって商品を運んだりしていた。だがボテロが4歳の時に心臓発作で他界。母親は女手一つで3人の子どもを育てることになる。母親には裁縫の才があり、お針子として生計を立てていたが、収入は十分ではなく、ボテロは中学生の頃から新聞の挿絵などを描くアルバイトに励んでいた。ボテロの夢は世界一の画家になることだったが、生まれ育ったメデジンには絵画の教育を受けるのに十分な機関が存在せず、ボテロはヨーロッパに渡ることになる。

ボテロの画風の特徴であるふっくらとした「ボテリズム」は、直接的にはメキシコでマンドリンを描いている時に着想を得たものだが、若い頃、フィレンツェ滞在中に数多く触れたルネサンス期とその少し前のイタリア絵画に影響を受けていることがこのドキュメンタリーを見ていると分かる。ボテロの絵を見ているだけでは関連性に気づかなかったが、ルネッサンス期の絵画は確かにふくよかなものが多い。

ボテロはその後も成功を求めてニューヨークやパリなどに移り住み、絵画を制作。決して順風満帆という訳ではなく、作品を酷評されることも多かった。だがニューヨークで活動をしていたある日、隣に住んでいた画家のところにMoMAことニューヨーク近代美術館のキュレーターが来ており、その画家が、「隣にも画家がいるからついでに見て行きなよ」と言ったため、キュレーターがボテロのアトリエに来たのが成功へと繋がる。MoMAで行われたボテロの個展は大成功を収める。実の子ども達と語り合うシーンで、「私がその時留守だったら運命は変わっていた」とボテロは述べている。

この映画にはこの手のドキュメンタリーとしては珍しく、ボテロの作風を「マンガ的」などと否定的に捉える評論家のコメントなども取り上げられている。
また、「分かりやすいから成功したと思われるようだがそうではない」という専門家の意見も聞くことが出来る。

子ども達や孫達はボテロの成功を夢見ての努力を賞賛しているが、ボテロ本人のコメントは面白いことにそれとは異なっており、「成功したか失敗したかは問題じゃない」として、「とにかく描くことが人生」だとボテロは心の底から思っているようである。描くことで学ぶことが出来、日々発見がある。存命中の画家としては世界で最も有名という評価もあるが、老境に入った今は若い頃と違って名声をいたずらに求めるのではなく、絵と芸術に向かい合うことが何より幸せな時間であると実感していることが伝わってくる。

Dsc_1824

| | | コメント (0)

2022年10月 2日 (日)

これまでに観た映画より(312) ウォン・カーウァイ4K 「恋する惑星」

2022年9月21日 京都シネマにて

京都シネマで、ウォン・カーウァイ4K「恋する惑星」を観る。1994年の制作、日本では1995年の初夏にロードショー公開され、何度も書いているが、私は今はなき銀座テアトル西友で5回観ており、同一の映画館で何度も観た映画の自己最多記録となっている。それまでは、カンフー映画か「チャイニーズゴーストストーリー」やキョンシーなどのホーラーというイメージだった香港映画のイメージを一作で変えた画期的な作品であった。
その後もBSやDVD、アップリンク京都での上映などを経て、今日でスクリーンで観るのは7回目となって、自己単独2位の記録となった。私の個人記録などはどうでもいい訳であるが。

脚本・監督:ウォン・カーウァイ(王家衛)、撮影監督:クリストファー・ドイル(杜可風)。出演は、トニー・レオン、フェイ・ウォン、ブリジット・リン、金城武、チャウ・カーリン(ヴァレリー・チョウ)ほか。

金城武演じる刑事とブリジット・リン演じる麻薬の運び屋の一瞬の恋と、トニー・レオン演じる警官とフェイ・ウォン演じる軽食店の店員の未来を感じさせる恋の二通りの恋愛が描かれたオムニバス。本来はここに殺し屋とエージェントの恋が加わるはずだったが、2つの話で映画1本分の長さに達したため独立した映画とし、これが「天使の涙」となっている。セリフは広東語ベースだが、金城武のセリフには北京語、広東語、英語、日本語が用いられており、モノローグには北京語が使用されている。

原題は「重慶森林」で、香港で最も治安が悪いとされる重慶マンション(重慶ビルディング)と、村上春樹の小説『ノルウェイの森』に由来するタイトルとなっている。「重慶森林」こと「恋する惑星」は、作り方も村上春樹の『風の歌を聴け』などの影響を受けており、朝にウォン・カーウァイ監督が書いた短い台本を俳優が貰って撮影、ただし順撮りではないので、俳優は今がなんのシーンでどう繋がるのか分からないままであった。村上春樹の『風の歌を聴け』も、断片を書いて後で編集するというスタイルで書かれており、技法も真似た上での「重慶森林」というタイトルなのかも知れない。

金城武の役名の「モウ」については、これまでは「某」由来なのではないかと思ってきたが、今回見直してみて、名乗るシーンがありそこでは北京語で「Wu」と発音しているのが確認出来た。「Wu」というのは「武」という字の北京語の発音であり、金城武のファーストネームを役名として採用したようである。

返還前の混沌とした香港の姿もよく捉えられており、疾走感溢れるクリストファー・ドイルのカメラワークも相まって、極めてパワフルな映像が生まれている。


今回の4Kレストアでは、本来無音の演出が行われていた箇所に音楽が挿入され、またエンドロールが新しくなっている。個人的には無音の演出がなくなったのは残念であった。

Dsc_1439

| | | コメント (0)

2022年9月15日 (木)

これまでに観た映画より(311) 「トップガン マーヴェリック」

2022年9月12日 MOVIX京都にて

MOVIX京都で、「トップガン マーヴェリック」を観る。大ヒットしたトム・クルーズ主演作の36年ぶりの続編である。前作をリアルタイムで観た人も(私は残念ながら前作はロードショーでは観ていない)、前作を知らない人でも楽しめるエンターテインメント大作となっている。こうした娯楽大作の場合は、解説や解釈を書いても(そもそも解釈の入る余地はほとんどない)余り意味はないと思われるが(あるとすれば、「スター・ウォーズ」の意図的な模倣――おそらくリスペクト――ぐらいだろうか)、取り敢えず紹介記事だけは書いておきたい。

監督:ジョセフ・コシンスキー、脚本:アレン・クルーガーほか。製作にトム・クルーズが名を連ねている。実は、今月16日からは、前作「トップガン」の公開も始まるそうで、前作を観たことがない人は、「トップガン」もスクリーンで観る機会が訪れた。私もこの機会にスクリーンで観てみたいと思っている。

出演:トム・クルーズ、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、グレン・パウエル、モニカ・バルバロ、ルイス・プルマン、ヴァル・キルマー、エド・ハリスほか。

世界最高峰のパイロット養成機関トップガン出身のピート“マーヴェリック”ミッチェル(トム・クルーズ)は、今も現役のパイロットとして活躍。マッハ9、更にはマッハ10の壁を破ることに挑戦しようとしていた。だがそのプロジェクトに横槍が入りそうになる。今後、飛行機は自動運転化が進み、パイロットは不要となるということで、人間が運転して音速の何倍も速く飛ぼうが意味はないというのだ。AI万能論が台頭しつつある現代的な問題が提示されているが、マーヴェリックは、「(パイロットが不要になるのは)今じゃない」と答え、見事マッハ10の壁と突破する。
そんなマーヴェリックに課せられたミッションがある。トップガンの教員となって敵対する某国のウラン濃縮プラントの破壊に協力して欲しいというのだ。マーヴェリックは座学だけでなく、自らジェット機の操縦桿を握り、実戦形式で若いパイロット達を鍛えていくのだった。

とにかくジェット機によるアクションが見所抜群で、これだけでもおつりが来そうな感じである。マーヴェリックを巡る人間ドラマは、実のところそれほど特別ではないのだが(既視感のあるシーンも多い)、それによって空中でのシーンが一層引き立つように計算されている。
それにしてもトム・クルーズは大変な俳優である。宗教の問題が取り沙汰される昨今、サイエントロジー教会の広告塔ということだけが気になるが(難読症・失読症の持ち主として知られるが、サイエントロジーによって文字が読めるようになったと語っている)、マーヴェリックその人になりきって全てのシーンで観客を魅了してみせている。

| | | コメント (0)

2022年9月10日 (土)

これまでに観た映画より(310) 「ポルトガル、夏の終わり」

2022年9月8日

録画しておいた映画「ポルトガル、夏の終わり」を観る。2019年の制作。アメリカ・フランス・ポルトガル合作。セリフは英語とフランス語、一部ポルトガル語が用いられている。
監督:アイラ・サックス。出演:イザベル・ユペール、グレッグ・キニア、マリサ・トメイ、ジェレミー・レニエ、ブレンダン・グリーソン、ヴィネット・ロビンソン、パスカル・グレゴリーほか。

原題は、主演女優であるイザベル・ユペールの役名である「フランキー」(フランソワの愛称)であるが、ポルトガルの避暑地であるシントラ(世界文化遺産指定)を舞台に繰り広げられる群像劇であり(フランキーは中心にはいるが)、「夏の終わり」がフランキーの病状に重ねられているため、邦題としてはまずまず良いのではないかと思われる。多分、「フランキー」というタイトルだったら、「観たい」と思う日本人はかなり少なかったはずである。

比較的淡々と物語は進んでいく。

有名女優であるフランキーことフランソワ・クレモント(イザベル・ユペール)は、末期の癌に冒されており、診断によると年を跨ぐことは出来ない。そこで、家族や友人を連れて、ポルトガルのシントラで晩夏を過ごすことにする。夫に元夫、元夫との間の息子とその恋人候補、現在の夫の娘(連れ子)とその夫と娘などの行く末を見定めるつもりでもあっただろう。特に息子のポール(ジェレミー・レニエ)を友人のヘアメイクアーティストのアイリーン(マリサ・トメイ)とめあわせようとするのだが、実のところ……といった展開になる。アイリーンはニューヨーク在住で、息子のポールは仕事でニューヨークに移るということで期待したのであるが、アイリーンにはすでに婚約者候補があり、ポールもそれとなくアイリーンにアプローチをするのだが、断られている。

最期は登山のシーンである。フランキーがプランを立てたのだ。先に山に登ったフランキーが下にいるジミーとアイリーンを見つめる。そのフランキーを更に上から元夫のミシェルが望遠鏡で覗いている(ミシェルは今では男と恋愛関係にあるようだ)。その後、更に上の場所から山頂に到達した人々を捉える視点。おそらく神の視点であろう。計画はフランキーの予定通りには進まなかった。だが人々は思い思いに人生を過ごしていく。それを見つめる神の視座にいるカメラは、最後の頂に立ったフランキーのもう一つの視点なのかも知れない。

| | | コメント (0)

2022年9月 6日 (火)

これまでに観た映画より(309) ウォン・カーウァイ4K「花様年華」

2022年9月1日

京都シネマで、ウォン・カーウァイ4K「花様年華」を観る。2000年の作品。脚本・監督・製作:ウォン・カーウァイ(王家衛)、撮影:クリストファー・ドイル(杜可風)&リー・ピンピン。挿入曲「夢二のテーマ」の作曲は梅林茂(沢田研二主演、鈴木清順監督の映画「夢二」より)。出演:トニー・レオン、マギー・チャン、レベッカ・パン、ライ・チン、声の出演:ポーリン・スン&ロイ・チョン。全編に渡って広東語が用いられている。

1962年から1966年までの香港と、シンガポール、カンボジアのアンコールワットなどを舞台に繰り広げられる抑制の効いた官能的な作品である。私は、ロードショー時には目にしていないが、一昨年にアップリンク京都で上映されたものを観ている。その時に書いた感想、更にはそれ以前にDVDで観た時の感想も残って、新たに付け加えることはないかも知れないが、一応、書いておく。

1962年。新聞記者のチャウ・モーワン(トニー・レオン)は、借りようとしていた部屋を先に借りた人がいることを知る。社長秘書を務める既婚のスエン夫人(マギー・チャン)である。しかし、その隣の部屋も空いたというので、その部屋を確保するチャウ。二人は同じ日に引っ越すことになる。屋台に向かう途中で、二人はすれ違うようになり、惹かれていく。だが二人とも既婚者であり、「一線を越えない」ことを誓っていた。一方で、チャウの妻とスエンの夫が不倫関係になっていたが判明する(チャウの妻とスエンの夫は後ろ向きだったりするなどして顔は見えない)……。

シンガポールに渡ったチャウ。チャウはスエンに、「一緒に行ってくれないか」と、「2046」における木村拓哉のようなセリフを話す。

ちなみにチャウが宿泊して、スエン夫人と共に執筆の仕事をしている香港ホテルの部屋のナンバーは「2046」で、この時にすでに「2046」の構想が練られていたのだと思われる。

共に結婚していたが、チャウはシンガポールに渡る際に奥さんと別れたようであり、またスエン夫人が、シンガポールのチャウの部屋に勝手に上がり込む(ウォン・カーウァイ作品のトレードマークのように頻用される場面である)際に、手がクローズアップされるのだが、薬指に指輪がない。ということでシンガポールに来る前にスエン夫人は旦那と別れた可能性が高く、その際に情事があったのだと思われる(映像には何も映っていないがそう考えるのが適当である)。

こうした、本来なら明示することを隠すことで、匂い立つような色香が全編に渡って漂うことになった。けだし名作である。

Dsc_1441

| | | コメント (0)

2022年9月 4日 (日)

これまでに観た映画より(308) ウォン・カーウァイ4K「2046」

2022年8月30日 京都シネマにて

京都シネマで、ウォン・カーウァイ4K「2046」を観る。2004年に公開された映画で、日本では木村拓哉が出演したことで話題になった。それ以外にも香港のトップシンガーであったフェイ・ウォンが「恋する惑星」に続いてウォン・カーウァイ作品に出演し、「恋する惑星」同様にトニー・レオンと共演している。更には80年代の中国のトップ映画女優で、日本では「中国の山口百恵」とも呼ばれて人気であったコン・リーと、90年代以降の中国のトップ女優となったチャン・ツィイーが、共演のシーンこそないものの、同じ映画に出ているという、かなり豪華なキャスティングである。脚本・監督:ウォン・カーウァイ(王家衛)、撮影監督:クリストファー・ドイル(杜可風)。出演:トニー・レオン、木村拓哉、コン・リー(巩俐)、フェイ・ウォン(王菲)、チャン・ツィイー(章子怡)、カリーナ・ラウ、チャン・チェンほか。特別出演:マギー・チャン。音楽:ペール・ラーベン&梅林茂。

セリフは、トニー・レオンが広東語、コン・リーとチャン・ツィイーが北京語、北京出身で香港で活躍していたフェイ・ウォンが北京語と広東語、更には日本語(フェイ・ウォンは日本の連続テレビドラマに主演したことがある)、木村拓哉が日本語である。

ウォン・カーウァイ監督は、「2046という数字に大した意味はない」とも発言していたように記憶しているが、2046年は、香港の一国二制度(一国両制)が終わる年である。それを裏付けるように、木村拓哉が冒頭と中盤で「997」という、香港返還の1997年に掛かる数をカウントしている。2016年に行われたウォン・カーウァイ監督へのインタビューでは、この一国二制度のことが語られているようだ。

舞台は、1966年から1969年までの香港のクリスマス期間と、2046という未来の場所である。そして2046はトニー・レオン演じるチャウ・モーワンが住もうとしたアパートメントの番号であり、同時にチャウが書いている小説のタイトルでもある。二つの世界を行き来するということで、私は、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を連想したのだが、ウォン監督のイメージでは、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が念頭にあり、その他に太宰治の『斜陽』などからも着想を得たそうだ。

以前にDVDを観て書いた感想があり、大筋での感想はそれとは大差ないのだが、「花様年華」ではラブシーンが一切ないのに比べ(撮影はされたようだがカットされた)、続編とも考えられるこの映画ではかなり積極的にセクシャルなシーンが用いられているというのが最大の違いであると思われる。その点において、この映画が「花様年華」の完全な続編ではないということが見て取れ、「花様年華」の異様さといってはなんだが、特異性がより際立って見えることになる。

2046は香港の一国二制度が終わる年であることは先に書いたが、そうした「境」を越える者と越えられない者の対比が描かれていると見ることも出来る。フェイ・ウォン演じるワン・ジンウェンは、木村拓哉演じる日本人のタク(本名は不明)と恋仲であり、いつか日本に行くために日本語の練習をしている。実際にこの二人は国境という具体的な境を越えて日本へと向かうことになる。
一方で、境を越えられず、かつての恋人であるスー・リーチェン(マギー・チャン)との思い出から離れようと複数の女性と関係を持ちながら抜け出せない、変われない男の姿をチャウ・モーワンに見いだすことになる。この作品にも「天使の涙」のような二項対立の構図を見出すことが出来る。

 

現実の時の流れはフィクションよりも速い。今や一国二制度は形骸化しつつあり、中国本土と香港の対立は前例を見ないほど激しいものになりつつある。私の思い描いた「2046」の香港のイメージはあくまでイメージに過ぎないのだと思い知らされるのは、想像よりも遥かに早かった。

Dsc_1436_20220904231201

| | | コメント (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

2346月日 AI DVD NHK交響楽団 THEATRE E9 KYOTO YouTube …のようなもの いずみホール おすすめCD(TVサントラ) おすすめサイト おすすめCD(クラシック) おすすめCD(ジャズ) おすすめCD(ポピュラー) おすすめCD(映画音楽) お笑い その日 びわ湖ホール よしもと祇園花月 アニメ・コミック アニメーション映画 アメリカ アメリカ映画 イギリス イギリス映画 イタリア イタリア映画 ウェブログ・ココログ関連 オペラ オンライン公演 カナダ グルメ・クッキング ゲーム コンサートの記 コンテンポラリーダンス コンビニグルメ サッカー ザ・シンフォニーホール シアター・ドラマシティ シェイクスピア シベリウス ショートフィルム ジャズ スタジアムにて スペイン スポーツ ソビエト映画 テレビドラマ デザイン トークイベント ドイツ ドイツ映画 ドキュメンタリー映画 ドキュメンタリー番組 ニュース ノート ハイテクノロジー バレエ パソコン・インターネット パフォーマンス パーヴォ・ヤルヴィ ピアノ ファッション・アクセサリ フィンランド フェスティバルホール フランス フランス映画 ベルギー ベートーヴェン ポーランド ミュージカル ミュージカル映画 ヨーロッパ映画 ラーメン ロシア ロームシアター京都 中国 中国映画 交通 京都 京都コンサートホール 京都シネマ 京都フィルハーモニー室内合奏団 京都劇評 京都四條南座 京都国立博物館 京都国立近代美術館 京都市交響楽団 京都市京セラ美術館 京都府立府民ホールアルティ 京都文化博物館 京都芸術センター 京都芸術劇場春秋座 伝説 住まい・インテリア 余談 兵庫県立芸術文化センター 劇評 動画 千葉 南米 南米映画 占い 台湾映画 史の流れに 哲学 大河ドラマ 大阪 大阪フィルハーモニー交響楽団 大阪松竹座 学問・資格 宗教 室内楽 小物・マスコット・インテリア 広上淳一 建築 心と体 恋愛 意識について 携帯・デジカメ 政治・社会 教育 教養番組 散文 文化・芸術 文学 文楽 旅行・地域 日本映画 日記・コラム・つぶやき 映像 映画 映画リバイバル上映 映画音楽 映画館 書店 書籍・雑誌 書籍紹介 朗読劇 来日団体 東京 柳月堂にて 梅田芸術劇場メインホール 楽興の時 歌舞伎 正月 歴史 浮世絵 海の写真集 演劇 無明の日々 猫町通り通信・鴨東記号 祭り 笑いの林 第九 経済・政治・国際 絵画 美容・コスメ 美術 美術回廊 習慣 能・狂言 花・植物 芸能・アイドル 落語 街の想い出 言葉 趣味 追悼 邦楽 配信ライブ 野球 関西 雑学 雑感 韓国 韓国映画 音楽 音楽劇 音楽映画 食品 飲料 香港映画