カテゴリー「ミュージカル」の63件の記事
2026年1月 4日 (日)
2025年10月 1日 (水)
観劇感想精選(496) ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」大阪公演 2025.4.25
2025年4月25日 梅田芸術劇場メインホールにて観劇
午後1時から、梅田芸術劇場メインホールで、ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」を観る。日本で上演されるミュージカルの定番の一つ。森繁久弥の主演で初演され、主役のテヴィエ役は、森繁久弥のあと、上条恒彦、西田敏行、市村正親に受け継がれ、半世紀以上に渡って断続的に上演され続けている。
出演:市村正親、鳳蘭、美弥るりか、唯月ふうか、大森未来衣、上口耕平、内藤大希、神田恭兵、今井清隆。
5人の娘を持つ牛乳屋のテヴィエと、その娘の物語が一つの軸だが、もう一つの軸としてユダヤ人差別がある。旧ロシア帝国時代のウクライナ領が舞台であるが、ユダヤ人達は、アナテフカという架空の貧しい土地での生活を送っている。アナテフカのような危険な場所での生活が「屋根の上のヴァイオリン弾き」に例えられている(屋根の上のヴァイオリン弾きは実際にいるが、おそらくテヴィエにだけ見えている。屋根の上のヴァイオリン弾き役は日比野啓一)。
ユダヤ教の「しきたり」を重要視するテヴィエの3人の娘の結婚が展開上重要になるのだが、いずれも祝福された形での結婚ではない。特に次女と三女はアナテフカを飛び出していく。
そして、ユダヤ人はアナテフカを追われることになり、テヴィエはニューヨークへと向かうことになるのだった。若い人達は、「昔からの土地だから」という理由で生まれ育った場所に縛られることなく羽ばたいていく。
「サンライズ、サンセット」が最も有名なナンバーだが、次に美しいのは次女ホーデルの歌う曲。ホーデルには唯月ふうかを配して遺漏がない。ホーデル役はやはり重要視されているようで、歴代のホーデル役を見ても、大竹しのぶ、いしだあゆみ、岩崎宏美、本田美奈子、堀内敬子、知念里奈、笹本玲奈、神田沙也加など、歌唱力に定評のある女優・歌手が起用されている。
2025年6月27日 (金)
観劇感想精選(492) 高畑充希主演ミュージカル「ウェイトレス」(再演)
2025年5月16日 梅田芸術劇場メインホールにて観劇
午後6時から、梅田芸術劇場メインホールで、ミュージカル「ウェイトレス」の再演を観る。脚本:ジョーン・ネルソン、音楽・歌詞:サラ・バレリス。原作映画製作:エイドリアン・シェリー。ブロードウェイ演出:ダイアン・パウルス。出演:高畑充希、森崎ウィン、ソニン、LiLiCo、水田航生、おばたのお兄さん、田中要次、山西惇ほか。
日本初演時に話題になったミュージカルであるが、私は初演は観ていない。
魅力的な人が全く出てこないという変わったミュージカルである。その分、俳優は魅力的な人で揃えられている。かなり魅力的な人が出ていないと、アメリカだとお客さんが途中で続々と帰ってしまいそうな内容だが、元々そうした計算で、アメリカでも魅力的な俳優が揃えられていたことが予想される。
「ウェイトレス」というタイトル通り、誰でも出来る仕事をしている下層階級の人がメイン。ただ実はウェイトレスは絶対出来ない種類の人がいる職種なので注意は必要である。魅力があるというだけでハイクラスに行ける場合も案外多いので、ずっと下層でくすぶっている人に魅力的な人が少ないというのも道理である。
ヒロインのジェナ(高畑充希)からして、一目で「なし」と分かるはずの駄目男と結婚し、無計画に妊娠し、挙げ句の果てには不倫に走るという、これだけだと本当にどうしようもない女性である。同僚のドリー(ソニン)は年齢=彼氏いない歴、ベッキー(LiLiCo)は夫が要介護と皆冴えない生活を送っている。
3人が働くのは「ジョーのパイのダイナー」というアメリカ南部にある店。ジェナはパイ作りの才能があり、オーナーのジョー(山西惇)や店長のカル(田中要次)との仲も良好である。
一方で家庭は破綻していたが、やることはやっていて、妊娠が分かる、とここまで書いてもまだどうしようもない人である。
夫のアール(水田航生)は、ミュージシャンの夢破れて働いている(工具を持っているのでブルーカラーであることが分かる。というよりあの性格ではホワイトカラーは無理である)が、不真面目という理由でクビになる。上司から「傲慢だ」と言われたそうで、手鏡を見ながら、「この俺が傲慢?」と不満を述べるが、100人いたら100人が傲慢だと1秒で分かるキャラである。本人だけが気付いていない。ジェナはその100人に入れなかった。ここに至ってもまだまだ駄目な人である。こんな男と結婚するなんて成り行きか? と思うのだが、実際に成り行き任せの人であることが後に分かる。
アールは仕事を探す気がなく、ジェナに更に稼がせようとする。ジェナは仕方なくウェイトレスのシフトを増やす。
ドリーに恋人が出来る。オギー(おばたのお兄さん)という青年だが、舞台俳優時代の話をするも、どう聞いても下手な俳優であり、「詩を書いている」というも、どう聞いて下手な詩である。本当に徹底して駄目な人しか出てこない。
産婦人科を訪れるジェナ。いつもは女医さんに診察して貰っていたようだが、引退して、今は男性のポマター医師(森崎ウィン)が担当医となっている。ポマター医師は、専門用語を淀みなく話すことから頭は良いと思われるのだが、察する能力に乏しい、話がつまらない、ジェナに好意を抱いて診察の2時間前から診察室で待っている……、ここまで読んで、「なんてつまらない芝居なんだ」と思った方、あなたは正常ですが、つまらないのは私の責任じゃありません。本当にこういうあらすじなんでです。
ジェナはポマター医師と成り行きでダブル不倫に落ちる。あんたねえ……。
ちなみに相手の奥さんと知り合いなのに不倫している女性2名。まるで今日(2025年5月16日)、東京で行われるやばい……、あの女優さんの演技ほとんど見たことないからどうでもいいや。
スプリングフィールドという街(アメリカにはスプリングフィールドという名の街が数多く存在するため、どのスプリングフィールドなのかは不明)でパイ作りのコンクールが行われることを知ったジェナは優勝して賞金を手にし、アールと離婚して自立することを目標とする。
魅力的な筋書きとは言えないが、これを魅力的に変えるのが芝居の力であり、音楽の効用であり、俳優の魔術である。
とにかく高畑充希の存在に尽きる。歌唱力の格が違う。ソニン、森崎ウィンなど歌の上手さで知られる人も霞んでしまう。歌うようにセリフを奏でながら不自然に聞こえないというのも大した才能である。この点においては、高畑充希は大竹しのぶの後継者第一候補とも思える。男性俳優とはデュオの場面があるのだが、同じ旋律を歌うため、高畑充希の上手さが目立って、男性陣が可哀相になってくる。でも才能だからねえ。とんでもなく上手いんだからどうしようもない。
第2幕では、ピアノ伴奏に乗って歌うナンバーが2曲あるのだが、いずれも第1拍から歌い出しに入る。拍のジャストで必ず入るのだが、全て完璧。歌の滅茶苦茶上手い人でも1回か2回はずれるものなのだが。
大阪の観客はこれだけのご当地出身女優がいて誇らしいだろうなあ。
BOBAさんこと田中要次は好きな俳優なのだが、映像の人の演技。今度、映像で見ようと思う。
パイ作りのコンクールの模様は描かれないが、優勝するか上位入賞するかしてジョーに店を譲られ、店の名も「ジェナのダイナー」になる。
ブレヒト的なハッピーエンドになるのだが、「え? この人達だよ。大丈夫なの?」という気になる。ただ、作り手にとってはそれも計算のうちなのだろう。
2025年5月30日 (金)
観劇感想精選(489) ミュージカル「レ・ミゼラブル」2025大阪公演 2025年3月19日
2025年3月19日 梅田芸術劇場メインホールにて観劇
午後5時から、梅田芸術劇場メインホールで、ミュージカル「レ・ミゼラブル」を観る。
東京では、帝国劇場のクロージング演目として上演されたプロジェクトである。
1985年の日本初演以来、上演を重ねているミュージカルの定番。ヒュー・ジャックマン、アン・ハサウェイらが出演した映画版も名画としての地位を確立している。
原作:ビクトル・ユゴー。原作は岩波文庫から分厚いもの4巻組みで出ているが、訳も良くて読みやすいので、一度は読むことをお薦めする。フランスのロマン派の小説なので、突然、詩が出てきたりするなど、今の小説とはスタイルが異なる。
作:アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク。作詞:ハーバート・クレッツマー。演出:ローレンス・コナー/ジェームズ・パウエル。翻訳:酒井洋子、訳詞:岩谷時子。製作:東宝。
全ての役が完全オーディションで決まることで知られる「レ・ミゼラブル」。以前に役を歌ったことがある人でも、再び役を貰えるとは限らない。一方で、無名でもミュージカルのイメージがない俳優でもオーディションさえ通れば出演する可能性がある。
トリプルキャストが基本だが、今日の出演は、飯田洋輔(ジャン・バルジャン)、小野田龍之介(ジャベール警部)、 生田絵梨花(ファンテーヌ)、ルミーナ(エポニーヌ)、三浦宏規(マリウス)、加藤梨里香(コゼット)、六角精児(テナルディエ)、谷口ゆうな(マダム・テナルディエ)、岩橋大(アンジョルラス)、大園尭楽(おおぞの・たから。ガブローシュ)、井澤美遥(リトル・コゼット)、平山ゆず希(リトル・エポニーヌ)、鎌田誠樹(かまだ・まさき。司教)、佐々木淳平(工場長)、小林遼介(パマタボア)、近藤真行(グランティール)、杉浦奎介(フイイ)、伊藤広祥(いとう・ひろあき。コンブフェール)、島崎伸作(クールフェラック)、東倫太郎(ひがし・りんたろう。ジョリ)、中村翼(プルベール)、廬川晶祥(ろがわ・あきよし。レーグル)、町田慎之介(バベ)、ユーリック武蔵(ブリジョン)、土倉有貴(とくら・ゆうき。クラクスー)、松村桜李(モンパルナス)、白鳥光夏(しらとり・みか。ファクトリーガール)、般若愛実(はんにゃ・まなみ。買入屋)、湖山夏帆(かつら屋)、三浦優水香(マダム)、青山瑠里(宿屋の女房)、荒居清香(あらい・せいか。カフェオーナーの妻)、石丸椎菜(病気の娼婦)、大泰司桃子(おおたいし・ももこ。鳩)、北村沙羅(あばずれ)、吉良茉由子(身代わりの妻)。
「夢やぶれて」、「民衆の歌」、「オン・マイ・オウン」など有名曲を擁し、これらの曲が何度も用いられる循環形式も効果的なミュージカルである。パンを盗んだだけで19年間投獄されていた男、ジャン・バルジャンの更生と、ジャン・バルジャンが育てた娘のコゼット、コゼットに恋する大学生の好青年マリウスなどを軸に、叶わぬ恋に悩むエポニーヌ、6月暴動に向かう若者達の姿が交錯する叙事詩である。
聴き映えはするが歌唱難度はそれほど高くない曲と、高音域が要求されたり音の進行が不安定だったりと本当に難度が高い曲が混在しており、バランスが良い。まるでショパンの楽曲のようだ。
今回、ジャン・バルジャンを演じる飯田洋輔は裏声の美しさが印象的。ミュージカルのみならず歌手としても活動が出来そうだ。人気が出るかどうかはまた別の話だが。
すでに若手トップクラスのミュージカル女優の一人として評価されている生田絵梨花。ミュージカルのみならずテレビドラマにも主演するなど順調なキャリアを歩んでいるが、ミュージカルをやっている時の彼女が一番生き生きしているように見える。
最も有名なナンバー「夢やぶれて」を彼女は意図的に走り気味に歌唱。おそらく感情が先走っていることを表現しているのだろうと思われる。歌い方は節度が保たれており、映画版のアン・ハサウェイとは好対照である。彼女が演じるファンテーヌは同じ女工から苛め抜かれた上、コゼットを生んであっさり亡くなってしまうのだが、終盤におそらく聖人となってジャン・バルジャンの下を訪れる。また「夢やぶれて」のメロディーはリフレインされる。
マリウスに片想いするエポニーヌ。彼女もまた非業の死を遂げる人物である。6月暴動でバリケードに閉じこもるが(思想面ではなく、単にマリウスと一緒にいたかったから)射殺されてしまう。
彼女がマリウスへの気持ちを歌った「オン・マイ・オウン」は難度も高いが、事前にメロディーが流れる場面があったり、その後、クライマックスでリフレインされる。
ルミーナは、インドと日本のハーフで、ソウル国立大学校で声楽を学んだというインテリである。まず韓国版「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役で出演。続いて日本版の「レ・ミゼラブル」にも出演している。
過去に犯した罪か現在か。過去に犯した罪を執拗に追及するジャベール警部は、自分が追っていたものが過去の幻影だと思い知らされ、セーヌ川に身を投げることになる。ジャン・バルジャンが最初に仮出所したのは46歳ともう若くない年齢であり、それでも悔い改めようとはしなかったが、そこから事業で成功して市長になり、その後もコゼットを育てるなど失敗からのやり直しを果たした、慈父のようになった人物である。
過去に手を差し伸べた二人の女性(ファンテーヌとエポニーヌ)の霊に見守られながら、ジャン・バルジャンは旅立っていく。
2025年2月18日 (火)
観劇感想精選(484) リリックプロデュース公演 Musical「プラハの橋」
2025年2月10日 京都劇場にて
午後6時30分から、京都劇場で、リリックプロデュース公演 Musical「プラハの橋」を観る。歌手の竹島宏が「プラハの橋」(舞台はプラハ)、「一枚の切符」(舞台不明)、「サンタマリアの鐘」(舞台はフィレンツェ)という3枚のシングルで、2003年度の日本レコード大賞企画賞を受賞した「ヨーロッパ三部作」を元に書かれたオリジナルミュージカル公演である。作曲・編曲:宮川彬良、脚本・演出はオペラ演出家として知られる田尾下哲。作詞は安田佑子。竹島宏、庄野真代、宍戸開による三人芝居である。演奏:宮川知子(ピアノ)、森由利子(ヴァイオリン)、鈴木崇朗(バンドネオン)。なお、「ヨーロッパ三部作」の作曲は、全て幸耕平で、宮川彬良ではない。
パリ、プラハ、フィレンツェの3つの都市が舞台となっているが、いずれも京都市の姉妹都市である。全て姉妹都市なので京都でも公演を行うことになったのかどうかは不明。
客席には高齢の女性が目立つ。
チケットを手に入れたのは比較的最近で、宮川彬良のSNSで京都劇場で公演を行うとの告知があり、久しく京都劇場では観劇していないので、行くことに決めたのだが、それでもそれほど悪くはない席。アフタートークでリピーターについて聞く場面があったのだが、かなりの数の人がすでに観たことがあり、明日の公演も観に来るそうで、自分でチケットを買って観に来た人はそれほど多くないようである。京都の人は数えるほどで、北は北海道から南は鹿児島まで、日本中から京都におそらく観光も兼ねて観に来ているようである。対馬から来たという人もいたが、京都まで来るのはかなり大変だったはずである。
青い薔薇がテーマの一つになっている。現在は品種改良によって青い薔薇は存在するが、劇中の時代には青い薔薇はまだ存在しない(青い薔薇は2004年に誕生)。
アンディ(本名はアンドレア。竹島宏)はフリーのジャーナリスト兼写真家。ヨーロッパ中を駆け巡っているが、パリの出版社と契約を結んでおり、今はパリに滞在中。編集長のマルク(宍戸開)と久しぶりに出会ったアンディは、マルクに妻のローズ(庄野真代)を紹介される。アンディもローズもイタリアのフィレンツェ出身であることが分かり、しかも花や花言葉に詳しい(ローズはフィレンツェの花屋の娘である)ことから意気投合する。ちなみにアンディはフィレンツェのアルノ川沿いの出身で、ベッキオ橋(ポンテ・ベッキオ)を良く渡ったという話が出てくるが、プッチーニの歌劇「ジャンニ・スキッキ」の名アリア“ねえ、私のお父さん”を意識しているのは確かである。
ローズのことが気になったアンディは、毎朝、ローズとマルクの家の前に花を一輪置いていくという、普通の男がやったら気味悪がられそうなことを行う。一方、ローズも夫のマルクが浮気をしていることを見抜いて、アンディに近づいていくのだった。チェイルリー公園で待ち合わせた二人は、駆け落ちを誓う。
1989年から1991年まで、共産圏が一斉に崩壊し、湾岸戦争が始まり、ユーゴスラビアが解体される激動の時代が舞台となっている。アンディは、湾岸戦争でクウェートを取材し、神経剤が不正使用されていること暴いてピューリッツァー賞の公益部門を受賞するのだが、続いて取材に出掛けたボスニア・ヘルツェゴビナで銃撃されて右手を負傷し、両目を神経ガスでやられる。
竹島宏であるが、主役に抜擢されているので歌は上手いはずなのだが、今日はなぜか冒頭から音程が揺らぎがち。他の俳優も間が悪かったり、噛んだりで、舞台に馴染んでいない印象を受ける。「乗り打ちなのかな?」と思ったが、公演終了後に、東京公演が終わってから1ヶ月ほど空きがあり、その間に全員別の仕事をしていて、ついこの間再び合わせたと明かされたので、ブランクにより舞台感覚が戻らなかったのだということが分かった。
台詞はほとんどが説明台詞。更に独り言による心情吐露も多いという開いた作りで、分かりやすくはあるのだが不自然であり、リアリティに欠けた会話で進んでいく。ただ客席の年齢層が高いことが予想され、抽象的にすると内容を分かって貰えないリスクが高まるため、敢えて過度に分かりやすくしたのかも知れない。演劇を楽しむにはある程度の抽象思考能力がいるが、普段から芝居に接していないとこれは養われない。風景やカット割りなどが説明的になる映像とは違うため、演劇を演劇として受け取る力が試される。
ただこれだけ説明的なのに、アンディとローズがなぜプラハに向かったのかは説明されない。一応、事前に「プラハの春」やビロード革命の話は出てくるのだが、関係があるのかどうか示されない。この辺は謎である。
竹島宏は、実は演技自体が初めてだそうだが、そんな印象は全く受けず、センスが良いことが分かる。王子風の振る舞いをして、庄野真代が笑いそうになる場面があるが、あれは演技ではなく本当に笑いそうになったのだと思われる。
宍戸開がテーブルクロス引きに挑戦して失敗。それでも拍手が起こったので、竹島宏が「なんで拍手が起こるんでしょ?」とアドリブを言う場面があった。アフタートークによると、これまでテーブルクロス引きに成功したことは、1回半しかないそうで(「半」がなんなのかは分からないが)、四角いテーブルならテーブルクロス引きは成功しやすいのだが、丸いテーブルを使っているので難しいという話をしていた。リハーサルでは四角いテーブルを使っていたので成功したが、本番は何故か丸いテーブルを使うことになったらしい。
最初のうちは今ひとつ乗れなかった三人の演技であるが、次第に高揚感が出てきて上がり調子になる。これもライブの醍醐味である。
宮川彬良の音楽であるが、三拍子のナンバーが多いのが特徴。全体の約半分が三拍子の曲で、残りが四拍子の曲である、出演者が三人で、音楽家も三人だが何か関係があるのかも知れない。
ありがちな作品ではあったが、音楽は充実しており、ラブロマンスとして楽しめるものであった。
竹島宏は、1978年、福井市生まれの演歌・ムード歌謡の歌手。明治大学経営学部卒ということで、私と同じ時代に同じ場所にいた可能性がある。
「『飛んでイスタンブール』の」という枕詞を付けても間違いのない庄野真代。ヒットしたのはこの1作だけだが、1作でも売れれば芸能人としてやっていける。だが、それだけでは物足りなかったようで、大学、更に大学院に進み、現在では大学教員としても活動している。
ちなみにこの公演が終わってすぐに「ANAで旅する庄野真代と飛んでイスタンブール4日間」というイベントがあり、羽田からイスタンブールに旅立つそうである。
三人の中で一人だけ歌手ではない宍戸開。終演後は、「私の歌を聴いてくれてありがとうございました」とお礼を言っていた。
ちなみにアフタートークでは、暗闇の中で背広に着替える必要があったのだが、表裏逆に来てしまい、出番が終わって控え室の明るいところで鏡を見て初めて表裏逆に着ていたことに気付いたようである。ただ、出演者を含めて気付いた人はほとんどいなかったので大丈夫だったようだ。
竹島宏は、「演技未経験者がいきなりミュージカルで主役を張る」というので公演が始まる前は、「みんなから怒られるんじゃないか」とドキドキしていたそうだが、東京公演が思いのほか好評で胸をなで下ろしたという。
庄野真代は、「こんな若い恋人と、こんな若い旦那と共演できてこれ以上の幸せはない」と嬉しそうであった。「これからももうない」と断言していたが、お客さんから「またやって」と言われ、宍戸開が「秋ぐらいでいいですかね」とフォローしていた。
2025年2月 7日 (金)
コンサートの記(885) びわ湖ホール オペラへの招待 クルト・ヴァイル作曲「三文オペラ」2025
2025年1月26日 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール中ホールにて
午後2時から、びわ湖ホール中ホールで、びわ湖ホール オペラへの招待 クルト・ヴァイル作曲「三文オペラ」を観る。ジョン・ゲイの戯曲「ベガーズ・オペラ(乞食オペラ)」をベルトルト・ブレヒトがリライトした作品で、ブレヒトの代表作となっている。ブレヒトは東ベルリンを拠点に活動した人だが、「三文オペラ」の舞台は原作通り、ロンドンのソーホーとなっている。
セリフの多い「三文オペラ」が純粋なオペラに含まれるのかどうかは疑問だが(ジャンル的には音楽劇に一番近いような気がする)、「マック・ザ・ナイフ」などのスタンダードナンバーがあり、クラシックの音楽家達が上演するということで、オペラと見ても良いのだろう。
ちなみに有名俳優が多数出演するミュージカル版は、白井晃演出のもの(兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール)と宮本亞門演出のもの(今はなき大阪厚生年金会館芸術ホール)の2つを観ている。
実は私が初めて買ったオペラのCDが「三文オペラ」である。高校生の時だった。ジョン・マウチュリ(当時の表記は、ジョン・モーセリ)の指揮、RIASベルリン・シンフォニエッタの演奏、ウテ・レンパーほかの歌唱。当時かなり話題になっており、CD1枚きりで、オペラのCDとしては安いので購入したのだが、高校生が理解出来る内容ではなかった。
栗山晶良が生前に手掛けたオペラ演出を復元するプロジェクトの中の1本。演出:栗山晶良、再演演出:奥野浩子となっている。
振付は、小井戸秀宅。
園田隆一郎指揮ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団の演奏。今日は前から2列目での鑑賞だったので、オーケストラの音が生々しく聞こえる。オルガン(シンセサイザーを使用)やバンドネオンなど様々な楽器を使用した独特の響き。
出演はWキャストで、今日は、市川敏雅(メッキー・メッサー)、西田昂平(にしだ・こうへい。ピーチャム)、山内由香(やまうち・ゆか。ピーチャム夫人)、高田瑞希(たかだ・みずき。ポリー)、有ヶ谷友輝(ありがや・ともき。ブラウン)、小林由佳(ルーシー)、岩石智華子(ジェニー)、林隆史(はやし・たかし。大道歌手/キンボール牧師)、有本康人(フィルチ)、島影聖人(しまかげ・きよひと)、五島真澄(男性)、谷口耕平、奥本凱哉(おくもと・ときや)、古屋彰久、藤村江李子、白根亜紀、栗原未知、溝越美詩(みぞこし・みう)、上木愛李(うえき・あいり)。びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーが基本である。
オーケストラピットの下手端に橋状になった部分があり、ここを渡って客席通路に出入り出来るようになっている。有効に利用された。
ロンドンの乞食ビジネスを束ねているピーチャム(今回は左利き。演じる西田昂平が左利きなのだと思われる)。いわゆる悪徳業者であるが、悪党の親玉であるメッキー・メッサーが自身の娘であるポリーと結婚しようとしていることを知る。メッキー・メッサーは、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)の警視総監ブラウンと懇意であり、そのために逮捕されないのだが、ピーチャムは娘を取り戻すためにブラウンにメッサーとの関係を知っていることを明かして脅す。
追われる身となったメッサーは、部下達に別れを告げ、ロンドンから出ることにするが、娼館に立ち寄った際に逮捕されてしまう。牢獄の横でメッサーに面会に来たポリーとブラウンの娘ルーシーは口論に。その後、上手く逃げおおせたメッサーであるが、再び逮捕されて投獄。遂には絞首刑になることが決まるのだが……。
クルト・ヴァイル(ワイル)は、いかにも20世紀初頭を思わせるようなジャンルごちゃ混ぜ風の音楽を書く人だが、「マック・ザ・ナイフ(殺しのナイフ)」はジャズのスタンダードナンバーにもなっていて有名である。今回の上演でもエピローグ部分も含めて計4度歌われる。エピローグ的な歌唱では、びわ湖ホールを宣伝する歌詞も特別に含まれていた。
また「海賊ジェニーの歌」も比較的有名である。
ブレヒトというと、「異化効果」といって、観客が登場人物に共感や没入をするのではなく、突き放して見るよう仕向ける作劇法を取っていることで知られるが、今回は特別に「異化効果」を狙ったものはない。ただ、オペラ歌手による日本語上演であるため、セリフが強く、一音一音はっきり発音するため、感情を込めにくい話し方となっており、そこがプロの俳優とは異なっていて、「異化効果」に繋がっていると見ることも出来る。
白井晃がミュージカル版「三文オペラ」を演出した際には、ポリー役に篠原ともえを起用。篠原ともえは今はいい女風だが、当時はまだ不思議ちゃんのイメージがあった頃、ということでヒロインっぽさゼロでそこが異化効果となっていた。今日、ポリーを演じたのは歌劇「竹取物語」で主役のかぐや姫を1公演だけ歌った高田瑞希。彼女はセリフも歌も身のこなしも自然で、いかにもオペラのヒロインといった感じであった。6年前に初めて見た時は、京都市立芸術大学声楽科に通うまだ二十歳の学生で、幼い感じも残っていたが、立派に成長している。
園田隆一郎指揮するザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団も、ヴァイルのキッチュな音楽を消化して表現しており、面白い演奏となっていた。
「セツアン(四川)の善人」などでもそうだが、ブレヒトは、ギリシャ悲劇の「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」を再現しており、それまでのストーリーをぶち破るように強引にハッピーエンドに持って行く。これも一種の異化効果である。
「三文オペラ」は、オペラ対訳プロジェクトの一作に選ばれており、クルト・ヴァイルの奥さんであったロッテ・レーニャなどの歌唱による音源を日本語字幕付きで観ることが出来る。
2025年1月27日 (月)
コンサートの記(882) 上白石萌音 MONE KAMISHIRAISHI “yattokosa” Tour 2024-25《kibi》京都公演@ロームシアター京都メインホール
2025年1月18日 左京区岡崎のロームシアター京都メインホールにて
午後6時から、左京区岡崎のロームシアター京都メインホールで、上白石萌音 “yattokosa” Tour 2024-25 《kibi》京都公演を聴く。若手屈指の人気女優として、また歌手としても活動している上白石萌音のコンサート。最新アルバム「kibi」のお披露目ツアーでもある。京都公演のチケットは完売。「kibi」はアルバムの出来としては今ひとつのように思えたのだが、実際に生声と生音で聴くと良い音楽に聞こえるのだから不思議である。
上白石萌音の歌声は、小林多喜二を主人公とした井上ひさし作の舞台作品「組曲虐殺」(於・兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール。小林多喜二を演じたのは井上芳雄)で耳にしており、心にダイレクトに染み渡るような美声に感心した思い出がある。ただ女優ではなく純粋な歌手としての上白石萌音の公演に接するのは今日が初めてである。
昨年の春に、一般受験で入った明治大学国際日本学部(中野キャンパス)を8年掛けて卒業した上白石萌音。英語が大の得意である。また、幼少時にメキシコで過ごしたこともあるため、スペイン語も話せるというトリリンガルである。フランス語の楽曲もサティの「ジュ・トゥ・ヴー」を歌って披露したことがある。
同じく女優で歌手の上白石萌歌は2つ下の実妹。萌歌は先に明治学院大学文学部芸術学科を卒業している。姉妹で名前が似ていてややこしいのに、出身大学の名称も似ていて余計にややこしいことになっている。
現在、「朝ドラ史上屈指の名作」との呼び声も高いNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバティ」がNHK総合で再放送中。ヒロインが3人いてリレー形式になる異色の朝ドラであったが、上白石萌音は一番目のヒロインを務めている(オーディションでの合格)。また新たな法曹関連の連続主演ドラマの放送が始まっている。
上白石萌音の声による影アナがあったが、録音なのかその場で言っているのかは判別出来ず。ただ、「もうちょっとで開演するから、待っててな」を京言葉の口調で語っており、毎回、ご当地の方言をアナウンスに入れていることが分かる。
客層であるが、年齢層は高めである。私よりも年上の人が多く、娘や孫を見守る感覚なのかも知れない。また、「『虎に翼』は面白かった!」という話も聞こえてきて、朝ドラのファンも多そうである。若い人もそれなりに多いが、女の子の割合が高い。やはり女優さんということで憧れている子が多いのだろう。なお、会場でペンライトが売られており、演出としても使われる。黄色のものと青のものがあり、ウクライナの国旗と一緒だが、関係があるのかどうかは分からない。
紗幕(カーテン)が降りたままコンサートスタート。カーテンが開くと上白石萌音が椅子に座って歌っている。ちなみにコンサートは上白石萌音が椅子に腰掛けたところでカーテンが閉まって終わったので、シンメトリーの構図になっていた。
白の上着と青系のロングスカート。スカートの下にはズボンをはいていたようで、途中の衣装替えではスカートを取っただけですぐに出てきた。
「『kibi』という素敵な曲ばかりのアルバムが出来たので、全部歌っちゃいます」と予告。「kibi」では上白石萌音も作詞で参加しているが、優等生キャラであるため、良い歌詞かというとちょっと微妙ではある。
浮遊感のある歌声で、音程はかなり正確(おそらく一音も外していない)。聴き心地はとても良い。
思っていたよりも歌手しているという感じで、クルクル激しく回ったりと、ステージでの振る舞いが様になっている。
原田知世や松たか子といった歌手もやる女優はトークも面白く、トーク込みで一つの商品という印象を受けることが多いが、上白石萌音も例外ではなく、楽しいトークを展開していた。
「今日は4階(席)まであるんですね」と上白石。4階席に向かって手を振る。更に、上手バルコニー席(サイド席)に向けて、「あちらの方は見えますか? 首が痛くありません?」、そして下手バルコニー席には、「そして、こちらにも。首がずっと(横を向いていて)。途中で(上手バルコニー席と)交換出来たら良いんですけど」「私も演劇で、ああいう席(バルコニー席)に座ったことがあって、終わったら首がこんな感じで」と首が攣った状態を模していた。ちなみに私は3階の下手バルコニー席にいた。彼女にはオフィシャルファンクラブ(le mone do=レモネードというらしい)があるので、1階席などは会員優先だと思われる。
上白石萌音も上白石萌歌も、「音」や「歌」といった音楽系の漢字が入っているが、母親が音楽の教師であったため、「音楽好きになるように」との願いを込めて命名されている。当然ながら幼時から音楽には触れていて、今日はキーボードの弾き語りも披露していた。
「京都には本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当にお世話になっていて」と語る上白石萌音。彼女の出世作である周防正行監督の映画「舞妓はレディ」も京都の上七軒をもじった下八軒という架空の花街を舞台としており、「カムカムエヴリバティ」も戦前から戦後直後に掛けての岡山の町並みのシーンなどは太秦の東映京都撮影所で撮られていて、京都に縁のある女優でもある(ただ大抵の売れっ子女優は京都と縁がある)。「舞妓はレディ」の時には、撮影の前に、上七軒の置屋に泊まり込み、舞妓さんの稽古を見学し、日々の過ごし方を観察し、ご飯も舞妓さん達と一緒に食べるなど生活を共にして役作りに励んだそうだ。ただ、置屋の「女将さん? お母さん?」からは、帯を締めて貰うときにかなりの力で引っ張られたそうである。着付けは色んな人にやって貰ったことがあるが、そのお母さんが一番力強かったそうだ。そのため転んでしまいそうになったそうだが、お母さんからは、「『こんなんでよろけてたら、稽古なんか出来しません』だったか、正確な言葉は忘れてしまったんですけれども」と振り返っていた。「『舞妓はレディ』を撮っていた頃の自分は好き」だそうである。
「京都には何度もお世話になっているんですけれども、京都でライブをやるのは初めてです」と語るが、「あ、一人でやるのは初めてです。何人かと」と続けるも、聴衆が拍手のタイミングを失ったため、少し前に出て、「京都でライブをやるのは初めてです!」と再度語って拍手を貰っていた。
毎回、ご当地ソングを歌うようにしているそうで、今日は、くるりの「京都の大学生」が選ばれたのだが、「京都なので、この歌もうたっちゃった方がいいですよね」と、特別に「舞妓はレディ」のサビの部分をアカペラで歌ってくれたりもした。「『花となりましょう~おおお』の『おおお』の部分が当時は歌えなかったんですけども」と装飾音の話をし、「でも努力して、今は出来るようになりました」と語った。
また、京都については、「時間がゆっくり流れている場所」「初心に帰れる場所」と話しており、「京都弁は大好きです」と言って、京風の言い回しも何度かしていた。仕事関係の知り合いに京都弁を喋る女性がいて、「いいなあ」と思っているそうだ。京都の言葉では汚い単語を使ってもそうは聞こえないそうである。
京都の冬は寒いことで知られるが、「雪は降ったんですかね?」と客席に聞く。若い男性の声で「まだ降ってないよ」と返ってくるが、続いて、若い女性複数の声が「降ったよ、降ったよ」と続き、上白石萌音は、「どっちやねん?!」と関西弁で突っ込んでいた。「さては、最初の方は京都の人ではないですね」
「降ったり降らなかったり」でまとめていたが、京都はちょっと離れると天気も変わるため、京都市の北の方は確実に降っており、南の方はあるいは降っていないと思われる。
「ロンドン・コーナー」。舞台「千と千尋の神隠し」の公演のため、3ヶ月ロンドンに滞在した上白石萌音。「数々の名作を生んだ、文化の土壌のしっかりしたところ」で過ごした日々は思い出深いものだったようだ。ウエストエンドという劇場が密集した場所で「千と千尋の神隠し」の公演は行われたのだが、昼間に他の劇場でミュージカルを観てスタンディングオベーションをした後に走って自分が出演する劇場に向かい、夜は「千と千尋の神隠し」の舞台に出ることが可能だったそうで、滞在中にミュージカルを十数本観て、いい刺激になったそうだ。英語は得意なので言葉の問題もない。
ということで、ロンドンゆかりの楽曲を3曲歌う。全て英語詞だが、上白石本人が日本語に訳したものがカーテンに白抜き文字で投影される。「見えない方もいらっしゃるかも知れませんが、後で対処します」と語っていたため、後日ホームページ等にアップされるのかも知れない。
ビートルズの「Yesterday」、ミュージカル「メリー・ポピンズ」から“A Spoonful of sugar(お砂糖一さじで)” 、ミュージカル「レ・ミゼラブル」から“夢やぶれて”の3曲が歌われる。実はビートルズナンバーの歌詞を翻訳することは「あれ」なのだが、観客数も限られていることだし、特に怒られたりはしないだろう。
“夢やぶれて”は特に迫力と心理描写に優れていて良かった。
参加ミュージシャンへの質問も兼ねたメンバー紹介。これまでは上白石萌音が質問を考えていたのだが、ネタ切れということでお客さんに質問を貰う。質問は、「これまで行った中で一番素敵だと思った場所」。無難に「京都」と答える人もいれば、「伊勢神宮」と具体的な場所を挙げる人もいる。「行ったことないんですけど寂光院」と言ったときには、「常寂光院ですか? 私行ったことあります」と上白石は述べていたが、寂光院と常寂光院は名前は似ているが別の寺院である。「萌音さんといればどこでも」と言ったメンバーの首根っこを上白石は後ろから押したりする。「思いつかない」人には、「実家の子ども部屋です」と強引に言わせていた。上白石は、「京都もいいんですけど、スペイン」と答えた。
ペンライトを使った演出。舞台上にテーブルライトがあり、上白石萌音がそれを照らすとペンライトの灯りを付け、消すとスイッチを切るという「算段です」。「算段」というのは一般的には文語(書き言葉)で使われる言葉で、口語的ではないのだが、読書家の人は往々にして無意識に書き言葉で喋ることがある。私の知り合いにも何人かいる。上白石萌音は読書家といわれているが、実際にそのようである。
「付けたり消したり上手にしはるわあ」
「スピカ」という曲で本編を終えた上白石萌音。タイトルの似た「スピン」という曲も歌われたのだが、「スピン」は今回のセットリストの中で唯一の三拍子の歌であった。
アンコールは2曲。「まぶしい」と「夜明けをくちずさめたら」であった。
「この中には、今、苦しんでらっしゃる方もいるかも知れません。また生きていればどうしても辛いこともあります」といったようなことを述べ、「でも一緒に生きていきまひょ」と京言葉でメッセージを送っていた。
サインボールのようなものを投げるファンサービスを行った後で、バンドメンバーが下がってからも上白石萌音は一人残って、上手側に、そして下手側に、最後に中央に回って深々とお辞儀。土下座感謝もしていた。土下座感謝は野田秀樹も松本潤、永山瑛太、長澤まさみと共にやっていたが、東京では流行っているのだろうか。
エンドロール。スクリーンに出演者や関係者のテロップが流れ、最後は上白石萌音の手書きによる、「みなさんおおきに、また来とくれやす! 萌音」の文字が投影された。
帰りのホワイエでは、若い女性が、「オペラグラスで見たけど、本当、めっちゃ可愛かった!」と興奮したりしていて、聴衆の満足度は高かったようである。
2025年1月20日 (月)
観劇感想精選(481) 絢爛豪華 祝祭音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」2024-25
2025年1月6日 梅田芸術劇場メインホールにて観劇
午後5時から、梅田芸術劇場メインホールで、絢爛豪華 祝祭音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」を観る。作:井上ひさし、演出:藤田俊太郎。出演:浦井健治、大貫勇輔、唯月ふうか、土井ケイト、阿部裕、玉置孝匡、瀬奈じゅん、中村梅雀、章平、猪野広樹、綾凰風、福田えり、梅沢昌代、木場勝己ほか。音楽:宮川彬良。振付:新海絵里子。
日生劇場の制作。セリフの方が多いため、音楽劇となっているが、ミュージカル界の若手を代表する俳優が配役されている。2020年に上演されるもコロナで東京公演は途中で打ち切り、大阪公演は全て中止となっており、リベンジの上演となる。だが2020年上演の目玉だった高橋一生は今回は出演しない。そしてミュージカル俳優は舞台が主戦場となるため、一般の知名度はそう高くなく、そのためか空席がかなり目立った。ただ実力的にはやはり高いものがある。
浦井健治はこれまで観たミュージカルの中では、「アルジャーノンに花束を」が印象に残っており、唯月ふうかは博多座で「舞妓はレディ」を観ている(共に主役)。
「十二夜」を除くシェイクスピアの全戯曲からの抜粋と、「天保水滸伝」の「ハイブリッド」作品である。
この作品の説明が木場勝己によって講談調で語られた後で、シェイクスピアに関する情報が出演者全員で歌われる。「シェイクスピアがいなかった演目に困る」「英文学者が食べていけない」「全集が出せないので出版社が儲からない」「シェイクスピアがいなかったら女が弱き者とされることもなかった」「バンスタイン(レナード・バーンスタインのこと)が、名作(「ロミオとジュリエット」の翻案であるミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」のこと)を書くこともない」「ツーナイトツーナイト(「Tonight」のこと。実際にバーンスタインの「Tonight」のメロディーで歌われる)というヒット曲が生まれることもない」「シェイクスピアはノースペア」といった内容である。
「十二夜」を除くシェイクスピアの全戯曲からの抜粋であるが、四大悲劇と「ロミオとジュリエット」、「リチャード三世」、「間違いの喜劇」だけを抑えておけば作品の内容は分かる。
舞台となるのは下総国清滝(現・千葉県旭市清滝)。私の母方の実家が旭市であるが、清滝は旧・海上郡海上町(かいじょうぐんうなかみまち)にあり、平成の大合併により旭市に編入されている。銚子のすぐそばであり、作中にも銚子の名は登場する。現在の千葉県内であるが、「東のとっぱずれ」と称される銚子のそばだけに、江戸からはかなり遠い。
まずは「リア王」に始まる。清滝宿の旅籠を仕切る侠客・鰤の十兵衛(中村梅雀)の三女のお光(おみつ。唯月ふうか)が「愛情表現が足りない」という理由で家を追われる(「リア王」と違い、それなりに表現は出来ているのだが)。ちなみにお光がコーディリアに当たることはセリフで明かされる。
長女のお文(瀬奈じゅん)と次女のお里(土井ケイト)がそれぞれに派閥を作り、これがモンタギュー家(紋太)とキャピュレット家の関係に繋がる。
なお、お文とお里は傍白を語るときに体の向きを変えなかったため、本音の後におべっかを使ったということが分かりにくくなっていた。お光を演じる唯月ふうかは体の向きを変えていたが、演出ではなく自主的に向きを変えたのだろう。シェイクスピア好きなら傍白であることは分かるし、シェイクスピアのことを何にも知らない人がこの芝居を観に来る可能性も低いので敢えて変えなかったのだろうが、やはり傍白の時は体の向きを変えて分かりやすくした方が良かったように思う。
ハムレットは「き印の王次」の名で登場し(大貫勇輔)、リチャード三世は佐渡の三世次(浦井健治)として登場する。「マクベスノック」として有名なノック(障子を叩いているので実際にはノックとは呼べないが)を行うのも三世次である。
役名を変えずに何役も兼ねている場合があるが(尾瀬の幕兵衛というオセロとマクベスを合わせた名前の人物もいる)、お光とおさちは双子という設定で唯月ふうかが衣装早替えで演じている。
「オセロ」に出てくるハンカチは櫛に替えられている。
「ハムレット」の有名なセリフ、「To be or not to be,That's the Question.」は、様々な翻訳者による訳が紹介される(登場する中では、ちくま文庫収蔵の松岡和子による訳が最も新しいと思われる)。一般に知られる「生か死かそれが問題だ」は、実は文章自体は有名であるが、「ハムレット」の戯曲の翻訳に採用されるのは、21世紀に入ってからの河合祥一郎訳が初めてである。「ハムレット」のテキスト翻訳はその後も行われており、内野聖陽のハムレットと貫地谷しほりのオフィーリアという大河ドラマ「風林火山」コンビによる上演では全く違う表現が用いられていた。
お冬(綾凰華)という女性がオフィーリアに相当し、「尼寺へ行け!」や狂乱の場などはそのまま生かされている。お冬は新川という川に転落して命を落とすが、実はこの新川(新川放水路)は、私の母親が幼い時分に流されそうになった川である。
ラストは「リチャード三世」の展開となり、「馬をくれ!」というセリフはそのまま出てくるが、三世次は国王でも将軍でも天皇でもないので、「馬をくれたら国をやる」とはならず、転落死を選ぶ。
いわゆるパッチワークだが、繋ぎ方は上手く、「流石は井上ひさし」とうなる出来である。若手トップレベルのミュージカル女優でありながら、「舞妓はレディ」の時は、「(原作映画で同じ役を演じている)上白石萌音に比べるとね」と相手が悪かった唯月ふうかだが、やはり華と実力を兼ね備えた演技と歌唱を披露していた。
他の俳優も殺陣や歌唱に貫禄があり、好演である。
ラストは全員が1階客席通路に出て、「シェイクスピアがいなかったら」を再度歌い、大いに盛り上がった。
宮川彬良率いるバックバンドはステージの奥で演奏。基本的には見えないが、第2部冒頭では演奏する姿を見ることが出来るようになっていた。
梅田芸術劇場開場20周年ということで、終演後に、藤田俊太郎(司会)、浦井健治、大貫勇輔によるアフタートークがある。20年前にも劇場はあったのだが、経営が変わり、梅田芸術劇場という名称になってから20年ということである。以前は、梅田芸術劇場メインホールは梅田コマ劇場といった。シアター・ドラマシティは名前はそのままだが正式名称が梅田芸術劇場シアター・ドラマシティに変わっている。
梅田芸術劇場メインホールでの思い出深い公演として、浦井健治は「ロミジュリ(ロミオとジュリエット)」、大貫勇輔は「北斗の拳」を挙げた。なお、大貫勇輔は、き印の王次の「き印」が何のことか分からず、最初は「雉のことかな」と思っていたそうである。
元梅田コマ劇場ということで、梅田芸術劇場メインホールでは宙乗りが行える。浦井健治も宙乗りをしたことがあるそうだが、Wキャストで出ていた柿澤勇人(昨年、「ハムレット」で大当たりを取ったため、浦井も大貫も「ハムレット俳優」と呼んだ)は高所恐怖症であったため、宙乗りはしたが、「もう二度とやらない」と言っていたそうである。
2024年11月23日 (土)
観劇感想精選(477) ミュージカル「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」再々演(三演) 2024.11.10 SkyシアターMBS
2024年11月10日 JR大阪駅西口のSkyシアターMBSにて観劇
12時30分から、JR大阪駅西口のSkyシアターMBSで、Daiwa House Presents ミュージカル「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」を観る。2000年に製作されたイギリス映画をミュージカル化した作品で、日本では今回が三演(再々演)になる。前回(再演)は、2020年の上演で、私は梅田芸術劇場メインホールで観ている。特別に感銘深い作品という訳ではなかったのだが(完成度自体は映画版の「リトル・ダンサー」の方が良い)、とある事情で観ることになった。
今年出来たばかりのSkyシアターMBS。このミュージカル「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」もオープニングシリーズの一つとして上演される。先にミュージカル「RENT」を観ているが、この時は2階席。今日は1階席だが、1階席だと音響はミュージカルを上演するのに最適である。程よい残響がある。演劇やミュージカルのみならず、今後は斉藤由貴などがコンサートを行う予定もあるようだ。オーケストラピットを設置出来るようになっていて、今日はオケピを使っての上演である。
ロングラン上演ということもあって、全ての役に複数の俳優が割り当てられている。前回は、益岡徹の芝居が見たかったので、益岡徹が出る回を選んだのだが、今回も益岡徹は出演するので、益岡徹出演回を選び、濱田めぐみの歌も聴いてみたかったので、両者が揃う回の土日上演を選び、今日のマチネーに決めた。
今日の出演は、石黒瑛土(いしぐろ・えいと。ビリー・エリオット)、益岡徹(お父さん=ジャッキー・エリオット)、濱田めぐみ(サンドラ・ウィルキンソン先生)、芋洗坂係長(ジョージ・ワトソン)、阿知波悟美(おばあちゃん)、西川大貴(にしかわ・たいき。トニー)、山科諒馬(やましな・りょうま。オールダー・ビリー)、髙橋維束(たかはし・いつか。マイケル)、上原日茉莉(デビー)、バレエダンサーズ・ベッドリントン(組)、髙橋翔大(トールボーイ)、藤元萬瑠(ふじもと・まる。スモールボーイ)ほか。
ベッドリントン(組)=岩本佳子、木村美桜、清水優、住徳瑠香、長尾侑南。
ミュージカル「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」は、映画「リトル・ダンサー(原題「Billy Elliot」)」をエルトン・ジョンの作曲でミュージカル化(「Billy Elliot the Musical」)したもので、2005年にロンドンで初演。日本版は2017年に初演され、2020年に再演、今回が三演(再々演)となる。日本でも初演時には菊田一夫演劇大賞などを受賞した。
ミュージカル「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」は、トニー賞で、ミュージカル作品賞、脚本賞、演出賞、振付賞など多くの賞を受賞している。なお、脚本(リー・ホール)、演出(スティーブン・ダルドリー)、振付(ピーター・ダーリング)は映画版と一緒である(テキスト日本語訳:常田景子、訳詞:高橋亜子、振付補:前田清実&藤山すみれ)。
ただ、社会批判はかなり強くなっており、冒頭の映像で、マーガレット・サッチャー(劇中ではマギー・サッチャーの愛称で呼ばれる。マーガレットの愛称にはもう一つ、メグというチャーミングなものがあるが、そちらで呼ばれることは絶対にない)首相が炭鉱の国有化を反故にした明らかな悪役として告発されているほか、第2幕冒頭のクリスマスイブのパーティーのシーンではジョージがサッチャーの女装をしたり、サッチャーの巨大バルーン人形が登場したりして、サッチャーの寿命が1年縮んだことを祝う場面があるなど、露骨に「反サッチャー色」が出ている。実際にサッチャーが亡くなると労働者階級の多くがパーティーを開いたと言われている。
イングランド北東部の炭鉱の町、ダラムのエヴァリントンが舞台なので、炭鉱で働く人の多くを失業に追いやったサッチャーが目の敵にされるのは当然なのだが、サッチャー的な新自由主義そのものへと嫌悪感が示されているようである。新自由主義は21世紀に入ってから更に大手を振って歩くようになっており、日本も当然ながらその例外ではない。
炭鉱の町が舞台ということで、日本を代表する炭鉱の存在する筑豊地方の方言にセリフが置き換えられている。
子役は多くの応募者の中から厳選されているが(1374人が応募して合格者4人)、今日、ビリーを演じた石黒君も演技の他に、バレエ、ダンス、タンブリング、歌など、高い完成度を見せている(2023年NBA全国バレエコンクール第1位、2023年YBCバレエコンクール第1位などの実績がある)。
反サッチャー色が濃くなっただけで、大筋については特に変更はない。1984年、ボクシングを習っていた11歳のビリー(どうでもいいことですが、私より1歳年上ですね)は、ボクシング教室の後に同じ場所で行われるバレエ教室のウィルキンソン先生(自己紹介の時に「アンナ・パヴロワ」と「瀕死の白鳥」で知られる名バレリーナを名乗る)にバレエダンサーとしての素質を見出され、ロンドンのロイヤル・バレエ・スクールを受けてみないかと誘われる。しかし、男臭い田舎の炭鉱町なので、最初はビリーも「バレエをやるのはオカマ」という偏見を持ち、炭鉱夫であるビリーの父親もやはり「バレエはオカマがやるもの」と思い込んでいる。なお、ビリーの母親はすでに亡くなっているが、幻影として登場する(演:大月さゆ)。現在、町はサッチャリズムに反対したストライキ中で、炭鉱の将来の見通しも暗い。
人々は、英語で「仕事と命を守れ」、「この町を地獄に追い落とすな」等の文句の書かれたプラカードを掲げている(英語が苦手な人は意味が分からないと思われる)。
元々筋が良いため、バレエも日々上達し、次第にロイヤル・バレエ・スクールのオーディションを受けることに関心を見せていくビリー。しかし、オーディションの当日、警官達がストライキ中の町を襲撃するという事件があり、ビリーはオーディションを受けることが出来なくなってしまう。
作曲はエルトン・ジョンであるが、ビリーがジュラルミンの楯を持った警官達と対峙するときに、チャイコフスキーの「白鳥の湖」より情景のメロディーが一瞬流れ、ビリーがオールダー・ビリーとデュオを踊る(ワイヤーアクションの場面あり)シーン(映画ではラストシーンだが、ミュージカルでは途中に配される)にも「白鳥の湖」が用いられ、更にその後も一度、「白鳥の湖」は流れる。
ウィルキンソン先生を、ビリーが母のように慕うシーンは映画版にはなかったもの(そもそも映画版とミュージカル版ではウィルキンソン先生の性格が異なる)。またビリーの父親であるジャッキーが故郷への愛着を三拍子の曲で歌ったり、炭鉱の人々がビリーを励ます歌をあたかもプロテストソングのように歌い上げたりするシーンもより政治色を強めている。
ビリーの兄のトニーがいうように、炭鉱の人々はサッチャーによって全員失業させられる。これからどうやって生きていくのか。ビリーのサクセスストーリーよりもそちらの方が気になってしまう。ビリーのために乏しい財布からカンパをした人々だ。この後、炭鉱の閉鎖が決まり、地獄のような時代が待っているはずだが、皆、生き抜いて欲しい。
ビリーは、出る時も客席通路からステージに向かう階段を昇って現れたが、去る時も母親の幻影と決別した後に階段を使って客席通路に降り、客席通路を一番上まで上って退場した。客席から第二のビリーが現れるようにとの制作側のメッセージが感じられた。実際、今日のビリーを演じた石黒瑛土君もミュージカル「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」の初演と再演を観てオーディション参加を決めたという。
2024年10月11日 (金)
観劇感想精選(471) 日米合作ブロードウェイミュージカル「RENT」 JAPAN TOUR 2024大阪公演
2024年9月14日 JR大阪駅西口のSkyシアターMBSにて観劇
午後5時30分から、大阪・梅田のSkyシアターMBSで、日米合作ブロードウェイミュージカル「RENT」JAPAN TOUR 2024 大阪公演を観る。英語上演、日本語字幕付きである。
SkyシアターMBSは、大阪駅前郵便局の跡地に建てられたJPタワー大阪の6階に今年出来たばかりの新しい劇場で、今、オープニングシリーズを続けて上演しているが、今回の「RENT」は貸し館公演の扱いのようで、オープニングシリーズには含まれていない。
プッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」をベースに、舞台を19世紀前半のパリから1990年代後半(20世紀末)のニューヨーク・イーストビレッジに変え、エイズや同性愛、少数民族など、プッチーニ作品には登場しない要素を絡めて作り上げたロックミュージカルである。ストーリーなどは「ラ・ボエーム」を踏襲している部分もかなり多いが、音楽は大きく異なる。ただ、ラスト近くで、プッチーニが書いた「私が街を歩けば」(ムゼッタのワルツ)の旋律がエレキギターで奏でられる部分がある。ちなみに「私が街を歩けば」に相当するナンバーもあるが、曲調は大きく異なる。
脚本・作詞・作曲:ジョナサン・ラーソン。演出:トレイ・エレット、初演版演出:マイケル・グライフ、振付:ミリ・パーク、初演版振付:マリース・ヤーヴィ、音楽監督:キャサリン・A・ウォーカー。
出演は、山本耕史、アレックス・ボニエロ、クリスタル ケイ、チャベリー・ポンセ、ジョーダン・ドブソン、アーロン・アーネル・ハリントン、リアン・アントニオ、アーロン・ジェームズ・マッケンジーほか。
観客とのコール&レスポンスのシーンを設けるなど、エンターテインメント性の高い演出となっている。
タイトルの「RENT」は家賃のことだが、家賃もろくに払えないような貧乏芸術家を描いた作品となっている。
主人公の一人で、ストーリーテラーも兼ねているマークを演じているのは山本耕史。彼は日本語版「レント」の初演時(1998年)と再演時(1999年)にマークを演じているのだが、久しぶりのマークを英語で演じて歌うこととなった。かなり訓練したと思われるが、他の本場のキャストに比べると日本語訛りの英語であることがよく分かる。ただ今は英語も通じれば問題ない時代となっており、日本語訛りでも特に問題ではないと思われる(通じるのかどうかは分からないが)。
マークはユダヤ系の映像作家で、「ラ・ボエーム」のマルチェッロに相当。アレックス・ボニエロ演じるロジャーが詩人のロドルフォに相当すると思われるのだが、ロジャーはシンガーソングライターである。このロジャーはHIV陽性である。ミミはそのままミミである(演じるのはチャベリー・ポンセ)。ミミはHIV陽性であるが、自身はそのことを知らず、ロジャーが話しているのを立ち聞きして知ってしまうという、「ラ・ボエーム」と同じ展開がある。
ムゼッタは、モーリーンとなり、彼女を囲うアルチンドロは、性別を変えてジョアンとなっている。彼女たちは恋人同士となる(モーリーンがバイセクシャル、ジョアンがレズビアンという設定)。また「ラ・ボエーム」に登場する音楽家、ショナールが、エンジェル・ドゥモット・シュナールドとなり、重要な役割を果たすドラッグクイーンとなっている。
前半は賑やかな展開だが、後半に入ると悲劇性が増す。映像作家であるマークがずっと撮っている映像が、終盤で印象的に使われる。
「ラ・ボエーム」は悲劇であるが、「RENT」は前向きな終わり方をするという大きな違いがある。ロック中心なのでやはり湿っぽいラストは似合わないと考えたのであろう。個人的には、「ラ・ボエーム」の方が好きだが、「RENT」も良い作品であると思う。ただ、マイノリティー全体の問題を中心に据えたため、「ラ・ボエーム」でプッチーニが描いた「虐げられた身分に置かれた女性」像(「ラ・ボエーム」の舞台となっている19世紀前半のパリは、女性が働く場所は被服産業つまりお針子や裁縫女工、帽子女工など(グリゼット)しかなく、彼女達の給料では物価高のパリでは生活が出来ないので、売春などをして男に頼るしかなかったという、平民階級の独身の女性にとっては地獄のような街であった)が見えなくなっているのは、残念なところである。
より以前の記事一覧
- 観劇感想精選(446) 日本初演30周年記念公演 ミュージカル「ミス・サイゴン」@梅田芸術劇場メインホール 2022.9.15 2022.09.24
- これまでに観た映画より(283) スティーヴン・スピルバーグ監督「ウエスト・サイド・ストーリー」 2022.02.20
- コンサートの記(756) 2021年度公益事業文化公演京都府教職員互助組合創立70周年記念「新妻聖子&サラ・オレイン Special Concert」@ロームシアター京都 2022.01.03
- 観劇感想精選(399) 井上芳雄主演 ミュージカル「ハムレット」 2021.06.03
- 観劇感想精選(393) ミュージカル「シラノ」 2021.04.25
- 観劇感想精選(363) ミュージカル「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」再演 2020.11.03
- はいだしょうこ 一人二役宝塚歌劇風「木綿のハンカチーフ」 2020.11.02
- 楽興の時(39) 京都坊主BAR 「MANGETSU LIVE vol.24」(オーボエ:國本恵路) 2020.09.08
- 「モン巴里」(宝塚歌劇団花組) 2020.07.14
- これまでに観た映画より(162) 「アナと雪の女王」(吹き替え版) 2020.03.24
- 観劇感想精選(343) Bunkamura30周年記念シアターコクーン・オンレパートリー2019+大人計画「キレイ ―神様と待ち合わせした女―」 2020.02.26
- これまでに観た映画より(153) 「CATS キャッツ」(字幕版) 2020.02.13
- 観劇感想精選(317) 松本白鸚主演・演出 ミュージカル「ラ・マンチャの男」2019 2019.09.15
- コンサートの記(577) 佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2019 レナード・バーンスタイン ミュージカル「オン・ザ・タウン」西宮公演 2019.07.20
- 観劇感想精選(307) OSK日本歌劇団 「Salieri&Mozart サリエリとモーツァルト 愛と憎しみの輪舞(ロンド)」 2019.06.23
- コンサートの記(481) 京都新聞トマト倶楽部 京響バレンタインコンサート「ミュージカル界のシンデレラガール新妻聖子を迎えて!」 2018.12.27
- 観劇感想精選(275) ブロードウェイ・ミュージカル「SPELLING BEE(スペリング・ビー)」 2018.12.09
- 観劇感想精選(266) 宮本亜門演出「三文オペラ」 2018.10.30
- コンサートの記(443) 「時の響」2018 前夜祭コンサート 2018.10.24
- 観劇感想精選(261) ミュージカル「シティ・オブ・エンジェルズ」 2018.10.09
- コンサートの記(429) 愛知県立芸術大学レクチャーコンサート「ブレヒト・詩と音楽の夕べ」―ナチ時代に亡命したユダヤ系の音楽家たち― 2018.09.23
- 観劇感想精選(244) ミュージカル「リトル・ナイト・ミュージック」2018大阪 2018.05.11
- 観劇感想精選(242) 白井晃演出 「三文オペラ」 2018.04.22
- 観劇感想精選(238) ミュージカル「舞妓はレディ」 2018.03.20
- コンサートの記(355) 龍角散Presents レナード・バーンスタイン生誕100周年記念 パーヴォ・ヤルヴィ&N響 「ウエスト・サイド・ストーリー」(演奏会形式)~シンフォニー・コンサート版~ 2018.03.06
- 観劇感想精選(223) 大竹しのぶ主演 ミュージカル「にんじん」 2017.10.06
- 観劇感想精選(220) ミュージカル「パレード」 2017.06.27
- 観劇感想精選(219) ミュージカル「王家の紋章」2017大阪 2017.06.18
- 観劇感想精選(207) ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」2017大阪 2017.03.24
- 観劇感想精選(204) ミュージカル「フランケンシュタイン」2017大阪 2017.03.08
- 観劇感想精選(200) ミュージカル「わたしは真悟」 2017.02.04
- サイモン・ラトル指揮バーミンガム・コンテンポラリー・ミュージック・グループ レナード・バーンスタイン ミュージカル「ワンダフル・タウン」序曲 2016.02.25
- 観劇感想精選(176) ミュージカル「スコット&ゼルダ」 2016.01.22
- 観劇感想精選(163) ミュージカル「レ・ミゼラブル」2015 2015.09.17
- 「サウンド・オブ・ミュージック」より“マイ・フェイバリット・シングス”(英語詞&アニメーション付き) 2015.03.13
- コンサートの記(176) 新妻聖子と京フィル「マイ フェイバリット ミュージカル~ミュージカル大好き!~」 2015.03.05
- コンサートの記(169) アサヒビールpresents佐渡裕芸術監督プロデュース2013「ジルヴェスター・ポップス・コンサート」 キース・ロックハート指揮 新妻聖子(ヴォーカル) 2014.12.20
- レナード・バーンスタイン指揮ロンドン交響楽団 レナード・バーンスタイン 「キャンディード」序曲 2014.08.26
- 観劇感想精選(122) 井上芳雄&坂本真綾 ミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより~」2014 2014.05.09
- 観劇感想精選(114) ミュージカル「ベガ-ズ・オペラ」 2014.02.27
- これまでに観た映画より(60) ミュージカル映画「レ・ミゼラブル」 2013.12.18
- 観劇感想精選(102) 「ROCK OF AGES ロック・オブ・エイジス」 2013.10.02
- レナード・バーンスタイン自作自演「ウエストサイドストーリー」より“シンフォニックダンス” 2013.09.27
- ミュージカル「レ・ミゼラブル」より“夢やぶれて” 2013.09.20
- 観劇感想精選(89) 「I LOVE YOU(I LOVE YOU,YOU'RE PERFECT,NOW CHANGE)」 2012.02.02
- 観劇感想精選(88) ミュージカル「モーツァルト!」 2012.01.06
- 観劇感想精選(73) ミュージカル「シンデレラ・ストーリー」2005 2009.06.27
- 観劇感想精選(70) ミュージカル「ラ・マンチャの男」大阪公演2009 2009.05.24
- 観劇感想精選(48) 大沢たかお主演「ファントム」 2008.09.08
- 観劇感想精選(35) 劇団四季 「ウェストサイド物語」 2008.05.19
- 観劇感想精選(32) ミュージカル「アルジャーノンに花束を」 2008.04.03
- レナード・バーンスタイン自作自演 「ウェスト・サイド・ストーリー」全曲 2007.12.07
- 観劇公演パンフレット(15) 『オケピ!』(初演) 2007.08.13
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